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SNOW(雪) と SORA(宙) が出会う場所 —— 長野の「天」と「地」のツーリズム 第5章 『SNOW × SORA の頂へ — 志賀高原、天空の冬』

⻑野の冬は「SNOW × SORA」。冬の⻑野には、ふたつの大きな資源があります。世界に誇る雪――SNOW。そして、澄み切った夜空に広がる宙――SORA。冷えた空気と山岳地形が生み出す、深い静けさ。雪に包まれた夜、見上げる星空は、同じ日本とは思えないほど深く、宇宙に近く感じられます。雪があるから、宙は美しい。宙があるから、雪景色は昼と夜で表情を変えます。滑る。歩く。泊まる。温まる。そして夜、宙(SORA)を見上げる。 SNOW を楽しみ、SORA に出会う。それが、⻑野の冬が生み出す、「天」と「地」を結ぶ唯一無二の体験です。

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『針葉樹の森の上の冬の大三角』志賀高原の針葉樹の森を、星空スノーシューハイクで歩く。雪をまとった樹冠の上に、突然ひらける冬の星空。冬の大三角、その間を淡く流れる冬の天の川が広がる。撮影地:志賀高原(1月下旬)(©大西浩次)
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第5章 SNOW × SORA の頂へ — 志賀高原、天空の冬

標高1,500メートルを超える大地。広がる雪原。凍てつく空気。そして、頭上いっぱいに広がる宙(SORA)。志賀高原は、長野の冬が持つ「SNOW × SORA」が最も純度高く結晶する場所です。昼は滑り、歩き、白銀の世界を体で味わいます。夜は光の少ない高原で、息をのむ星空に出会います。雪は音を吸収し、静寂が宙をいっそう深く感じさせます。ここでは、天と地の境界が限りなく薄くなります。長野の冬がたどり着く、ひとつの頂。それが志賀高原です。

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『未明の空に上るさそり座と夏の天の川』未明の空、針葉樹の森の上にさそり座が昇る。やがて夏の天の川も姿を現す。氷点下10度を下回る凍てつく空気のなか、星々はひときわ鋭く輝く。撮影地:志賀高原(3月上旬)(©大西浩次)
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1.志賀高原で見上げる星空

志賀高原は標高約1,300~2,300メートルに広がる高原地帯です。標高が高いということは、大気の層が薄く、水蒸気やちりの影響を受けにくいことを意味します。特に冬は空気が乾燥し、氷点下10℃以下になることも珍しくありません。この厳しい寒さこそが、星空にとっては好条件となります。

空気中の水蒸気や微粒子が少ないため、星の光はよりクリアに届きます。冬の代表的な一等星であるシリウスの青白さ、ベテルギウスの赤みも、色の違いがはっきりと感じられます。条件が整えば、淡い冬の天の川も「星の粒の帯」のように見えてきます。

さらに2月から3月にかけての未明には、夏の天の川が東の空に昇り始めます。凛とした冬の空気の中で見るその姿は、驚くほど鮮明です。

志賀高原の冬の特徴は、視覚だけではありません。雪は音を吸収するため、風が止まると周囲は驚くほど静かになります。さらに雪面は、わずかな星明かりや月明かりをやわらかく受け止め、地面がほのかに青く浮かび上がります。月がある夜には、ライトがなくても歩けるほど視界が確保されることもあります。

雪があるからこそ、空が際立ちます。まさに、SNOWがSORAを引き立てる場所です。
また志賀高原は森林に囲まれながらも、スキー場のゲレンデや池・湿原周辺、峠など視界が開けた場所が多くあります。そのため、地平線近くまで空を見渡すこともできます。冬の大三角や冬のダイヤモンドといった一等星群はもちろん、条件が良ければ南の低空にカノープスを望める場所もあります。

長野市街地から車で約1時間強、中野インターから約45分。都市部から比較的アクセスしやすい距離にありながら、これほど恵まれた星空環境に出会えることも、志賀高原の大きな魅力です。


