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『軽井沢フォトフェスト(KFF)』開催 記憶と記録に残る「軽井沢を撮る」旅は、“トクベツ”と“いつも”との邂逅だった。

旅は記憶と記録の物語を組み立てる大切な脚本かもしれません。はじめて足を踏み入れる大自然の絶景体感。たびたび滞在している町の小径で出会った雄の雉……。感動は突然やって来ます。その瞬間をアーカイブする。それが“撮る”というアクションではないでしょうか。現在、冬の軽井沢を舞台に『軽井沢フォトフェスト(KFF)』(2023年4月1日~5月14日)のプレイベントが開催されています。私たちの旅への憧憬といざない。新たな軽井沢との出会いと発見。「軽井沢の“撮る旅”」興味津々です。

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TOP PHOTO:©George Nobechi
 

“MORE THAN JUST A SUMMER RETREAT”
避暑地だけではない軽井沢

〈インスピレーション・ギャラリー〉©️Tsutomu Toyama
〈インスピレーション・ギャラリー〉©️Tsutomu Toyama

日本を代表するリゾート地・軽井沢の魅力は「観光地という象徴・文化都市としての表象・そしてウェルビーイングな生活拠点」に根底があるのかもしれない。それらは昨今の流行により構築されたものではなく、宣教師・アレクサンダー・クロフト・ショー氏が当地を訪れた明治19年(1886)。将来へと幹を成長させ、枝を伸ばし、葉脈を広げる木々の植林が始まった。歴史と共に軽井沢は成長を続け、時代という季節によっては不要になった枝を落としてきた。それは現在も脈々と続いている。

『軽井沢フォトフェスト(KFF)』は、コロナ禍を経て新たに植えられた苗木と思える。観光地の象徴として認知される軽井沢。その表裏の間、たとえるなら小説の行間に存在する軽井沢を感じ、出くわし、発見し、そして記録する。ファインダーに写る被写体はかつて見たことがない軽井沢・追分の路傍の草木や、旧軽井沢のカフェのガラス戸に反射する陽光。訪れるたびに散策する湯川の水流。今まで気がつくことがなかった日常と、偶然の非日常がそこかしこから話しかけてくる。『軽井沢フォトフェスト(KFF)』はガイドブックに載っていない軽井沢の素顔を描写し記録する、記憶装置なのだ。


巻頭に紹介したトップ画像は、『軽井沢フォトフェスト(KFF)』の総監督を務める野辺地ジョージさんの作品。軽井沢の小径の通りがけに出会った雉。小径を横断するところをとっさに撮影してみた。これが軽井沢の何気ない日常、そういう小さな出来事に感動する、とのこと。

2枚目、3枚目の写真は、『軽井沢フォトフェスト(KFF)』実行委員長の遠山勉さんの作品。いずれも湯川での撮影。今回、遠山さんに、『軽井沢フォトフェスト(KFF)を開催するに至った経緯をインタビューさせていただいた。


遠山さんにとっての軽井沢とは? そして『軽井沢フォトフェスト(KFF)』とは?

「軽井沢観光協会では、かねてより写真を観光資源として町おこしを計画し、組織強化委員会において、軽井沢写真部を2016年6月21日にフェイスブック上に立ち上げました。軽井沢写真部は、2022年12月現在、1,040名の参加者となっています。軽井沢写真部の活動としては、単なるフェイスブック上の投稿だけでなく、2021年までにリアルなイベントとして、軽井沢写真部・撮影交流会を12回開催しております。

軽井沢写真部も盛況になってきたところもあり、さらに写真活動による町おこしを充実させようと思っていたところ、写真家、野辺地ジョージ氏と出会いました。野辺地ジョージ氏は、2014年にそれまで勤めていた金融の仕事を辞め、写真家として活動を開始。あっという間に国際的写真家となった新進気鋭の写真家です。一昨年軽井沢に居を構えられました。

ご縁によりお会いでき、写真で町おこしの計画をお話ししたところ、氏も同じことをお考えで、意気投合、また、過去に写真で町おこしの実績もありました。そこで、氏を総監督にお迎えし、『軽井沢フォトフェスト:Karuizawa Foto Fest』 (以下KFF)を開催することとなりました。KFFは、軽井沢での撮影を条件とし、応募いただきました写真を野外展示することをメインとしたイベントです。写真愛好家のみなさまに軽井沢に来ていただくフォトツーリズム事業なのです」


「アート」と「軽井沢」の融合~『軽井沢フォトフェスト(KFF)』がもたらす新たな観光未来

「野辺地氏が提案されたフォトフェストは、氏が写真家になろうと思ったきっかけの一つである写真の野外展示。海外のフォトフェストと同様の展示方法を実現するものです。ニューヨークの『Photoville』の野外写真祭、『ヘルシンキ・フォトフェスティバル』(https://helsinkiphotofestival.com/Nordic-village/) の展示例が参考になります。その展示に感銘を受け、氏の人生が大きく変わったのです。写真を含め、アートは、人に大きな感動を与え、思索のきっかけも与えてくれます。軽井沢はかねてよりたくさんのアートが存在します。美術館もたくさんあります。特徴的なことはそれがすべて私的な施設であるということです。最近オープンした藤田嗣治の作品のみを展示した『安東美術館』もその一つです。軽井沢はアートに満ち溢れています。写真という切り口もその一つです。軽井沢町の内外には、プロ・アマ問わず、写真を愛する人たちが沢山います。また、SNSとスマホの普及により写真を撮らない人はいないと言って過言ではないでしょう。カメラはもはや第3の人の目なのです。カメラを通して見た軽井沢を野外展示し、みなさまに巡回して観ていただく。きっと、新しい軽井沢を発見することでしょう」


