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特集【発見!ナガノ・ガストロノミー】Vol.8 長野発『“つなぐ食”=養生弁当とやおやごはん』をいただく。

今、「“食”はとても大切なこと」と考える人たちから高い評価を得ている『やおやごはん』。“作る人(生産者)”と“食べる人(消費者)”の幸せをつなぐ無農薬の野菜をふんだんに使った料理。長野市松代町から発信されるこのプロジェクトの熱と思いを……口に入れ、そしゃくし、そしてのみ込みました。

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敬意と感謝から生まれた食物語。

『やおやごはん』を代表するメニュー『季節の養生弁当』(上記写真)は月ごとに設定されたテーマに沿って生まれる。例えば10月は「乾燥しやすい時期のカサカサうるおい対策」。イチジクの青レモンティー煮(上段左)、初物!真田藩献上里芋と高野豆腐の煮物(上段中)、人参とレーズンのアーモンドサラダ(上段右)、有田産完熟小粒みかん・新生姜の佃煮(中段左)、まごころふれあい農園のキャベツと福味鶏の蒸し煮(中段中)、切干大根とみゆき豚の煮付け(中段右)、長岡式酵素玄米(下段右・左)、味噌豚木の子のとろろ和え(下段右)、以上8品の構成。可能なかぎり無農薬の野菜と地元松代町および県内産の食材を使用する。白砂糖、乳製品は使用していない。

この「冷凍惣菜誕生のきっかけは保育園の有機給食でした」と製造・販売元=(有)カネマツ物産専務取締役・加工部門責任者の小山有左さんが教えてくれた。

「ある日、地元で〈給食で死ぬ〉という強烈なインパクトを感じる座談会に参加しました。県内の中学校に赴任した校長先生が荒廃した生徒たちの学校生活と日常を“食”によって改善した実話でした。僕の家は代々、生鮮野菜の仕入れ・販売を家業としています。当時も地元保育園の給食用食材を納品していました。開催場所から帰る途中、はっと気が付いたんです。まるで背中を押されたように。子どもたちの食生活は安全なんだろうかって。帰宅するとすぐに企画案を書き始めました。保育園の給食に無農薬の野菜を使ってもらうという内容です」

無農薬の野菜は「体に良さそう」「自然の味を感じられる」と言われている。しかし、その生産過程には多くのノウハウと労力が必要とされる。生産品の形も供給も一定ではなく、ゆえにマーケットから距離を置かれることがある。大規模生産農家ならそれらの問題もリソースのパワーで解決可能かもしれない。けれど小山さんの地元松代町周辺は小規模農家が大半を占める。そこで発案した一つが無農薬の野菜を使った加工食品の製造・販売だった。土が付着したまま、長さ太さも不揃い、決して発色が美しいわけでもないが……むしろ滋味にあふれ、体にもやさしい、生産者の愛情が注がれた産品。小山さんに宿る確かな自信、家業代々受け継がれてきた信念=食材への敬意と感謝。2019年、『やおやごはん』は歩き始めた。

食欲という箸の先走りを抑え、『季節の養生弁当』の品書きと共にそっと添えられたメッセージを読み、心を整えた。

*『季節の養生弁当』の詳細及びオーダーは☞〈野菜のカネマツ公式HP〉https://s-kanematsu.jp

災害と感染流行が料理人に気付きを与え料理をも変えた。

『季節の養生弁当』のオーダーも順調に増え続け、次の事業へと着手した2019年10月13日。令和元年東日本台風(台風第19号)は長野市松代町へも甚大な被害をもたらした。通常営業は休止、家族一丸となって支援活動に参加した。現在、カネマツ物産の会長でもある母親・小山都代さんは無農薬の野菜・味噌を入手し約6,000食の味噌汁を炊き出したという。当時を振り返り小山さんは「時間の経過と共に支援活動が落ち着いてくると用意していた食材の受付も終了したんです。何が起こっても対処できるように余裕を持った準備をしていました」と語る。小山さんは会社の倉庫に積まれた野菜を見てふと思った。「加工した食材を冷蔵にすれば日持ちする。大切な野菜をもっと多くの人に食べてもらえるのでは」と。

驚いたのは小山さんの行動力だ。その日のうちに複数の試作品の製造に取り掛かったという。数日後、無農薬の野菜を材料にした惣菜はスーパーの野菜売り場近くに並んだ。ところが自慢の惣菜は想定以上に売れなかった。小山さんは「新鮮な野菜を求めてくるお客さんに冷蔵加工した野菜のお惣菜はマッチしなかった。少し急ぎすぎたのかもしれません」と反省を込めて振り返る。決して諦めるこがない小山さんが向かったのは、惣菜の冷凍食品化だった。『季節の養生弁当』で培った料理への追求と成功。『やおやごはん』この醸成と思いを真空冷凍に……。

『ヴィーガン・ロールキャベツ』小山さんいわく「野菜の旨味だけをギュっと詰めた、『やおやごはん』オリジナルのロールキャベツです。自家製トマトソースで煮込みました」。原材料はキャベツ、タマネギ、切り干し大根、大豆、シイタケ、生麩、カンピョウ、トマトソース、精進だし、醤油、塩、米油。ひき肉ではない、その食べごたえは切り干し大根と共に構成された各材料との駆け引きの絶妙なバランス。そして何よりそれら無農薬の野菜が持つ自然界の旨味が重なりあった完成度に驚く。正直にお伝えする、10分前まで冷凍状態、その後湯せんされた惣菜とは理解し難い。真空冷凍1パック1人前内容量200g 486円(税込)。

