特集・雨でも楽しめるアウトドア Vol.1 静かな水辺でととのう、信州サウナの旅
澄んだ空気と清らかな水源。信州の財産ともいえる自然の中で楽しむアウトドアサウナ。季節や天候を問わず非日常の贅沢な時間を過ごすことができる、信州ならではのサウナの魅力を紹介します。

長野県のアウトドアサウナの第一人者に聞く、信州サウナの魅力
長野県信濃町、野尻湖のほとりに建つアウトドア体験施設「LAMP」。宿泊をはじめ、SUPやカヤックなどのウォーターアクティビティ、そして本格的なフィンランドサウナを体験できる「The Sauna」など、アウトドアの醍醐味を存分に味わえる複合施設だ。
サウナ愛好家の間では“聖地”として知られる「The Sauna」。薪をくべ、火の温もりを感じながら自然と一体となる、フィンランドの伝統的なサウナ文化を野尻湖のほとりで再現している。こちらのサウナの支配人を務めるのが野田クラクションベベーさん。“サウナー”の間ではその名を知らぬ人はいないのではというほど、サウナ業界では一目置かれる人物だ。
野田さんがサウナと出会ったのは今から10年ほど前。「新卒で東京にあるWEB制作会社に入社したんですが、大学4年生の時に社長の弟子となり、さまざまな経験をさせてもらいました」
アメリカでの野宿体験やラッパー体験など、社長から命じられる数々の“無茶ブリ”をこなす中「 “日本一周に行ってこい”と言われ、四国でお遍路をしたとき、歩き疲れた体でサウナでととのった瞬間があったんです。それが衝撃的で」。その後、旅先でサウナに出会えば必ず入るようになったという。
「その日もテントで野宿をしたんですが、ぐっすり眠れ、翌朝もすっきり目覚めて、リフレッシュしたというかすごく元気になりました」
サウナに魅了された野田さんが次にとった行動は「ラッパーになる」という社長命令がきっかけだった。「もう辞めたいと思っていたんですが、お世話になったので功績を残してからにしようと……そこで“サウナ施設をつくりたい”と直談判しました」

The Sauna支配人・野田クラクションベベー(本名・野田雄一)。2018年に東京都から長野県上水内郡信濃町へ移住しThe Saunaの設立に尽力。現在は支配人業務の傍ら、全国各地でサウナのプロデュースにも携わり、サウナ文化の普及に貢献している ©The Sauna

「雨の日は自然のシャワーを浴びているような感覚に。天候問わず楽しめるのがサウナの魅力です」と野田さん
野田さんにさまざまな挑戦を課し、成長を促してくれた社長が、LAMPの創設者の吉原ゴウさんだった(現在はサウナ付きトレーラーハウス「Earthboat」の代表)。
「まずは社長にサウナの本場、フィンランドで本格的なサウナを体験してもらおうと、一緒に現地へ行き、“このサウナを野尻湖でやらせてください!と話したら、“いいじゃん、やれば!?”と言ってもらえて」
2018年、クラウドファンディングで資金を集め、スタッフとDIYでサウナ建設がスタート。完成後はなかなか知ってもらう機会が少なかったため、長野駅前でチラシを配るなど地道に認知を広げ、やがてブームの追い風を受けて利用客が増加していった。
そして、あのコロナ禍となり、LAMPも一時休業。「じゃあ2棟目をつくろうと」始まったのが2階建てサウナ『カクシ』だ。
最初の『ユクシ』、そして『カクシ』はグループで利用するパブリックサウナ。「次は貸し切りのプライベートサウナが必要だねと」。こうしてニーズに応え増設されたサウナは現在5棟。「子どもと一緒に楽しめる空間も」と構想する6棟目は、ファミリー向け貸し切りサウナになる予定だ。

2019年に開業。宿泊や飲食も可能な国内屈指のサウナ複合施設で、平日でも予約必須の人気を誇る

外気浴、森林浴が同時に楽しめるのも魅力のひとつ。鳥のさえずりや風の音に包まれながら心身を委ねる癒やしの時間。サウナ楝は木道でつながり、敷地全体が“サウナのテーマパーク”のよう

