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地元密着ライター厳選シティガイド
〈善光寺エリア〉
『善光寺門前裏道ガイド』

古くから国宝・善光寺の門前町として栄えてきた長野市の善光寺界隈。南北に伸びる表参道を中心に街並みが形成され、宿場町や市場町も兼ねた商業都市として発展してきました。近年は裏通りに佇む空き家や古民家をリノベーションした小さな店舗が増え、独自の文化を育んでいます。
また、今でも江戸時代の由緒ある旧町名が息づいていることも、善光寺門前町のユニークなところ。縦横に広がる小さな「町」をヒントに歩いてみれば、個性的で独創性のあるカルチャースポットに出合えます。

更新日:2022/08/03

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門前町発展の中心地、善光寺の表玄関・大門町

善光寺の前庭となる大門町。江戸時代には北国街道の宿場町として、本陣の「御本陳藤屋旅館」や純和風旅館の脇本陣「五明館」が置かれました。今はそれぞれ、レストラン&結婚式場の「THE FUJIYA GOHONJIN」と善光寺郵便局に生まれ変わり、当時のまま活用された建物に往時の面影を色濃く感じます。

明治時代には長野商工会議所が設立され、昭和の時代に入ると県下初の民放局SBC(信越放送)の開設事務局も誕生。大門町はいつの時代も文化・経済の中心地でした。

また、問屋場でもあった大門町には、旧家の大型の土蔵や商家も集積。約10棟の建物と地形、樹木を可能な限り生かして修景した複合商業施設「ぱてぃお大門 蔵楽庭(くらにわ)」もまた、大門町の歴史を感じさせる場所です。独自の審美眼に基づいたセレクトで足繁く通うファンも多い「ギャルリ夏至」や、まちの案内所も兼ねた「カフェ+まち案内 えんがわ」など13店舗が営業中。2022年3月末にオープンした「日本料理 そば懐石 紡ぎ」は、自家製粉した県産のそば粉を使った十割そばや地物の食材を生かした“そばと日本料理のマリアージュ”が楽しめます。

THE FUJIYA GOHONJIN

善光寺門前のモダンなランドマークとして愛される「THE FUJIYA GOHONJIN」。アール・デコ様式の建物は、大正時代に善光寺仁王門の再生建築に指名された宮大工・師田庄左衛門が手がけた

ぱてぃお大門 蔵楽庭

かつての土蔵などを生かしたテナントミックス商業施設「ぱてぃお大門 蔵楽庭」。約20年間空き家で老朽化していた蔵群が2005年によみがえった

ぱてぃお大門

既存の建物を活用し、石畳の中庭(パティオ)を核に敷地内を回遊できるのが特徴。茶室や迎賓館など風情ある建物も残る

日本料理 そば懐石 紡ぎ

手打ちの「十割そば」を提供する「日本料理 そば懐石 紡ぎ」。料理には長野県産の有機野菜や伝統野菜、果物をふんだんに使用する

個性あふれる味わいをめざす注目のブルーパブ「Mallika Brewing」(大門町)

にぎやかな大門町も一歩枝道に入ると、ぐっと落ち着いた雰囲気になります。路地裏に佇む2階建ての蔵風の建物が、2021年にオープンしたばかりのブルーパブ「Mallika Brewing[マリカブルーイング]」。1階のブルワリーは4月からの本格始動を控え、先行して営業をはじめた2階のバプ&カフェスペースでは、クラフトビールのほかコーヒーや軽食を楽しめます。

「ビールを飲む人も飲まない人も一緒に楽しめる場をつくりたいと思ったんです」と話す、店主の伊東大記さん・春菜さん夫妻。関東出身のふたりは、2018年から2年間かけて世界100カ国を旅し、各国のビールを楽しむなかで「いつかは自分好みのビールを造りたい」と思い描くようになりました。

帰国後、縁もゆかりもなかった長野市で開業を決めたのは、令和元年東日本台風の復興支援で訪れたのがきっかけ。地元農家をはじめとする知り合いが増えたことや、山が近く自然が豊かで、おいしく新鮮な農産物がすぐに手に入ること、コミュニティがコンパクトで顔が見える付き合いができることなどが決め手でした。

「Mallika Brewing -毬花麦酒-」

都内の会社で元同僚として働いていた大記さんと春菜さん。ふたりとも旅好きで、大記さんは自転車で日本一周をしたこともあるそう

「Mallika Brewing -毬花麦酒-」

メニューで提供しているりんごジュースは知り合いの農家のりんごを加工所に持ち込んで搾ってもらったもの。農家のはねだしりんごなどをビール造りに生かせば大きな付加価値が生み出せることも開業の後押しになった

「Mallika Brewing -毬花麦酒-」

1階のブルワリーは取材時は工事中。コロナ禍のため海外から設備の到着が遅れ、当初の予定より遅い4月の醸造開始を見込む。早ければ5月にオリジナルのビールが楽しめる

「Mallika Brewing -毬花麦酒-」

開業に先立ち、大記さんは岐阜県の「カマドブリュワリー」のレジェンド醸造家のもとでビール造りを修業した

観光客がにぎわう善光寺門前でのオープンを希望し、出合ったのは同じく大門町の「武井工芸店」の倉庫だった建物。同店のオーナーが「昔は多くの店があったこの路地を盛り上げてほしい」との思いで快く貸してくれたそうです。

4月からはじまる醸造では「スタンダードなものとは一線を画すビールを造りたい」と大記さん。果物をたっぷり使ったフルーツIPAやホップを大量に投入して苦味を効かせたビール、酸味の強いサワー系など、個性が強い一風変わった味わいのビール造りをめざします。なかでもこだわりは、旅先のベトナムで飲んで気に入ったジャスミンを使ったビール。「毬花(マリカ)」とはジャスミンやホップを意味しますが、生粋のビール好きが造るジャスミンのビールは、きっと「Mallika Brewing」の代表格になることでしょう。

奇しくも、長野市内では同時期に3つのマイクロブルワリーが誕生。最近は全国的にブルワリーが急増していますが、なかでも長野県は実力派が多いことから「それぞれの個性を生かし、みんなで一緒に県内のクラフトビールを盛り上げていけたら」と春菜さんは話します。国内外での豊かな経験や、世界から長野へと拠点を移した軽いフットワーク、前向きなチャレンジ精神から生み出される「Mallika Brewing」のクラフトビールに期待が高まります。

