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日本最高所にあるホテルは雲上の絶景スポット! 歩かなくても出会える絶景三昧〈中央アルプス・千畳敷カール〉〜たまには休日をひとりで過ごす贅沢〜

平日にぽっかりと空いた2日間の休み。妻は仕事だし子供たちには学校がある。普段なら家の事をこなしがら過ごしているのだが、ふと、山へ行こうと思い立った。渓流釣りをきっかけに山の魅力に取りつかれ、いつしか登山に傾倒するようになっていた。国内を中心に時には海外の山へも出掛けるようになり30年あまり。今回の目的地として思いついたのは、駒ヶ根市から上がった中央アルプス、千畳敷カールだ。もちろん、千畳敷から木曽駒ヶ岳、宝剣岳、花咲き乱れる三沢岳や空木岳への天空の縦走路へも一度や二度ではなく訪れている。馴染みの山域だと言ってもいいだろう。しかし、手軽なアプローチとはいえ、今は厳冬期の冬山の世界。天候は申し分なさそうだが、登山に必要な十分な準備をする時間もなかった。それならばホテル千畳敷に滞在してのんびりと過ごす。何もせずに移ろう冬景色を楽しむ小旅行が、急に魅力的に思えてきたのだった。

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深い谷を見下ろし空中散歩〈駒ヶ根ロープウェイ〉

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マイカー利用の場合は、菅の台バスセンターが駐車場も広く利用しやすい

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菅の台バスセンターから乗車してすぐに大田切川を渡る。千畳敷カールと宝剣岳も見えている

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バスに揺られジグザグの山道をいく。森と谷の景色の変化に夢中になっているうちに眠気が……

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駒ヶ根ロープウェイのしらび平駅。勢いよく上がる稜線の雪煙に風の強さが伺える

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ロープウェイはあっという間に標高を上げて雪景色の中へ。わずか7分30秒あまりで千畳敷駅へ

夏の最盛期の混雑が嘘のようで、時間通りにやってきたバスに乗り込んだのはわずか10人ほどだった。もっと早い時間であれば、登山者でごった返していたのだろうか。午前中といってもすでに昼に近い時間で、乗り合わせた乗客たちは観光目的の軽装の人がほとんどだ。
駒ヶ根橋から見上げる千畳敷カールは、紺碧の空にまるで貼り付けたような白く輝いていた。車窓からの眺めを楽しんでいたが、優しい日差しと山道を行く振動、揺れが心地よく、いつしかうとうとしていたようだ。気づけば終点「しらび平駅」に着く直前だった。
日本最高所のホテルへ向かうロープウェイは赤い支柱に支えられつつ、深い谷の上を行く。眼下に中御所谷を見下ろしての空中散歩だ。急峻な斜面に挟まれているが、雪に埋もれた谷底は意外なほど明るい。ところどころ顔を覗かせている水の流れが黒くアクセントになっている。
ロープウェイが中間地点を過ぎたあたりから風の強さを感じるようになった。カールの底から吐き出された風が斜面を撫で付け、雪が流れていく様子がまるで生き物のようで、すっかり見入ってしまった。

いきなりの絶景に圧倒される〈千畳敷カール〉

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ウッドデッキになっているテラスはすっかり雪の下だった。ホテルを回り込んでカール側と南アルプス側を行き来できる

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ロープウェイの山頂駅から外に出れば、この景色が目に飛び込んでくる!

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風吹き荒び新雪が舞う信州駒ヶ岳神社。上部にはサギダルの頭がそびえる

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カールの下部に位置するホテルは雪に覆われていた。小雪とはいえ、標高の高さを感じずにはいられない

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東側には伊那谷を挟んで南アルプスの大パノラマが広がる。どこを切り取っていいか悩むほどのスケールだ

