• HOME
  • 自然とアウトドア
  • 特集「新・晴耕雨読」雨でも楽しめるアウトドア Vol.3 雨音と湯けむりの道。温泉×トレッキング

特集「新・晴耕雨読」雨でも楽しめるアウトドア Vol.3 雨音と湯けむりの道。温泉×トレッキング

はかなく可憐な花、しっとりと濡れた木道、雨上がりの空の色――。晴れた日とは異なる、雨の日だからこそ出会うことができる自然の楽しみ方。「晴耕雨読」――雨の日でも楽しめる新しいアウトドアのご提案です。

6no3_01

雨に導かれ、雨飾山麓の高原へ

信州の、とりわけ山間部の冬は長い。白馬村の北、新潟県に隣接する小谷村(おたりむら)の高原エリアでは5月にようやく雪解けを迎える。今年は雪が多く、高原へと通じる道が開通したのは6月に入ってからだったという。ついに残雪の山々と新緑を眺めながらのハイキングが楽しめる――そんな期待が高まる季節がやって来た。

実は小谷村には雨にまつわる山がある。日本百名山のひとつ、雨飾山(あまかざりやま)だ。雨に飾られた山とは、とても神秘的な響き。しかも近くには素敵な秘湯もあるという。雨に降られても温泉に浸かれるなら問題ない。初夏のある日、この地の“雨”に導かれて、小谷村へと向かう計画を立てた。

6no3_02
猫の耳のように見える双耳峰(そうじほう)が美しい、初夏の雨飾山 ©小谷村観光連盟

雨飾山は小谷村と新潟県糸魚川市にまたがる標高1963mの山。小谷村側からは「小谷温泉コース」という登山ルートが整備され、山頂では北アルプスや日本海など360度の絶景を望むことができる。名前の由来は山頂に祭壇を設けて雨乞い祈願をしたからという説や、一つの山に二つのピークがある双耳峰であることから「両飾山」「両粧山」と呼ばれていたのが、いつしか「両」が「雨」になったという説もある。

「このあたりは雪深くて、白馬のパウダースノーと違って湿った雪が降ります。雨もそれほど少ない印象はないし、雨乞いというよりむしろ雨を降らさないようにと祈っていたのでは?と個人的には想像してしまいます」と話すのは、雨飾山麓の温泉宿「雨飾荘」支配人の倉科さん。真相はどうあれ、“雨に飾られた山”という名前は、どこか想像をかき立てる、詩的な響きがある。

雨飾山に登ってみたい気持ちもあるけれど、登山口から往復で7〜8時間かかる、中級者以上のコースだという。そこで今回は、雨飾山のふもとに広がる雨飾高原でトレッキングを楽しんでみることにした。

6no3_03

10月中旬〜下旬、燃えるような紅葉で鎌池が彩られる。背景に見えるのが雨飾山 ©小谷村観光連盟

6no3_04

小谷温泉からさらに山道を進んだ標高900mの山あいに立つ温泉宿「雨飾荘」の支配人、倉科さん

最初に向かったのは、雨飾荘から車で10分ほどの場所にある鎌池。周囲2kmの小さな池で、草を刈る鎌に形が似ているから名付けられたという。うっそうと茂るブナの原生林を歩くと、新緑を映したエメラルド色の池がちらちらと見えてくる。弁天島へと渡る木道あたりまで来ると、ようやく視界が開けて池の全貌が見渡せた。涼しい風が池からそよぎ、山の緑がまばゆい。なんて気持ちがいいところなのだろう。
紅葉シーズンにはたくさんの人がカメラを持って訪れるというから、人が少ない今のうちに出かけたい。雨の日には池に霧がかかり、幻想的な風景に出会えるというのもまた楽しみだ。

6no3_05

標高1190m、太古のブナの森に囲まれた鏡池は、森林セラピー基地にも認定されている

6no3_06

1周40分ほどで歩ける遊歩道。所々に木道も敷かれている


ブナ林の遊歩道で森林浴。幻のサンカヨウが見られるのは…?

鎌池トレッキングのあとは、雨飾荘の倉科さんに教えていただいた散策路にも立ち寄ろう。雨飾荘から歩いて5分ほど。みずみずしいブナやカエデの林が広がり、木漏れ日がきらめいている。途中に複数のベンチが用意されていて、森林浴をしながらのんびり過ごすのにぴったりの場所だ。

倉科さんによると、雪解けと同時にミズバショウが、そして雪解けが終わった6月上旬には、雨が降ると花びらが透明に見えるというサンカヨウ(山荷葉)が咲いていたのだとか。ちょうど時期が終わってしまい、見ることは叶わなかったが、「どちらも標高の低いところから順に開花するから、サンカヨウはもう少し上に行けば7月上旬に開花するところもありますよ」と倉科さん。
小谷村の中では標高1900mの栂池自然園もサンカヨウが自生するスポットとして知られ、雪解けが遅かった今年は7月上旬に見頃を迎えるという。