「Mallika Brewing -毬花麦酒-」

表参道からガラッと雰囲気が変わる大門町の路地にある「Mallika Brewing」。今後はウッドデッキも設置し、テラス席でも飲食が楽しめるようになるという

「Mallika Brewing -毬花麦酒-」

カウンター席とテーブル席がある2階のカフェスペース。向かいに建物がないため、窓から門前の街並みを見渡せる

「Mallika Brewing -毬花麦酒-」

「ビールと相性がよいコーヒーにも力を入れています」と春菜さん。ゲイシャコーヒー(1200円)など希少な豆も揃える

「Mallika Brewing -毬花麦酒-」

醸造するビールは定番をつくらず、季節やロットごとに味わいを変えていく予定。現在は全国のさまざまなブルワリーのクラフトビールを提供しているが、自家醸造後も継続して提供する。常時8種類をオンタップ予定

「Mallika Brewing -毬花麦酒-」

料理はビールに合う燻製料理をメインに、外国人観光客も多い土地柄、ヴィーガン仕様のスパイスカレー(800円)やトーストも提供。旅行中に滞在していたイスラム圏のハラールフードなど、海外の経験が生きている

「Mallika Brewing -毬花麦酒-」

日本国内だけでなく、人気のアメリカ西海岸を中心に世界の輸入クラフトビールも楽しめる

〈Mallika Brewing [マリカブルーイング]〉
長野県長野市大門町72−5 TEL 026-217-2585。14時~21時。水曜休。
https://www.instagram.com/mallikabrewing/
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元ビニール工場内に広がる迷宮「遊歴書房」の本棚の世界(東町)

大門町の東側にある東町は、かつては問屋街として発展し、今も往時の名残を感じる建物が点在しています。そのひとつが、元ビニール工場の建物をリノベーションした「KANEMATSU(カネマツ)」。シェアオフィス兼店舗として活用されており、入口に位置する自家焙煎コーヒーの「C.H.P COFFEE」を抜けた先、広いイベントスペース一角の扉を開けると、天井まである本棚が壁一面を覆い尽くす、本に囲まれた異空間が広がります。

「遊歴書房」のコンセプトは「歴史を旅する古本屋」。本棚のブロックごとに、国や地域、文化などのテーマがカテゴライズされ、店主の宮島悠太さんが得意とする人文書から小説、エッセイ、美術、絵本、漫画などなど、そのエリアにまつわる幅広いジャンルの本がギュッと詰まっています。

遊歴書房

2009年にリノベーションしてオープンした「KANEMATSU」。年代の異なる3つの蔵が鉄骨や木造の平屋でつながれており、550平米もの広さを誇る

遊歴書房

「遊歴書房」が隣接する「KANEMATSU」内のイベントスペース

遊歴書房

「遊歴書房」は2011年に開店した。「世界を遊歴して、歴史と遊ぶ」という思いが店名の由来

遊歴書房

四方を本に囲まれた、エンターテイメント性も感じる空間づくり。壁一面の本棚が迫ってくるような迫力がある

遊歴書房

手の届きやすい範囲には一般的に好まれやすい文芸書や児童書を陳列。脚立などを使って取る天井に近いエリアには、専門性が高いものや通販用にWebサイトに掲載している本を配置している

若い頃に世界各地を旅し、大学で歴史学を学んだあと、大型書店で働いた宮島さん。その経験に基づく本棚のつくり方は見る者の知的好奇心をくすぐり、時間が経つのを忘れてしまうほど。「とにかく来てもらえたら面白いと思ってもらえるよう、歴史を感じられる本ならどんなものでも揃えています。自分の感性とは異なっても、誰かの心に響くものがあれば」と話します。幅広いジャンルの陳列によりさまざまな地域の歴史や文化に触れることができ、思わず旅に出たくなるような気持ちも駆られます。

書籍以外にわずかながらCDや雑貨もあり、店の外まで本が置かれていたりと、多種多様な品揃えが見られるのは、家一軒を収納庫として使っているほど豊富な在庫があるからこそ。また、1冊1冊を丁寧に査定し、書き込みなど本の状態が悪いものは手書きのスリップに書かれているのも「遊歴書房」の特徴。安心して本を選ぶことができます。

遊歴書房

「古書はお宝探しのような面白さがある」と宮島さん。国や地域が同じであれば異なるジャンルの書籍も並列に陳列されているところに、普段は読まないような本でも思わず手に取りたくなるような工夫を感じる

遊歴書房

7,000冊ほどが並び、地元の人から観光客まで、幅広い世代が来店。専門性の高い書籍を中心にインターネット通販も人気だそう

遊歴書房

トタン張りの天井に備え付けられた大きなライトも、なんだか地球儀のように見えてくる独特の世界観が広がる

なお、東町にはこの「KANEMATSU」のほかにも、新小路という細い通りに位置する元・文房具卸会社の4つの倉庫群をリノベーションして、カフェやショップ、シェアオフィス、シェアアトリエ、共同型住宅として活用する「SHINKOJI SHARE SPACE」があり、まち歩きの楽しみを広げてくれます。

「SHINKOJI SHARE SPACE」
「新小路」と呼ばれる細道の両側に広がる「SHINKOJI SHARE SPACE」。北棟1階には「新小路カフェ」があり、南棟1階には花屋「flumina・flumira (フルーミナ・フルーミラ)」が入居している

〈遊歴書房〉
長野県長野市東町207-1 KANEMATSU TEL 026-217-5559。11時~19時。月・火曜休。
http://www.yureki-shobo.com/
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国産素材と季節感を大切にする「和菓子 豆暦」(西町)

東町があれば、西町もあります。「和菓子 豆暦」は、かつて西町で愛された「成金まんじゅう」の建物をリノベーションした、女性和菓子職人の小山紗地穂さんが営む小さな和菓子屋。店先に並ぶ生菓子や和菓子は長野の身近な自然や季節を表し、小山さんが和菓子の専門学校時代に学んだ関東風と、修業をした名古屋や京都の関西風が混ざりあった独自の品揃えです。タイミングが合えば、かつて「成金まんじゅう」のおばあさんが饅頭を焼いていた店頭で、今は小山さんが定番のどら焼き(145円)を焼いている姿を眺めることができます。