2.山の駅付近やスキー場で見上げる星空

気軽に星空を楽しみたい方におすすめなのが、志賀高原山の駅および志賀高原98周辺の駐車エリアです。標高約1,600メートルの蓮池周辺に位置し、志賀高原の観光・交通の拠点となっている場所です。

駐車場には照明がありますが、安全性とアクセスの良さを考えると、初心者にも安心して利用できる観察ポイントです。完全な暗闇ではありませんが、視界が開けているため、主要な星座はもちろん、天の川も確認できます。

志賀高原内の各スキー場にも広い駐車場が整備されており、冬季は除雪が行き届いています。除雪でできた雪の山をうまく利用すれば、直接光を遮りながら観察することも可能です。

スキーウエアを着ていれば、除雪された雪の斜面に横になって空を見上げることもできます。冷たい空気の中で静かに寝転び、頭上いっぱいに広がる星を眺める体験は、冬の志賀高原ならではの贅沢です。

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『冬の8つの一等星』カノープスが南中するころの横手山山頂。浅間山の上にカノープスが見え、その左には富士山の峰も小さくのぞく。冬の大三角と、淡い冬の天の川も空を横切る。撮影地:横手山山頂(2月中旬)(©大西浩次)
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『冬の大三角、冬のダイヤモンド、カノープス』ベテルギウス(オリオン座)、シリウス(おおいぬ座)、プロキオン(こいぬ座)が冬の大三角を形づくる。アルデバラン(おうし座)、リゲル(オリオン座)、ポルックス(ふたご座)、カペラ(ぎょしゃ座)らを結ぶと冬のダイヤモンドが現れる。シリウスから南へ視線を延ばせば、カノープス(りゅうこつ座)を探すことができる。撮影地:横手山山頂(2月中旬)(©大西浩次)
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3.冬の星空案内(志賀高原編)いろいろな星の展示室

志賀高原の澄んだ冬の星空には、ひときわ明るく輝く七つ(条件が良ければ八つ)の一等星を見つけることができます。それぞれは単に明るい星というだけではありません。

質量(星の重さ)、誕生からの年齢、そして現在どんな状態(進化段階)にあるのかがまったく異なる恒星たちです。冬の夜空は、まるで「いろいろな星の展示室」のように、多様な星の一生を一目に見せてくれます。

〈冬の大三角をつくる星たち〉

■ シリウス(おおいぬ座)

夜空で最も明るく見える恒星です。質量は太陽の約2倍、年齢は約2億5千万年と推定されています。現在は中心で水素核融合を行う主系列星という安定な段階にあります。表面温度は約1万Kで、青白い光が特徴です。距離は約8.6光年と比較的近く、その近さも明るさの理由のひとつです。

■ ベテルギウス(オリオン座)

赤色超巨星と呼ばれる大質量星の進化段階の後期にいます。質量は太陽の10倍以上と考えられ、すでに寿命の終盤にあります。中心部では水素燃焼を終え、より重い元素の核融合が行われている段階です。半径は太陽の数百倍に達し、赤く大きく膨張した姿は恒星の老年期を象徴しています。距離は約500〜700光年で、天文学的には比較的近い将来(~百万年程度)に超新星爆発を起こす可能性があるとされています。

■ プロキオン(こいぬ座)

太陽の約1.5倍の質量を持つ星で、現在は巨星になりつつある段階(亜巨星)にあります。中心の水素をほぼ使い終え、外層がゆっくりと膨張し始めた、進化の転換点にある星です。距離は約11.5光年です。


〈冬のダイヤモンド(冬の六角形)をつくる星たち〉

■ リゲル(オリオン座)
青色超巨星で、質量は太陽の十数倍、光度は太陽の数万倍に達します。有効温度は約12,000K。鋭い青白い光を放ちます。寿命は数百万〜一千万年程度と非常に短く、将来は超新星爆発を起こすと予測されています。距離は約860光年です。

■ アルデバラン(おうし座)

赤色巨星で、太陽と同程度の質量の星が主系列段階を終えて膨張した姿です。表面温度は約3,900Kで、オレンジ色に見えます。距離は約65光年です。将来の太陽の姿を考えるうえで参考になる存在です。