ちなみに、別名「スケルトンフラワー」「ガラス花」などとも呼ばれるサンカヨウは涼しい山地に咲く高山植物。たとえば鉢植えのサンカヨウを水で濡らしても花は透明にはならない。自然降雨が続いて土がたっぷりと水を含み、さらに1週間ほどの開花時期に雨が降り注いだときだけ、花びらが透き通って見えるのだという。限られた季節の雨の日に輝く、自然が生んだ奇跡のような花なのだ。

6no3_07

サンカヨウの白い花が雨に濡れて透明に。栂池自然園では、今年は7月上旬に開花する予定 ©小谷村観光連盟

6no3_08

手付かずの自然が残るブナ林の遊歩道。15分ほど散策してリフレッシュ

6no3_09

ショウキウツギの花が緑に映えていた

6no3_10

雨飾高原バス停の駐車場から散策路へ。手作りの看板が目印

【ブナ林の遊歩道】

住所:小谷村中土
問い合わせ:0261-85-1607(雨飾荘)
Googleマップ: https://maps.app.goo.gl/vzRYoMqRNky6aoaTA


源泉かけ流しの湯で満たされた、ブナ林の露天風呂

森林浴を楽しんだら、雨飾高原露天風呂で汗を流そう。ここは、1965年頃に小谷村がつくった露天風呂。すぐ近くの源泉をポンプで汲み上げて自然の落差で流し、毎分210リットルの湯を雨飾荘の4つの湯船と共に分湯している。長湯しても気持ちがいい、クセのない泉質だという。

看板を横目にアプローチを進むと、林の中にひっそりと岩造りの露天風呂が現れた。この秘湯感がたまらない。加水も加温もしていない、源泉かけ流し。湯船に浸かると、力強く茂る木々の緑と虫たちの合唱に包まれて、自然の大きさと豊かさを全身で味わえる。

雨飾山の登山客やハイキング客も訪れる、林の中の神秘的な湯。雨の日には人も少ないため独り占めできるチャンスだ。もし雨が強まってきた場合は、少し下った「山田旅館」か「道の駅おたり」の温泉に行くのもいいだろう。

*注)雨飾荘の温泉は宿泊客限定

6no3_11

湯船にのんびり浸かり、森林浴を楽しもう

6no3_12

源泉温度は51度

6no3_13

野趣あふれる岩造りの露天風呂。タオルの貸し出しはないので持参を

6no3_14

洗い場はなく屋根付きの脱衣所があるのみ。洗髪したい場合は小谷村に10軒以上ある日帰り温泉施設へ

6no3_15

管理しているのは雨飾荘。この秘湯をいつまでも楽しめるように、協力金を入れよう

【雨飾高原露天風呂】

住所:小谷村中土18926-1
問い合わせ:0261-85-1607(雨飾荘)
入浴料金:寸志
利用時間:10時〜21時
休み:無休(11月中旬〜4月中旬は冬季休業)
HP:https://www.amakazari.jp/news/cat/post_96/
Googleマップ: https://maps.app.goo.gl/vrHgdv7AHHgmPpSHA


昔懐かしい古民家で、初めてのかまど炊き体験!

6no3_16
お米は、新しい農業の担い手「小谷村百姓七人衆」が栽培した「ゆめしなの」

次の目的地は南小谷駅近くの古民家体験レストラン「紀柳 kiryu-kamado-meshi」。事前に予約したかまど炊き体験を楽しむことに。
到着したのは重厚感漂う古民家。くぐり戸を抜けるとかまどのある広い土間が出迎え、その奥にはいつくもの座敷が広がっている。ここは店主・西澤紀子さんの父親の生家。築250〜300年という歴史ある建物だ。かつては婚礼や葬儀も行われていたというから、その広さにもうなずける。1971年、2度の災害に見舞われたのを機に一家は住まいを移したが、その後長らく叔父がこの家を管理してくれていたという。「叔父が亡くなり、ここをどうしようかと考えた結果、父が生まれ育った愛着のある家で、昔ながらの食体験を楽しんでもらいたいと思ったのです」と紀子さんは語る。

かまど炊きの準備に取り掛かる。用意された手拭いで頭を覆うと、気分が高揚してくる。紀子さんの手ほどきを受けながらナタでまきを割り、かまどにくべ、マッチで火をつける。竹筒で息を吹き込むと小さな音をたて炎が勢いを増し、大きな羽釜から湯気が立ち上る。里山の原体験にふれるひとときだ。