千畳敷の駅舎に着いた。ここはすでに標高2,612m。ホテルのフロントへと繋がっているのだが、まずは景色を拝みに外へと向かう。建物の中まで差し込んでくる雪山の強烈な光が、行く手を導いてくれているようだ。これから木曽駒ヶ岳方面へ向かうのだろうか、登山者がそそくさと冬靴にアイゼンを装着している。なぜか後ろめたい気分になるが、足を止める事なく外へと出た。登山は案外と時間との闘いを強いられる。常にスケジュールに追われ、息つく暇もないような多忙な日々と重なる部分もある。今回は休日、ときにリセットが必要だ。
唐突に白と青の世界が広がった。外に出るといきなり絶景が出迎えてくれるのは、ここ千畳敷カールの醍醐味のひとつだろう。予想していたとはいえ、想像以上の眩しさに慌ててサングラスをかける。
小雪のこの冬だが、夏のお花畑や灌木たちはすっかり雪の中に埋まっていた。ただ白い世界が広がっている。目線を上げると純白に輝く雪と荒々しい岩陵のコントラストが際立っている。吸い込まれそうな紺碧の空と稜線の境目はまるで合成したかのように明瞭だ。見ているだけで非日常の世界へと引きずり込まれる。そっと深呼吸をしてみた。冷たい空気が身体の奥底まで染み渡っていく。
カールの底から「八丁坂」に向けて傾斜が急激に上がっていく。雪面にはしっかりとトレースが残り、その上に登山者たちの姿が小さく望めた。その左手には名峰・宝剣岳の岸壁がそそり立っている。さらに左手へ雪煙を纏った「サギダルの頭」へと険しい山陵を連ねている。稜線上はさぞかし風が強いだろう。八丁坂を登り詰めた先にある「乗越浄土」の過酷さを想像してしまう。季節を問わず、幾度も足を運んだその先の景色を思い浮かべた。点のような登山者たちの背中にそっとエールを贈った。
カールを挟んだ右手側には、伊那前岳の斜面がたおやかに広がっている。ウッドデッキはすっかり雪に埋まっており、夏場より一段と高くなっている。雪面は踏み締められており歩くのに支障がないが、端の吹き溜まりにそっと足を差し込むと、抵抗もなく足首まですっぽりと埋まった。ホテルの前にいてもときおり強い風が吹き、被ったフードがめくられるほどだ。気温は−5℃。建物の反対側へと回り込んでみた。
まず目に飛び込んでくるのは、地平線のように広がる南アルプスのまさに大パノラマ。ギザギザが印象的な鋸岳から、甲斐駒ヶ岳、仙丈ヶ岳と大仙丈ヶ岳、北岳、間ノ岳、西農鳥岳、塩見岳、悪沢岳、荒川岳、赤石岳、奥聖岳に前聖岳、兎岳、光岳……と、日本を代表する3,000m級の名峰たちが気前よく姿を見せてくれている。塩見岳の左、白河内岳の稜線からは富士山も顔を覗かせていた。あまりに横に長く、どこで画面を切っていいものか、写真を撮るにも悩ましい。その下には諏訪湖から流れくる天竜川が伊那谷を蛇行し、控えめに雪化粧した里の景色がいかにものどかだ。いざ絶景を目の前にしてみると、家族を連れて来なかった事が悔やまれる。これもひとり旅ゆえの寂しさを噛み締めた。

何もしない雲上の贅沢時間〈ホテルでのひととき〉

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午後になると影が徐々に雪面を覆っていき、景色に立体感が生まれる

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フロント横のロビースペースは南アルプスの展望台。暖かい室内からのんびりと景色を楽しむ事ができる

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ラウンジ(有料)にて。混雑時などに静かに過ごしたい時はとくに重宝しそうだ

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絶景を横目に何をするでもなく過ごす、贅沢なひととき

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カールの内は日が翳り、稜線から舞い上がる雪煙が西日に輝く様子が印象的だった

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アーベントロートに染まる南アルプスの山並み。淡いビーナスベルトと相まって優しげな表情を見せていた

