Z世代の心を動かしたフィールドワーク、学生が考える「新たな旅の形」に求められるのは「人のあたたかさ」
2023年9月4日(月)から6日(水)の2泊3日、関東圏で観光やまちづくりを学ぶ学生を対象に『長野県のローカルヒーローと巡る新たな観光復興を考えるフィールドワーク』を実施しました。8名の学生が軽井沢のキャンプ体験、上田・小諸エリアのフィールドワーク、千曲市での交流後によせたレポートには「新たな自分が見つかった」という感想があり、最終日には涙ながらにまちを後にしていく姿もありました。学生の心を動かしたコンテンツに込めた意図や、参加した学生たちが地域で活躍する「ローカルヒーロー」から学び得たこと、まちをよりよくするアイデア・提言を公開します。
主体的なフィールドワークを実現する仕掛け
今回のフィールドワークは長野県観光機構が長野県の観光プロモーションとして実施しました。地域のさらなる観光振興にチャレンジする人(ローカルヒーロー)のチャレンジを追体験できるプログラムとして実施された本企画をレポートするにあたり、プログラム企画を担当した株式会社ふろしきや代表 田村英彦さんに企画に込めた想いや、主体的に学生がフィールドワークに参加するための仕掛けについてお話しを伺いました。
田村さん「観光学やまちづくりを専攻する学生が長野県で活躍するローカルヒーローと関わることで、教科書や文献では学べない生々しい挑戦や葛藤、喜びを直接感じとってほしいと考えました。そのためには一方的に話を聞くだけではなく、ローカルヒーローと対話し、一緒に彼らの体験を共にすることで距離が近づき本音で語り合えると思っています。
限られた日数ではありますが、フィールドワークの舞台を広域にすることで地域ごとの特徴を体験し比較ができます。自然ゆたかな軽井沢のキャンプ場(ライジングフィールド軽井沢)、周遊エリア(小諸、田中、佐久、東御、上田)を自ら選択してプランを立てるフィールドワーク、千曲市(姨捨・戸倉上山田エリア)でのローカルヒーローとの交流といった、幅広いエリアの魅力を体感してもらえる企画を考えました。」
少々詰め込みすぎたかなと心配しながらも、一つでも多くの学びを持ち帰ってほしいという田村さんの想いが企画に込められていました。
<主体的なフィールドワークに必要な要素>
・事前に参考文献を提示し、興味がある場所をピックアップしてもらいインプットを促す
・初日の会場をキャンプ場にして自然体験をすることで気持ちの切り替えをする
・フィールドワーク前に興味関心、課題感を発表することで目的を言語化する
・好奇心の赴くままに活動する自由時間を多く設けることで自主的な行動を促す
・最終日はアウトプットの時間として集中できる環境を用意する
「人と出逢う化学反応によって、風景の見方さえも変わる」ローカルヒーローとの関わりで変化した学生の価値観
今回のフィールドワークで学生たちが出会ったのは、長野県で活動する8名のローカルヒーローたちです。活動に秘めた想いや葛藤を直接聞き、食事やたき火を囲んで交流を図ります。
初日にお話しいただいたのは、ライジングフィールド軽井沢で課外活動プロデュースやリーダーシッププログラムを展開する渡邊亮さんです。理論やスキル習得に特化した知識学習だけではなく、自然体験活動・アクティブラーニングを中核にした、ものごとや人に直接向き合う「直接体験学習」の重要性を脳科学的観点と共に解説してくださいました。
また、棚田の急勾配を利用した自転車レース「姨捨棚田ヒルクライム」や、地域の事業者が出展するマーケット「熱湯沸騰ガラクタ市」を開催する「姨捨ゲストハウス なからや」のオーナー鍛冶博一さんは、自分の生い立ちや人に助けられた経験から現在のゲストハウスを運営し、人のつながりを紡ぐ拠点づくり、地域の方々を巻き込んだイベントを実施しているといった活動の動機や想いを聞かせてくれました。
学生はこうした話を通じて「自分も楽しんでいるからこそ多くの人が巻き込まれる循環が生まれる」といった気付きや、「地域の逸話や名産品は他地域の方々からすると自分たちが思っているほど特別感がないといった認知ギャップが存在する」という、矢面に立って活動をするからこそ聞ける話が印象に残ったようです。
フィールドワークを実施する前、学生たちに長野県のイメージを聞いてみると、豊かな自然、フルーツや野菜といった農作物のおいしさ、軽井沢エリアを代表とする別荘や避暑地という意見が大半を占めていました。「訪れる前は長野県を一括りで捉えていた」と振り返る学生も、人を中心として生まれる地域のあたたかさに触れたことで、風景の見方さえもが変わったと価値観の変化について言及しています。