写真家でもある遠山さんの「軽井沢考」

軽井沢の美はその日常にあり。

軽井沢には自然・文化・避暑地としてのライフスタイルなど他所とは異なる独自の文化が育まれています。

豊かな自然があることは他の地域と同じですが、霧下気候といわれる特殊な気候による苔蒸した別荘地、その湿度と1,000mという高地が織りなす癒し効果、軽井沢からしか見えない浅間山のハートなどがあるでしょう。

また、避暑地として歴史的な建物、町並み風景、教会文化があり、日本の近代化の歴史において、皇室、多くの政治家、実業家、学者・教育者、宗教家、文豪、芸術家が訪れています。それらの人々が織りなす「美しいものがたり」が軽井沢には沢山あります。

単に目の前に広がる景色を美しいから撮るというのではなく、そこに感じる「詩」を思い浮かべながら、撮影することができたら良いなと常日頃思っています。そういった「詩」を多く感じることのできる場所、それが軽井沢ではないかと思っています。軽井沢というと、雲場池など風景の「シューティングポイント」などが意識されがちです。しかし軽井沢で暮らす多くの人たちの営み、素敵なカフェやお庭、別荘の通りや商店街、宿場やお寺と神社と教会、高原野菜をつくる田畑や里山、そして、足下にある落ち葉、小さな高山植物、雪の中の動物の足跡、木々を飛び交う野鳥、凍った湯川、そのような軽井沢の日常から感じるさまざまな「詩」を感じ、写真として写し撮っていければと思います。写真イコール「シューティングポイントからの風景」というイメージを変えていきたいというのは、野辺地総監督の意向でもあります。

なお、私は、委員会のメンバーとして、審査員の末席を濁す者ででもありますが、審査員として以下のようなメッセージ をと思っています。


“写真をキーワードに軽井沢に集う。フォト(光)が作り上げるイメージの交流。写真は発見だ。軽井沢という地の自然や文化・生活を通し、何を感じ、何を発見するのだろう。それは人それぞれ。よくよく見れば、自分自身の投影かもしれない。さあ行こう、軽井沢。集おう、KFF。そして、見つけよう、「あなた」の「写真」”。

Go NAGANO編集部が「撮る」軽井沢の朝。

『軽井沢フォトフェスト(KFF)』Go NAGANO応募作品©️長野県観光機構

『軽井沢フォトフェスト(KFF)展示作品募集』1月31日の締め切りを前に、取材のため編集部員も軽井沢に向かった。盛夏の頃や大型連休時とは異なり、冬期平日の軽井沢の朝はスズメのさえずりが明確に聞こえるほど静寂で、指先が悴むほど冷えていた。けれど外気はよりいっそう清々しさを増し、陽光と共にどこからかやって来た暖炉の薫香が挨拶する。

午前8時。いつもは店に入ることを躊躇するほど混雑しているカフェもスタッフ以外姿はない。“千載一遇”を逃す理由も見当たらない。通りに面した窓際の席にすわった。渡されたメニューの一番上。そこに書かれたモーニング・メニューに目がとまる。カプチーノとセットで注文した。「シュー」というスチームの音が聞こえる。やさしいシナモンの香りと一緒にカップが置かれた。

ガラス越しに毛糸の帽子を被った散歩中の女性がこちらを見ているようだ。まだ低い位置にいるはずの朝の太陽はその女性を逆光の中に匿いシルエットだけの姿に浮かび上がらせる。ふと、テーブルに視線を移す。目覚めから時間が経ちようやく活動開始となった陽光がテーブルの上に置かれたガラス瓶とシルバーのカトラリーに立ち止まり、プリズムのように屈曲した白い光がテーブルに刻まれた軽井沢の時間にフォーカスしている。軽井沢の日常が非日常となった瞬間だった。(*作品募集期間は2月7日まで延長されました)


取材:Go NAGANO編集部(佐藤)

遠山 勉(Tsutomu Toyama)

『KFF』 Organization Committee Chair 実行委員会委員長・『KFF Juror』 写真審査会メンバー。軽井沢観光協会理事。軽井沢写真部の企画・運営。株式会社知財ソリューション代表。弁理士。Tom Farmountの名前で写真活動を実践中。写真展(空想の部屋展、湯川の秘密展、どんな音が見えるかな展他)の開催他、写真で元気プロジェクトや、ぶらカメラ、ミッションフォトウォーキング、セミナー「ものの見方を写真で鍛える」など写真を活用したイベントやセミナーを主催。

『軽井沢フォトフェスト(KFF)』に関する詳細は下記アドレスをご参照ください。

Karuizawa Foto Fest(KFF)ホームページ
https://www.karuizawafotofest.jp
Karuizawa Foto Fest(KFF)Instagram公式アカウント
https://www.instagram.com/karuizawa_fotofest/
Karuizawa Foto Fest(KFF)Facebook公式アカウント
https://www.facebook.com/KaruizawaFotoFest/

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