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連載企画『ヒトタビ=とびっきりの人と出会う旅』Vol.3塩尻大門マルシェを“楽しい”で繋がる場所に 長野県塩尻市・草野 エリさん

「⼀度(ひとたび)会って気が合えば、何度でも⾏きたくなる」。
⼈に会いに行く『ヒトタビ』は、長野県内のとびっきりの人と出会ったGoNAGANO編集部・旅人の目線からつづった、記録と記憶のドキュメントです。

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松本市の南に位置する塩尻市。太古の昔から人や物資の行き来も多く、塩尻という地名は、海から運んできた塩が取引の中で最終的に売り切れる地点ということで、塩の道の終点(= 尻)に由来する。

その塩尻に2019年に移住し、地域の事業者の支援を実施したり、コワーキングスペースを提供する『シビック・イノベーション拠点 スナバ(※以下スナバ)』の運営スタッフとして活躍しつつ、塩尻駅近付近にある大門商店街で月1開催のマルシェ『塩尻大門マルシェ』をしている人がいる。草野 エリ(愛称: エリー)さんだ。マルシェは2020年10月からスタートしたものだが、回数を重ねるごとに会場動員数・出店者数も増え、賑やかになっている。もはや塩尻・大門地区の看板行事と行っても過言ではない『塩尻大門マルシェ』。その立役者の草野さんに会いに行く。

 

肩書きだけでない、「私」として生きられるまち

 

草野さんの生まれは東京都だが、幼少期から高校までは長野県安曇野市で過ごし、その後は大阪府へ。2019年に当時勤めていた大阪の会社を退職。塩尻市へとやってきた。

“なぜ地元の安曇野でなく、塩尻へ?”と思う人もいるかもしれない。

草野さんと塩尻の接点は草野さんの父親だ。塩尻市大門地区で飲食店2店舗の経営を行う父がいたこともあり、以前から度々ご飯を食べにきたり、父のお店を手伝う事もあったという。ただ、当時は塩尻というまちに特段思い入れがあったわけでもなく、“父のお店がある”という認識程度。塩尻への移住を本格的に考え始めたのは、前職である大阪のコワーキングスペースからの退職のタイミングだった。

 

移住前、塩尻に訪れた際に参加したワイン会での一コマ ©︎草野さん

 

「前職を退職して、最初は大阪で独立しようと考えていましたが、定期的に帰省するのであれば“長野でも仕事の話ができるコミュニティを作りたいな”と思い、いろいろと調べる中で、“塩尻にスナバという場所があるぞ”と。スナバの人はすぐ移住を勧める傾向があるんですが(笑)、何回か訪れるうちに、ピンときたというか。“独立するのであれば大阪よりも塩尻の方が今の私に合っているんじゃないかな”と思ったんです」。

大阪や東京などの大都市圏は、競合も多いため、自分がやりたいことよりも、能力やスキルを前に出して仕事をしていく印象がある。

「塩尻では、デザイナーやライターとしてではなく、草野エリでいれるような気がして。そちらの方が魅力的に感じたんです。スナバという場所は、“あなたは何がしたいの?”とか“何者なの?”と、自分の芯を問いかけてくれるコミュニティでもあったので、リセットして再スタートをきる場所として直感的にいいなと思いました」と、草野さん。

職種やスキルだけでつながる関係性ではなく、ありのままの自分を受け入れて応援してくれる地域性に魅力を感じた草野さんは、塩尻への移住を決意。移住してしばらくはスナバでプロボノ(※)として働きつつ、そこで出会ったスナバの会員さんと地域でのインターン企画を実施したり、ホームページ制作の案件などを受けることも増えていった。その後、スナバでの働きぶりが認められ、2019年12月からは正式にスナバのスタッフとして運営チームに参画。以降、多様なプログラム企画や業務を担っている。

※プロボノとは、社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや専門知識を活かして取り組むボランティア活動のこと

 

スナバの会員さんとの打ち合わせの様子 ©︎スナバ

 

