 
      ワイナリーツーリズムの極み「サンクゼールワイナリー」へ

最初に訪れたのは、県内で人気のワイナリー「サンクゼールの丘」がある飯綱町。発酵文化とワイン造りを学び、地域のおいしいものを探すため「サンクゼールの丘」に立ち寄ります。
サンクゼールの前身は、飯綱町の隣にある斑尾山(まだらおやま)の麓でペンションを営んでいた「斑尾高原農場」という会社です。創業者夫人の手作りジャムがペンションの滞在客に好評で、お土産用として販売を始めたところから、サンクゼールの原点となるジャムの販売がスタートしました。
1988年には現在の地に拠点を移し、ワイナリーの設立やヴィンヤードの開墾を開始し、レストランやショップなども加えて「サンクゼールの丘」を整備してきました。サンクゼールの丘から車で10分ほど移動したところには7haほどの大きなブドウ畑もあり、それらを巡るワインツアーも企画されています。
 
案内をしてくれたのは、長年サンクゼールのワイン醸造に携わる丸山和子さん。普段もワイナリーツアーなどの案内を担当している
 
オーナーがひと目惚れしたという丘からの眺望は抜群。飯綱の町を眼下に、遠く志賀高原、菅平高原、浅間山などの山々を望む(写真提供:株式会社サンクゼール)
 
2025年で34回目の仕込みを迎えたワイン造り。レストラン前の畑に植わっているのは「カベルネ・フラン」というワイン用ブドウ
ジャム造りからはじまったサンクゼールが、ワイナリーを建て、多くの商品を手がけるようになった背景には、久世夫妻がヨーロッパを旅行したときの経験が大きく影響しています。特にフランスで、農と食の文化が発達している様子を見て、「長野にも田舎の豊かさを感じられてゆったりとした時間を過ごせる場所を作りたい」と憧れを抱きました。ワインは、ふたりが築きたいと考えた文化に欠かせない要素だったのです。
この日、案内をしてくれた丸山和子さんによると「ワインが食卓にあるだけで、食事も会話も自然に弾みだす。ふたりはそうした光景を何度も目にしたのでしょう」。そして言葉を続けます。「会社の方針にある『愛と喜びのある食卓をいつまでも』というメッセージは、そのあたりから出てきたキーワード。私たちは、みんなで楽しく食卓を囲むきっかけになるような商品をつくり続けています」
ワイナリー設立当初は、ワインの醸造方法やブドウの種類はドイツ式を参考にしていたといいますが、数年後にはフランス式に切り替えました。2005年からは毎年、ワイナリーのスタッフ数名がフランスのワイナリーで経験を積む機会を設け、「長野らしいワインをどのように表現していくか」を追求してきました。近年、サンクゼールのワインが世界的に評価され、賞を受賞しているのは、そうした取り組みが成果をあげてきた証です。
 
ワイナリーツアーは、毎日開催する無料ツアーや予約制の有料ツアーなどさまざま
 
収穫時にはとても甘くおいしくなるワイン用ブドウ。「おいしいブドウからでないと、おいしいワインは造れない」と丸山さん
 
ショップに併設された試飲カウンター。隣では軽食やジェラートを販売し、ランチピクニックのようなイメージで楽しめる
長野らしいワインのポイントは、冷涼な地域で育つブドウならではの酸味です。丸山さんは「酸味がしっかりしていると長期熟成に耐えるワインになる」と言います。
「新しいワインからは、もちろん特有のフレッシュさを感じますが、瓶詰めしてから長期間寝かせたワインは、酸味が少し落ち着き、色合いや風味も変化します。試飲カウンターにはさまざまなワインを用意していますから、ぜひいろいろ飲んでみてください」
20年ほど前からは、飯綱町の特産品であるリンゴを使ったシードルも造っています。サンクゼールのシードルには地元のリンゴしか使っておらず、なかには「高坂りんご」という天然記念物の希少な和りんごを使ったシードルもあります。
「高坂りんごは渋みが強くて甘味がないのが特徴で、食用に向くリンゴではありません。しかし、シードルにしてみると、とても味わいが良かった。一般的なシードルは、多品種のリンゴ果汁を混ぜることで複雑さや深みを出しますが、高坂りんごは単一品種でも、渋みがとてもいい働きをしてくれることがわかりました」
 