チェックインの時間まではまだ間があるので、レストラン「2612 Cafe&Restaurant」へ。落ち着いた雰囲気の空間で、何より大きな窓からカールの景色を楽しむ事ができるのが魅力だ。ランチにコーヒータイムと滞在中はずいぶん長居してしまった。有料のラウンジも用意されている。
時間の経過とともに荒々しい宝剣岳の稜線からの影が伸び、先ほどまでののっぺりとした印象とは随分と表情を変えていた。雪上を歩いているのは20人に満たない程度だろう。登山者たちが下山する様子をぼんやりと眺め、コーヒーを啜る。そう、どこまでも澄み渡った空の下、圧倒的な山岳景観を眼前にしているのだ。寒くなればホテル内の至る所から絶景を眺める事ができる。正直に書くと撮った写真の何枚かは、中でコーヒー片手にシャッターを切っている。堅牢な要塞のような建物内は快適そのもので、ジャケットを脱いだだけでは暑いくらいだった。
窓から眺める景色。刻一刻と影たちはその勢力を拡大し、真綿のような白い斜面を侵食していく。同時に、深く刻まれた影は濃さを増し、まるでカールに彫刻を切り刻んでいるかのようだった。
部屋はやや屈曲した廊下を挟んで、カール側と南アルプス側とに分かれている。今回泊まったのは南アルプス側。室内に入り窓の外を見ると、ちょうどロープウェイが上がってくるところだった。登山をしなかったおかげで時間はたっぷりとあった。半日かけて景色の移ろいを楽しんでいるうちに、心は日常の生活からすっかり解き放たれていた。
やがてカール全体が陰となり、暗い稜線から舞い上がった雪煙は炎のように空に踊っている。一方、部屋に戻り伊那谷方面へ目を向けると、西日を浴びて南アルプスの山々はピンクに染まり、稜線の上部をビーナスベルトの淡い帯が幻想的に彩っていた。麓の街並みには徐々に明かりが灯り出していた。

満天の星の下に浮かび上がる幻想世界〈星明かりのカール〉

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ホテルの前から撮った星景写真。真冬の中央アルプスと星空の調和が見事

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陶板で信州アルプス牛を焼きながら、夕餉のひとときを楽しむ

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星空を見に外へ。こんなにも手軽に真冬の山岳エリアの夜を楽しめる場所は他にないかもしれない

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スマホで撮影した星空。やはり写真の出来栄えは本格的なカメラ機材に軍配があがる。重たい機材もアプローチが楽なので苦にならない

熱い湯にさっと浸かると夕食の時間となった。見渡すと登山ブランドに身を包んだゲストが多い。下山後なのか、それとも明日登るのだろうか。日程に余裕があれば、木曽駒ヶ岳を往復する前後に宿泊するのも素晴らしい時間の過ごし方なのかもしれない。地元のクラフトビールを片手に陶板の上で焼ける肉に手を伸ばす。この標高では、体質や体調によっては高山病の症状が出る場合もある。頼みの綱のロープウェイの営業はとうに終わっている。飲み過ぎは禁物だ。
夜9時半を過ぎ、月齢3.2の細い三日月はとうに稜線へと沈んでいる。室内が明るいせいか、窓から外を見てもそれほど星の瞬きを感じない。本当に星空が広がっているか半信半疑だったせいで、身支度をそこそこにして外に出る。最初こそそれほど目を惹かれなったが、カメラを三脚にセットし顔を上げると、まさに満天の星が広がっていた。暗さに目が慣れたのだろう、隙間なくびっしりと夜空を埋めるように星々が瞬いている。ただ闇に見えていた部分には山肌が朧げに浮かび上がってきて幻想的だ。感度、絞りとシャッタースピードを少しずつ調整しながら、夢中でシャッターを切り続けた。
深夜2時。再びそっと外に出てみた。先ほどと違い、ホテルの明かりもほとんどなく、さらに星の輝きが増している。その分画面内の山の写り込み具合がよくわからない。慎重にフレーミングして星空と景色を切り取っていく。気づくと手はかじかみ、吹き付ける風雪で顔が濡れた。やはりここは真冬の雪山である。慌ててホテルの中へと逃げ込んだ。
今度は子供たちにもこの星空を見せてあげたい。妻も連れてくるなら、ロマンチックな誘い文句が必要だろうか? ここなら寒さで機嫌を損ねる前にホテルに逃げ込めばいい。年老いた両親も連れてくるのもいいかもしれない。3世代での思い出作りのいい機会かもしれない。

