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NAGANOビアストーリー 「春」

多様性が求められる昨今。まさにビールも多様性の時代。中でも同じものがふたつとない個性的なビールがクラフトビールです。ご紹介するのは、長野県のクラフトビールシーンにまつわる3つのビアストーリー。クラフトビール片手にゆるりとお愉しみください。

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「クラフトビールと食」にまつわるストーリー

お酒を飲む若者は年々減少しているといわれているが、クラフトビール業界は勢いを増している。
長野県でもマイクロブルワリー(小規模醸造所)が続々と誕生。ビアフェスなどのイベントも行われ、クラフトビールを気軽に楽しむ機会も増えてきた。


多様なスタイル。オシャレなパッケージデザイン。ビール職人が生み出す唯一無二の味。
クラフトビールから知る、長野県の新しい文化や風土。地元の特産を使うなど、地域性が色濃く出るのもクラフトビールの魅力のひとつだ。

今回は、長野県が生んだクラフトビールに焦点を当て、「食」「人」「店」それぞれのビアストーリーに迫ってみたい。



最初に訪れたのは、上田市にある「天神ブルワリー」。ビール醸造所とビールを飲めるパブが一体となった “ブリューパブ”というスタイルの飲食店だ。JR上田駅から徒歩1分の場所にあるので、観光とあわせてクラフトビールを気軽に楽しめるのもうれしい。

開店は2021年11月。上田市を拠点に地域振興や活性化を目的に、いろいろな活動していたメンバーが「地域の拠点となる場所を作りたい」という思いでプロジェクトを立ち上げたのがはじまりだ。

「駅から近いので、新幹線の時間まで一杯飲んでから行こうとか、そういう使い方をしていただけたらうれしいですよね」。
話しをしてくれたのは店長の石井さん。そもそもなぜビールに特化した店をやろうと思ったのか。
「上田市にこういう業態の店がなかったこと。そしてメンバーみんなビールが好きだったこと。いろいろな場所へ視察に行き、さまざまなビールを飲んでみたんですが、自分たちが思う“ビール像”にハマるビールって意外となかったんですよね。だったら自分たちでつくってみようかと思ったんです」。

そして始動したクラフトビール造り。
ビールの造り方は長野県ではじめてクラフトビールを製造した「南信州ビール」のブルワーが教えてくれた。
「話をしていくなかで、我々の考えに賛同していただき、研修を快く承諾してくださったんです」。
店内からよく見えるガラス張りの醸造所。ビールタンクはドイツ製だ。
「ドイツで受注生産で作ってもらったタンクです。でもちょうどコロナの時期だったので、ドイツからタンクが届かないというアクシンデントもあって…」。
船便で届いたビールタンクでの仕込みも無事終わり、予定より約1年遅れで「天神ブルワリー」のオープンとなった。


「スーパーへ行けば大手のビール会社さんが造る有名なビールがずらりと並んでいて、常に一定、安定した味なので安心して飲めますよね。もちろん、それはそれでよいのですが、少量生産だからこそできること。例えば季節や風土に合わせて味に少し変化をもたせたり、新しいことにチャレンジしたり。そんなことができるのがマイクロブルワリーの魅力だと思います」。

造っているのはラガー、エール、黒ビールなど。上田市産の桑の実を使ったご当地ビールのほか、その時々で個性あるメニューが楽しめる。

例えば苦みが強い「IPA」というビール。ホップを大量に使うことで香りと苦みが感じられるのが特徴だ。
「うちで提供をしているEnglishIPA。同じEnglishIPAでも店によって全然味が違いますからね。ブルワーの性格が出るって言われているくらい。この店はこういう味なんだ、こっちはこうなんだと、飲み比べを楽しんでもらいたいです」。

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上田市特産、桑の実を使ったフルーティーなビール。「Maluberry Lager(KOMATSUHIME)」(1,000円)。こちらは定番だが、その時によって提供ビールは変わる。ビールがすすむアテは「味噌漬け盛り合わせ」(550円)

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2種飲み比べビールと「ホットドッグ」(600円)。ランチのみの提供で、ソースはサルサソース、ザワークラウト、野沢菜からお好みをチョイス。サラダ、スープ付き

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「本日のBEER」は4種類ほど揃う。自家製には真田十勇士の名前が付けられている。容器購入でテイクアウトにも対応

ビールと共に味わいたい40種類以上そろう多彩なフードメニュー。
「ビールに合うことはもちろんですが、観光で訪れた方にも満足してもらえるよう、長野県らしさ、上田らしさが出せればいいなと」石井さんが中心となりメニューを開発。