■ ポルックス(ふたご座)

太陽よりやや重い星が進化した赤色巨星です。かつては主系列星でしたが、現在は外層が膨張し、進化後半段階にあります。落ち着いた橙色が特徴です。

■ カペラ(ぎょしゃ座)

黄色巨星同士からなる連星系です。いずれも太陽よりやや重い星で、主系列段階を終えています。距離は約43光年で、冬の夜空では天頂近くで明るく輝きます。


〈南天の一等星〉

■ カノープス(りゅうこつ座)

南の低空に現れる非常に明るい星です。高光度の進化星で、絶対光度は太陽の約1万倍に達します。日本では南の地平線が開けていないと見ることが難しい星ですが、志賀高原のように視界が広い高所では観察できる可能性があります。

これらの星を並べてみると、

・若い主系列星(シリウス)
・進化途上の亜巨星(プロキオン)
・赤色巨星(アルデバラン、ポルックス)
・超巨星(リゲル、ベテルギウス)
・高光度の進化星(カノープス)

というように、恒星の一生のさまざまな段階を同時に観察できることが分かります。

志賀高原の冬は空気が乾燥し、水蒸気が少ないため、星の色の違いがはっきりと分かります。青、白、黄、橙、赤。これらの色は単なる見た目の違いではなく、表面温度と進化段階の違いを示しています。一般に青い星ほど高温で若く、赤い星は低温で進化が進んだ段階にあります。

志賀高原の冬の夜空は、質量も寿命も異なる恒星たちが並ぶ「星の進化の展示室」なのです。


4.スノーシューハイクで見上げる星空(池・湿原めぐり)

志賀高原で星空を楽しむなら、視界の開けた湿原や凍り付いた池の雪原はおすすめの場所です。森に囲まれたエリアが多い志賀高原ですが、湿原や池の周辺では空が大きく広がっています。日中はスキーやスノーボードで賑わう志賀高原も、夜になると一気に静寂に包まれます。特に湿原エリアは人工光が少なく、空の暗さを実感しやすい環境です。

雪上にトレース(踏み跡)があれば冬靴でも歩けることがありますが、安心して散策するにはスノーシューが便利です。近隣の宿泊施設やガイドツアーで体験プログラムが用意されていることもあり、初心者でも挑戦しやすいアクティビティです。昼間に下見を兼ねて歩いておくと、夜間の行動も安心です。

ここでは、田ノ原湿原、上の小池、長池での星空をご紹介します。いずれも比較的アクセスしやすく、空の広がりを感じられる場所です。志賀高原にはこのほかにも数多くの湿原や池が点在しており、季節や時間帯によって異なる表情を見せてくれます。

なお、湿原は貴重な自然環境です。植生保護のため、木道や指定されたルートを歩くようにしましょう。また、池や湖沼では冬の終わりが近づくと湖面の氷が緩むことがあります。氷上に立ち入る場合は必ず安全を確認し、無理をしないことが大切です。天候や積雪状況によっては立ち入りを控える判断も必要です。