「日本一のりんごの町」を目指す飯綱町 。高坂りんごのほか、オランダ原産のベル・ド・ボスクープや青リンゴのプラムリー、受粉用のメイポールなど、さまざまなリンゴをシードルにしている
 
ショップには、サンクゼール設立のきっかけになったジャムも多くそろう
サンクゼールが手がける自社ブランド「久世福商店(くぜふくしょうてん)」では、全国の「うまいもの」をそろえ、各地の蔵元と共同で味噌や醤油、甘酒などの発酵食品を開発しています。専門のバイヤーが現地に足を運び、生産者と対話しながら厳選している商品の数々は、どれも気になるものばかり。サンクゼールの丘にあるショップでは、試食を楽しみながら商品を選び、購入することができます。
 
2013年にスタートした久世福商店。本店にあるショップは、和のテイストを取り入れた設え
 
サンクゼールの商品が並ぶエリア。ワインやシードルをはじめ、本店でしか味わえない商品も多数
【サンクゼールワイナリー・久世福商店 本店】
住所:上水内郡飯綱町芋川1260
電話:026-253-8002
営業時間:9:00〜17:00/冬期10:00~16:00
定休:1月~3月水曜定休(祝日の場合は翌日)、1/1
HP:https://www.stcousair.co.jp/valley

サウナとキャンプが楽しめる「戸隠Earthboat(アースボート)」

好みのワインと調味料をゲットしたら、宿泊先のサウナ&キャンプ施設へ。戸隠の大自然に包まれた「Earthboat Togakushi」です。向かう途中で「nagano forest village」へ寄り道します。拠点施設「森の駅 Daizahoushi」にあるマルシェには、高原野菜や山菜、秋はキノコなど、旬の食材がずらり。夜のBBQの楽しみに、朝採れ野菜を購入しました。
 
森の駅Daizahoushiと5つのフィールドからなる「nagano forest village」。マルシェの入り口はこちら
 
野菜の特徴が書かれたポップ。レシピなどの紹介がうれしい
 
生鮮食材のほかクラフト雑貨や調味料がそろい、ドリンクはアルコール類も充実している
【nagano forest village/森の駅Daizahoshi】
マルシェ(農産物直売所)
住所:長野市上ケ屋2471-608
営業時間:9:00〜17:00
電話:026-239-3272
HP:https://naganoforestvillage.eternal-story.com/morinoeki/

2024年にオープンした「Earthboat Togakushi」は、戸隠スキー場に隣接する戸隠高原ホテルの敷地内にあるサウナ&キャンプ施設です。戸隠連山を正面に望む絶景と、のんびりゆったり、人目を気にすることなくくつろげるプライベートな空間が魅力。
備え付けのサウナは火入れから自分たちで行うことができ、滞在中は好きなタイミングで好きなだけ利用することができます。サウナから水風呂、サウナチェアでの森林外気浴へと続く動線は、自然の中で「ととのう」究極のリトリート。夜は満天の星と焚き火を囲む楽しさも待っています。
 
好きなところに椅子を広げて森林外気浴。風や木々の音、鳥のさえずり、自然に包まれ癒される
 
自分で薪をくべたり、ロウリュをしたり。お気に入りのサウナハットやタオルをお忘れなく
 
思わず声が出てしまうほど気持ちの良い水風呂。「ととのい」への第一歩
サウナを堪能したあとは、お待ちかねの食事の時間。久世福商店の発酵調味料と地元の食材を使ってキャンプ飯を作ります。
メニューは「久世福商店・サンクゼール公式オンラインショップ」で紹介されているレシピから、「ガーリックライス」「豚肉の塩こうじ焼き」「たことじゃがいものサラダ」「ナガノ夏野菜のバーニャカウダ」の4品をチョイス。
肉やスパイスでガツンとパワーチャージできるラインナップは、サウナ後に最適です。いずれも切る、ゆでる、混ぜる、焼くといったシンプルな調理法ですが、塩麹など発酵の力で味わい深く、初心者でもスムーズに作ることができました。
 
お手軽ながら華やかなテーブルにテンションもアップ。ワインは長野県固有品種の「長野 竜眼 2024」と、ベリーやスパイスが香る「エナ 2019」
 
調理器具などひととおりの設備が整う室内。手ぶらでも利用できるが、食材やメニューに合わせて確認を
 
普段とは違うロケーション。とっておきの体験と食事が、心を和ませる
【Earthboat Togakushi】
住所:長野市戸隠越水3682−6
問い合わせ:HPより
HP:https://earthboat.jp/togakushi