和菓子 豆暦

元「成金まんじゅう」だった建物。修業先の京都から帰省して両親と散歩をしていた際、空き家になっていた店舗を覗いたところ隣人に話しかけられ、図らずもトントン拍子で店舗を借りられることになって独立を決めたという。2013年オープン

和菓子 豆暦

窓越しに眺める、どらやきの皮を焼く様子。具材の自家製餡は甘さ控えめで、日々の気温や湿度に応じて仕込み加減を変えている

和菓子 豆暦

季節感や生まれ育った長野市戸隠の手つかずの自然をモチーフにつくる上生菓子。餡は国産小豆の味わいを感じられるよう、上質な砂糖を使ってくどい甘さがない仕上がりに

和菓子 豆暦

「豆暦」の店名の由来は「季節を感じる小豆の和菓子で暦を表現する」との思いから。同じ通りには、長野市のゲストハウスの先駆けである「1166バックパッカーズ」もある

素材はできる限り国産、長野県産のものを。どら焼きは県産小麦粉を使い、はちみつもりんごの花からつくられた県内の養蜂家のものを使用。ほかに、くるみ羊羹などに使用するクルミも県産です。

和菓子というと年配が好むイメージですが、客層は意外にも小山さんと同世代の30~40代が多く、男性ひとり客も少なくないのだとか。「和菓子屋にあまり来たことなかったという人もいて、『和菓子ってこんなにおいしかったんだ』と言ってもらえることがうれしいですね。一番幸せを感じるのは、仕事帰りに『自分へのご褒美』として1~2個だけ買ってもらえるとき。和菓子はどうしても贈答などかしこまったイメージがありますが、気軽に食べてもらえたら」と小山さん。そう話す間にも、次々と和菓子を求める老若男女が訪れます。

どれもこれも丁寧な仕事ぶりを感じる和菓子のなかでも、個人的一押しは夏季以外の土・日・月曜につくられるわらび餅(248円)。貴重な国産わらび粉を使い、やさしいこしあんの甘さと相まったとろける食感で、ぜひ一度味わってほしい一品です。

和菓子 豆暦

美しい彩りや上品な甘さの和菓子は手土産にもぴったり。和菓子業界では数少ない女性職人ならではのやさしい雰囲気も感じる。「量産の甘い和菓子とは違うおいしさを知ってもらえたらうれしい」と小山さん

和菓子 豆暦

どら焼きの焼印でも季節感や気分を表現。写真の「ありがとう」の焼印は贈答用で、予約でつくることも多い

和菓子 豆暦

出かけるたびに購入して数が増え、小山さんの趣味にもなっている焼印のコレクション

和菓子 豆暦

仕込みをする厨房。餡を炊いているときは屋外まで香りが漂い、「小豆を煮ているんだね」と来店客から話しかけられることも。その距離感の近さも「和菓子 豆暦」の魅力

〈和菓子 豆暦〉
長野県長野市西町1042-2 TEL 026-219-2629。9時~17時。火・水曜休。
https://www.facebook.com/mamekoyomi
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日々を楽しくするヒントが詰まった「Roger」のセレクト雑貨(上西之門町)

西町の北側にある西之門町は、善光寺仁王門の西側に位置します。善光寺門前の空き家リノベブームの草分け的存在である編集・企画室の「ナノグラフィカ」は、界隈では広く知られる存在。毎月、空き家見学会を開催しており、その数は100回を超えました。

その「ナノグラフィカ」から徒歩数十秒、上西之門町にある雑貨屋「Roger(ロジェ)」の安達紘子さんも、この空き家見学会で物件を見つけたひとりです。元焼肉屋だった店舗は年を追うごとに面積を拡大し、今やオープン当初の倍以上の大きさに。そんな広い空間に所狭しと並ぶのは、暮らしを楽しむ日用品や文房具、衣料など。生活になじみながらもシンプルすぎず、どこか遊び心を感じるものばかりで、眺めているだけでワクワクします。

「Roger」

善光寺仁王門のすぐ近くに位置し、元焼肉屋の店舗から、さらに隣のクリーニング店の店舗も借り、少しずつ拡大してきた

「Roger」

古い建物の雰囲気と調和する味わい深い雑貨たち。「派手なものが好きではないのですが、ちょっと可愛らしさがあるような、生活に溶け込むものを集めています」と安達さん

「Roger」

雑貨で世界や日本を旅するイメージ。子育てをしながらの営業のため、せわしない長野駅前ではなく善光寺門前で開業。善光寺の営業時間に合わせ、16時に閉店する

「Roger」

布小物やファッションアイテムも揃い、学生から年配の常連客まで幅広い客層に支持されている

メインはヨーロッパを中心とした輸入雑貨。安達さんは学生時代に美術を学び、フランスでの留学を経て、帰国後は都内の雑貨屋で働きました。その経験を生かし、子育てがやや落ち着いた2012年に地元の長野市で念願の独立開業。夫の浩平さんとはフランスで出会ったそうで、当時、浩平さんが暮らしていた下宿先のオーナー・Rogerおじさんが店名の由来です。人を喜ばせることが大好きで、DIYも得意だったRogerおじさんのように、暮らしを上手に楽しむアイテムを提供したい。そんな思いが込められています。
ちなみに浩平さんは、先に紹介した「SHINKOJI SHARE SPACE」でケータリング専門店「ロジェ・ア・ターブル」を経営。Roger2階のレンタルスペースで催しが開催されるときは、「ロジェ・ア・ターブル」のケータリングが活躍したりと、ゆるやかにリンクしています。

国内のアイテムも揃い、マスキングテープやレターセットなどの文房具は可愛らしいデザイナーズ商品も。「自分で好きな雑貨を揃えられる仕事は楽しく、いつまでも飽きません」と話す“雑貨LOVE”の思いが、心くすぐるセレクトにつながっています。