自然を守りながら楽しむことが、志賀高原の星空体験を次の世代へつなぐことにもなります。

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『すばる、後星(アルデバラン)、三ツ星の並び』プレアデス星団(すばる)、アルデバラン、オリオン座の三ツ星が約1時間おきに昇っくる。アルデバランはアラビア語で「後を継ぐもの」という意味、和名で「後星」と呼ぶのもすばるの後に昇るということからついている。昔から星空は人々の生活の中にあったのであろう。撮影地:田原湿原(12月中旬)(©大西浩次)
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『すばる、後星(アルデバラン)、三ツ星の並び(解説)』プレアデス星団(すばる)、アルデバラン、オリオン座の三ツ星が約1時間おきに昇って、真東の空で縦に並ぶ。ちなみに、沈むころには、ほぼ水平に並ぶ。オリオン座の足元にはうさぎ座がいる。写真は、ちょうど、うさぎ座の方向から手前に向かって野うさぎが飛び出てきたのであろうか。撮影地:田原湿原(12月中旬)(©大西浩次)
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『氷結した湖面から見上げる冬の星空』凍りついた池の上から見上げる冬の空。冬の大三角とふたご座が、澄み切った夜気のなかに浮かぶ。撮影地:上の小池(2月中旬)(©大西浩次)
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『氷結した湖面から見上げる冬の星空(解説)』ふたご座α星はカストル(2等星)、β星はポルックス(1等星)。明るさの順とα・βの順が一致しない珍しい例である。神話では兄カストルと弟ポルックスは天に上げられ、星になったと伝えられる。昇るときはカストルが上に、沈むときは二つの星が寄り添うように並ぶ。撮影地:上の小池(2月中旬)(©大西浩次)
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『冬の大三角と森から飛び出す野うさぎの足跡』雪に覆われた湖面は大きな白いキャンバスとなり、無数の動物たちの足跡が刻まれる。森から飛び出した野うさぎの足跡が、星空から続いていく。月明かりに青く染まる空に、冬の大三角が静かに輝く。撮影地:長池(2月中旬)(©大西浩次)
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5.スノーシューハイクで見上げる星空(針葉樹の森の中へ)

冬の志賀高原では、標高約1,800mの陽坂(ようさか)ゲート付近まで自動車でアクセスできます。市街地よりさらに標高が高く、空気はいっそう冷たく、澄みきっています。
この周辺は広葉樹と針葉樹の混合林ですが、少し標高を上げると、やがて針葉樹の森が広がります。葉を落とす広葉樹と異なり、針葉樹は冬でも濃い緑を保ち、雪をまとった姿が静かな存在感を放っています。
陽坂駐車場からスノーシューを履き、雪で閉鎖された国道292号線沿いをゆっくり歩いていきます。途中から、森の中へ一歩足を踏み入れると、針葉樹に囲まれた空は、湿原のように大きくは開けていません。しかしその分、木々の間から切り取られた星空が強く印象に残ります。枝先のシルエット越しに輝く星。雪をまとった樹冠の上に浮かぶオリオン座。空が“額縁”に収められたように見えること。それが、森の中で見る星空の魅力です。


〈月とともに歩く夜〉

ここでは、深夜に下弦を過ぎた月が昇る時間帯の様子をご紹介します。夜半までは月がなく、星だけの時間が続きます。リゲルの青白い光、ベテルギウスの赤み、シリウスの鋭い輝きが、森の上に静かに並びます。乾燥した空気のおかげで、星の色の違いもはっきりと感じられます。

やがて東の空がわずかに明るくなり、下弦過ぎの月が木立の間から昇ってきます。月明かりが雪面を照らし始めると、森の雰囲気は一変します。ヘッドランプを消しても歩けるほどの明るさとなり、雪原は青白く浮かび上がります。星の数はやや少なくなりますが、その代わりに、月光と雪と森が織りなす立体感が現れます。

星だけの闇の時間。
月が昇る時間。
同じ場所でも、空の表情は刻々と変わっていきます。


〈森で星を見るという体験〉

湿原や池の開放的な星空とは異なり、針葉樹の森の中では、宇宙を“包まれるように”感じます。頭上に広がる星空と、足元の雪、そして周囲を囲む森。その一体感は、標高の高い志賀高原ならではの体験です。
ただし、夜間の森歩きには十分な装備と慎重な行動が欠かせません。天候の急変や気温の低下に備え、防寒対策を万全にし、単独行動は避けるなど、安全を最優先に行動しましょう。

