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新しいジブン発見旅ー櫻井麻美さんのニチコレ(日日是好日) 第12話「初めてなのに、懐かしい 佐久穂 東町商店街~四ツ谷エリアでカフェ巡り」

小海線の羽黒下駅で降り、のんびり歩きながらカフェ巡り。新しさと懐かしさが共存する、東町商店街~四ツ谷エリアに出かけよう。

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人とともに変化し続ける、まち

生まれ育った街を出て15年以上経つ。商店街のほど近くで育ったが、帰るたびに新しい店ができている。学生時代に毎日使っていた近くの駅は、今や人気のおしゃれタウンと化し、街にいる人々も、以前とは雰囲気が違う。でも、生まれ育った街だから、やっぱり親しみがあるものだ。変わっていくのが悲しいとか、嫌だとか、そのようには思わない。住んでいた時から変化は始まっていたし、その様子を見るのはおもしろい。この世は無常なのだと、帰るたびに感じる。(次は近所にできたおしゃれなパフェの店に行こう、そう考えながら、子どもの頃から知る家族の店でコロッケを買って食べた)

“まち”とは、まるで生きもののようだ。生きものだから、生まれ、育ち、老い、なくなっていく。それが部分的に常に繰り返されているように思う。まちは人によって作られるから、人とともに絶えず変化していく。変わらない景色、は、変わらないように誰かが残している景色、なのだろう。そう考えていたら、“ふるさと”とは何だろうという疑問が浮かんだ。私のふるさと。生まれ育った街はきっとふるさとだけど、他にも帰りたくなる街、居心地がよい街が私にはたくさんある。ふるさととは、必ずしも生まれ育った場所やゆかりのある場所だけではないのかもしれない。初めて来たのに、なんだか懐かしくてホッとする。そんな風に感じる場所に出会ったことがある人も多いだろう。

南佐久郡佐久穂町の“東町商店街~四ツ谷エリア”も、まさにそんな場所である。ここ何年かで新しい店が沢山オープンし目まぐるしく変化しているが、どこからか漂ってくる“懐かしさ”を感じられるエリアだ。新しさと懐かしさが混ざり合う、その独特の雰囲気が人々を惹きつけている。JR小海線の羽黒下駅から歩いていけるのも、魅力的だ。街の雰囲気を楽しみながら、のんびり歩く旅に出かけてみよう。

レトロな街並みを歩こう

小海線羽黒下駅前のロータリーはレトロ好きにはたまらない

くねくねした小道に、つい脇道に行きたくなる

踏切のある景色はなぜこんなにも心をくすぐるのだろう

人気カレー店『ヒゲめがね』はいつも行列だ

羽黒下駅を降りると、目の前のロータリーの周辺にはレトロな建物がいくつか立ち並ぶ。この景色を見てわくわくしてしまうのは、私だけではないはずだ。

駅からの道は、程よく高低差があり、くねくねしているのが、楽しい。線路を横に見ながら、歩こう。じとっ、とした空気の間をたまに吹く涼しい風に、木々も揺らされている。夏の踏切は、何か物語が始まりそうな気配がする。つい脇道に吸い込まれそうになるが、我慢だ。歩いていると、古い看板や建物、地形、どれも絶妙に懐かしさを感じる。山の方へと続く道に行けば、親戚のおばあちゃんの家にたどり着ける、そんな錯覚さえも起こしてしまうから、不思議だ。(もちろん、そんなものはここにはない)

気を取り直して少し行くと、T字路になっている信号に差し掛かる。この辺りからが、新店が続々オープンしている東町商店街エリアである。まず目につくのは、カレー店『ヒゲめがね』の前のたくさんの人。オープン時から行列の絶えない人気店には、今日もたくさんの人が並んでいる。ちらっと店内を窓から覗くと、同じく店内も賑わっている様子だ。心の中で忙しそうな店主に声援を送りながら、その横を通り、今日の目当ての店、2022年6月にオープンしたばかりのカフェ『potta』へ向かおう。

(実は、個人的にこのエリアには顔なじみが多い。だから、いろんな店を紹介したくてたまらないのだが、今回は新しくオープンした店を中心に“カフェ巡り”というテーマで進めていきたい。とはいえ、せっかくなので、知っているからこその視点でそれぞれの店を紹介していきたいと思う。)

本格クレープ・ガレットが楽しめる カフェ『potta』

注文をてきぱきとさばく手元を見ているのは小気味よい

「白玉そのぎ抹茶」はクレープと白玉のもちもち感がたまらない

食器は全て波佐見焼を使用

店内には焙煎機もあり本格コーヒーも販売している

キッズコーナーにあるアーティストに作ってもらったという作品たち

『ヒゲめがね』横の脇道へ進むと『potta』がある

天井が高く開放的な店内(potta提供)

