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【発見!ナガノ・ガストロノミー】 “信州そば″発祥の地で生まれた<伊那谷ガレット>の広がり

2016年秋、上伊那地域の行政機関や飲食店、個人会員によって『信州伊那谷ガレット協議会』が発足し、地域の観光振興の一環として普及が進められた『伊那谷ガレット』。イベントや教室の開催、情報発信など精力的に活動が行われてきたガレットは今、伊那谷でどのような広がりを見せているのか。ガレットに可能性を見出している伊那谷の料理人たちの声とともに、お届けします。

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ジャパンアルプスに包まれる伊那谷は “蕎麦”と“リンゴ”の栽培に適した世界有数の土地

 

伊那市西町〈kurabe CONTINENTAL DELICATESSEN(クラベコンチネンタルデリカテッセン)〉の「法蓮草と半熟卵のガレット」。食材のほとんどを伊那谷産でカバーできることを表現した一皿。

そば粉と卵とシードルを混ぜ合わせ発酵させた生地を鉄板で焼き、生地の上に具材を載せて包んだり、生地で具材を巻いたりして完成するガレットは、食の宝庫として知られる、フランスブルターニュ地方やノルマンディー地方などの郷土料理です。

ブルターニュ地方はフランス西部の海に面した街で、乳製品や海塩の生産地としても有名ですが、ソバの生産が豊かな地域でした。すぐ北に隣接するノルマンディー地方では、ブドウよりもリンゴの栽培が盛んだったことから、シードルが発祥します。このふたつの食材の出会いによって、ガレットが生まれました。

 

夏の終わりに、一面に白い花が咲き誇る蕎麦畑。伊那谷は、“信州そば”発祥の地とも言われている。(撮影:久保田里香)

一方、ジャパンアルプスを有する信州も、ソバとリンゴの栽培が盛んな土地であることはご存じのとおり。とくに南アルプスと中央アルプスに包まれた伊那谷は、平地でも標高640mと高く冷涼な気候、晴天率も高く陽射しが濃いという環境で、高品質なソバを育みます。さらに南北に長い谷地形を活かし、東西で味の異なるりんごが実ることから、複雑で奥深いシードルも生まれていきました。

伊那谷だけでも『カモシカシードル醸造所』(伊那市)、『伊那ワイン工房』(伊那市)、『マルカメ醸造所』(松川町)、『ワイナリー&サイダリーVINVIE』(松川町)、『喜久水酒造』(飯田市)、『ファーム&サイダリ―カネシゲ』(下條村)と、シードル造りを行う醸造所やワイナリーが数多くあり、この土地のポテンシャルを感じさせられます。

 

農家・ワイナリー・酒屋・飲食店が手を組んで開発した『伊那谷シードル』(ASTTALシードルクラブ)というオリジナルブランドも。あえて発酵を止めずにスローシードルに仕上げられていて、時間とともに変化する味わいを楽しめる。

そんなノルマンディー、ブルターニュ地方との風土・気候や食材の類似性に着目した上伊那地域の料理人たちが発起人となり、2016年9月に立ち上がったのが『信州伊那谷ガレット協議会』です。 “伊那谷産のそば粉を使うこと”、 “そば粉以外に伊那谷産の食材を一つ以上使うこと”を『信州伊那谷ガレット』の定義とし、提供可能な店舗を増やしていきました。

2020年には、下伊那地域の拠点となる南信州支部も発足。南信州支部の支部長をつとめる飯田市〈Trattoria Gastronomia MONDO.(トラットリアガストロミア モンド)〉の澤田省吾シェフは、ガレットをこう語ってくれました。

「『ガレット協議会』の活動をきっかけに、この料理の汎用性の高さに気づき、店のメニューに加えることにしました。ガレットのいいところは、無理なく地域性を出せるところです。ソバもそうですし、リンゴ、シードル、卵、チーズ、野菜など、ガレットに必要な食材は大部分、伊那谷で手に入る。そのことからも、この地域の食材を表現するには最適な料理だと感じています」

 

「世界一のガレットの聖地」を目指す伊那谷の料理人たちの取り組み

 

『信州伊那谷ガレット協議会』が目標に掲げているのは、伊那谷を“世界一のガレットの聖地”にすること。その想いの根底には、蕎麦をはじめシードルや伊那谷野菜など、食材のすべてにおいて、伊那谷が本国フランスに勝るとも劣らない世界でも有数の栽培環境であることにあります。

