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新しいジブン発見旅ー櫻井麻美さんのニチコレ(日日是好日) 第13話「着物の似合う栗の小布施へ 歴史感じる小径を楽しもう」

栗の季節は、やっぱり小布施。中心部をふらりと歩けば、気になる小径がたくさん。歴史を感じるまちへ、着物で出かけよう。

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着物の似合うまち、小布施

初めて小布施を訪れた時、なんて素敵な所なんだろう、と思わず立ち尽くしてしまったことを思い出す。その日は雨が降っていたが、濡れた石畳と流れる水路がその風景をより魅力的なものにしていた。葛飾北斎が晩年を過ごした場所としても知られる小布施は、昔ながらの町並みが多く残されている。その中を歩いているだけで、昔の人々の息遣いを感じることができるのが、やはり楽しい。また、古くから続く老舗もある一方で、古民家をリノベーションした新しい店も多くあり、その絶妙なバランスが、居心地の良さを感じさせるのかもしれない。古いものも良いし、それらをリスペクトした新しいものも良い。どこか一つだけを切り取るだけでなく、混ざり合いつつも続いていく時代を目の当たりにする感覚が、好きだ。

長野には着物が似合うまちが沢山あるが、小布施もその一つである。着物と聞くと、ハードルが高く感じるかもしれないが、私は意外とそうでもないのでは、と考えている。格式高い“お着物”も、もちろん素晴らしい。一方で、私のような庶民も、昔の多くの人々がしてきたように、普段着るものとして着物を着ればよいのではないか。そのような考えのもと、普段着の一つとして、着物を楽しんでいる。同時に、民族衣装のもつ独特の美しさが、これからも続いていってほしいとも思う。時代と共に、変わるもの、変わらないもの、そのどちらも包括しながら…そうだ。だから、小布施は、着物がよく似合うのだ。

とはいえ、着物の準備をするのが大変なのは事実なので、手ぶらで着物の旅を楽しめるプランをご紹介しよう。着物に不慣れな人はもちろん、着物に慣れ親しんでいる人にも、行き帰りが断然楽なので、心からおすすめしたい。

老舗美容室でゆったり着付け お気に入りを見つけよう

小布施には着物が似合う景色が沢山ある

着物を着るだけでもわくわくする

好きな柄を選んで着付けてもらおう

『松葉屋本店』のレンガ造りの煙 ふもとには酒造らしい小径が

小布施の中心地にある美容室、『i-saloonおぶせ』。こちらでは小布施を気軽に着物で歩いてほしい、という願いから、「着せかえ処 双葉屋」として、日帰りで利用できる着物レンタルと着付けを行っている。70年以上にわたって親子三代続く老舗で、長く通う地元の人も多い、アットホームで落ち着いた雰囲気の店だ。レンタルは普段着の小紋を中心に、好みに合わせて選べるよう様々な柄がそろえられている。草履や小物まで全てレンタルでき、希望者にはヘアセットまでしてもらえる。友だち同士やカップルでも利用可能な、観光客に人気のスポットだ。

たくさんの中から迷いながらも一つ着物を選び、着付けてもらう。世間話をしながらも、あっという間に支度が整っていく。時間は正味30分弱ほど。
「それ、元々は社長のおばあちゃまの着物だったんですよ。」スタッフの方はそう言った。
「小柄な方だったから、この着物のサイズもちょっと小さめなんです。」
同じ着物を、昔の世代の人が着ていた。一枚の着物を通じて、会うことのなかった人の温もりを感じる。ファストファッションには絶対にない、この感覚に、心がじんわり温まる。

着付けが終わるころに社長さんがいらっしゃり、「あら、いいわねえ!」と声をかけてくれた。(こんな風に年を重ねられたらいいな、という女性にまた出会えた)取材で長時間歩くため、草履ではなくブーツを合わせたのだが、それも素敵ね、と美容室の皆さんに言ってもらえて、出発前からすでに気分は上々だ。(皆さん、とても優しかった)旅先でのこういうさりげないやりとりが、何より楽しい。帰りの時間を告げ、店を後にする。

