自然がもたらす湯と音に身をゆだねて。 「日本秘湯を守る会」の温泉宿

長野県には、「日本秘湯を守る会」会員の温泉宿が数多くあります。〝時代の流れから取り残されたような山の宿で、温泉のよさを守り、自然環境の保持、保全に努める〟という会の理念に共感した各地の宿には、そこにしかない魅力があふれています。

更新日:2021/04/30

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top photo:©︎中の湯温泉旅館

2万年の時を超えて湧く「塩の湯」

鹿塩温泉 湯元 山塩館|大鹿村

南信州の奥深く、秘境と呼ばれる大鹿村に位置する「鹿塩(かしお)温泉 湯元 山塩館」は、全国的にもめずらしい〝塩の湯〟。標高750mの地にありながら、もっとも濃い源泉井戸は塩分濃度4%と、海水を上回ります。保温性の高いその湯に浸かれば体がぽかぽか温まり、湯冷め知らず。無色透明で海水のようなベタつきはなく、湯上がりの肌はさらりとしています。
浴室は大鹿村の石を使った「天然石の湯」と「檜の湯」の2種類。湯船につかれば、窓の外に人工物は一切なし。春は天然のヤマザクラ、秋は燃えるような紅葉、冬は渓谷に生きるカモシカの姿を目にすることも。四方を山に囲まれて街明かりが届かないため、夜は満天の星空を楽しめます。5代目オーナーの平瀬定雄さんによる星空案内もあり、シーズンには流星群を見るために訪れる人もいるそう。

谷間の集落に位置する「山塩館」。清らかな渓流が流れる景色は日本の原風景 ©︎山塩館

「檜の湯」には寝湯も。保温性が高いお湯は冷え性や乾燥肌の人におすすめ ©︎山塩館

推定樹齢140年の江戸ヒガンザクラを眺める本館客室。ベッドタイプも ©︎山塩館

いにしえより「古事記にも登場する建御名方神(たけみなかたのかみ)が、鹿が塩水をなめているのを見て発見した」「弘法大師が塩不足で困っている村人のため、地面に杖を突き立てて湧かせた」との伝説がある鹿塩温泉。一体なぜ、山深いこの場所に塩の湯が? 地底7,000mから80年かけて地上に湧き出る自家源泉は、少なくとも2万年以上前の塩水と考えられています。学説によれば、フィリピン海プレートの岩盤に閉じ込められた海水がプレートの移動とともにこの地に湧き出ているのだそう。悠久の時を超えたお湯が楽しめる場所です。そこでぜひ味わってほしいのが、自家製塩所で源泉を釜焚きして毎朝精製する「山塩」です。

源泉を朝から夕方までじっくり煮込んでつくられる、名物の「山塩」 ©︎山塩館

真っ白で少し粒が粗く、山菜やジビエなど地元食材と相性抜群。宿の料理にも使われています。地道な職人作業のためつくれる塩の量は限られていますが、宿泊客は購入も可能。製塩体験プランもあります。ここでしか味わえない塩を、肌と舌で味わってみてください。

野生鹿や猪といったジビエ、渓流育ちの岩魚を山塩とともに味わって ©︎山塩館

毎朝釜炊きの煙が立ち込める製塩所。塩づくりの体験ツアーもあります ©︎山塩館

静かな里山で1200年の歴史を紡ぐ名湯

沓掛温泉 満山荘|青木村

平安時代に開湯し、信濃の国司だった滋野親王が目の病を治したと伝えられる沓掛温泉。青木村の静かな山あいで、1200年の歴史を重ねています。平安歌人がこの地への思いを歌に詠み、明治期に活躍した文豪・田山花袋は、「信州には著名な温泉が数多いが、沓掛温泉ほど四季とりどりの美しさに恵まれた処はない」と讃えました。

その言葉を現代の私たちにも実感させてくれるのが、里山の自然に抱かれた旅館「満山荘」の2種類の露天風呂。小高い場所にある「万葉の湯」からは村の田園風景と山々を見わたし、内湯から外階段を降りた場所にある野天風呂「沓掛の湯」に浸かれば、里山の自然を間近に楽しめます。目の前の段々畑では稲や青木村原産のタチアカネソバが育ち、夏は青々と、秋は黄金に色づく四季折々の姿を見せてくれます。
古くから薬湯として親しまれてきた湯で、pH値も高く湯上がりの肌はすべすべに。お湯は約40℃とぬるめで、長い時間のんびり浸かって身も心もリラックスできるのが特徴です。