『季節野菜の塩麹八方菜』白菜、冬瓜、玉ネギ、人参、柳まつたけ、きくらげ、シイタケ、高野豆腐、綿内レンコンが原材料。野菜一つ一つをじっくりと味わうと気付くことがある。野菜の味を包み奥深く続くコクの由来はどこからやって来るのか?「それはカツオ出汁ベースの塩麹飴です。甜菜糖(てんさいとう)は使っていません。野菜の品目も多いので心身共に嬉しい一品です」と小山さん。野菜を食べ尽くし、残りの出汁を玄米に掛けるオプションもまた楽しい。湯せん時間10分。真空冷凍1パック1人前内容量200g486円(税込)。

『長岡式酵素玄米ごはん』長野県産無農薬の玄米と小粒の小豆を長岡式作法で炊き上げた。20年ほど前から小山さんの母・都代さんがつくり続けるカネマツ物産伝統の味。炊き立てを保温ジャーに移し、3日間以上、ざっくりと天地を返し、空気に触れさせることで発酵させた玄米食。ジャーから取り出したときの香りはもち米を蒸したおこわに近く、口にするとほのかに小豆が甘い香りを立てる。食感は赤飯に似た歯ごたえがある。ほどなくしてまた異なる甘味と玄米らしい香ばしさが現れ、やがて体の内部へと沁み落ちていく。湯せん時間7~10分。真空冷凍1パック1人前内容量130g 10パック3,000円(税込)。

*『やおやごはん』のメニューは15種類。詳細とオーダーは☞〈野菜のカネマツ公式HP〉 https://s-kanematsu.jp

料理には人の暮らしを幸福にする力があった。

地域に根差し、地域の生産農家とその農産物に思いをはせ、そして消費者の心と体を思いやる……。創業100年の老舗・青果店(八百屋)がつくり・編み・食される料理の真髄を考えてみた。

利益を追い求め、地球環境への配慮から遠ざかり、行く末への不安が現実的になった昨今。脈々と続く家業の理念がつくる『食』には、精進料理をつかさどる料理人たちの指南書=道元禅師が残した『典座教訓(てんぞきょうくん)』に通じるものを感じた。いわばこの“食の教典”には「食材への敬意と感謝」について書かれた箇所がある。これは食材の姿かたちに惑わされず、与えられたこと(気候や土地、そして生産者)への感謝を忘れてはいけないと諭している。また「食材を粗末にせず無駄を出さない」という記述もある。13世紀、鎌倉時代初期においても食の享受には大きな格差が存在していたらしい。食べることへの感謝は食材を大切に扱うことと同義だと。

小山有左さんから家業や料理に関しての話を聞くとき、度々「つなぐ」という言葉を耳にする。そこで尋ねてみた。「有左さんの“つなぐ”とは?」

「僕にとって“食べる”ことは“受け入れる”ことなんです。感謝しながら頂戴することなんです。例えば宗教的、思想的に、また食生活の概念的にも、人それぞれいろんな生活の実践がありますよね。でも頑なに何かを排除したり拒絶したりせず、まずは受け入れてみることが大切だと考えています。理論は後回しにしてもいいじゃないですか。一度食べてみて自分に合わなかったらやめてもいいです。でも体の中から美味しいという声が聞こえたら、やっぱり食べたいですよね。僕はいつもその感動を誰かと共有したいと思います。記憶を作りたいんです。僕はできることなら孤食を避けたいと願っています。だから、料理をつくるときはいつも自分の料理を食べてくれる人のことを考えます。ちょっと不思議なんですが、体調や精神的に整っていないときは料理に向かうことができません。僕にとって“つなぐ”ことは家業の八百屋という野菜の流通者として、皆さんの健康を願う食をつくる料理人として、人と人をつなぐ。それが僕の“つなぐ”なのかもしれません」

祖父から受け継ぐ“受け入れる”ことのハンドサイン。小山有左さんはいつだって明るく優しい。1990年生まれ。料理人に憧れ、高校・大学生時代から飲食業界でアルバイトを続ける。卒業後はイタリアンレストランに勤務。2014年有限会社カネマツ物産入社。現在、同社専務取締役兼加工部門責任者。中学生時代交際していた奥さん、そして男女4人の子どもとの6人家族。「特技はピザを焼くこと。趣味はお酒を飲むこと。とりわけこだわるのが“考える”ということ」と小山さん。

家業を継ぐ以前は京都や横浜で飲食業に携わっていた小山さん。これほどまでに生産者や食材、そして人への思いが熱く強いのなら……飲食店起業も可能では?と思った。けれど現在は災害や社会的ハンディで孤食や時間的制約を余儀なくされる人へ、より多くの人へ、自分の料理を食べてもらえるように、真空や冷凍加工した料理を追求したい、と小山さんは笑顔でカメラのレンズを見た。

 

取材・撮影・文:Go NAGANO編集部 

 

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