The Saunaの原点ともいえる1号楝「ユクシ」。クラウドファンディングで目標以上の支援を集め、仲間と共にDIYで完成させた

施設の中央にあるドーム型の休憩所では、本を読んだり、昼寝をしたりと自由な時間を過ごせる

12時~17時30分に提供される人気のランチメニュー。「よくばりさんのあいがけ」(1,580円)はイカ墨を隠し味に使ったカレーと、ラム挽き肉の麻婆ご飯のあいがけ
サウナビルダーとして施設の拡充を進めてきた野田さんだが、ここが“聖地”と呼ばれる理由は、野尻湖というロケーションにこそある。
「野尻湖の広さがちょうどいい。大きすぎず、手つかずの自然が残っている」。
湖畔には1周約15kmのランニング、サイクリングコースや、約2.5kmの「象の小径」と呼ばれるトレッキングコースも整備され、森林散策も楽しめる。
「水がきれいなので、みんな普通に泳いでいます。この景色を見た瞬間、フィンランドでの体験がよみがえりました」と野田さん。火照った体のまま野尻湖に飛び込む――そんな爽快感は湖畔に隣接するサウナならではの醍醐味だ。
この日、神奈川県から訪れていたサウナ好きの2人組は「ずっと来たかった憧れの場所なんです」と語っていた。
全国のサウナファンを魅了し続けるThe Sauna。フィンランドの伝統を継承しながらも、野田さんのこだわりが詰まった手造りのサウナは、ただ“入る”のではなく、五感で“体験”する唯一無二の空間だ。木材の選定から設計まで、細部に至るまで手作業で作られたからこそ生まれる心地よさは、記憶に残る特別な時間を生み出していた。

5・6月の野尻湖は水風呂より水温が高く、思わず長く漬かりたくなる心地よさがある

施設には黒姫山の伏流水を引き込んだ天然の水風呂を設置。清冽な水が優しく体を冷やしてくれる

3時間完全貸し切りのプライベートサウナが2棟あり、すべて要予約制。水着の着用が必須でレンタルも可能

各棟にはサウナ番のスタッフが常駐し、温度管理やロウリュのサポート、安全面の配慮まで徹底し、初心者でも安心して楽しめる環境を整えている
【The Sauna】
住所:長野県信濃町野尻379-2 LAMP野尻湖内
問い合わせ:026-258-2978
利用料金:3,500円~38,000円(利用方法、シーズンや時間帯によって異なる)
HP:https://lampinc.co.jp/nojiriko/sauna/
Googleマップ : https://maps.app.goo.gl/WnWB3dp775wmzBf27
信州サウナの奥深さと、野田クラクションべべーさんおすすめの立ち寄りスポットをピックアップ
信州には多彩な魅力を持つサウナ施設が点在している。雄大な自然に囲まれたアウトドアサウナはもちろん、温泉と融合したサウナなど、サウナファンを魅了するサウナ施設が豊富。その中から野田さんが厳選したお勧めの施設とその魅力を探ります。
その① tabi-shiro(タビシロ)@松本市

野田さん推薦コメント
「サウナが併設されているゲストハウスです。プライベートサウナなので、裸で入れるのがいいですね。あと松本はごはんがおいしいところがいっぱいあるので、松本の夜に繰り出して、おいしいお店を巡ることができるのもいいですね」

水風呂のすぐ隣に外気浴スペースを設置。移動が短く快適な“ととのい”体験が可能 ©tabi-shiro

セルフロウリュで温度や湿度を自分好みに調節できるフィンランド式サウナ ©tabi-shiro

予約までの時間はラウンジ兼カフェスペースでゆっくりとくつろげる ©tabi-shiro
松本駅から徒歩約10分。大通りから一本入った小路に佇む「tabi-shiro」は、松本観光の拠点にもなるゲストハウス型の複合施設で、 “サウナ旅”にお勧めの施設。カフェスペースではジェラートを提供しており、サウナ後のお勧めフレーバーは、塩分補給に最適な「塩ロウリュ」。木のスプーンで塩をすくい、バニラアイスにかけて食べることから、スタッフが名付けたそう。
サウナは好みの温度や湿度に調整できるセルフロウリュタイプで、完全予約の貸し切り制。カップルや友人、一人サウナなど、思い思いのスタイルで気兼ねなく楽しめる。コンパクト施設ならではのアクセスの良さも魅力で、サウナを出て5歩で水風呂、さらに2歩で外気浴スペースへ。「サウナを出たらすぐに水風呂に入りたい」という理想を叶えてくれる。
“ととのった”後は、松本の街へ繰り出して“街気浴(がいきよく)”を。自然や文化にも恵まれた松本で旅の締めくくりを楽しもう。
【tabi-shiro】
住所:長野県松本市城西1-3-6
問い合わせ:0263-88-3453
利用料金: 1人2,934円(100分制、3名利用時の料金)
HP:https://tabi-shiro.com/
Googleマップ : https://maps.app.goo.gl/3GnLEkRfMc7uGdVs5
その② 星野温泉 トンボの湯@軽井沢