「Roger」

安達さん一押しは北欧やフランスのヴィンテージの食器や雑貨。これまでも家族でフランスに直接買付に行くことはあったが、子どもたちが大きくなった今「新型コロナウイルスが収束したら年に一回は仕入れに行きたい」と話す

「Roger」

独自の視点でセレクトしたアイテムは、どこかクスッと笑えるような個性が感じられる

「Roger」

文房具は若者に好評。りんごなど長野らしいモチーフを使ったRogerオリジナルグッズもある。ニッチな商品ながらデザイン性の高いご祝儀袋の品揃えが豊富なのは、常連客のリクエストに応えて増やしていったからだそう。地域の暮らしに根付いたラインアップを心がけている

〈Roger〉
長野県長野市上西之門町604-1 TEL 026-217-7929。10時~16時。不定休。
https://roger-nagano.com/roger/
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ジャズの音色とともに楽しむ「平野珈琲」の自家焙煎コーヒー(立町)

西之門町の西側、立町は細い小道が走る小さな町。その路地裏に隠れ家のように佇むのが、自家焙煎コーヒーを提供する「平野珈琲」です。ALTECのスピーカーから流れるジャズがよく似合うゆったりとした空間で、店主の平野 仁さんが店内一角の直火式焙煎機で毎日焙煎するコーヒーを提供しています。

学生時代からバックパッカー旅が好きで、50カ国を訪問した平野さん。会社員になり、転勤で訪れた北海道札幌市が気に入って移住すると、ゲストハウスやブックカフェを開きました。そして、焙煎機を製造する職人との出会いから、独学で自家焙煎に励むようになりました。
結婚を機に移り住んだ長野市でもカフェを開き、自家焙煎コーヒーを追求。今は世界各地の農園からスペシャルティコーヒーを仕入れるバイヤーを介して生豆を直接輸入し、豆の特性を見極めて最適な焙煎から香り高いコーヒーを生み出しています。求めているのは、毎日飲んでも飽きないデイリーな味わい。「コンテストで高評価のロットの味わいは特別でとても素晴らしいのですが、仕入れ値もとんでもなく高額です(笑)。仮に日常で飲み続けられる価格があるとしたら、そのなかでどれだけよい品質のコーヒーを選べるか。 “ブラジルらしさ”、“ホンジュラスらしさ”など、その国のコーヒーが持つ伝統的な雰囲気を感じられる銘柄や、ブレンドで活躍するマイルドな銘柄など、数ある選択肢のなかから自信を持って提供できるものを選んでいます」。

平野珈琲

大正期に建てられた2階建ての古民家を改修。立町の細い路地の、さらに奥まった場所に位置する

平野珈琲

フジローヤル直火式の焙煎機が置かれた1階ではコーヒー豆と手づくりの焼菓子を販売。もともとコーヒーは「文化も含めて好き」だったものの、“好きこそものの上手なれ”。よりおいしいコーヒーの提供を考えるなかで、自然と自家焙煎に行き着いたという

平野珈琲

収穫されたばかりのニュークロップのコーヒー豆を中心に、豆が持つ香りや味わいの特性を焙煎で無駄なく引き出すことを考えている

平野珈琲

2階は6テーブル15席ほどの喫茶スペース。お茶の時間には混み合うこともしばしばだが、互いが気にならないほどよい距離感が保たれ、ソファ席もある

平野珈琲

2階に設置された、ジャズ・オーディオの一大メーカーであるALTECのスピーカー。静かに流れるジャズが心地よい

コーヒー豆のラインアップは、常時シングルオリジン13~14種類、ブレンド4~5種類。同じブラジル産の豆でも、違う農園のものを、深煎り、中深煎り、浅煎りと、豆の特徴に合わせて焙煎し、メニューは月替わり。「めざす味に向く銘柄を探し、いろいろな焙煎方法も試してみる。コーヒーを焙煎する人は、みんなそれが楽しくて続けているんですよね」。

以前はネルドリップで提供していましたが、現在はペーパードリップに。「ネルの味わいは好きですが、手間がかかる分、自宅ではなかなか再現できない特別な一杯になってしまう。それはそれでよいものの、自店では日常のコーヒーをイメージしてもらうために、家で使いやすいペーパードリップでの提供にしました」。
提供している器は札幌市の陶芸家・杉田真紀さんのもので、最近はコーヒードリッパーも杉田さん特製の陶製に。自分のお気に入りのアイテムを増やすこともまた、平野さんなりのコーヒーとの向き合い方なのでしょう。

平野珈琲

杉田真紀さんの器で提供されるコーヒーと焼き菓子。フードはほかにケーキやパンもあり、全て店内で手づくり。原材料にこだわり、コーヒーとの相性を考えた素朴なおいしさを追求

平野珈琲

「家庭ではあまり特別なことをせず、なるべく簡単にコーヒーをおいしく飲めるよう考えています」と平野さん。プラスチック製のコーヒードリッパーのほか、最近は杉田真紀さん作の陶製ドリッパーも使用。ドリッパー内の抽出温度が安定し、ゆっくり抽出されることでしっかりした味わいになるという

〈平野珈琲〉
長野県長野市立町981 TEL 050-3699-7897。10時~16時30分LO。日・月曜休。
https://hiranocoffee.official.ec/
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自家製天然酵母パンの味わい深さを楽しむ「pinatis」(花咲町)

花咲町もまた善光寺西側に広がる町で、閑静な住宅街です。車1台がやっと通るほどの小道に、これまた隠れ家のように佇む「pinatis(ピナティ)」。身近な里山で採れる季節の果物や自家栽培無農薬小麦から起こした酵母の力を生かし、じっくりと発酵させた自家製天然酵母と国産素材のハード系パンをつくっています。

