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酒米で変わる酒の味 長野に来たら酒米で日本酒飲み比べ

長野県には80近くの酒蔵があり、それぞれが何種類もの銘柄を醸しています。
数ある銘柄のなかからどんな基準で日本酒を選んでいますか?
長野生まれの酒米は全国区の実力。酒米に注目して選んでみるのはいかがでしょう。

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そもそも酒米とは?

長野県には多くの酒蔵があります。その数なんと75。新潟県の89に次いで第2位を誇ります。味わいもさることながら、古くから県をあげて酒米や酵母などの研究も行われていて、さまざまな酒米が生まれています。
そもそも酒米とは、正しくは酒造好適米と呼ばれるように、酒造りに適したお米のこと。普通のお米は飯米と呼ばれ、酒米と飯米の大きな違いは「心白(しんぱく)」にあります。心白は米の中心にある白い部位で、日本酒の雑味の原因となりやすいタンパク質が少なく、溶けやすくて酒造りに向いた部位です。酒米は飯米よりこの心白が大きいことが特徴です。
中心部に位置する心白を多く使うためには高精米することが必要です。飯米が90%程度の精米歩合(米を10%磨く)なのに対して、酒米は70%以下、大吟醸なら50%以下の精米が必要です。そのため、飯米より粒が大きく、割れにくい米であることも特徴です。 ほかにも、蒸米にしたときの吸水率の高さや麹のつくりやすさなどが酒米には求められます。より優れた酒米を目指して、全国各地で酒米の交配が行われ、新しい品種が生まれているのです。

手前が玄米、奥の白い方が50%精米した酒米。
中央に白く見えるのが心白です

長野県は酒米王国

長野県で産地品種銘柄、すなわち酒米と名乗れる銘柄は、「たかね錦」「金紋錦」「しらかば錦」「ひとごこち」「美山錦」「山恵錦」「山田錦」の7品種です。
「たかね錦」はこのなかではもっとも古く、1939年に長野県立農事試験場で生まれました。漢字で書くと「高嶺錦」。標高の高い長野県では、酒米としての資質はもちろんのこと寒冷地での栽培に適した酒米を生み出すことが求められてきました。その思いがこの字に表れていて、開発者の強い思いをみるようです。その後、新しい酒米が生まれるなかで、現在、たかね錦で醸す酒蔵は喜久水酒造(飯田市)や佐久の花酒造(佐久市)、豊島屋(岡谷市)など、ごくわずかとなりました。そのすっきりとしたキレのよい味わいが途絶えることなく続いてほしいと願うばかりです。

酒造りにとって大事な麹づくり。酒米と麹菌でつくります

伝説の酒米、金紋錦

一度なくなりかけたお米といえば、幻の米といわれてきた「金紋錦」です。「たかね錦」と「山田錦」を親に持つ品種で、1956年に開発された酒米です。当時は全県下で栽培され日本酒の評価は非常に高いものでした。しかし、背丈が高く栽培が難しいうえに、精米・醸造でも高い技術が必要とされ、次第に用いる酒蔵が減っていきました。ついには県内の酒蔵ではどこも使わないまでになり、唯一使っていたのは石川県の1蔵のみ、産地も北信濃の木島平村のみとなった時代がありました。
その後、金紋錦が県内でも再評価されるようになり、地元の田中屋酒造店(飯山市)、角口酒造店(飯山市)からはじまり、現在では多くの酒蔵が金紋錦で醸し、木島平村のほか県内各地で栽培されるようなっています。複雑な旨みと香りが特徴で、味のりがよく、熟成に向くといわれる金紋錦。純米大吟醸などハイスペックな日本酒で多く用いられています。2012年の関東信越国税局酒類鑑評会では、木島平産金紋錦100%で造った田中屋酒造店の大吟醸酒が最優秀賞を受賞。酒米の王様「山田錦」を使った日本酒でないと賞は取れないという定説をくつがえした画期的なできごとでした。

不定期で開催される催し「金紋錦サミット」で
集まった金紋錦でつくった銘酒たち

全国生産量第3位!美山錦と
はじめまして、
信交酒545号(山恵錦)です

1978年、長野県農事試験場で生まれた「美山錦」はガンマ線の照射により突然変異で生まれためずらしい酒米です。全国の酒米のなかでもっとも栽培されているのは、酒米の王様とも言われ兵庫県を中心に栽培される「山田錦」。次いで新潟県を中心に栽培される「五百万石」、そして第3位が「美山錦」と、人気の高い品種であることがうかがえます。寒さに強い品種で長野県を中心に東北地方でも多く栽培され、心白が小さいため、高精米されるのが特徴。そのせいもあってか、香りは控えめでクセが少なく、淡麗で美しい日本酒に仕上がるものが多いです。その味わいに魅了された人が「ミヤマ二スト」を名乗るほどに、根強いファンを有する酒米です。
美山錦のあと、1995年に生まれたのが「ひとごこち」です。より使いやすい米で、フルーティーな香りや味わいが特徴的です。こうした実力のある酒米を持つ長野県ですが、よりよい酒米と日本酒を求めて、その探究は続いています。そのなかで2020年3月に品種登録されたのが山恵錦です。大粒で心白が大きく、精米時に割れづらく、酒造りでは溶けやすいのが特徴。2018年の全国新酒鑑評会で、品種登録出願中だった信交酒545号(山恵錦)を使用した高橋助作酒造店(信濃町)の純米大吟醸が金賞を受賞したことで、より注目を集めるようになりました。長野県内でも少しずつ、使用する酒蔵が増えているところです。

中川村にある飯沼の棚田でも美山錦が育てられています

比べてみました、違う酒米で同じスペックの日本酒、どれがおいしい?

長野県の酒米、どれがおいしいのか気になるところです。長野県の日本酒の技術向上に取り組む長野県工業技術総合センターでは、精米歩合などのスペックは統一したうえで酒米だけを変えた日本酒を実験的に醸造しています。過去数回にわたってイベント会場で試飲していただき、おいしいものをひとつだけ選んでもらったところ、美山錦と山恵錦、金紋錦と山恵錦の比較では少しだけ山恵錦が上回るのだとか。特筆すべきは山田錦があまり選ばれないということです。長野県の日本酒に関連する催しでの調査なので…そのあたりのバイアスはかかっているかもしれませんが、悪しからず。
同センターの研究員、豊田敦至さんによると「ブラインドではなく、かつ、新しく生まれた山恵錦のご紹介のためのイベントでもあったので、説明するスタッフに気合が入っていて山恵錦が多く選ばれているということも、もしかしたらあるかもしれません。あとは好みですから、この結果がすべてというわけではもちろんありません」。
日本酒は嗜好品。どれが一番というよりは、好みで楽しみ、好みを語らうのが楽しいものです。

土地のお酒は土地の食事とあわせるのが一番です

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