夜明けのショータイム〈モルゲンロートに染まるカール〉

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南アルプスの日の出を撮っているうちに背後ではカールのモルゲンロートが始まっている。この時ばかりはのんびりもしていられない

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日の出前、朝焼けに染まる東の空と駒ヶ根の街明かり

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北岳から昇ってくる太陽。新しい一日が始まる瞬間にどこか神妙な気持ちになる

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徐々に薄紅色に染まり出したカールの上部。モルゲンロートの始まりだ

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あっという間にカール全体が紅く染まる。その色合いは刻一刻と変化していくので目が離せない

暖かい部屋の安心感に包まれながら、窓からわずかに聞こえてくる風の音を子守唄に眠っていた。6時。気温は−6℃。窓から望む南アルプスの稜線上が赤く妖艶に染まっていた。
ご来光とモルゲンロートに期待して集まった人々に混ざり、カメラを準備する。待っていると案外と時間はゆっくりと過ぎ、少し寒さが沁みてきた。やがて太陽が、ちょうど北岳の山頂付近から顔を出し、一瞬光芒が走る。一日の始まりを告げるかのようだった。南アルプスの稜線の奥に覗く富士山からのご来光が拝める「ダイアモンド富士」。この場所からは、12月中旬と1/1〜2が、ちょうど重なるタイミングだという。
ここから景色は急展開、その表情は目まぐるしく変化していく。見逃さないようにホテルを回り込んでカールへ向けてカメラを構える。稜線から徐々に薄紅色に彩られ出したかと思うと、色彩を失っていた雪景色が一気に活気づいた。モルゲンロートに染まったカールは色味を微妙に変えていき、片時も目を離せない。

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ホテルの中に入ると、昇ったばかりの強烈な朝日が差し込んでいた

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レストランでは朝食の準備が始まっていた。絶景を眺めながらのこれ以上ない贅沢な一日のスタート

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朝靄にうっすらと包まれる麓の谷間へ。名残り惜しいが千畳敷カールを後にする

やがて光がカールを十分に満たし終わり、雪面は白さを取り戻した。青い空とのコントラストが今日も鮮やかだ。ようやくショータイムが一段落したようなので、ホテルの中へ。ちょうど朝食の時間だった。
コーヒーを飲みながら今回の小旅行の余韻に浸る。窓辺から見える景色はヨーロッパアルプスに来たかのような錯覚すら覚えた。満ち足りた気分で、しっかりと心の充電ができたようだった。ロープウェイが下からゆっくりと上がってきた。人々の熱気に街の喧騒を思い出す。
もう一日くらいは滞在したいところだけれど、後ろ髪を引かれつつも家路につく。去り際に雪に閉ざされたカールに目をやる。やがて訪れる百花繚乱の光景を思い浮かべた。夏になったら家族を連れて来よう。

【INFORMATION】

スポット名:千畳敷カール
住所:長野県駒ヶ根市赤穂759-489
電話:0265-83-3107
営業期間:通年 ※ロープウェイの運行時間は公式サイト参照
料金:路線バス運賃(往復) 大人 1,660円・子ども(小学生以下) 840円
ロープウェイ(往復) 大人 2,030円~・子ども(小学生以下) 1,010円~
菅の台バスセンター駐車場 一日800円
アクセス:中央自動車道「駒ケ根IC」より車で約3分(マイカー規制のため路線バスに乗換)、「菅の台バスセンター」より路線バスで約30分「しらび平駅」下車、ロープウェイで約7分30秒「千畳敷駅」下車
公式サイト:https://www.chuo-alps.com

 


取材・撮影・文:杉村航 モデル:笠間章義

<著者プロフィール>
杉村 航(Wataru Sugimura)
フォトグラファー。1974年生まれ。長野県在住。山岳・スキー写真をメインに撮影する。沢に薮山、山スキー、道なき道をいく山旅が好き。ライフワークはトラウトフィッシング。美しいヤマメやイワナを求めて、全国の渓流に足しげく通う日々。小谷村山案内人組合所属、北アルプス北部遭対協。全日本釣り団体協議会公認・フィッシングインストラクター。

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