目を引くのは、鹿肉と馬肉の合い挽き肉を使ったハンバーガーやホットドッグなど、ジビエを使ったメニュー。鹿肉だけでなく馬肉も使っているのも上田ならではだ。
「上田で“肉うどん”といえば、馬肉がのっているうどんのこと。昔から肉=馬肉という文化が根付いているんですよね」。

そして鹿肉。
「地元の猟師さんに、鹿が増えてしまって困っているので何か対策はないかと相談されたのがはじまりです。それこそジビエという言葉が広まるよりずっと前、10年以上前のことです」。
当時は加工所もなく安定した供給ができるのか未知数だったが、試行錯誤のうえ、なんとか商品化にこぎつけた。上田市の道の駅「おとぎの里」の看板商品となった「馬鹿バーガー」が、それである。


パンは上田市内のベーカリーに依頼。生地の中にはビール製造工程で出る麦芽カスを乾燥させ練り込んでもらっている。
「廃棄するのはもったいので何かに再利用できないかなと。それでパンに入れてみたらおいしく食感もよくて」。
ほかにもオイルにホップを加えた“オリジナルホップオイル”を作り、さまざまな料理に使うなど、廃棄物をできるだけなくし資源とし循環させている。そんなサステナブルな取り組みもプロジェクトの目的のひとつだ。


ビールと食を通じて上田の魅力を発信する“ハブ”となるパブ。目指しているのは毎日飲み続けられるビール。
「アルコール度数をあえて低く作ることによっていろいろな種類のビールを楽しんでいただけるのではと思います」。

ここで一杯飲んでから観光へ繰り出す、そんな楽しみ方ができるのも大人の特権。
わたしも遠慮なく、しっかり3杯のビールをいただき、程よくごきげんになって店を後にした。

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ブルワーの石井侑馬さん。「重要なのは温度管理。種類によって発酵するタイミングが違うので、そこは慎重にやらないといけないところです」

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ビール造りは石井さんがひとりで行う。濾過して出る麦汁は甘い麦のシロップのよう。ここにホップを投入し発酵するとビールになる

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主に食を担当する石井芙美香さん。「今年の夏頃には、自社の畑で育てているホップを使ったフレッシュホップを使ったビールを出せたらと思っています」。道の駅「おとぎの里」の運営も石井さんが行っている

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1Fはカウンター席と醸造タンクが見えるテーブル席。広い2階フロアもある

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元々は魚屋だったビルを改装。暖かくなってきたら入口が開放され、本場アイリッシュパブのような活気ある雰囲気に

〈天神ブルワリー〉

住所:長野県上田市天神1-2-34 かねたまビル
TEL:0268-29-1234
https://www.tenzing-brewery.com
Google Maps

「クラフトビールと人」にまつわるストーリー

次に焦点をあてるのは「人」。
長野県内で活躍される数多くのブルワーの中で、今回紹介したいのは「TAMTAMブリューイング」の田村進一さんだ。昨年、須坂市で行われたビアフェスではじめて田村さんが作るビールを飲ませてもらい、ぜひ話を聞いてみたいと思った。


2022年デビューの新進気鋭のブルワー。
広告代理店勤務を経て、前職は製薬会社のサラリーマンだった田村さん。生活は安定していたが、ふと、「このまま何も残さない人生でいいのだろうか。社会の歯車で終わってしまっていいのだろうか」と思い悩む、人生の転機が訪れる。

「若いころから、モノづくりに憧れがあり、自分がやっていることをカタチに残したい。次世代に残るものを作りたいという思いはずっとあったんです。それとちょうど同じ時期に、義実家の耕作放棄地をどうにかしないと、という話もあり、会社を辞めてワイン用のブドウをつくろうと思い立ったんです」。

脱サラし、ブドウ農家を目指すことにした田村さん。まずは専門知識を学ぼうと、ニュージーランドにあるブドウ栽培とワイン醸造の専門学校へ留学することに。
「1年かけて基礎が学べたことは大きかったですね。アカデミックな機関でしっかり学んでおくと判定する基準ができるので、いろいろな事態に遭遇したときに正しいか正しくないかの判断ができる。農業は経験値も大事ですが、それと同じくらい知識も大事だと思っています」。

“良いワインはブドウ畑からできる”。良いブドウを作るには良い土壌が大事だと、ワインブドウ作りに適した土地を調べ移住を決意。北海道、山梨、長野という候補の中から、長野県への移住を決めた。