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『針葉樹の森の上に広がる星空』雪を深くまとった針葉樹の高い梢。その上にオリオン座が輝く。森を歩きながら星を見上げると、時間の経過とともにオリオン座は東から南へ、そして西へと位置を移していく。地球の自転が、静かな森の上で確かに感じられる。撮影地:志賀高原(2月中旬)(©大西浩次)
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『針葉樹の森の隙間に立つオリオン座』森を歩き始めて1時間ほど。針葉樹の切れ間に、ほぼ南中したオリオン座が姿を見つける。凍てつく空気のなかで、三ツ星がくっきりと並ぶ。撮影地:志賀高原(2月中旬)(©大西浩次)
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『月明かりで照らされるオリオン座と冬の大三角 』星空スノーシューハイクの途中、下弦過ぎの月が昇る。月明かりに照らされ、雪面がほのかに赤みを帯びる。その向こうにオリオン座と冬の大三角が浮かぶ。雪原に刻まれた無数の起伏は、野うさぎたちの足跡である。撮影地:志賀高原(2月中旬)(©大西浩次)
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『シリウスの下を駆けるうさぎ』オリオン座の足元にはうさぎ座、その南東にはおおいぬ座のシリウスが輝く。雪原には森から続く野うさぎの足跡。空の星座と地上の痕跡が重なり合う。月明かりのなかのスノーシューハイクは、宙と大地を同時に味わう時間となる。撮影地:志賀高原(2月中旬)(©大西浩次)

6.オプション 横手山山頂で見上げる星空

横手山は志賀高原の最高峰(標高2,307m)であり、横手山・渋峠スキー場の頂上にあたります。冬季はスキーリフトで山頂付近まで上がることができ、山頂のヒュッテでは昼間は名物パンが楽しめ、夜は宿泊も可能です。

標高2,000mを超える場所に気軽に立てることは、志賀高原ならではの大きな魅力です。
山頂は「展望の山」として知られ、晴天時には北アルプスから南アルプス、八ヶ岳連峰、四阿山・根子岳、浅間山、そして遠く富士山まで望むことができます。昼間にその大パノラマを体験しておくと、夜に同じ方向を見たとき、地上の地形と星空が重なり合う感覚がいっそう深まります。

そして、この山頂でぜひ見たいのが南天の一等星カノープスです。日本では地平線すれすれを通るため観測できる場所が限られますが、南側の視界が開けた横手山では、その姿をとらえやすくなります。浅間山の上空をかすめるように通過していくカノープスは、特別な光景です。

ただし、山頂は平地よりさらに気温が低く、風も強まりやすい環境です。体感温度は大きく下がります。防寒対策を徹底し、天候の急変にも十分注意してください。

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山頂付近の針葉樹の森を照らす星明りと月明かり』横手山山頂付近は、強風に鍛えられた低木の針葉樹が広がる。月明かりが空と雪面を淡く照らし、その上に冬の大三角と、間を流れる淡い冬の天の川が浮かぶ。撮影地:横手山山頂(2月中旬)(©大西浩次)
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『山頂付近の森と冬の8つの一等星』山頂の木立越しに、冬の一等星が八つ揃う。南の低空、浅間山の左にかすかに見えるのがカノープス。冬の大三角と冬のダイヤモンド、その間を淡い天の川が横切る。澄み切った空がもたらす壮観である。撮影地:横手山山頂(2月中旬)(©大西浩次)
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『夕暮れのビーナスベルト』日の入り直後、西空に背を向けると、東の地平線上に青灰色の帯が現れる。地球の影である。その上に重なる淡い桃色の光がビーナスベルト。太陽光が長い距離を通過する際に赤みを帯び、大気中で散乱して生まれる現象だ。透明度の高い冬の横手山では、その階調がひときわ鮮明に浮かび上がる。撮影地:横手山山頂(2月中旬)(©大西浩次)
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『残照の中の金星と長野市内の街並み夜景』東の空にビーナスベルトが現れるころ、西の残照の中には宵の明星・金星が輝く。赤く染まる薄明の空に浮かぶ一点の光。眼下には長野市街の夜景が広がる。(なお、この時刻に東の空で見えているビーナスベルトは、金星(ビーナス)による照明を想像してつけられた名前であるが、実際には、金星の照明ではない。)撮影地:横手山山頂(2月中旬)(©大西浩次)
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『残照の中の金星と長野市内の街並み夜景』残照の空に輝く金星。その下には、犀川と千曲川に沿って広がる長野市街の灯りが続く。市街地から車とリフトを乗り継ぎ、およそ2時間で標高2300mへ。都市の光と宇宙の光を同時に望めるのも、志賀高原の魅力である。撮影地:横手山山頂(2月中旬)(©大西浩次)
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7.オプション 渋池付近で見上げる星空

