• HOME
  • 心も体も整う『戸隠古流祭礼御膳』の薦め。戸隠の宿坊で食す江戸時代の“ハレの日”御膳で、至福のひとときを。

心も体も整う『戸隠古流祭礼御膳』の薦め。戸隠の宿坊で食す江戸時代の“ハレの日”御膳で、至福のひとときを。

善光寺から車で30分ほどの山間にある長野市・戸隠。豊かな自然と戸隠神社を中心に歴史的な町並みが広がります。宿坊が軒を連ねる宝光社・中社エリア。もともと、信仰心の厚い参詣者をもてなしていた宿坊ですが、現在は一般の観光客も宿泊できます。伝統的な佇まいはもちろんのこと、宿坊ならではの料理も魅力。中でも、江戸時代のおもてなし料理を再現した「戸隠古流祭礼御膳」は心も体も整う目にも美しい逸品です。御膳というと、特に若い人にはピンとこないかもしれません。かく言う三十路前の当方も、食にこだわりがなく添加物を多量摂取する毎日。この美しき「新しい精進料理」を口にすると、すとんと腑に落ちるものがありました。レトロだけど新しい。そんなカルチャーを、宿坊で体験してみませんか。

19950_ext_01_0_L

『戸隠古流祭礼御膳』とは?

 

『戸隠古流祭礼御膳』は、江戸時代末期の祭礼時に食べられていた精進料理の復興メニュー。旧戸隠村と長野市の合併直後に行われた誘客キャンペーンの一環で、2007年に誕生しました。江戸時代の古文書をもとに、日本料理人で長野県調理師会会長の湯本忠仁さんが監修し、確かなクオリティを担保した伝統の味として忠実に再現されています。

 

<戸隠古流祭礼御膳お品書き>*一部抜粋

 

 

宝光社を主体として各宿坊で味わうことができます(季節によって食材が変わったり宿ごとに若干メニューが異なります)。基本的には宿泊とのセットプランにて提供。宿泊予約時に祭礼御膳プランの指定が必要。昼食での利用は各施設によります。今回は『戸隠古流祭礼御膳』復興の中心を担った〈御宿小谷〉に取材しました。

 

古文書をもとにした『戸隠古流祭礼御膳』のお品書き

宝光社エリアにある宿坊〈御宿小谷〉

 

「深山の気と四季の恵みを膳に託した、戸隠伝統のおもてなし料理」

 

『戸隠古流祭礼御膳』は、コース形式で順番に出てきます。序盤から高級食材・イワタケが登場。ざらつきがあり歯ごたえもある一方、しなやかさもある不思議な食感です。添えられるきぎくや割り干し大根も含め酢で味付けされています。高坏(たかつき)に盛られた美しい寒天は、中にクルミとレンコンが入っていて、こちらも食感が楽しい一品。重引きの里芋の煮物はしょうゆベースの優しい味付け。巻き麩は、当時貴重だった小豆を載せて。やわらかい口当たりに甘味が相呼応して和やかな味わい。

しゃきしゃきとした里芋の茎ずいきは、からしを和えて締まった表情。〈御宿小谷〉の女将・小谷嘉子さんによると「江戸時代に戸隠で里芋は採れなかったはず。貴重なユズも使われていて、修行地として全国から人の往来があったので食材も集まってきたのでしょうね。ずいきは、新潟では出産後の体力回復のために食べる風習がかつてあったとお客さまに教わったんです。滋養強壮がよく考えられています」。各地から結集された味覚のぜいたくさに加え、食でからだをいやす豊かさが心地いい。

クルミとレンコンが入った寒天

ずいきのからし和え。やわらかなしゃきしゃき感とぴりっとした辛さが相性抜群

 

これぞ“戸隠流”。精進料理のイメージを覆す、驚きのお吸い物と茶わん蒸し。そば湯もひと味違います。

 

精進料理は、 仏教の戒律を守る修行僧の食事として、野菜や豆腐など植物性の食材のみで作った料理です。「味が薄い」といったイメージを抱く人も多いかもしれませんが、それを覆し、味わい深さと両立した、だしが要のお吸い物と茶わん蒸しは、まさに新・精進料理。お吸い物は、初めて味わったうま味で、昆布・干しシイタケに加えて秘伝のある食材でだしを取っているそう。これを引き立てるシメジ、湯葉の健康的で素朴な風味にミョウガのさわやかさがアクセントになっています。

茶わん蒸しは卵を使わず、長芋などで仕上げています。真ん中には栗、食べ進めるとシメジ、湯葉がお目見え。スプーンがスッと入るかたさでありながら独特な口当たりで、食べ応えがありつつも、しつこくなく温かさとほど良い甘さのだしがからだに染みわたります。味が濃いわけではありませんが「薄い」とも違う。だしの風味の豊かさに驚くばかりです。手打ちそばは、大根おろしでいただきます。好みでショウガやからし、クルミ、ユズを入れて。酸味や辛味、香ばしさの刺激が嬉しい。食後に味わうそばのゆで汁「そば湯」は、古文書には「御ゆで湯」として一品に数えられ、浅草のりを入れて頂戴します。

お吸い物

卵を一切使わずに作った茶わん蒸し

戸隠そばも“ハレの日”の味わい

 

トクベツな日の特別な料理で、心と体をいたわる時間を。

 

神仏分離以前の江戸時代、戸隠神社は戸隠山顕光寺(とがくしさんけんこうじ)という寺院でした。寺院を統括し、地域の総支配人であった別当がいて、神前に燈明を献ずる役が置かれていました。その燈明役に当たった正智院寛量(現在中社エリアにある宿坊・二澤旅館の当時の主人)が書き残した日記に、祭礼時の別当の献立が詳細に記録されていました。これを見つけ、解読した二澤旅館当主つまるところ神主であり、国立長野高専名誉教授の二澤久昭さんは「神様にお供えしたものを頂くのが本義で、この御膳は、祭礼の最後にお供え物を飲食して身を清める直会(なおらい)で食べられていたのではないか。まさに特別な料理」といいます。

祭礼御膳を完食すると、満腹感はあるものの、お腹の中はすっきりしている感じ。嘉子さんの言う「滋養強壮がよく考えられている」ことに納得。1時間ほどかけて食事を楽しみ、その健やかな味がもたらす豊かさや、宿坊の品の良さによって多幸感で満腹になりました。自分のライフスタイルを見直すきっかけにもなりそう。純粋に「すてき」と思える宿坊カルチャー。心も体もいたわって、これからも晴れやかな気持ちで過ごすことができますように、戸隠の宿坊に泊まってみませんか。

 

『戸隠古流祭礼御膳』について話す小谷嘉子さん。「戸隠らしい伝統ある料理をつなげていきたいですね」

 

☞『戸隠古流祭礼御膳』が食べられる宿坊はこちら 宝光社旅館組合ホームページ
 http://houkousha.com/

※『戸隠古流祭礼御膳』は基本的に宿泊者限定。昼食での提供は要相談

 

 

撮影:武井智史 取材・文:松尾奈々子

 

 

<著者プロフィール>
松尾奈々子(Nanako Matsuo)
1993年生まれ。長野市出身・在住。
元記者、現観光地広報担当。果物店の娘。大好物はイチゴ。顔は大福に似ているといわれる。人の話を聞くことが好き。食は質より量重視だったが、コロナ禍をきっかけに健康的な食事やライフスタイルの実現を模索中。

 

閲覧に基づくおすすめ記事

MENU