SNOW(雪) と SORA(宙) が出会う場所 —— ⻑野の「天」と「地」のツーリズム 第1章『乗鞍高原 SNOWとSORAが自然につながる場所』
⻑野の冬は「SNOW × SORA」。冬の⻑野には、ふたつの大きな資源があります。世界に誇る雪――SNOW。そして、澄み切った夜空に広がる宙――SORA。冷えた空気と山岳地形が生み出す、深い静けさ。雪に包まれた夜、見上げる星空は、同じ日本とは思えないほど深く、宇宙に近く感じられます。雪があるから、宙は美しい。宙があるから、雪景色は昼と夜で表情を変えます。滑る。歩く。泊まる。温まる。そして夜、宙(SORA)を見上げる。 SNOW を楽しみ、SORA に出会う。それが、⻑野の冬が生み出す、「天」と「地」を結ぶ唯一無二の体験です。
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『乗鞍岳に沈む、冬を代表する星座オリオン』赤く輝くベテルギウスと、山の上に白く光るリゲル、三ツ星の下にはオリオン大星雲が淡く広がっています。この一帯は星が次々と生まれる領域で、夜空には宇宙が今も変化し続けていることが感じられます。撮影地:乗鞍高原 第 3 駐車場*やまぼうし駐車場(©大⻄浩次)
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第1章 乗鞍高原 SNOWとSORAが自然につながる場所
雪に覆われた乗鞍高原は、夜空の深さをいっそう際⽴たせます。
⼈の営みの少ない静寂中で、星空は圧倒的な存在感をもって迫ってきます。ここでは、宙(SORA)は「観賞するもの」ではなく、⾃然の一部として、そっと⽴ち現れます。
そんな特別な体験ができる乗鞍高原は、松本市街地から⾃動車で約 1 時間。県内でもアクセスしやすい場所にあります。乗鞍岳の山腹に広がる稜線と、森や湖が点在する、美しい高原地帯です。
標高 2,000m 級の内陸高地が生み出すのは、低温で乾いた雪。
2024 年からは、地元の⼈たちによって運営されているスキー場「Mt.乗鞍スノーリゾー ト」も加わり、昼は雪原に⾝を置き、夜は澄み切った空に広がる星を見上げる――そんな一日の流れが、⾃然に成⽴します。
SNOW と SORA が、無理なく、ひとつにつながる冬。
「わざわざ⾏く価値のある冬」が、乗鞍高原にはあります。
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空の暗さが、星を近づける
乗鞍高原エリアは空がとても暗く、基本的にはどこでも星空観察が可能です。
その中でも、ペンションなどの明かりから少し離れた場所で、安心して星空を楽しめる場所としておすすめなのが乗鞍 BASE(NORIKURA BASE)です。
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乗鞍 BASE 無理なく⾏ける、冬の星空拠点
標高およそ 1,500m の高原に位置する乗鞍 BASE は、春から秋にかけてはアウトドアアクティビティやキャンプの拠点として親しまれている施設です。
実は冬も、星空を楽しむことができる貴重な場所です。
冬季も駐車場までの道路は除雪されており、無理のないアクセスが可能です。
駐車場から少し歩くと、正面には乗鞍岳の山容が浮かび、その足元には視界を遮るもののない大雪原が広がります。
⼈工の光や音から離れたこの場所では、夜空がぐっと近くに感じられます。
雪原に寝転ぶ、という星空体験
雪原に腰を下ろし、あるいは寝転がって星空を見上げます。
そのとき、「空を見る」という感覚は次第に薄れ、星空に包まれている⾃分に気づかされます。
澄み切った冬の空気の中で、星々は静かに、しかし確かな存在感をもって輝きます。
乗鞍 BASE のキャンプ場周辺では、夏から秋にかけて、木々に囲まれた環境で星を眺めることができます。枝葉の隙間からのぞく星や、森の気配とともに感じる夜空は、雪原とは異なる、やさしく落ち着いた表情を見せてくれます。季節によって舞台は変わっても、見上げる宙は同じ。乗鞍 BASE は、SNOW と SORA の両方を体験できる場所です。
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もう一歩、星空の奥へ。牛留池という選択
乗鞍高原エリアで、少しマニアックな星空観察スポットとして紹介したいのが牛留池です。
活火山・乗鞍岳の噴火によって生まれた溶岩台地のくぼ地に⽔が溜まってできた池で、オオシラビソの原生林に囲まれた静かな場所にあります。
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冬の牛留池へのアクセス
冬季は、エコーラインの最終点にあるホテル「休暇村 乗鞍高原」脇から続く遊歩道を、徒歩 10〜15 分ほど歩くと到着します。
雪が降ってから数日経っていればトレースができていることもありますが、トレースがない場合はスノーシューなどが必要になることもあります。
できれば、暗くなる前に下見をしておくことをおすすめします。
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原生林の上に広がる、冬の宙
冬の牛留池は全面が氷結し、白い雪原になります。
その中央で寝転び、原生林の上に広がる夜空を見上げると、空に吸い込まれていくような感覚を覚えるでしょう。雪と静寂に包まれたこの場所では、星空は「見るもの」というより、⾝を委ねる存在として感じられます。
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冬の星空案内
― 冬の大三角と星の一生 —
冬の夜空には、数多くの一等星が輝いています。
全天で最も明るい恒星は、おおいぬ座のシリウスです。