塩尻というまちに住む人の魅力を『塩尻大門マルシェ』を通じて伝えたい草野さんの活動はスナバだけに留まらない。参加する団体や組織は、塩尻のハロウィーンイベントの実行委員会、商工会議所青年部、公益社団法人塩尻青年会議所など、多岐にわたる。 「寂しがり屋だから、仲間に入れて欲しいんだと思う(笑)」と、草野さん。 そんな寂しがり屋の気質が功を奏してか、地域の魅力的なお店や人の顔が認知できるようになったと同時に、繋がりが足りてないところなども次第に見えてきたという。

 

朗らかな笑顔で楽しそうに話す草野さん©︎ヒトタビトーク

 

「お酒を飲むことが好きなので、まちをウロウロとしていろいろなお店に行くのですが、地元の人にさえもまだあまり知られていない、魅力的なお店があることもわかりました。」 まちが魅力的だと感じるのは、大好きなお店があるから。そのお店があるのは、ふらりと立ち寄って話したくなる誰かがそこを切り盛りしているから。人がいて、まちがある。人の繋がりから見えてきたまちの魅力は、草野さんにとっての塩尻というまちを”父のお店があるまち”から、いつしか”居場所”へと変えた。そんな中、新たな展開をもたらすのが、草野さんが大門商店街の一画を使って開催した『塩尻大門マルシェ』だ。

 

多様な事業者が出店し、楽しげに会話する様子(塩尻大門マルシェより)©︎塩尻大門マルシェ

 

「スタートは他の仕事でまちで何か一つイベントをやらなければならなかったんです。いろいろとアイディアはあったのですが、やっぱり大門にあるけどまだみんなが知らないものを知って欲しいって気持ちがあった。なので、大門にある店舗さんに、『私こういうのやろうと思っているので一緒にやりませんか?』と、声をかけて。自然とマルシェのスタイルが出来上がりました」と、話す草野さん。 当初は、草野さんも出店するつもりだったのが、声がけの結果、一気に8店舗ほど集まった。思いのほか規模が大きくなってしまったため、結局運営側で立ち回ることに。2020年10月に初回を開催して以来、毎月一回開催している。出店者数が増えるに従って、出店場所を提供してくれるお店も増え、まちの中の複数会場が繋がる事で、まち自体を回遊して楽しめる。 大門に住む人や近隣に住む人、遠方から初めて塩尻に来たという人。誰もが、『塩尻大門マルシェ』を通じて、まちの魅力を発見していくきっかけになっている。 

 

『塩尻大門マルシェ』で掲げるテーマは、“たのしいを真ん中に”

 

順風満帆に見える『塩尻大門マルシェ』だが、運営する中での葛藤もあったという。

「実は、2020年12月から2021年1月にかけて、マルシェの運営についてすごく悩んでいたんです。それまでのキャッチコピーも“挑戦する人を応援する”というもので、ずっと重たいなと思っていたし、私自身もマルシェの活動がしんどくなっていた時期で。そんな時に出店者さんに相談したら、『楽しかったらいいんじゃないすか』と言われて。“あ、そうだよな”と思って」。

 

『塩尻大門マルシェ』の1日は出店者全員が出揃っての挨拶からスタートする ©︎塩尻大門マルシェ

 

楽しいことや好きなことに関しては、誰に言われなくても、深夜3時くらいまで熱中してしまったりする。やらなければならないことではなく、好きだったりやってみたいこと。どんどんエネルギーが湧いてくるようなもの。『塩尻大門マルシェ』はそういったものや人が集まる場所にしていきたいと思い、草野さんは動きはじめた。

 

『塩尻大門マルシェ』を楽しみながら運営している草野さん ©︎草野さん

 

「“たのしい”を中心にやっていこうと決めてから、私も楽しもうと思って。それまでは設営やチラシ配布も全部自分でやろうとしていたのですが、『私が楽しいのはお酒飲みながら、来た人にヤッホーって言ってることなんだよね』と、運営チームに伝えたら、『エリーさんはそれをやってください』と言ってくれて」。

草野さんが楽しんでいれば、運営チームも楽しめる。その先には出店者さんやマルシェに訪れるお客さんたちがいる。個々の”たのしい”が連鎖しながら、新たな”たのしい”が生まれていく場所。楽しさの好循環が起き始めている。