6no3_17

かまどは3台。燃料となるまき割りから体験できるのが楽しい

6no3_18

店主の西澤紀子さん。店名は歴史を記録するという意味の「紀」と、応仁の乱の頃からこの家の苗字だった「柳瀬」の「柳」から

6no3_19

江戸時代の建物を生かしてリノベーション。2023年にオープン

6no3_20

坂の下には姫川と大糸線の線路が見える

ごはんが炊けるまで20分、蒸らしに20分。その間に囲炉裏を見せてもらったり、外のテラスで姫川の流れを眺めたり。御年87歳の紀子さんのお父さんに、当家の歴史や思い出話を聞くのも楽しい。昔はここで養蚕や酒屋を営んでいたこと、姫川で鮭が獲れたこと、雪道をかんじきで踏み固めて歩いたこと。土間では豆腐や味噌や醤油をつくったり、餅をついたりしていたことも。当時の風景がよみがえるような時間だった。

運ばれてきたお膳には、炊きたてのごはんと、季節を感じる7品のおばんざい。ごはんには釜戸炊きならではのおこげが!噛むほどに甘みが広がり、滋味あふれる味わいだ。さらに紀子さんお手製の里山の味がまた絶妙。ごはんはおかわりしてたっぷり楽しんでしまった。

6no3_21
おばんざいは地元で採れた山菜や野菜が中心。ごはんが進む!

おなかも幸せに満たされて、身も心も充電完了。この日は汗ばむくらいの晴天だったが、今回のルートなら梅雨時も十分に楽しめるはず。むしろ雨の日限定の景色だってあるのだ。雨にしっとりと包まれた大自然を五感で味わい、源泉かけ流しの湯に身を委ねる“温泉ハイク”。雨の日がきっと待ち遠しくなる。

【紀柳kiryu-kamado-meshi】

住所:小谷村大字千国乙10490
問い合わせ:0261-88-0885
営業:11時〜16時、月曜〜14時
休み:火〜木曜、12〜3月は冬季休業
料金:かまど炊き体験と食事3,500円、かまど炊き体験とお膳のコース7,500円(前々日14時までに要予約)
HP:https://www.instagram.com/kamado_meshi_kiryuu/
Googleマップ: https://maps.app.goo.gl/YtEFtUoe2To3AQyUA

今しか出会えない景色を探しに――雨景ハイク×日帰り温泉

雨に濡れた苔や葉が織りなす光景。夏一定の時期にしか咲かない花々。そんな幻想的な景色に出会ってみたい。歩き疲れて体が冷えたら、ふらりと立ち寄れる日帰り温泉へ。そんな特別な体験ができる旅先をご案内。


■トレッキングスポットその1
八千穂高原自然園・白駒の池

標高1600mにある八千穂高原自然園。7月から8月にかけてさわやかな風を感じながら散策が楽しめるスポット。夏でも天候や場所によっては肌寒さを感じることがあるため、長袖のシャツや羽織れるものを忘れずに。園内には「白の小径」(全長1km)、「青の小径」(1.5km)、「緑の小径」(2.5km)、3つの散策路がある。この時期にはヤナギランやコオニユリ、ヤマトリカブトなど、さまざまな草花を観察できる。

八千穂高原自然園から20分ほど車を走らせると、標高2100mに位置する白駒の池の駐車場(有料)に到着する。避暑地として多くの人に親しまれ、周辺には苔むした原生林が広がり植物観察や森林浴も楽しめる。ガイド付きの散策を希望すれば、苔の特徴や森の成り立ちなどをより深く知ることができる。

6no3_22

7月~8月に花期を迎えるコオニユリ 🄫八千穂高原ビジターセンター

6no3_23

7月から8月にかけて園内に咲くヤナギラン 🄫八千穂高原ビジターセンター

6no3_24

周辺を森に囲まれた白駒の池。夏には木々の緑がいっそう鮮やかに映え、水面に映る美しい風景も見どころの一つ 🄫八千穂高原ビジターセンター

6no3_25

特に雨上がりや早朝はみずみずしく、幻想的な風景が広がる苔の森。苔をより深く観察するために時間をかけてゆっくり滞在したい方はトレッキングの装備を推奨 🄫八千穂高原ビジターセンター

6no3_26

485種類以上の苔が生息するという「苔の森」の木道 🄫八千穂高原ビジターセンター

【八千穂高原自然園・白駒の池】

住所:長野県南佐久郡佐久穂町大字八郡2049-183
問い合わせ:0267-88-2567(管理棟)※11時~14時は不可
HP:https://lnky.jp/WhWTHsf
Googleマップ:https://maps.app.goo.gl/SvFPmEQGbF6eFnqAA