「天を焦がすもの」という意味をもつシリウス。そのきらめきは、寒い冬の夜にもかかわらず、どこか熱ささえ感じさせる輝きです。
このシリウスの斜め右上に見える赤い星が、オリオン座のベテルギウス。さらに左斜め上に白く輝く星が、こいぬ座のプロキオンです。
この 3 つの星を結ぶと、「冬の大三角」が描かれます。
星座に描かれた物語
ギリシャ神話では、オリオンは勇敢な森の狩⼈とされています。おおいぬ座とこいぬ座は、このオリオンが率いる番犬です。
そのオリオンが夜空で向かい合っているのがおうし座です。
おうし座の顔の部分にあるオレンジ色の一等星がアルデバラン。その周囲の星々を結ぶと、V字型の並びが見つかります。これがヒアデス星団です。
つまり、おうし座の「顔」は、星の集まりによって形づくられているのです。
すばる― 星が集まる場所 —
おうし座の背中のあたりには、6〜7 個の星が寄り集まって輝く姿が見えます。
日本では古くから「すばる」と呼ばれてきた、プレアデス星団です。古い日本語では、
「一つに集まること」を「統(す)ばる」「昴(すばる)」と言いました。
夜空に寄り添うように集まって輝く姿を見ると、たしかにこの名がぴったりだと感じられます。双眼鏡でのぞくと、すばるは⻘白い星々の集団として、いっそう美しく見えます。天の川に沿って、このような星の集まりがいくつも存在します。これらは散開星団と呼ばれ、すばるは肉眼でも見やすい代表的な例です。
星の一生をたどる
すばるを構成する星々は、約 1 億年前に生まれた、まだ若い星たちです。星が生まれる場所として有名なのが、オリオン座のオリオン大星雲です。肉眼ではぼんやりとした光に見えます が、その中には生まれたばかりの星が数百個も隠れています。やがてガスやちりが吹き飛ぶ と、それらの星々は、きっとすばるのような星の集まりになっていくでしょう。
一方、ヒアデス星団の年齢は約 6 億年。すばるより少し年上の星の集団です。
星は、ガスやちりが集まった場所で生まれ、時間とともに少しずつ広がっていきます。天の川に沿って星々を眺めていくと、
・星が生まれる場所
・若い星の集まり
・広がっていく星たち
という、星の一生の流れを、夜空そのものから読み取ることができるのです。
オプション 滝と星空という、もうひとつの表情
乗鞍高原には多くの滝があります。なかでも善五郎の滝は、シラカバやダケカンバ、ブナ、ミズナラの森の雪道を歩いてたどり着く場所です。滝見台からは、善五郎の滝の上に乗鞍岳を望むことができます。ただし、木々に囲まれているため、星空観察としては視界がやや限られます。
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善五郎の滝の岩壁は、乗鞍岳の噴火によって流れ出た溶岩が冷え固まったものです。
⼈の一生では想像もできない時間をかけて、⽔と氷に削られ、今の姿になりました。冬、滝が凍りつくと、氷瀑の上に広がる夜空がいっそう深く感じられます。
足元には火山が残した大地の記憶があり、頭上には星々の光があります。ここでは、地球と宇宙の時間が、ひとつの視界の中で重なります。
厳冬期の雪道は凍結して滑りやすく、場合によってはアイゼンが必要になることもあります。一般向けとは言えませんが、凍りついた氷瀑と、その上に広がる夜空には、乗鞍岳の溶岩流の歴史と、宇宙の時間を同時に感じさせる迫⼒があります。
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厳冬期が過ぎ、春の音が聞こえてくると
乗鞍高原で冬の終わりが近づく頃、一の瀬の大雪原も、星空観察を楽しめるエリアになってきます。まいめの池の付近の駐車場は、昼間は乗鞍岳の雄大な裾野を望む展望台ですが、夜になると星空観察の好ポイントになります。
夜には、乗鞍岳の稜線へと冬の星たちが静かに沈み、南の空には春の星座が姿を現します。そして夜明け前、東の空からは、夏の天の川が昇ってくる様子を見ることができます。
冬の澄み切った空気の中で眺める天の川は、夏に見るそれとは印象が大きく異なります。 星の粒⽴ちが細かく、淡い光の広がりまで感じられるのが、この季節ならではの魅⼒です。
冬の乗鞍高原では、冬の星座を楽しむだけでなく、明け方に現れる夏の天の川まで味わえる、特別な星空に出会うことができます。
星空観察の前に
トイレと防寒のチェック
冬の星空観察では、寒さへの備えが欠かせません。
特に重要なのが、夜間に利用できるトイレの確認です。
乗鞍高原では、中心地にある乗鞍観光センター駐車場のトイレが貴重な存在です。
星見に出かける前に、宿泊施設やこのトイレに⽴ち寄ってから出発することをおすすめします。
*トイレ位置(夜間)
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星空を見るということ
星空を見るという⾏為は、⼈が「⼈間であること」を思い出す時間だと感じています。
何千年、何万年、あるいは何百万年も前に放たれた光が、たまたま今この瞬間、私たちの網膜に届いている。
その事実に気づいたとき、「今ここ」に⽴っているという感覚は、これまでとは少し違った重みを帯びてきます。
星空を見ることは、⼈が宇宙の一部として、確かに今ここに存在していることを、頭ではなく、⾝体で思い出すための⾏為なのかもしれません。
乗鞍高原の雪原と静かな夜空は、そんな感覚を、無理なく、⾃然に呼び起こしてくれます。
構成・取材・撮影・文:大西浩次
<著者プロフィール>
大西 浩次(Kouji Ohnishi)
星空と風景を一緒に写す星景写真の第一人者。国立長野高専教授。長野市在住で、「長野県は宇宙県」連絡協議会会長として、多くの仲間と一緒に長野県の天文文化を創る活動を行っている。研究分野は、天文学と市民科学(シチズンサイエンス)である。
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