学生が発見した地域の課題
学生のレポートには「長野県には(人の挑戦を)応援してくれる、協⼒してくれる⼈たちがたくさんいるのだという印象をもった」、「レジャー的な観光ではなく、祖父母の家に帰省した時のような安心感と懐かしさを感じた」、「資源や施設には頼らず、直接人の気持ちに訴えかけるような取り組みをされている」、といった「人の魅力」に言及する学生が多く見られた一方、参加した学生が口をそろえて指摘する長野県の課題は「交通インフラ」と、「地域の魅力を発信するPR力」の2点でした。
場所や食べ物、観光地について必要な情報にリーチできないといったSNS展開における課題や、電車やバスの運行本数により行動制限が生まれた体験に加え、ドラマやアニメのロケーションとして採用された後の継続的な観光誘致について他県との差別化した魅力をどのように発信していくかといった課題を指摘しています。
学生が考える「自分たちの時代ならではの旅の在り方」
フィールドワーク最終日には2日間の学びをもとに「新しい旅の在り方」を考えます。今までの旅は食や観光スポットに重きを置いた、団体旅行で楽しめるパッケージ旅行が主流だったのに対し多様性が進む世の中では、より個人旅行へのニーズが高まると言及したうえで「今回のフィールドワークで私たちが体感した長野県の温かさなど、その地域に行くことでしか感じれないものが本当に大切なこと。」と語ります。
長野県の魅力である人のあたたかさや、人を応援する力を使って観光客を呼び込み地域活性化をはかるアイデアとして、地域住民と旅行者をつなぐ旅行マッチングアプリの提案、観光を学ぶ学生ならではの2次交通としてのグリーンスローモビリティ活用、行政と連携したPR活動についてアイデアが見られました。
全ての学生が人を中心においた、あたたかみを感じる旅だったと感想をよせた今回の企画。フィールドワークやローカルヒーローとの交流を通じて明日につながる学びや気付きを得ているようでした。
学生レポート情報一覧
◆観光まちづくり学部
「観光客に優しく、祖父母の家に帰省した時のような安心感と懐かしさに魅力を感じる。」アクセスや情報発信に課題を持ち、グリーンスローモビリティーや旅行マッチングアプリを提案。
◆現代教養学部
長野県はエリアごとに特徴があり、思ったよりも東京に近いといった印象をもち、五感を使った森林散歩やゲストハウスオーナーとの会話から現地での旅の魅力を体験する。観光地のアクセスの悪さや、宣伝不足に課題を持ち、鉄道のアクセス改善やグリーンスローモビリティー、自治体公認のまとめサイトといった解決策を提示。
◆観光コミュニティ学部
旅先での人との交流で感じた人のあたたかさや、更科そばなどの食に魅力を感じる。美味しい食のPR不足や、バスの本数の少なさに課題を感じ、おすすめスポット紹介アプリやグリーンスローモビリティを提言。
◆現代教養学部
東京からのアクセスの良さや体験先で人と人のつながりを大切にし、家族の様な一体感を感じたと語る学生。現地での移動手段に課題を抱き、地元民がアテンドしてくれるツアーや、クーポンを使っての観光客や店舗のつながりを生む企画を考案。
◆理工学群社会工学類都市計画主専攻
ウォーカブルな都市設計と、資源や施設には頼らず直接人の気持ちに訴えかけるような取り組みに関心を持つ。都会からのアクセスの良さを活かしきれていない課題を指摘し、中心市街地の公共施設を観光客の拠点化やお土産店への活用など、都市計画の観点から地図を用いて具体的に提案する。
◆社会学部
ローカルヒーローがやりたいことを楽しんでやることが地域貢献につながっていることに気付き、人と人との心理的距離感が近いことに着目する。歴史的建造物をにぎわいに活かしきれていないことを課題とし、お城の石垣の緑化や地形を生かしたアドベンチャー作りなど、歴史的建造物を使って市民の主体性に重きをおいた空間づくりをまとめる。
取材・構成:株式会社ふろしきや 文:坂下彩花 撮影:小久保克海
ライジングフィールド
https://www.rising-field.com
おせっかいハウス昭和の寅や
https://toraya.love
フレスコ・カンパニー
https://fresco-c.com
姨捨ゲストハウスなからや
https://www.facebook.com/obasute.nakaraya/?locale=ja_JP
和かふぇよろづや
http://wacafe-yorozuya.com
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