■散策後のおすすめ立ち寄り温泉
北八ヶ岳松原湖温泉 八峰の湯


八千穂高原自然園から車で約15分、松原湖高原に位置する「北八ヶ岳松原湖温泉 八峰の湯(やっほーのゆ)」。天気が良ければ八ヶ岳連峰を間近に眺めることができ、夜は満天の星空を鑑賞可能。眺望が自慢の露天風呂のほか、内湯、サウナ、岩盤浴なども備える。休憩所や地場産の食材を使ったメニューが味わえる食事処も。散策の疲れをゆっくりと癒すことができる。

6no3_27

開放感あふれる露天風呂に加え、ゆったりとくつろげる露天寝湯も備える 🄫北八ヶ岳松原湖温泉 八峰の湯

6no3_28

内湯には源泉かけ流し浴槽と高温浴槽、2種類の湯船がある 🄫北八ヶ岳松原湖温泉 八峰の湯

6no3_29

標高1270メートルの高原にある温泉施設 🄫北八ヶ岳松原湖温泉 八峰の湯

【北八ヶ岳松原湖温泉 八峰の湯】

住所:長野県南佐久郡小海町大字豊里5918-2
問い合わせ:0267-93-2288
営業時間:10時~21時(最終受付20時)
定休日:なし ※奇数月にメンテナンス休業あり、要問合せ
料金:大人700円、4歳~小学生300円 ※平日は100円割引
HP:http://www.yahho-onsen.jp/
Googleマップ: https://maps.app.goo.gl/UbrzP4fWhYDjTvjKA


■トレッキングスポットその2
入笠湿原

富士見パノラマリゾート内のゴンドラ山麓駅を出発し、遠方の山々や眼下に広がる富士見町を眺めながら山頂駅へ。さらに山頂駅から湿原までの小路を10分ほど歩くと入笠湿原に到着する。整備された湿原内の散策路は緩やかな起伏があるものの、子どもや高齢者でも無理なく散策が楽しめる。7月~8月にはヤナギラン、エゾリンドウ、マツムシソウといった高山植物やサワギキョウ、ギボウシなど可憐な花々が出迎える。

湿原内の散策時間は1時間ほど。天気の変化による気温の低下なども踏まえて、服装は薄手のウインドブレーカーやレインウェアを持参すると安心。入笠湿原まではスニーカーでも充分だが、その先の入笠山山頂を目指す場合はトレッキングシューズを準備して出かけるのがお勧め。

6no3_30

エゾリンドウが咲く入笠湿原の木道 🄫富士見パノラマリゾート

6no3_31

ゴンドラの山麓駅から山頂駅までは10分~15分の所要時間。山頂駅からは天気が良ければ富士山や八ヶ岳、日本アルプスを望むことができる 🄫富士見パノラマリゾート

6no3_32

7月上旬から見頃を迎えるサワギク。その名のとおり、沢沿いに多く分布している 🄫富士見パノラマリゾート

6no3_33

マツムシソウは8月上旬から見頃に。松虫の鳴くころに咲くため、この名が付けられたといわれている 🄫富士見パノラマリゾート

6no3_34

標高1955m の入笠山頂 🄫富士見パノラマリゾート

【入笠湿原】

住所:長野県諏訪郡富士見町入笠湿原
問い合わせ:0266-62-5666(富士見パノラマリゾート)
HP:https://www.fujimipanorama.com/summer/
Googleマップ:https://maps.app.goo.gl/gmDJG14mtjjSN2Q7A


■散策後のおすすめ立ち寄り温泉
美肌温泉 ゆーとろん水神の湯

入笠山の麓にある「ゆーとろん水神の湯」は富士見パノラマリゾートから車で約2分。源泉をかけ流し、日替わりで入れ替わる東西2つの浴場には多種多様な露天風呂とサウナ風呂、2種類の内湯を備えている。また、食事処「とろけるハンバーグ 福よし」や癒やし処「はーとろん」なども併設。

6no3_35

西側にある露天風呂・水神の湯は自然石を配した岩風呂 🄫ゆーとろん水神の湯

6no3_36

標高約1000mに位置する 🄫ゆーとろん水神の湯

【美肌温泉 ゆーとろん水神の湯】

住所:長野県諏訪郡富士見町富士見9547
問い合わせ:0266-62-8080
営業時間:11時~19時30分(最終受付19時)、土・日曜、祝日11時~20時30分(最終受付20時)
定休日:水・木曜、7・8・9月は木曜 ※祝日、年末年始、GWは無休
料金:大人1,000円、小学生750円、3歳~5歳550円、70歳以上(要証明書)800円
HP:https://yuutoron.com/
Googleマップ:https://maps.app.goo.gl/1XPJMJ7rQPcR13EL6


撮影/宮崎純一 取材・文/塚田真理子、児玉さつき

 

閲覧に基づくおすすめ記事

MENU