協議会の発足後は、ただ提供店舗を増やすだけでなく、ガレット職人の担い手を育てるための教室を開催したり、蕎麦の栽培技術を向上するための研究を行ったりと、さまざまな取り組みを行ってきました。

ガレットを提供する飲食店の料理人たちが、地域の小学校などへ足を運び、子どもたちに直接ガレットの作り方をレクチャーする「ガレット教室」も開催されてきた。(写真提供:kurabe CONTINENTAL DELICATESSEN)

料理人でありながら、飯島町『千人塚公園キャンプ場』の管理も行っている宮下広和シェフが生産農家と組んで仕掛けているのは、食育を目的としたイベントです。最近の実績としては、キャンプ場に宿泊したファミリーを町内のいちご農園へ連れて行き、ハウスのなかでいちご収穫体験とガレット作り体験を楽しめるプログラムを実施しました。

「ガレットに使う食材のほとんどを地元産でまかなえるので、こういったイベントをするときに、食材と絡めて地域の生産者を紹介することができます。今後もガレットを通じて宿泊者と生産者をつなぎ、伊那谷の食の豊かさを伝えていきたいですね」

千人塚公園キャンプ場と飯島町の観光農園『ベリーズファーム』とのコラボレーションで実現した、1グループ限定の食育イベント。(写真提供:千人塚公園キャンプ場)

千人塚公園キャンプ場と飯島町の観光農園『ベリーズファーム』とのコラボレーションで実現した、1グループ限定の食育イベント。(写真提供:千人塚公園キャンプ場)

「街でお買い物中のおばあちゃんから『ガレットのお店の方?』と声をかけられたことがあります。東京で暮らしている孫にガレットを作って食べさせたら、目を丸くして驚いて『おばあちゃん、スゴ!東京で食べたことある、おしゃれメニューのガレット作れるんだ!』『これ、チョー美味しい!ヤバ!』と言われたそうです。今となっては『ガレット焼くよ』と連絡するとすぐに帰ってきてくれるようになって...孫に会えることが本当にうれしいと話してくれました。伊那谷には手近に美味しい伊那谷そばがあり、伊那谷野菜があり、季節ごとに食べられる美味しい野草もあります。伊那谷の誰もが、身近な食材ですぐに世界一美味しいガレットを作れるのが伊那谷のポテンシャル。伊那谷ではガレットはもはやお店だけのメニューではありません。誰もが家庭で絶品のガレットを楽しみ、ここぞというハレの日にはガレットでもてなす…。そんな、伊那谷の風土や暮らしに溶け込んだ郷土の食文化になることを楽しみにしています。それは、まさしく世界が注目する『ガレットの聖地』の姿だと考えています」

信州伊那谷ガレット協議会の代表をつとめる〈kurabe CONTINENTAL DELICATESSEN(クラベコンチネンタルデリカテッセン)〉の渡邊竜朗シェフは、伊那谷ガレットの理想の未来についてこう語ります。料理人たちのこうした熱い想いがあるからこそ、ガレットが、地域に少しずつ着実に浸透しているのです。

 

『伊那谷ガレット』提供店をめぐる縦断旅のすすめ

 

「伊那谷は南北に長いので野菜の旬が南と北で少しずつズレますし、谷地形によって東西で作物の種類や味が異なります。なので同じ時期でも、店舗によって“季節の野菜”の内容が違ったりするんです。そんな違いを楽しんでもらうために、自分の店舗では、旬の作物が出てきたらいち早くガレットの具材に取り入れるようにしています」(〈Trattoria Gastronomia MONDO.〉澤田シェフ)

伊那谷には、現在も提供店が10店舗以上点在しています。店舗によってガレット生地の作り方や焼き方、具材の組み合わせもさまざま。南北を縦断してさまざまな店舗のガレットを食べながら、旬のグラデーションを味わってみてはいかがでしょうか。

 

 

〈kurabe CONTINENTAL DELICATESSEN(クラベコンチネンタルデリカテッセン)〉(伊那市)の「季節の伊那谷野菜(とベーコン、半熟卵)のガレット」

