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200年前から続く伝統産業 天然寒天の魅力を知ろう!

特定の気候条件下でのみ製造することができる天然寒天。
諏訪地域では200年ほど天然寒天づくりが続けられています。
伝統的なものづくりとしての魅力を放つ諏訪地域の天然寒天をご紹介します。

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諏訪地域で守られる
天然寒天づくり
そのはじまりは?

諏訪地域では、毎年寒冷期に入ると休耕地の田園に「寒天干し」の風景が広がります。日光に照らされてキラキラと光る寒天。その壮観な景色は、この地域の季節の風物詩です。

そもそも、寒天の歴史は古く、京都・伏見の旅館の主人が参勤交代で立ち寄っていた薩摩藩一行に提供した「ところ天」のあまりが凍って乾燥し、いわばフリーズドライになっていることに気づいたことがはじまりです。水で戻して食してみると、海藻くささのない、透明で見た目のいいものができたそう。「寒ざらしのところ天」から「寒天」と命名され、関西を中心に根付いていきました。
角寒天は食物繊維の含有量が全体の80%を占め、さまざまな食品のなかでもその量は指折り。古くから「お腹の砂下ろし」とも呼ばれ便秘対策などに使用されてきました。健康面で注目を集めるなかで、ご飯に炊き込んだり、そのまま具材として味わったりと新しい食し方も考案されています。
しかし、製造方法が難しくて気候条件にも左右されやすい角寒天を生産しているのは、全国でもいまや、諏訪地域だけ。なぜ、この地域ではその伝統的な製造方法が守られ続けているのでしょう?

工業寒天とは異なる
天然寒天の魅力

現在、寒天とひと括りに呼ばれているものは、製造法によって大きく二つに分けられ、そのほとんどが角寒天、糸寒天などの天然寒天。もうひとつが粉寒天などの工業寒天です。諏訪地域で製造されているのは、天然寒天です。天然寒天は、寒冷期の寒暖差を利用して屋外で凍結・乾燥をくりかえす昔ながらの方法でつくられます。手作業で手間暇がかかるうえ、気候条件にも左右されるので製造時期が限定されます。一方、工業寒天は、海藻から人工的に寒天質を抽出して製造する工業製品です。1年を通して製造でき、安定供給できるので、食用のほか化粧品や、芳香剤、医学研究の材料にまで用いられます。現在は家庭で簡単に扱える工業寒天が主流ですが、やはり魅力なのは天然寒天です。たとえば、寒天にのみ含まれ、コレステロール低下作用があるとされるアガロペクチン。工業寒天では、製造工程で廃棄されてしまいます。オゴノリを主原料とする工業寒天に対し、テングサを主原料とする天然寒天の滑らかで弾力のある食感は別格です。同じ寒天という名称ではありますが、工業寒天と天然寒天は、主原料から製造工程、それぞれのもつ利点までが大きく異なっています。

諏訪地域になぜ天然寒天が
根付いたのでしょうか?

1830年ごろに諏訪郡諏訪郡穴山村(現在、天然寒天づくりがもっとも盛んな茅野市玉川地区)の行商人・小林粂左衛門が出稼ぎで訪れた兵庫県丹波地方の寒天づくりを見て、故郷の気候は寒天づくりにうってつけではないかと思いつき、この技術を持ち帰り、諏訪地方に広めました。1905年に中央線が開通するとテングサの確保も容易となり、すっかりこの土地の名産品となりました。
諏訪地域の気候は、小林粂左衛門の予想どおり、寒天づくりにはうってつけだったのです。標高の高さゆえ夜間は氷点下5度から寒いときには10度以下にもなり、内陸性気候ゆえ湿気も少なく晴天の日が多く、昼夜の寒暖差も大きくなります。天然寒天の製造には、この寒さと湿気の少なさ、寒暖差が必須条件。水を多く用いる寒天製造にとって、この地域の不純物の少ない地下水は大きな利点となっています。
1800年ごろには宮崎県でも製造されていたという記録が残っているそうですが、気候変動により現在の日本では産地が限られてしまいます。諏訪地域は、現在、日本全国をみても天然寒天が製造できる気候条件を兼ねそろえている貴重な場所といえます。

天然寒天づくりの現場

諏訪地域でつくられる天然寒天は、おもに棒状のかたちをした角寒天です。その製造工程は大きく分けてスイシャ、カマ、ニワと呼ばれる三段階に分かれます。
 

天然寒天ができるまで ①スイシャ

「スイシャ」は、原料となる海藻類を水漬けして塩抜きし、土砂や貝殻を取り除いてから、アク抜きをします。角張った形状を出すためにテングサにオゴノリもブレンド。配合は各業者によって微妙に異なります。

天然寒天ができるまで ②カマ

「カマ」は、窯で煮熟して寒天質を抽出し、ろ過、凝固させ、切断する行程です。寒天質をより多く抽出するために、酢などの酸を入れ、焦げないように攪拌します。深夜、気温の冷え切ったところで寒天質を濾過し、「もろぶた」と呼ばれる箱に流し込み、凝固したら生寒天を専用の天切り包丁で昔ながらの変わらない規格(29×4×5.5cm)にカットします。この状態が生ところてんです。

天然寒天ができるまで ③ニワ

「ニワ」は、屋外で「凍結、融解、乾燥」を繰り返し行う工程です。作業は天候によって変わりますが、およそ朝6時頃から午後5時頃まで。生ところてんをまずは北向きに設置し、約3日間かけて凍結させます。1日目の凍り具合で形状のできが変わるので、削った氷を一本一本にかけるなどの細かいケアが大切です。1万本つくって、3000本が規格外になることもあるそう。乾燥時は南向きに設置。急激に乾燥すると潰れてしまうこともあるのだとか。一つひとつ手作業で向きを変えるなど、すさまじい手間暇がかかっています。凍って、溶けて、また凍ってを繰り返すうちに水分が飛び、最後はビニールハウスで乾燥を促進。ここまで約20日。ついに角寒天の完成です。

変わらない伝統と、新しい試み

気の遠くなるような手間隙をかけ、天候などの不確定要素とも格闘しながら、現在もなお続く天然寒天づくり。最盛期には250社ほどが操業していましたが、現在では12社ほどにまで減ってしまったそうです。干し場周辺の道路整備、交通量増加などによる粉塵の問題、原材料の価格高騰、そもそも寒天への需要の変化などさまざまな背景があります。

それでも諏訪地域が高品質な寒天の生産地としてあり続けているのは、それだけ優れた食品だから。食品を固めるだけではなく、サラダに入れたり、お菓子としてそのまま食べられるような新商品の開発、天然寒天づくりの作業行程そのものを楽しめるワークショップなど、新しい試みも生まれ、再び人気を集めつつあります。伝統産業としての希少性、独特の食感、健康食品としての価値。知ったつもりで意外と知らない「天然寒天」の魅力に、ぜひ一度目をむけてみてください。

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