東京から家族で移住し、以前は長野市の隣、りんごの名産地でもある飯綱町で暮らしていた店主の厚海友美さん。近隣農家からたくさんのりんごや果物をもらえる環境のなか、植物に付着する野生の酵母菌で天然酵母を起こすようになり、“生き物”である酵母菌の培養の複雑な面白さに魅了されたといいます。この天然酵母を生かすならパンをつくらない手はない、ということではじめたパンづくり。当初は家族で食べることが中心だったこともあって、体にいい国産小麦と無添加の素材にこだわりました。次第にパンづくりの楽しさも覚え、店舗を持たない出張出店型のパン屋を開業。ご近所のリクエストに応えていくうちに、種類が増えていったといいます。

pinatis

古い長屋をリノベーションした小さなベーカリー。イラストレーター・ヤナギダマサミさんのユニークなイラストが描かれた看板も目印

pinatis

店舗の奥に厨房が広がる店内。「自然由来の香りと味わいがして、ごはん代わりになる安心して食べられる栄養あるパンづくりを心がけています」と厚海さん

pinatis

国産、県産素材にこだわり、どのパンにも全粒粉やライ麦粉を配合。ナッツ類はできる限り無添加で体にやさしいものを使用

パートナーの仕事の関係で長野市に拠点を移すタイミングで実店舗をオープン。「ボロボロなところが気に入った」という長屋の古民家は裏庭があり、飯綱町のように自然環境が近いところも決め手でした。「天候や季節に左右されて培養が難しいといわれる天然酵母で失敗したことがないのは、飯綱町の空気中にりんご由来の酵母菌がいたからかもしれません。だから、なるべく自然が近くにある場所がいいと思っていました」。

さらに、気軽に果物が手に入る環境だからこそ、常にフレッシュな酵母を起こすことができることから、酸っぱいイメージが伴う天然酵母パンも癖のある味わいになりません。酵母に使う果物は季節によって変わり「パンの風味が使う果物に左右されるのも面白い」と厚海さん。独特の甘みや旨みを楽しめるパンづくりに努めています。
ちなみに気になる店名は、息子のニックネーム「ぴなた」からの造語。そんな店名からもオリジナリティが感じられます。

pinatis

パンの販売スペースの隣にはアパレル商品も。「pinatis」のオリジナルグッズも揃う

pinatis

天然酵母の培養には温度や湿度管理などが必要で、発酵する力も弱いものの、素材由来の甘みや風味、深い旨みが感じられる。あんバタ(400円)やメロンパン(250円)などの菓子パンも並ぶ

pinatis

店内に飾られた絵もまたやさしくユーモアあふれる雰囲気

〈pinatis〉
長野県長野市花咲町811-1 TEL 026-405-4769。9時30分~17時(売切次第終了)。日~水曜休。
http://pinatis.com/
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古本・喫茶・トンカツが時間ごとに楽しめる「大福屋/成満堂」(岩石町)

さらに隠れ家感のあるお店といえば、元下宿屋と魚屋がひとつになった不思議な建物の古本屋・喫茶店「大福屋」とトンカツ屋「成満堂」もあります。1階が「大福屋」の古本スペースで、2階の喫茶スペースが昼は「成満堂」になるというユニークなシステム。東町の東側、岩石町の迷路のような裏道にありながら、このふたつの店を求めて遠方からも多くの人が足を運んでいます。

大福屋/成満堂

善光寺門前の路地裏、2棟の古民家がひとつにつながった不思議な建物で、偶然通りかかることはありえないような脇道にある。ご近所の染物屋・小玉屋でつくった手染めののれんと風情ある自転車が目印

大福屋/成満堂

店内に入ると、すぐに「大福屋」の古本スペースが広がる。右手につづく階段を上がった2階が喫茶スペース

大福屋/成満堂

靴を脱いで室内へ。2階へ上がる階段は、石積みの壁面にかつて別々だった2棟をつないだ痕跡が見られる

大福屋/成満堂

下宿を営んでいた頃の食堂と和室を改修した2階の喫茶スペース。一枚板の重厚なテーブルは、大門町の「松葉屋家具店」の特製品。このほかにテーブル席やソファ席もある

「成満堂」の高野啓司さんが揚げるトンカツは、味わいもビジュアルも唯一無二。5cmもの厚みを誇るインパクト大の厚切りロースカツは、食べた瞬間に「これはトンカツなのか・・?」と思わずにはいられない、トンカツの概念を覆すようなジューシーな柔らかさ、上品なしっとり感、あっさりとしながらも肉々しい弾力。異次元の味わいが口の中に広がります。調理法は、なんと67℃の揚げ油で3時間! 油の温度が70℃を越えるとタンパク質が破壊されて旨みがなくなってしまうそうで、肉のボリュームと温度、時間に細心の注意を払い、低温でじっくり揚げることでおいしさを存分に引き出しています。
 
長時間調理と限られた席数の争奪戦により、予約をして訪れる客が大半。客層はほぼ女性客で、若者だけでなく年配の女性も少なくありません。一番人気はヒレ肉を使った定食ですが、ロースとヒレのいいとこどりの「5cm厚ロースかつとヒレかつセット(4,500円/要予約)」も人気が高く、2人前ながらひとりでたいらげてしまう女性もいるのだとか。おもてなしの心遣いを感じる接客も心地よく、昔懐かしい空間のくつろぎとともに満足感に包まれます。

成満堂

「5cm厚ロースかつとヒレかつセット」のロースかつ。味噌と山椒を効かせた特製ソースか岩塩で味わい、素材の味を損なわないようカラシは使わない。写真は「信州SPF豚」だが、脂の旨みが凝縮した「千代幻豚」に変更するセットはサーロイン5,000円、リブ5,500円

成満堂

客の目の前でカットする高野さんのパフォーマンスにもサービス精神を感じる。パン粉は油を吸収する生パン粉ではなく、乾燥パン粉を表面に薄くつけるのも特徴

成満堂

人気のヒレかつ。肉のきめが細かくあっさりした味わいの「信州SPF豚」のほか、野性味のある食感と甘く歯ごたえのある脂身が特徴の「安曇野放牧豚」のヒレかつもある(要予約)。肉本来の旨みを生かすため、どのカツも塩胡椒は不使用

成満堂

こちらは予約不要の「信州SPF豚」のロースかつ定食(1500円)。予約不要とはいえ1時間近くかけて調理をするため、待ち時間なく味わうなら予約がおすすめ

成満堂

予約は1カ月先まで受け付けており、すでにかなりの数が入っているほどの人気。女性客がほとんどで、男性客をひとりも見ない日もあるのだとか

一方、「大福屋」で提供するのは、コーヒー(400円~)などのドリンクと、土日のモーニングは開店当初からの定番メニューであるオブセ牛乳を使ったうどん「ぎゅうにゅうどん(450円)」などの軽食。1階の古本スペースは本を売りたい人に棚を貸し出す「貸し棚」システムで、多彩な出店者による幅広いジャンルの本に出合えます。漂う自由な雰囲気は「大福屋」の店主・望月ひとみさんのおおらかな人柄にも通じます。
 