そして県が行っている移住サポートの窓口に相談。2年間、近隣の農家ワイナリーでワインブドウづくりの農業研修しながら高山村へ。
「この先どうしようかと思い悩んでいたときに行ったワインの勉強会で、高山村の角藤農園の佐藤宗一さんに再会したんです。 その時に“悩んでいるんだったら高山村へ来い”と誘ってくださって」。
高山村には佐藤さんも関わっている『高山ワインぶどう研究会』もあり、村をあげてワインづくりに取り組んでいる。ワイン用のブドウづくりに適した環境。そして農地や住居などの問題がスムーズに解決し、導かれるように高山村へとやってきた。

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高山村農業醸造技研株式会社 代表・田村進一さん。1976年生まれ、2022年「TAMTAMブリューイング」を設立

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ワインとビール、それぞれのポテンシャルを最大限まで引き出したクラフトビール

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国内のクラフトビール品評会に3本出品。2本が金賞、1本が銅賞を受賞

そもそもワインづくりを目的として高山村へ移住した田村さん。どこでビール造りの担い手に転向したのだろうか。
「高山村は、かつてはホップの一大産地だったんです。それで耕作放棄地にさまざまな果樹を植えるのと同じように、ホップの栽培もはじめてみようと思ったんです」。

水分を含んだ土壌と冷涼な気候が向いているというホップ栽培。かつては先人たちが取り組んでいただけに、高山村の環境はホップ栽培に適していた。


「ブドウも育ってきていたんですが、そうこうしているうちに新しいワイナリーが続々と出てきて。共同でワイナリーを作る計画があったんですが話が頓挫してしまって。それじゃあ、たくさん実ったホップを使ってクラフトビールを造ってみたらおもしろいんじゃないかとビール造りをはじめたんです」。

ワインをあきらめビールに転向したというわけでなく
「信州高山村で育まれたブドウを含めた農産物を使って“いろいろなお酒をつくりたい!”と、思いが広がったんです」。

ビール造りは、栃木にあるマイクロブルワリーの元へ研修に行き教えてもらった。
「そこで教えていただいたのは“固定概念にとらわれない自由な発想のビールづくり”。それだったら、僕が農家として培ってきたリソースが生かせるんじゃないかと」。

そのときに『ワインブドウ農家が作るオンリーワンのクラフトビール』というコンセプトが固まった。

「そこからは早かったですよね。今まで耕作放棄地で育ててきた果樹たちを使った個性あるビールをつくろうと。一気に点と線がつながった瞬間です」。


現在は高山村をイメージしたペールエールやワインブドウを使用したスパークリングエールなど、10種類を展開。
「スパークリングエール 梅」は、国内外のブルワリーが参加する「International Beer Cup2023」、フルーツビール部門で銀賞を受賞。国内のクラフトビールの品評会でも金賞を受賞するなど、評価ともども期待値も高い。

「ビールの世界での経験は短いですが、客観的な評価をもらえたのはうれしいですね。経験も実績もない中で、自分がいいと思っていても、みんなにおいしいと思ってもらえるのだろうか、これでいいのかという迷いもあったので」。


田村さんが思い描いていた「次世代に残るモノづくり」。高山村初の地ビールが世界中で飲まれる日も近いかもしれない。
「いえいえ、1人でやっているのでそんなに数、作れないですよ(笑)」。

高山村の新たな観光を担う、農家が作るクラフトビール。希少価値も高いので見つけたら即買いをおすすめする。

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骨太なビールが好きな人はホップの苦みがきいた「星空のエール」を。飲みやすさを求めるなら、高山産の梅を100%使用した「スパークリングエール 梅&ホップ」がおすすめ

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TAMTAMブリューイングのビール工場。希少価値の高いビールはここでつくられている

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夏に収穫される自家製ホップ

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珍しい果樹の試作や、ぶどうの栽培技術を習得することなどを目的とした研究用のビニールハウス

〈TAMTAMブリューイング〉

住所:長野県上高井郡高山村
TEL:090-2243-0326
https://tam-brew.com/

「クラフトビールと店」にまつわるストーリー

JR長野駅と権堂の間。ビジネスホテルが立ち並ぶ場所にあるのが「SQUIRREL FOREST(スクワールフォレスト)」。国内外のクラフトビールを中心に販売するボトルショップ(酒店)だ。