子どもを連れて行けるカフェがあったらいいな、という思いから生まれたカフェ『potta』。店内にはキッズスペースがあり、大人も子どもも心地よい店内でクレープやガレットが楽しめる。私は、この店を一言で表すとしたら、「こだわり」だと密かに思っている。本当にいいものを提供するために、素材へこだわり、作り方にこだわり、それをどのように美しく見せるか、食器にまでこだわっている。目の前に出てくる作品(と呼ぶのがふさわしいだろう)は、そのこだわりの結晶なのだ。

カウンター席から、店主の小坂さんがガレットを作っているのを眺める。生地を焼き台に落とし、専用のトンボでくるくると薄く伸ばしきれいな円形にしていく。そこに具材を乗せ、火が通った頃合いで手際よくぱたぱたと端を折り畳む。次々に作られていく作品を見ているのは、なんだか小気味よい。いつもは人懐っこい笑顔を見せてくれる小坂さんだが、作品を作っている時は見たこともないような真剣な表情をしている。もはや、職人の顔だ。

今日は、「白玉そのぎ抹茶」をいただいた。クレープと抹茶白玉のもちもち感が、たまらない。手作りの白玉に使用している抹茶は、食器と同じ長崎産、あんこは佐久穂の地域のお店のものを使用しているそう。それぞれ単品でもおいしいし、一緒に食べるとさらにおいしい。ちなみに、前回はガレットをいただいたが、そちらはパリッとしていて香ばしい。間違いない、きっと、何を頼んでも、おいしい。

「お父さんやお母さんが心休まる場所でありたい。」と小坂さんは話す。おいしくて、美しいものは、私たちを日常から解き放ち、幸せな気持ちにしてくれる。忙しい中、私の相手をしながらも、てきぱきと次々に作品を作り上げる小坂さんは、格好いい。おいしくて見た目にも楽しい作品はもちろん、そんな小坂さんにも、ぜひ会いに行ってほしい。

〈potta〉
https://www.instagram.com/potta_sakuho/?igshid=YmMyMTA2M2Y=

色々な世界に出会う場所 コミュニティカフェ・バー『KOKYU』

そこにいる人同士自然に会話が始まる店内

一つ一つの調度品からさりげないセンスを感じる

奥にある空間は秘密基地のよう

日替わりオーナーによるカフェやバーを楽しめる

この日はスパイスから作る本格チャイ屋さん

物販だけの利用もできる

『potta』を後にして、東町商店街を歩こう。古民家や昔ながらの商店が寄り添う街並みに、ついきょろきょろとしてしまうが、意外と車の通りが多いので気を付けよう。しばらく歩くと、『森田屋』の店頭にたくさんの花火が並べられているのが目に入った。文房具から日用品まで幅広く手掛ける、創業100年以上の今も地域に愛されている老舗だ。おかみさん曰く、これでもずいぶん減ったらしいが、見たことがないような花火の種類に、心が躍る。「昔はすぐそこから川に下りて、みんな花火をしていたのよ。」と、教えてくれた。

もう少し歩くと、『KOKYU』が見えてくる。日替わりで色々な人がカフェやバーを開いているのが特徴的な店だ。とはいえ、それぞれが切り離されているのではなく、ゆるやかにつながっている。人と人が、縦・横・斜めと相乗的に世界を広げていくのが、おもしろい空間だ。マネージャーの滝沢さんは、「子どもも大人も一緒に楽しめる場所が欲しかった。」と話す。オーナー夫婦ともう一人のマネージャーを中心にこの店を運営しているが、まるで文化祭のようにみんなで楽しみながら、店が出来上がっていったという。以前の商店街などでは多世代のコミュニティが身近にあることが日常であったが、今は世代毎に切り離されてしまっていることも多い。みんなが混ざり合い、自分の好きなことを通じて世界が広がっていく、そんな場所を目指している店だ。

実際に、お店に行くと、そこにいるみんながいつも楽しそうに話しているのが印象的だ。顔見知りもいれば、初めて会う同士の人たちも、会話を交わしている。知り合いから知り合いへ、自然と輪が広がっていくのだという。「日替わりカフェオーナーの子どももいれば、近所の90歳のおじいちゃんまで、いろんな人が出入りしている。」と滝沢さん。彼女に話を聞く中で一番印象的だったのが、“村”を作りたい、と言っていたことだ。実際に『KOKYU』は、既に一つの村のように見える。これからカフェ・バーの奥には子どもの居場所もオープン予定だそうで、きっとさらにぎわいを増すに違いない。来る人に対して誰にでもウェルカムな雰囲気の空間。開かれた“村”は、だれでも村人になれてしまうのだ。