渋池は志賀高原中央部に位置する静かな池です。冬季は硯川エリアから前山方面へスノーシューで約40分、さらに四十八池方面へ約10分歩いた場所にあります。標高は約1,800mです。

冬の渋池は全面が氷結し、大きな雪原となります。池の中央付近まで進むと、周囲を取り囲む針葉樹林が自然の“壁”となり、遠方の人工光をやわらかく遮ってくれます。開放感と包まれ感の両方を味わえるのが、この場所の魅力です。

ただし、自然度の高いエリアのため、夜間はルートが分かりにくくなります。必ず昼間に下見をするか、経験者やガイドとともに行動しましょう。氷の状態も季節によって変化します。安全確認を最優先に、無理のない計画を立ててください。

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『未明の空のさそり座』旧前山スキー場の斜面を越えると、広大な雪原が開ける。四十八池方面へ進んだ先、森に囲まれた渋池の大雪原。中央に立ち星を見上げると、宇宙に包まれるような感覚に満たされる。2月、未明の空にはさそり座が昇り、針葉樹の森の上に夏の天の川が横たわる。撮影地:渋池(2月中旬)(©大西浩次)
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『薄明の空の「夏の天の川」』2月中旬、渋池を囲む森の上に夏の天の川が昇るころ、東の空に薄明が始まる。星々は次第に光を失い、夜は静かに終わりを告げる。ゆっくりと下山すれば、夜明けの山並みが迎えてくれる。撮影地:渋池(2月中旬)(©大西浩次)
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『針葉樹の森の上に広がる冬の宇宙』渋池付近の森の中から見上げる冬の星空。澄み切った空に、色とりどりの星々がきらめく。静寂のなか、森の上に冬の宇宙が広がる。撮影地:渋池付近(2月中旬)(©大西浩次)
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『針葉樹の森の上に広がる冬の宇宙(解説)』冬のダイヤモンドと冬の大三角が視野いっぱいに広がり、その間を淡い冬の天の川が横切る。冬の天の川が薄く見えるのは、銀河系中心とは反対の外縁方向を見ているためである。オリオン座周辺には若く明るい星が多く、私たちの属するオリオン腕の星々が近距離に分布するため、数は少なくとも印象的な星空となる。撮影地:渋池付近(2月中旬)(©大西浩次)

8.オプション 未明の夏の天の川を見る

2月から3月の未明、東の空からさそり座が昇り、やがて夏の天の川が姿を現します。
「夏の天の川」と聞くと夏の暑い夜を思い浮かべるかもしれません。しかし、最も美しい姿のひとつは、冬の澄み切った空気の中で見る未明の空の天の川です。

さそり座からいて座にかけての領域は銀河系中心方向です。星雲と暗黒星雲が入り混じる、銀河の核心部にあたります。双眼鏡を使えば星の色の違いもはっきりと分かります。肉眼でも、天の川の中に黒い“切れ込み”のような暗黒星雲を感じ取ることができます。冬の星座が西に沈み、夏の星座が東から昇る。その移ろいを体験できるのは、未明ならではの特権です。