プレオープンは2023年2月。長野県東御市出身の荻原悠司さんがオーナーを務める。
「長野市でお店をやろうと思ったのは、2021年に長野市内でクラフトビールをつくるブルワリーが3カ所立ち上がったことが大きいですね。クラフトビールのニーズが高く、需要があると思ったからです」。

冷蔵ショーケースに並ぶビールのラインアップに特にルールはなく、その時々、荻原さんの好みや感覚でセレクトしている。
「クラフトビールは一期一会。この店でしか体験できない出合いを経験していただければうれしいです」。


前職は輸入ビールの営業職に就いていた荻原さん。
「アメリカ、コロラド州にある『レフトハンド』というブルワリーが作る『ミルクスタウト』というビールを飲んだのがクラフトビールにハマったきっかけです。こんなビールがあるんだと、すごく衝撃を受けたんです。それまで国内のクラフトビールは飲んだことがあったんですが、海外のものははじめてで」。

それまではビールとまったく関係のない会社に勤めていたが、「レフトハンド」との出合いで転職を決意。
「缶の裏を見て輸入している会社を知り、この会社で働きたいなと思ったんです。ダメ元で連絡してみたら『今、営業募集しているよ』ということになり、面接を受け、働けることになったんです」。

何という行動力! ビール好きが高じて転職、そして現在にいたっては自身のお店をオープンしてしまうほど、クラフトビールの魅力に、どっぷりハマっている荻原さん。

「僕がクラフトビールの魅力に目覚めたように、お客様にも同じようにすてきな出合いがあればいいなと思っています」。

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冷蔵ショーケースにはカラフルでオシャレなクラフトビールが並んでいる

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味の好みはそれぞれなのでビジュアルでピンときたものを選んで、荻原さんに相談するのがいい

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県内、県外、国外、あらゆるクラフトビールがそろう。「ジャケ買いもおすすめですよ」と荻原さん

“お持ち帰りと飲食利用のハイブリッド”。イートインスペースもあるので、店で購入したビールを店内で飲むことができる「角打ち(かくうち)」ができるのも魅力だ。
「待ち合わせに使ったり、しっかり飲んで行っていただいてもいいですし。これから観光へ行く方に気軽に立ち寄っていただくなど、お客様それぞれの楽しみ方で過ごしていただければと思います」。


開店して1年。今後はイベントなども積極的に行いたいと荻原さん。
「開業当初から、善光寺門前にある『Mallika Brewing(マリカブルーイング)』さんとコラボした商品を作っているんですよ。今回は ローストモルトを使い、副原料にチョコレートミント、オレンジピールなどを使った少しアルコール度数高めのビールを作ってもらいました」。
数量は未定だが、周年のバレンタイン時期に販売する。

置いている商品は500円代のものから1,000円以上、大瓶だと5,000円以上のものもある。
「クラフトビールは高いと思っている方も多いかもしれません。でもブルワーさんが丹精込めて作っているオリジナリティ溢れる商品なので、飲んでいただければその良さをきっとわかってもらえるはずです。『1,000 円高いね』ではなく、『1,000 円なら』と思ってもらえるよう、ビールの価値を高めていきたいです」。

ビールの可能性がさらに広がるクラフトビールの世界。まずはパッケージから入ってみるのも悪くない。酒好きの方へのお土産やプレゼントにも最適だ。

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店内で飲む場合は別途抜栓料+200円~。「手作りポテトサラダ」(400円)をはじめ、ナッツなどちょっとしたおつまみもそろう

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立ち飲みのほかカウンター席もある。節度の範囲であればフードの持ち込みもOK

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観光の拠点に最適な立地。春になったらビール片手に街歩きを楽しみたい

〈SQUIRREL FOREST〉

住所:長野県長野市上千歳町1189-1
TEL:026-219-4471
https://www.instagram.com/squirrel_forest0311/
Google Maps

多くのポテンシャルを秘め、まだまだその魅力は尽きない長野県のクラフトビール。多くのブルワーが知識、技術、そして熱意をもって、日々クラフトビール造りに励んでいる。観光に訪れた際は個性ある長野のクラフトビールに触れ、ぜひ飲み比べを楽しんでほしい。


取材・文:大塚真貴子  撮影:平松マキ

<著者プロフィール>
大塚真貴子(Ohtsuka Makiko)
長野県出身。東京で情報誌を中心とした雑誌、書籍などの編集・ライターを経て、2008年に地元である長野市にUターン。地域に根差した出版社において情報誌の編集に17年間携わり、フリーランスのローカルエディター・ライターとして独立。趣味は飼い猫(ねこみやくん)を愛でること。

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