戸隠の湧き水を味わう「awai 戸隠」でモーニング

迎えた翌朝。Earthboat近くにある「awai戸隠」で、地元野菜たっぷりモーニングをいただきます。awai戸隠は、戸隠神社 中社の参道に建つ旧中社公会堂を改修してできた分散型オーベルジュ。1階のレストランで「戸隠の蕎麦の実を使ったお粥と8種類のおばんざい」をいただきました。
戸隠近隣で採れた彩り豊かな野菜と、発酵食材を使ったオリジナルメニュー。特に注目したいのは、戸隠のおいしいトマトで作った発酵トマトです。生のトマトを潰して塩を加え、適温で3日から6日ほど発酵させる発酵トマトは、酸味が抑えられ、まろやかなトマトの旨みがダイレクトに味わえます。
そのほかにも発酵食材が使われて、例えばワラビのピクルスやピーマンとナスのマリネには酢を使い、麹を使った甘酒は、ドリンクだけでなくデザートのババロアとしても味わうことができます。
 
メインは戸隠産の蕎麦の実を使ったお粥
 
発酵による旨みと丸みのある酸味を取り入れ、料理に奥深さを生む
 
シェフの藤元裕希さん。自然に触れて野菜を育て、自身の料理をブラッシュアップし続けている
シェフの藤元裕希さんは徳島県出身で、2021年に長野県へ移住してきました。料理の専門学校を卒業後にフランス・リヨンの2つ星レストランで修業し、帰国後は東京の1つ星フレンチで4年間腕を磨きます。「もっと自然に近いところで、野菜を育てるところからはじめたかった」という藤元さんが戸隠に関わるようになったのは、2024年のことです。
「戸隠で畑を借りて野菜を育てはじめ、その縁でawaiを知りました。伝統ある戸隠の公民館という場所を、景観を崩さずに新しい活用法で守り継いでいく。そのコンセプトに惹かれて、自分の得意とする『食』の分野を活かして、awaiに加わることを決めました」
戸隠の暮らしの知恵は、今も大切に受け継がれており、awaiでは、そうした戸隠の魅力を表現することに全力を注いでいます。平安時代から修験道の聖地として、厳しい自然と人が共存していること。さらに、標高が高く空気が澄んでおり、険しい山々から美しい水が湧き出ていることも魅力です。
 
今も公民館の面影が残る外観
 
おいしいは健康と同義。藤元さんは「戸隠の新しい魅力に気づいてもらえるような発信をしていきたい」と意気込む
 
農業など地域に育まれてきた産業を守り継ぐため、どのように地域内外の人が戸隠と関わり合っていくのかがこれからのawaiのテーマでもある
「僕は、戸隠が日本で一番お水がおいしいところだと思っています。。朝食のコンセプトは『湧き水』。澄んだ料理を目指し、そこにふくよかさを持たせるために最適なのが発酵でした」
発酵を、サウナとの相性という視点から見れば、「サウナでダメージを受けた体のケア、デメリットを補える存在だと思う」と話す藤元さん。例えば、熱によって失った水分をお粥で補ったり、ダメージを受けた毛細血管を蕎麦の作用で柔らかくしたり。麹菌などの効果で腸内細菌が増えれば、腸の流れを整え、身体を内側からきれいにしていくことができます。「健康を楽しむ材料として、発酵とサウナ、そして戸隠の自然は最適な組み合わせだと思う」と力強く教えてくれました。
【awai 戸隠】
住所:長野市戸隠3390
電話:026-219-3444
営業時間:11:30〜14:00(L.O.13:30)/18:00〜21:30(L.O.19:30)
      ※ランチ・ディナー共に原則3日前までの予約制
定休:不定休
HP:https://awai-togakushi.com/

発酵キャンプ、サウナで心身ともにたっぷり癒される、とっておきの週末旅。さらに戸隠といえば、奥社・中社・宝光社・火之御子社・九頭龍社からなる「戸隠神社」も見所のひとつです。なかでも奥社の杉並木参道は、荘厳で神秘的な雰囲気が漂うスポット。キャンプの前後に足を伸ばし、心身ともにリセットされるリトリートを完成させてみてはいかがでしょう。
構成:フィールドデザイン 取材・文:間藤 まりの 撮影:荒井 康太
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