小布施のまちは、着物で歩きたい場所が沢山ある。早速お気に入りの景色を見つけに出かけよう。


『i-saloonおぶせ』
〒381-0201 長野県上高井郡小布施町中町1113
TEL: 026-247-2645

小径に誘われた先に 『栗の木テラス』新栗のモンブランを堪能

栗の木テラスはアンティーク調度品とシックな店内

新栗のモンブランはこの時期ならでは

ポットを覆うティーコジ―がかわいらしい

洋風建築の外観 風見鶏にも注目だ

つい迷い込みたくなる小径

オープンガーデンが盛んな、懐広い、開かれたまち

『桜井甘精堂本店』も、素敵な建物だ

昔ながらのまち並みや、建物が残るのももちろん魅力的なのだが、個人的に小布施が好きなのは、小径がそこらかしこにあるからだ。大通りからさりげなく覗く、少し暗く続く道。看板がなく、ここは通っていいのかどうか、よくわからない道も多い。地図を片手に、よし、行ける!と歩き始めても、民家の庭が見えてきたりする。また地図を見て、再度確認するのだが、それでもドキドキする。オープンガーデンも盛んで、私有地の庭を一般開放している場所も沢山ある。こういうところが、きっと私たちを惹きつけるのだろう。(入ってよい場所か必ず確認し、マナーを守りお邪魔するのが、まち歩きの極意であることをお忘れなく)

たくさん歩いて疲れたら、ちょっと一休み。小径に誘われた先に現れるのが『栗の木テラス』だ。長野土産でも有名な、二百年続く老舗栗菓子店『桜井甘精堂』が手がける喫茶店は、行列ができる人気店。特に秋は、新栗をふんだんに使うモンブランが味わえるので、それを求める人たちでお店は大いに賑わう。持ち帰り用のケーキが並ぶショーケースにもたくさんのモンブランが並ぶが、文字通り飛ぶように売れていく。すごい。

近代洋風建築の外観と、アンティーク家具で統一されたシックな店内は、着物とも相性が良い。そこに座るだけで、贅沢な気持ちを味わうことができる。こちらは『桜井甘精堂』の七代目会長が趣味の店を開きたい、という思いで出来たそう。一つ一つこだわりを持って選ばれた調度品に、思わず見とれてしまう。ウィリアム・モーリスの、栗とブドウのモチーフが描かれた壁紙がまたとても素敵なので、ぜひ見てほしい。

注文した新栗のモンブランがやってきた。待ちに待ったモンブラン、テーブルに運ばれてくるだけで、わくわくしてしまう。「菓子屋であるよりも栗屋であれ」というモットーを掲げる『桜井甘精堂』。モンブランを口に運べば、すぐさまほくっとした栗の感触が口の中に広がる。真摯に栗に向き合って、それを活かす、という信念が一口食べただけで分かるのだから、本当にすごい。(ちなみに、初めてこのモンブランを食べた時に、衝撃を受けたのを今でも覚えている。これは、栗、そのものだ!と思った。)1年を通じて、食べられるのもまた、うれしい。
紅茶にもこだわり、メニューにもたくさんの銘柄が並ぶ。今回はモンブランと相性がいいオリジナルティーを注文。世界三大銘茶のキーマンをベースに、中国緑茶とジャスミンが香るブレンドティー。合間に飲むと、その香りがさらに際立つ。

商品もさることながら、お忙しい中、店長の中島さんはじめスタッフの方々の丁寧な対応に、本当に贅沢な時間を過ごすことができた。元々『桜井甘精堂』のファンだったのだが、今回でさらにファンレベルがアップした。感謝してもしきれなかったので、帰りがけに本店に寄ってお土産を購入。こちらもこだわりの栗を味わえる、「栗ようかん」と「栗かの子」。栗のまち、小布施で愛され続ける栗屋。その栗菓子は、やっぱりおいしい。