源泉かけ流しの「沓掛の湯」。ぬるめで気持ちよく、寝てしまう人もいるそう©︎満山荘

小高い場所から青木村の新緑や紅葉を楽しむ「万葉の湯」。内湯も2種類あります©︎満山荘

宿に到着したら、オーナーの畑山隆さんが囲炉裏で沸かした湯で入れたお茶と、夫人の明子さんが焼いた「そばクッキー」でほっとひと息。歴史ある建物を一部リニューアルした客室はベッドと布団を選べて、大きな窓から見渡す限りの田園風景を眺めます。
〝いなか料理〟をコンセプトに食事処「Food 風土」で振る舞われるのは、地元の山菜や川魚、信州牛など旬の素材をふんだんに使った明子さんによるコース仕立ての創作料理。和をベースにしながら、「牛ヒレと冬瓜のお吸い物」「チーズの茶碗蒸し」など個性豊かなメニューが評判です。ビーツやパプリカなど、素材の色を生かしたソースも鮮やか。長野の作家の器も登場し、美しい盛りつけで目でも楽しませてくれます。

ソースやジュレにも地元素材を使ったひと皿は目にも鮮やか。美しい器も必見 ©︎満山荘

名物「チーズの茶碗蒸し」は、とろりとした食感にトマトとネギが好相性 ©︎満山荘

小高い場所にあり、客室から村の田園風景と遠くの山々を一望できます ©︎満山荘

上高地で唯一、通年営業する温泉宿

中の湯温泉旅館|松本市

安房峠の中腹、上高地への入り口に位置する「中の湯温泉旅館」。目の前には雄大な日本アルプスとブナの原生林が広がり、見渡す限り人工物がない、大自然に包まれた唯一無二のロケーションです。上高地で唯一通年営業している宿で、登山愛好者の基地としても人気。真冬の積雪は最大2mにもおよび、冬季は「旧安房峠・中の湯入り口」のゲートが閉まっているため、宿泊客限定で手前の「中の湯バス停」や「中の湯売店」などまで送迎が出ます。
ほぼすべての客室の窓から眺めるのは、雄大な穂高連峰。燃えるような朝焼けや夕焼け、夜は満点の星空に包まれ、風の音しか聞こえません。ときにはリスやキツネなど、森の住人に出会うことも。自然の美しさと雄大さに魅了され、全国からリピーターが訪れる宿です。

露天風呂からは雄大な穂高連峰。新緑の季節は緑萌える山と残雪が調和 ©︎中の湯温泉旅館

真冬は雪に覆われる環境。送迎サービスも行っています ©︎中の湯温泉旅館

畳で過ごす客室。ほぼすべての部屋から雄大な山々を眺めます ©︎中の湯温泉旅館

温泉のおすすめは、やはり自然を間近に眺める岩造りの露天風呂。目の前に霞沢岳、穂高連峰を望み、ひっそりとしたブナの原生林に囲まれたロケーションはここでしか得られない贅沢さ。屋根がないため、雪の日には菅笠をかぶって入浴するという雪国の山間の宿らしい体験もできます。無色透明の単純硫黄泉で、登山疲れも癒してくれます。貸し切り可能な「ご家族風呂」も人気です(洞窟風呂「卜伝(ぼくでん)の湯」は、現在利用できません)。
夕食は旬の山菜や岩魚、名物「鴨なべ」、さらに「朴葉みそ」と、地元でとれた素材を使って板長が腕をふるいます。注目は、宿で手打ちするそば。その日の朝、石臼で挽いたばかりの粉を使って打っているため「香りが違う」と評判です。

地元の川魚や山菜、きのこをふんだんに使った夕食。手打ちそばも自慢 ©︎中の湯温泉旅館

雪に覆われたなかで熱い露天風呂に浸かるのがこちらの醍醐味 ©︎中の湯温泉旅館

ロビーの大きな窓は正面に霞沢岳、左手に穂高連峰と絶景を眺めます ©︎中の湯温泉旅館

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