訪れた日は、店内では絵付けのワークショップ、カフェではチャイ屋さんがオープンしていた。スパイスから作られた本格的なチャイを飲みながら、村人たちとの会話を楽しんでいると、あっという間に時間が過ぎていることに気づいた。名残惜しみながらも、次の店へ向かおう。

〈KOKYU〉
https://www.instagram.com/kokyu_communityspace/?igshid=YmMyMTA2M2Y%3D

やっぱり外せない ドーナツカフェ 『mikko』

ちょこんと置かれたドーナツがかわいい

季節のドーナツは人気なので、絶対に食べたい場合は予約を

ついのんびりしてしまう1人席

店主が選んだ本が置いてあるカフェは、良い

ゆるりと会話を楽しみながらドーナツを頬張ろう

のどかな風景の中にポツンとある店の風景

行く途中では、ほっこりする出会いがあるかも

体験型ジュエリー工房『GURURITO』や『新駒書店』など、寄り道も楽しんでほしい

もし時間が許せば、カフェ巡りだけでなく寄り道も楽しんでほしい。『KOKYU』の向かいには、コラム第2話でも紹介した古書店『新駒書店』や、体験型ジュエリー工房の『GURURITO』が並んでいる。そう、ここは一日楽しめるエリアなのだ。どっぷりとその魅力にはまってしまえば、きっとまたここに帰ってくることになる。ただ店に行くだけではなく、人や新しい体験に会いに行く、そういう楽しみ方ができる場所なのだ。

さて、商店街を抜け、踏切を渡った先にあるドーナツカフェ『mikko』も、まさにそんな店である。席数は少なめのコンパクトな店の店頭には、かわいらしいドーナツがちょこんと並んでいる。次々にドーナツを買いに人がやってきては、ゆるりと会話を交わしながら「じゃあ、また。」と帰っていく。『mikko』の魅力の一つは、この距離感だ。自然と会話が生まれる距離感。近すぎず、遠すぎず。何か、余白がある。ドーナツも、そこにいる人も、店内も。勝手ながら、そこらかしこに余白の美を感じてしまうのだ。

「時には人生相談を受けることもあるんです。」と、ストアマネージャーの河上さんは微笑む。程よい距離だからこそ、なんだか自分のことを話したくなってしまう。その感覚は、とてもよく分かる。私も聞かれていないのに、ペラペラと自分のことを話してしまった。それをふんわりと受け止めてくれる、河上さん。人生相談の一つや二つしてしまうのも、不思議ではない。

季節のドーナツ「ブルーベリー」と、佐久穂町にあるのらくら農場の「人参玄米スープ」をいただく。優しい味に、心も体もくつろぐ。後から来たカップルがドーナツを待ちながら、店にあったボードゲームを静かに楽しんでいる。そのコマを動かす音、外から聞こえるセミの声、扇風機から時折吹く柔らかい風。ボーっと外を眺めていると、通学路になっている店の前を、子どもが通り過ぎていった。『mikko』だからこそ味わえる、ゆったりとした時間。ここだけの贅沢を味わうことができる。その空間は、残念ながら言葉では表しきれない。ぜひ実際に訪れて感じてみてほしい。

〈mikko〉
http://www.welcometomikko.com

ただいま、と言いたくなる場所


「いろんな人とこうやっておしゃべりを楽しむのが、楽しいのよ。」と、東町商店街の老舗『森田屋』のおかみさん。彼女は新しくできたお店をごひいきさんに宣伝している、と楽しそうに話す。個性溢れる色々な店が入り混じる商店街の不思議な統一感の理由が、ここにあるような気がした。

また行きたくなる街には、魅力的な人がつきものだ。また来たよ、とか、ただいま、とか、つい言いたくなる場所。そういう“ふるさと”をたくさん知っていることを、とても喜ばしく思う。佐久穂町東町商店街~四ツ谷エリアに出かける際には、時間にゆとりを持っていくことをおすすめしたい。そして、心置きなく、街や人との会話を楽しんで過ごしてほしい、と思う。(小海線で訪れる際には、くれぐれも列車を逃さないように気を付けよう。)
 

取材・撮影・文:櫻井麻美

<著者プロフィール>
櫻井麻美(Asami Sakurai)
ライター、ヨガ講師、たまにイラストレーター
世界一周したのちに日本各地の農家を渡り歩いた経験から、旅をするように人生を生きることをめざす。2019年に東京から長野に 移住。「あそび」と「しごと」をまぜ合わせながら、日々を過ご す。
https://www.instagram.com/tariru_yoga/

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