高校時代は善光寺が通学路だったという望月さん。大学進学を機に地元の長野市を離れ、紆余曲折を経て2015年にUターンしたのを機に、念願の門前暮らしをしようと「空き家見学会」に参加しました。そして、築100年ほどのこの物件にひと目惚れし、建物を生かすべく、大好きな古本と喫茶店の開業を決めてリノベーションをはじめました。
 
その頃、偶然再会したのが、元職場の仲間で早期退職したばかりだった高野さんです。改修を手伝ってもらい、その後、高野さんは四国遍路の旅へ。無事、旅を終えて長野に戻る前、縁あって都内にあるトンカツの名店で揚げ方を教わり、その技を「大福屋」で披露。すると評判が評判を呼び、「成満堂」を開くことになったといいます。
実はトンカツの油っぽさが苦手だったという高野さん。だからこそ、試行錯誤の末、幾度もの進化を遂げた製法はオリジナリティにあふれています。「成満堂」の営業中は、望月さんも「成満堂」の店員に。絶妙なバランスで成り立つ「大福屋」と「成満堂」は、時間によってさまざまな楽しみ方ができます。

大福屋

2016年にオープンした「大福屋」の古本スペースでは古本市などのイベントも開催。「貸し棚」スタイルの店内には、全国の本好きがセレクトしたさまざまなジャンルの本が揃うのがユニーク

大福屋

「オブセ牛乳(200円)」は長野市の隣、小布施町でつくられる濃厚な味わいの牛乳で「このおいしさを広めたい」と開店当初から販売している。イラストが可愛いオリジナルキャラクターのマグカップやピンバッジなどのグッズも揃う

大福屋

「大福屋」に至るまでの路地にある土日限定オープンの布小物屋「みちくさ研究所」も、実は複雑に入り組んだ同じ建物で、元魚屋だったころのスペース。増築と改装を重ねて今のかたちに至る、昔ながらの門前町の建築の面白さも感じられる

〈大福屋〉
長野県長野市岩石町222-1 TEL 080-4915-2763。土・日曜7時30分~16時、月・火曜11時~19時(喫茶営業は土・日曜7時30分~9時30分LOのみ)。水~金曜休。
https://twitter.com/dai298_monzen
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〈成満堂〉
長野県長野市岩石町222-1 TEL 026-235-5477(営業日の10時~15時対応)。11時~13時30分LO。水・木曜休。
https://twitter.com/hirekabu0141
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幼なじみが営む和食カフェ「Polka dot cafe」と古着屋「COMMA」(権堂町)

ふたりでひとつの建物を共有し、絶妙なバランスで成り立っている店としては、権堂町にある和食カフェ「Polka dot cafe(ポルカ・ドット・カフェ)」と古着屋「COMMA」も外せません。長野市松代町出身の両店の店主は幼少期からの幼なじみで、それぞれ都内で料理とアパレルの経験を積み、“故郷に錦”の思いで帰郷した、いわば盟友です。タイプも雰囲気も異なるふたりですが、お互いに自分の店を持ちたいという夢で意気投合し、2018年に開業しました。

もともと料理が好きだった「Polka dot cafe」の山田大輔さん。大学進学を機に上京し、卒業後は和食や定食屋を中心に飲食の世界で働きました。そして、値段が手頃な定食屋であれば幅広い客層に足を運んでもらえると考え、故郷で定食が食べられるカフェの開業を考えるようになったと言います。
「COMMA」の駒込憲秀さんもまた、根っからの古着好き。高校時代は長野市内の古着屋に足繁く通い、服飾の専門学校進学のために上京。卒業後はアパレル分野で働き、古着好きを再認識したそうです。

帰郷後、開業に向けて先に動き出したのは山田さん。すでにリノベ集積地として全国的に評判になっていたうえに長野駅前よりも家賃相場が安い善光寺門前で店を開こうと、古着屋開店の夢を持っていた駒込さんを誘って物件探しをはじめました。一方、駒込さんは帰郷後に長野市内の古着屋などで働いていたものの、独立はまだ先の話だと考えていたとか。しかし、山田さんに背中を押され、開業が現実的になったと言います。そして、上下階で店の形態が分けられる2階建ての建物を求め、たどり着いたのがこの物件でした。

開業してちょうど4年が経った今はお互いにスタイルが確立され、干渉し合うことなく、ゆるやかなパートナーシップを築いています。

和食カフェ「Polka dot cafe」と古着屋「COMMA」

元そば屋だったという2階建ての建物。「ふたりで開業しようと思ったのは、家賃が折半でき、集客力も2倍になるから」と山田さん

和食カフェ「Polka dot cafe」と古着屋「COMMA」

かつて道路拡張のために曳家をされた建物は、横から見ると建物が半分に切られたように減築されているのも面白い

1階の「Polka dot cafe」で提供するのは、3種類からメイン料理が選べる日替わり定食(1,000円)と、2カ月ごとにメイン料理が変わる季節の定食(1,700円)。いずれも4種類の小鉢がつき、ごはんはおかわり自由とボリューム満点。栄養バランスも考えられています。
「カジュアルな内装の定食屋で、お腹いっぱい食べられる健康志向の店がいいと思っていました。もともと小鉢がたくさんある定食が好きなんですが、女性がガッツリ食べても罪悪感がなく、男性でも満足感があるように考えています。誰でも食べやすい味わいながらも、家でつくるよりも2ランクほど上の料理を提供できたら」と山田さん。なお、リーズナブルな価格設定には「お札1枚で食べられる定食屋に気軽に来てもらえることで、若い人の和食の入口になったら」との思いも込められています。