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『薄明の中のさそり座と銀河系中心方向の天の川と暗黒帯』3月、未明の空にさそり座が全景を現す。いて座付近の天の川と、その間を走る暗黒帯が森越しに浮かび上がる。ここは銀河系中心方向。濃密な星々が集まる領域である。撮影地:のぞき付近(3月上旬)(©大西浩次)
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『4月の未明の空に広がる「夏の天の川」』志賀高原のスキーシーズンは5月の連休まで続く。桜の便りが届くころでも、横手山から渋峠にかけては広大な雪原が広がる。春先に南岸低気圧が通過すれば、新雪に包まれることもある。4月上旬の未明、雪上を歩けば夏の天の川が高く昇る。雪と銀河を同時に見上げる、季節が交差する時間である。撮影地:のぞき付近(4月上旬)(©大西浩次)
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『4月の未明の空に広がる「夏の天の川」(解説)』4月の未明、春の星座は西へ傾き、空は初夏の表情へと移る。さそり座が南中するころ、いて座の銀河系中心方向から天の川が立ち上がり、こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブへと連なる。さらにその流れは秋のカシオペヤ座へ続いていく。志賀高原の冬は、一夜のうちに四季の星座をたどることができる。撮影地:のぞき付近(4月上旬)(©大西浩次)
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9.星空観察を安全に楽しむために

冬の志賀高原での星空観察は最高の条件がそろう一方で、自然環境は厳しいものです。安全を最優先に準備を整えましょう。

防寒対策は万全に行ってください。立ち止まって見上げる時間が長いため、想像以上に体が冷えます。重ね着、防風対策、厚手の手袋、ニット帽、防寒ブーツなどを準備しましょう。

トイレの事前確認も重要です。冬季は利用できる施設が限られます。事前に確認し、余裕を持って行動してください。

天候・道路状況の確認、ヘッドランプと予備電池の携行、単独行動を避けることなど、基本を徹底することが、安全で快適な星空体験につながります。

■ 硯川公衆トイレ(冬季利用可)
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志賀高原中心部に位置し、硯川エリアを拠点に観察する場合に便利です。

■ 志賀高原の登り口周辺
・上林チェーンベース駐車場トイレ
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志賀高原へ向かう途中の重要なポイントです。
・道の駅やまのうち 公衆トイレ
24時間利用可能なことが多く、最終確認地点として便利です。

10.星空を見るということ ― 志賀高原の空のもとで(シリーズ最終稿)

乗鞍高原から始まり、木曽、霧ヶ峰・車山高原、戸隠、そして志賀高原へ。

この連載では、長野の冬を「SNOW × SORA」という視点で歩いてきました。

場所は違っても、そこにあったのは共通する風景です。

雪に覆われた大地と、その上に広がる静かな宙。

雪の上に立ち、夜空を見上げるとき、人は足元と頭上を同時に意識します。白い地表と、限りなく暗い宇宙。そのあいだに自分が存在していることに気づきます。

星の光は、何万年、何百万年という時間を超えて届きます。いま見えている光は、遠い過去からのメッセージです。その光を雪原の上で受け取る体験は、私たちの日常の時間軸を、ほんの少しだけ広げてくれます。

志賀高原の冬は、とりわけ空気が澄み、水蒸気が少ない季節です。乾いた冷気、音を吸い込む雪、人工光の少ない山岳地形。

星空は、その土地の自然環境の質を映し出します。良好な星空は、自然が守られている証でもあります。

星を見ることは、特別な行為ではありません。ただ立ち止まり、見上げるだけです。しかしその時間は、自然のリズムの中に身を置き、自分自身のリズムを取り戻す時間になります。

雪と宙。

天と地。

そのあいだに立つ人。

SNOWとSORAが出会う長野の冬は、滑るだけでは終わりません。昼だけでは完結しません。夜の静けさまで含めて、ひとつの旅になります。

これからの冬の旅は、量を巡るものから、質を味わうものへ。

雪を楽しみ、宙に出会い、滞在し、感じる時間へ。

志賀高原の空のもとで見上げた星は、きっと他の場所の空へもつながっています。

長野の「天」と「地」を結ぶツーリズムは、ここからさらに広がっていくはずです。

その象徴が、雪の上から見上げる、静かな星空なのです。


構成・取材・撮影・文:大西浩次

<著者プロフィール>
大西 浩次(Kouji Ohnishi)
星空と風景を一緒に写す星景写真の第一人者。国立長野高専教授。長野市在住で、「長野県は宇宙県」連絡協議会会長として、多くの仲間と一緒に長野県の天文文化を創る活動を行っている。研究分野は天文学と市民科学(シチズンサイエンス)。

 

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