野田さん推薦コメント
「アクセスもいいし、個人的に大好きな日帰り入浴施設です。お風呂も大きく、サウナも広々。流れるジャズも心地良くて、水風呂もいいんですよ。外気浴エリアの一体化が最高です」

水風呂は、年間を通して約13度の水温を保っている ©星野温泉 トンボの湯

毎分400リットルの湯量を誇る温泉。源泉かけ流しの贅沢を味わえる ©星野温泉 トンボの湯

露天風呂と池がつながる設計で、視界が抜けた圧倒的な解放感 ©星野温泉 トンボの湯

サウナ後の休憩にぴったりな「カフェ ハングリースポット」が隣接。軽食やドリンクも楽しめる ©星野温泉 トンボの湯
1914年に開湯した歴史ある星野温泉。「星野温泉 トンボの湯」は、北原白秋や与謝野晶子など、文人墨客にも愛された名湯を源泉かけ流しで堪能できる日帰り施設。併設された屋外サウナには「野鳥の森」の湧水を使った水風呂もある。サウナ室は木の香りに包まれ、温度は約80~90度、20分ごとのオートロウリュで心地いい湿度に保たれている。 BGMはジャズ。窓の外に広がる自然を眺めながら、静かで落ち着いた時間が流れる。
温まった体を湧水の水風呂で冷やしたあとは、露天エリアに置かれた木製ベンチでのんびり外気浴。軽井沢の澄んだ風が通り抜ける贅沢な時間に、心身が深く癒される。
【星野温泉 トンボの湯】
住所:長野県軽井沢町星野
問い合わせ:0267-44-3580
利用料金::大人1,350円、3歳~小学生800円 ※GW、夏季、年末年始に特別料金の設定あり
HP:https://www.hoshino-area.jp/
Googleマップ: https://maps.app.goo.gl/QMtrthy4yENNj9qP7
その③ Sauna muku @茅野市

野田さん推薦コメント
「八ヶ岳にできた新しい貸し切り施設で、サウナ自体はコンパクトなんですが雰囲気がとても良い。家族で経営されていて、オーナーさんにもうちと同じくらいの小さなお子さんがいらっしゃるので安心感があります。子ども連れでも安心して過ごせるうえ、リラクゼーションメニューもあって、家族利用に最適です」

ゆるやかな曲線を描くベンチが、空間に癒しと優しさを添えている ©Sauna muku

大空を仰ぐ開放的な外気浴スペースに、深呼吸したくなる ©Sauna muku

デッキ横には陶器製の水風呂を設置。丸みのあるフォルムがやさしい印象 ©Sauna muku

森のなかで自然と一体になれる五右衛門風呂。非日常を味わえる特別なひととき ©Sauna muku

八ヶ岳で育まれたミルクや野菜、果物、キレイな水を原料に、八ヶ岳の南麓、標高800メートルにある森の中の工場で作られた「YETIジェラート」。10種類のフレーバーからお好みで ©Sauna muku
2025年2月にオープンした「Sauna muku」。「施設名は“無垢”という言葉のとおり、『体に良いものを使い、できるだけ体に優しいサウナであれば、より深く“ととのう”ことができるのでは』という思いのもと誕生。内装、外壁の板張り、断熱材には羊毛、壁には土を使うなど、自然素材を多用している。
薪ストーブによるセルフロウリュに対応し、300円でアロマ氷玉「キューゲル」のオーダーも可能。じわじわと溶ける氷玉で、香りと湿度を長く楽しめるのが特徴だ。
水風呂には陶器の浴槽を採用。開放感ある外気浴スペースや、オプションで楽しめるドラム缶の五右衛門風呂(3,500円)など、非日常感あふれる演出が満載。利用者には「YETIジェラート」が1人一つサービスされる。完全予約制だが、空きがあれば当日予約も可能。利用時はサウナ着または水着の着用が必要。
【Sauna muku】
住所:長野県茅野市豊平7794-1
問い合わせ:090-9354-8947
利用料金: 1人5,400円(150分制、4名利用時の料金)
HP:https://saunamuku.com/
Googleマップ: https://maps.app.goo.gl/BUypTkk3pH9UytbPA
撮影/宮崎純一 取材・文/大塚真貴子、児玉さつき
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