さらに「Polka dot cafe」が若者の心をつかんで話さないのが、名物のかき氷。季節のフルーツや地物の素材を使ったカラフルなビジュアルに加え、2種類のトッピングを組み合わせたセパレート方式で、遠方から求めて訪れる人も少なくありません。
「ボリュームがあるので食べ飽きないように、また、ふたつの味わいで楽しみを増やしたいと思ってつくりました。両方が溶け合っても最後までおいしく食べられるように考えています」と山田さん。とにかく“お得感”を大切に、いかに喜んでもらえるかを考えたメニュー構成が魅力です。

Polka dot cafe

「塩鶏のゆずこしょう焼き」の日替わり定食。小鉢はくず寄せ豆腐や豆とひき肉の卵焼きなど。サラダとつけものも付いて1,000円

Polka dot cafe

オープンキッチンの黒板のイラストが目を引くカラフルな店内。カウンターには酒瓶も並ぶが、山田さん自身は下戸なのだとか。図らずも豊富な小鉢メニューがお酒好きにはアテとしてもヒットしたそうで、夜は小鉢をつまみにアルコールを楽しむ人の姿も見られる

Polka dot cafe

人気のかき氷は冬でも提供しているが、春から秋はメニュー数が増える。写真は焼き芋ココナッツミルク(1,000円)

Polka dot cafe

カフェの店内の奥にある階段を上って2階の「COMMA」へとアクセスする

2階の「COMMA」は独特のラインアップ。アメリカ・フランス・イギリスのアイテムを中心に、駒込さんが自ら開拓した現地のディーラーを介してインポート古着を仕入れ、昨年からはヴィンテージのカテゴリーにも力を入れています。「年代物や市場に出回らない珍しいものは高額になり、なかなかコアで響かない部分もありますが、県内のみならず県外の方からの問い合わせが割とあるんです」と駒込さん。開店当初は手に取りやすい価格帯の古着がメインでしたが、次第に自分が好きなヴィンテージ古着を特化させていきました。「ヴィンテージが専門学生の頃から好きで、生地やボタン、デザイン、ステッチ幅など細かいディテールから国や年代がわかったりするのですが、長野市で店を営むうえで、それが自分の強みだと思っています。勉強したという感覚ではなく、好きで自然と知識が身についた感じです」。

なかには、100年以上前のアンティークも。1900年前後の畜産用のインディゴ染めのコート、卵白と動物性脂で何十回も叩いてコーティングしたリネンのワークスモック、1920年代のフランスの囚人服など、少し説明を聞くだけでもユニークなものばかり。「囚人服などは通常、捨てられてしまうものですが、それが現代に残っているのが面白い。だから、珍しいものを見つけると『売れる』というより『お客さんに知ってほしい、見てほしい』という感覚で仕入れちゃうんです。もう二度と見られないかもしれない100年以上前のアメリカ、ヨーロッパの古着が長野にあるのがまた面白いと思っています」。

なお、今は古着屋ブームに加えてコロナ禍で一点ものの価値が見直されていることもあり、長野県内でも古着屋が増えていますが、「古着は需要の波が大きいので、いずれブームが落ち着くときは来ます」と駒込さん。それでも「古着が好きなかたは自分を含め一定数いるので、流行に左右されないアイテムを取り扱っていきたい」と話す姿からは、古着が好きという絶対的な信念からくる揺るぎない誇りが感じられます。

COMMA

「整然としたきれいな古着屋も多いが、ごちゃごちゃしているのが好き」と駒込さん。客層は高校生から60代まで幅広く、遠方から毎月訪れる常連客も。アイテムは9割以上がメンズだが、客層の男女比は7:3で、オーバーサイズの古着を楽しむ女性もいる

COMMA

「今はコアな古着も多く、全員に響くようなラインアップではない分、本当に来たいと思う人が来てくれるのがうれしいし、楽しいです」と駒込さん。実際、1階のカフェ空間を抜けないとたどり着けない店構えながら、来店客は躊躇なく2階に足を運んでいる

COMMA

レジ周りや壁面に掲げられているのが、ヴィンテージやアンティークの古着。見たことがないデザインや手触わりのものも多く、説明を聞くだけでも興味をそそられる

COMMA

仕入れのノウハウはかつて働いた古着店で得たかと思いきや、古着業界の仕入れはアンタッチャブルな部分が多く、他店や同業者に仕入先を明かさないのが暗黙のルールだそう。駒込さんは開拓したディーラー経由で仕入れており、コロナが落ち着いたら海外買い付けも積極的に行うという

COMMA

若い女性客が多い「Polka dot cafe」と客層がかぶらない分、お互いに新たなタイプの集客ができ、相乗効果が見られるという

そんな「COMMA」と「Polka dot cafe」がある権堂町は、善光寺の南側に広がる県内屈指の歓楽街で、江戸時代には善光寺参りの精進落としの花街として栄えた歴史があります。今も“夜の街”としての顔を持つ一方、メインストリートの権堂アーケードは商店街として市民に親しまれており、「飲食」と「古着屋」というふたつの側面を持つこの店と通じる趣があります。

権堂町

県内初のアーケードとして昭和36(1961)年に完成した「権堂アーケード」。歩行者専用の通りで、喫茶店や八百屋、花屋などの商店と飲み屋が混在し、昼と夜の顔を見せる

権堂町

「権堂アーケード」の中間ほどには、明治25(1892)年建造の日本最古級の木造映画館「長野相生座・ロキシー」も。メジャーから単館系の作品まで幅広く上映

〈Polka dot cafe〉
長野県長野市鶴賀権堂町2390-1 TEL 026-225-9197(COMMAと共通)。11時30分~15時、18時~21時LO。水・木曜休。
https://www.instagram.com/polka.cafe2390/?hl=ja
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〈COMMA〉
長野県長野市鶴賀権堂町2390-1-2F TEL 026-225-9197(Polka dot cafeと共通)。12時~21時。水曜休。
https://www.instagram.com/comma.uvcs/?hl=ja
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路地裏の片隅で絶品イタリアンに舌鼓を打つ穴場感「ambrosia」(箱清水)

さて、にぎやかな善光寺の南側に比べ、北側の横沢町や箱清水にはのどかな住宅地が広がるなかに個性的な店が点在している面白さがあります。箱清水の「ambrosia(アンブロジア)」は、りんご農家の直売所だった土間空間をリノベーションしたイタリアン&パティスリー。「観光客はほぼ来ることがなく9割5歩以上が地元の方で、リピーターも少なくありません」と話すのは、シェフの永岡祐二さん。パティシエである妻の佳奈さんと営みます。