 

“楽しい匂い”のする方へ。自らの嗅覚を信じて歩み続ける

 

大阪で働いていた時の自分と、塩尻に移住した頃の自分。それから『塩尻大門マルシェ』という自分の企画を立ち上げ、周りを巻き込んで活動している今の自分。そういった変遷の中で、草野さんは何を経験しているのだろうか。

「塩尻に移住してからは、社会との繋がりを感じるようになりました。スナバというコミュニティだったり、父がまちの中で動く姿などを横目にみて、地域を動かしていることを実際に観察できた。また、スナバにいると『建前ではなく、エリーはどう思うの?』としばしば聞かれます。それによって、やっと”草野エリ”の輪郭が見え始めた気がします」。

大阪にいた時は、既存の環境の中でいかにうまく立ち回るかを考え、自分が何かしたところで何かが動くわけがないと思っていたそう。だが、現在は、塩尻という小さな自治体の大門商店街というエリアを舞台に、自らが生み出すインパクトを手触り感をもって感じられるようになってきた。

そんなエリーさんの今後について伺う。

 

 

自分が楽しいと思うことをとことんやっていく草野さんの近くにいると、なんだかこちらも楽しくなってくる ©︎ヒトタビトーク

 

「私はあまり大局を見るのが得意ではないのですが、嗅覚だけは長けていて。山登りみたいなもので、『塩尻大門マルシェ』を続けていけば次に見える景色があるのではないかと期待してます。事業化させることも大事ですが、それは目的ではなく自然に起こるものだと信じています」。

自分の嗅覚を信じて突き進む草野さんだが、彼女の一つ一つの意思決定はまちの暮らしを楽しくさせ、ポジティブなインパクトを生み出している。『塩尻大門マルシェ』という手を繋げるツールを手に、進み続ける草野さんが次にアタックするのはどんな山か。今からとても楽しみだ。

 

文:岩井 美咲(旅人)

 

 

塩尻大門マルシェ
https://www.facebook.com/daimon.marche/

 

シビック・イノベーション拠点スナバ
https://www.sunaba.org/

 

<プロフィール情報>
草野 エリさん
長年の飲食サービス業で培った、人とのコミュニケーションを得意とし、コミュニティ運営や企画運営を手掛ける。運営チームにも入っている『シビック・イノベーョン拠点スナバ』を中心に活動。2020年10月から『塩尻大門マルシェ』をスタート。ひとりひとりの“楽しい”を真ん中に、人から思わず出てしまうエネルギーについてや、新しい経済活動を探っています。

 

<著者プロフィール>
岩井 美咲
Kobu. Productions代表
1990年東京⽣まれ。Impact HUB Tokyoに新卒⼊社後、起業家のコミュニティづくりや事業伴⾛を行いながらプログラムやイベントを運営する。2018年より⻑野県塩尻市のシビック・イノベーション拠点「スナバ」の⽴ち上げに参画し、2020年に塩尻市に移住&独立。屋号の由来である「⿎舞する」をテーマに、向き合う⼈のビジョンや課題を掘り下げ、必要な伴⾛を提供しつつ企画を一緒に実現していく。事業内容はインタビューやPV制作のディレクション、ブランド⽴ち上げから経営伴⾛まで多岐にわたる。

 

 

左:岩井、中央:草野さん、右:ヒトタビMC湯浅さん ©︎ヒトタビトーク

 

GoNAGANOライブ配信番組
『ヒトタビトーク』について

一度(ひとたび)会って気が合えば、何度でも行きたくなる。
人に会いに行く新しい旅の形”ヒトタビ”。
”ヒトタビ”のキッカケとなる出会いを作るライブ配信番組が『ヒトタビトーク』です。
長野県内で活躍する人をゲストに、東京出身のMC2人がその人と暮らしている地域の魅力を紹介。
県内外の皆さんに「あの人に会いたい!」と感じる出会いを提案中です。
(毎週木曜日19時半よりライブ配信中)

 

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