『栗の木テラス』
https://www.kanseido.co.jp/sp/shop/obuse/

暗闇を思う 『日本のあかり博物館』

美しいガラスのランプも沢山並ぶ

ネズミをモチーフにしたこちらの展示は人気だそう

旅のお供だった携帯用照明と身だしなみグッズに心つかまれる

様々な趣向を凝らした明かりを見ることができる

昔の暮らしに思いを馳せる

腹ごなしに、また歩き出そう。人がにぎわう大通りから少し入ったところ、緑があふれる道の先に現れるのが、『日本のあかり博物館』だ。こちらは、日本における明かりの歴史について知ることができる珍しい博物館。現代に住む私たちにとっては、日常にあるのが当たり前すぎて、明かりについてあまり考えることはないかもしれない。だが、今のような電灯によって照らされる夜がある暮らしは、明治の中頃からだそう。つまり、それまでは、真っ暗な夜こそが当たり前で、今のように気軽に出歩くこともなかったのだ。

学芸員の宮坂さんにご案内いただきながら、館内を回る。様々な照明器具があるのがとてもおもしろい。動物をモチーフにしたもの、レンズがついて手元や部屋全体を照らせるもの、用途に合わせた様々なものが一堂に並んでいる。明かりの歴史は、火から始まり、菜種油を灯す行燈、ろうそくを用いたぼんぼりへと、どんどんと便利な道具へ発展していく。階級の違いにより、使用できる道具は異なっていたそうで、単純に時代で区切ることができない。明るさへの飽くなき願いが道具を通じて感じられるようで、当時の人々への想像を掻き立てる。真っ暗な夜に、彼らは何を思ったのだろうか?きっと不便だったに違いない、と思う一方で、外を出歩くこともなく、仄暗い家の中でどのように過ごしていたのだろうか?家族とどんな話をし、どんな食事をしていたのだろう?昼も夜も関係なく明るく、休みなく動き続ける現代。本当の暗闇を忘れてしまった私たちに、ふと気づかされる。

体験コーナーでは、光源による実際の明るさを比較することができる。行燈、ぼんぼり、石油ランプ、白熱電球。その光の違いに驚かされる。昔の光源は、想像しているよりも遥かに暗い。でも、当時の人々は、この明かりに安心感や希望を感じたのだろう。そういえば、私たちも、暗い夜の焚火や、薪ストーブなどを見てなんだかホッとすることがある。自分の中にわずかに残る、同じような感覚。光源にぼんやりと照らされる部屋と、身にまとう着物を見ながら、昔の暮らしに思いを馳せる。


『日本のあかり博物館』
https://nihonnoakari.or.jp/

昔と、今と、これからも続くまち


美容室へ戻ると、自然と「ただいま」と声が出た。「お帰りなさい」と迎えられ、まちのあれこれについて、何が良かったとか、どこが混んでいたとか、そんな話をして、着物を脱ぐ。今日のお礼を言い、帰路につく。朝から一日中いた小布施のまちへ出ると、賑わっていた道も少しずつ人がまばらになり、夕暮れに染まっていく。乾いた喉と、じんわり疲れた足の感覚が、なんだか心地よい。

こうやって長い時間を同じ場所で過ごすと、ああ、今日も一日が過ぎていったなあ、としみじみ思う。そしてそれは同じように、昔から、今、これからへと続いていく。それに身を任せながら、ただ眺めているのが、やっぱり好きだ。

栗の小布施には、ぜひ一度訪れてほしい。着物で歩けば、いつもと違う感覚でまちを眺められるはずだ。ゆっくりのんびり、一日たっぷりまちの魅力を味わえば、きっとあなたも小布施のファンになるだろう。
 

取材・撮影・文:櫻井麻美

<著者プロフィール>
櫻井麻美(Asami Sakurai)
ライター、ヨガ講師、たまにイラストレーター
世界一周したのちに日本各地の農家を渡り歩いた経験から、旅をするように人生を生きることをめざす。2019年に東京から長野に 移住。「あそび」と「しごと」をまぜ合わせながら、日々を過ご す。
https://www.instagram.com/tariru_yoga/

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