ランチもディナーもコースのみの完全予約制にしているのは、食材を余すことなく新鮮な状態で提供したいから。「大切にしているのは、そのときどきのいい素材をきちんと使うこと。野草や山菜、家族が手をかけて育てる野菜など、身近においしいものがたくさんあるので、それらを丁寧に使えたら」と祐二さんは話します。

ambrosia

元同僚でもある祐二さんと佳奈さん。2019年に「ambrosia」をオープン

ambrosia

オープンキッチンで調理をしながら客席に目が行き届く全8席というサイズ感。できあがった料理はカウンター越しにすぐに客席に届けられる

ambrosia

客席からはオープンキッチンで祐二さんが手際よく作業をする臨場感や、調理中の香り、音などが楽しめる

ambrosia

伝統のイタリア料理をベースに独自のエッセンスを効かせたコース料理(ランチ4,500円、ディナー7,500円)。セリやたんぽぽといった野草、ふきのとうなどの山菜は、長野市の隣、小川村の農家から仕入れている

神奈川県横浜市出身の祐二さん。23歳まで地元でパティシエとして働き、縁あって大門町のレストラン&結婚式場「THE FUJIYA GOHONJIN」に就職しました。パティシエとして応募したはずが、図らずも料理人として採用されたことでイタリアンの道に。「もともと製菓よりも表現の自由度が高い料理のほうが自分に合っていると感じていたので、すんなりとイタリアンに進めました」と話します。

4年間働いた後、一度は帰郷し料理を離れるも、東日本大震災後、イタリアで修業をしていた「THE FUJIYA GOHONJIN」時代の先輩の誘いを受けて渡伊。イタリアンの世界に返り咲きました。1年ほど過ごしたイタリアで決意したのが、将来の独立です。「技術も知識も経験も積んで、最終的に自分の表現ができる店舗を持つことが料理人として必要なことだと思ったんです」。

帰国後は再び「THE FUJIYA GOHONJIN」で8年ほど働いたあと、開業に向けて退職。「繁華街ではなく落ち着いた場所で、既存の建物に手を入れて使いたい」と、この場所を選びました。ちなみに前職と同じ善光寺門前での独立でしたが、同店の社長からは「『ambrosia』が人気になることで『THE FUJIYA GOHONJIN』の評判が高まれば」と、背中を押してもらったそう。社長とは釣りという共通の趣味を持つ釣り仲間で、祐二さんの釣果が「ambrosia」のメニューに並ぶこともあります。

なお、長野市はレベルの高いイタリアンが多い激戦区で、同門である「THE FUJIYA GOHONJIN」出身のシェフの店も席巻中。しかし、それぞれの店は決してライバルではなくお互いに行き来をするような仲のよさからは、古の時代から性別や宗派、階級を問わず全国の善男善女を受け入れてきた善光寺の懐の深さに通じるものも感じます。

ambrosia

店名の由来はギリシャ神話に登場する“神々”の食べ物を意味する言葉で、善光寺三鎮守のひとつである「湯福神社」の隣りという立地からヒントを得た

ambrosia

魚の仕入れは全国各地の鮮魚が選べるWebサービスを利用。作家ものの器がまた、料理の美しさを高めてくれる

ambrosia

「僕は料理が上手なタイプではなく、仕事として料理をするのが得意」と話す祐二さんだが、だからこそ仕事一筋でつくる料理は美しく、意外な食材の組み合わせや丁寧な仕込みから生まれる誠実な味わいにはハッと驚かされる

ambrosia

店内の一角では佳奈さんの焼き菓子を販売。見た目に手をかけずシンプルな分、素朴なおいしさを大切にしている。季節の果物のショートケーキやタルト、チーズケーキなどの生ケーキは予約で対応

〈ambrosia〉
長野県長野市箱清水2-5-8 TEL 026-217-7406。ランチ11時30分~14時30分、ディナー17時30分~21時。(いずれも前営業日の18時までに要予約、善光寺御開帳期間中の土・日曜、祝日のランチ営業は休業予定)。水・木曜、第1・3火曜休
https://www.ambrosia-nagano.com/
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箱清水には桜の名所としても知られる「城山公園」もあり、その一角には2021年にリニューアルした長野県立美術館が佇みます。周囲の自然と一体化した「ランドスケープ・ミュージアム」がコンセプトで、改築と合わせ、「城山公園」も生まれ変わりました。その北側に位置する「城山動物園」は入場無料の都市型動物園で、開業60周年を迎え、今なお市民に親しまれています。

思い思いの楽しみ方ができ、路地に迷い込んでもまた新たな楽しみが見つけられる善光寺門前。参拝だけではもったいない。小さな町に踏み込めば、きっと心の琴線に触れる発見があることでしょう。

長野県立美術館

芝生広場と噴水が整備された城山公園に隣接する「長野県立美術館」。県内唯一の県立美術館で、約3年間の休館を経て、前身の「長野県信濃美術館」から名称も装いも新たに生まれ変わった

長野県立美術館

誰でも気軽にアートが楽しめる無料ゾーンが多いのも「長野県立美術館」の特徴。併設の「東山魁夷館」とは連絡ブリッジでつながる

城山動物園

年中無休の城山動物園。人気のカリフォルニアアシカをはじめとするさまざまな動物が飼育されており、年間30万人が来園する

城山動物園

園内にはメリーゴーランドやモノレールなどの遊具も。売店のオリジナルグッズも人気

善光寺界隈裏道ガイド

マップのダウンロードはこちら

撮影:清水隆史、内山温那  取材・文:島田浩美

 

<著者プロフィール>
島田浩美(Hiromi Shimada〉
長野県飯綱町生まれ。信州大学卒業後、2年間の海外放浪生活を経て、長野市の出版社にて編集業とカフェ店長業を兼任。2011年、同僚デザイナーと独立し、同市内に編集兼デザイン事務所および「旅とアート」がテーマの書店「ch.books」をオープン。趣味は山登り、特技はトライアスロン。体力には自信あり。

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