「伊那谷シードル」を使った酸味の効いたガレット生地を折りたたみ、その上に季節ごとの旬の伊那谷野菜やベーコンが盛り付けられた一皿。野菜は、グリルや素揚げ、ボイルとそれぞれの味や食感に合わせた調理をされているので、最後まで飽きずに食べきることができる。
http://www.cmacs.jp/33285/kurabe/
https://www.facebook.com/kurabeCONTINENTALDELICATESSEN
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「伊那谷シードル」を使った酸味の効いたガレット生地を折りたたみ、その上に季節ごとの旬の伊那谷野菜やベーコンが盛り付けられた一皿。野菜は、グリルや素揚げ、ボイルとそれぞれの味や食感に合わせた調理をされているので、最後まで飽きずに食べきることができる。
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〈Trattoria Gastronomia MONDO.(トラットリアガストロミア モンド)〉(飯田市)の「季節の伊那谷ガレット」

常に8種類以上の具材を使って作られる、ボリューム満点なガレット。具材のセレクトは旬やシェフ次第なので、注文するたびに新しい一皿に出合える。写真のガレットは、生地の上にはタラの芽とフキノトウのフリットも。仕上げに自家製ドレッシングとジェノベーゼがトッピングされている。

https://www.facebook.com/TrattoriaGastronomiaMONDO/
https://www.instagram.com/t.g_mondo/
https://goo.gl/maps/nSJP1ew8ck2yFivt5

常に8種類以上の具材を使って作られる、ボリューム満点なガレット。具材のセレクトは旬やシェフ次第なので、注文するたびに新しい一皿に出合える。写真のガレットは、生地の上にはタラの芽とフキノトウのフリットも。仕上げに自家製ドレッシングとジェノベーゼがトッピングされている。

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【その他の伊那谷ガレット提供店舗】

〈パン茶房 窯屋〉(箕輪町)
https://www.instagram.com/kamaya.2012.10.1/?hl=ja
https://goo.gl/maps/wRhDAKd4X8i7iw6V8

〈Bistro なゆた〉(箕輪町)
https://www.facebook.com/minowanayuta/
https://www.instagram.com/bistro.nayuta/
https://goo.gl/maps/UeCMxQqjnFgbCFE26

〈味工房ガレットカフェ〉(南箕輪村)
https://ajikobo.base.ec/
https://www.facebook.com/ajikobogalettecafe/
https://www.instagram.com
/ajikobogalettecafeminamiminowa/

https://goo.gl/maps/yvXtqkDy4XYtEGMF7

〈日本料理 茶や 藤十郎〉(南箕輪村)
https://www.toujuro.com/
https://www.facebook.com/10106totorou
https://goo.gl/maps/GMiUq1ZFJZpvKTXr6

〈みのやさくら亭〉(伊那市)
https://www.minoyasakuratei.com/shop/
https://www.facebook.com/minoyasakuratei
https://www.instagram.com/minoya3939/
https://goo.gl/maps/ZBtpe5w85Y38cFnR9

〈ビストロ なかしょく 中央商店街食堂〉(伊那市)
https://www.facebook.com/bistronakasyoku
https://www.instagram.com/nakasyoku/
https://goo.gl/maps/9uAWqeuXYVjKLYjq5

〈ガレット屋めがね〉(伊那市)※伊那まちBASE内。毎週月曜出店
https://www.instagram.com/megane_galette/
https://goo.gl/maps/xVyo8Hkso1Wv4RwB8

〈ガレットカフェ伊那文化会館〉(伊那市)
https://goo.gl/maps/KYUsxJBdwYGuMjbG7

〈かっぱ厨亭〉(駒ヶ根市)
https://www.facebook.com/komaganekappa
https://g.page/kappachan?share

〈蔵カフェ 飯島茶寮〉(飯島町)
https://kurasaryou.exblog.jp/
https://www.facebook.com/iijima.saryou
https://www.instagram.com/iijima_saryou/
https://goo.gl/maps/E1esJumRP3Au1QKx5

※提供状況が変わっている場合あり。詳細は各店舗へ要問合せ。 ※季節限定販売、イベントなどでガレットを提供しているガレット協議会加盟店:〈e café〉、〈Dolce CARINA〉、〈高遠環屋〉、〈千人塚公園〉、〈信州 里の菓工房〉、〈やわらの〉

 

 

撮影:佐々木健太 取材・文:松元麻希

 

 

<著者プロフィール>
松元麻希(Maki Matsumoto)
鹿児島県生まれ。
転勤族のため、物心ついたときから高校生になるまで、全国を転々とする生活を送る。都内の雑誌出版社で9年間修業した後、フリーランスライターとして独立。2017年にスキー好きが高じて長野県松本市へ移住し、現在は南アルプスと中央アルプスの麓・伊那谷で暮らしながら、アウトドアやグルメを中心としたライター業に励んでいる。

 

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