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帰ってきたミュージックフェスティバル『FFKT』 2019年に開催された『FFKT』が3年振りにこだまの森に帰ってきた。

2018年惜しまれつつもその開催に幕を下ろした『TAICOCLUB』と同様、新たなビジョンを示したその進化版のフェスである『FFKT』。ここ、長野県木曽郡木祖村にある『信州やぶはら高原 こだまの森』を舞台に息長く開催されるはずだと、誰もが信じて疑っていなかった中、突如襲った未曽有のコロナ禍。
その影響下、2年連続の中止を乗り越えて、実に3年ぶりの開催に至った日本を代表する野外音楽フェスティバル『FFKT』。どのような経緯で実施までたどり着き、どんな想いで開催されたのか。その詳細を主催者へのインタビューと共に紐解いてみようと思う。

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TOP PHOTO:©️FFKT

『FFKT』の歴史

『FFKT』は『信州やぶはら高原こだまの森』でオールナイト開催されているキャンプin型の野外音楽フェスティバル。そのFFKTを知るのには、まず名称を分解してみる必要がある。“FFKT=the Festival Formerly Known as TAICOCLUB” 略すと、かつて『TAICOCLUB』と呼ばれたフェスティバル。
2006年からスタートした『TAICOCLUB』は、国内外の野外フェスブームも追い風となり、約10年をかけて観客1万人を超える国内屈指のビックフェスへと成長した。が、その絶頂と言っても良いタイミングの2018年に『TAICOCLUB』は幕を閉じた。
その『TAICOCLUB』が新たなビジョンを打ち立て『FFKT』に進化し、開催されたのが2019年。

『TAICOCLUB』主催者メンバー1人の脱退により、『TAICOCLUB』は終了となったが、名称を『FFKT』と刷新し、新たなコンセプトを打ち立てて再スタートを切ったものの、すぐにコロナ禍に突入し、2020年・2021年の2年連続、開催中止を余儀なくされた。そして、その中止を乗り越え、今年2022年5月28日~29日、実に3年ぶり、ついに『FFKT』がこだまの森に帰ってきた。

メインステージ「STEEL」でのパフォーマンス ©️iney/(一社)長野県観光機構

『FFKT』の広い間口

『FFKT』の間口は広い。生粋の音楽好きから、フェスエンジョイ層、加えて音楽好きのファミリー層までを受け入れる、実に広い度量がある。

そこにはアンダー―グラウンドとオーバーグランドの垣根なく、こだまの森というキャンプ場を触媒にしつつ、そこにただ『FFKT』という空間があって「楽しみ方は人それぞれでいいんだよ」と、にこやかに伝えられている、実にピースフルな雰囲気なのだ。

テントスペースとFOODコートを一望 ©️iney/(一社)長野県観光機構

熱狂する観客達① ©️iney/(一社)長野県観光機構

熱狂する観客たち② ©️iney/(一社)長野県観光機構

4つのステージで繰り広げられる音楽の祭典

メインステージの「STEEL」 ©️iney/(一社)長野県観光機構

森の中の音楽ステージ「ONGAKUDO」 ©️iney/(一社)長野県観光機構

Deepなアーティストをメインに起用したダンサブルなステージ「Cabaret」 ©️iney/(一社)長野県観光機構

DJを意識しレコードでのプレイに特化したステージ「ASTRALJAM」 ©️iney/(一社)長野県観光機構

2019年の開催時は3つのステージだったが、今年はステージが1つ増え、4つのステージで、様々なアーティストやDJがそれぞれのパフォーマンスを披露した。
1つのステージに偏り過ぎることがない絶妙なアーティストのラインナップとタイムテーブルで、広大なこだまの森キャンプ場内に設置された4つのステージを回遊できるように主催者の工夫が垣間見えた。

充実したFOODスペース

『FFKT』はFOODも充実している。さまざまな有名飲食店が出店し、たくさんのお客さんが足を運んでいた。

長野県内からは、こだまの森からも程近い長野県伊那市駅前にて、音楽を愛するミュージシャンやリスナーだけでなく、新しいアートやカルチャーを作り出す 地元民に愛される『Momentom・モメンタム』が『FFKT』オフィシャルバーとして出店。地元そば職人が日替わりで店長を担当する、二・八そばの店『そば道場 ななくぼ』が、信州そばを支える飯島産の品種『信濃1号』100%使用の蕎麦を打ち立てで提供していた。

『FFKT』のオフィシャルバーは伊那市にある『Momentom・モメンタム』 ©️iney/(一社)長野県観光機構

『FFKT』オーガナイザーの森田氏・大谷氏が語る『FFKT2022』

主催者の森田氏と大谷氏にお話をお伺いすることができたので、以下に要点を記載しようと思う。

Q:『FFKT2022』が終了して、どう感じているか? A:天気が良かったこともあり、終始、明るく穏やかに雰囲気良くフェスを開催することができた。雨に降られなかったことで、夜のステージにもお客さまが沢山観覧しており、昼・夜共に盛り上がりを醸成でき、無事に終了できたことを嬉しく思う。

Q:これからの『FFKT』をどうしていきたいか、今後のビジョンについて A:どこのイベントとも違うイベントにしていきたいと考えている。新しいことを切り開くイベントを引き続き継続していきたい。同じものを続けても意味がないと感じているので、常に新しいものを探し続けようと思う。例えば、音楽や食だけでなく、その他のものを掛け合わせて、どんどん進化させていきたい。

Q:長野に対してどんな魅力があるのか? A:毎年、フェス2日目の日曜日に気温が高くなり、自宅に帰ってきたら、ちょうど梅雨が始まって、夏になる。そんなシーズナリティ―の境目での情緒感を、この長野のこだまの森で毎年、感じている。また、長野は場所的に、関西圏・関東圏の間ということもあり、音楽好き・フェス好きの皆さまが関東・関西・中部圏からバランスよく来てくれることは、長野県での開催のメリットと感じている。

Q:『FFKT』が思う長野との関係性 A:長野以外のところから来るお客さまが多いので、東京のものだけを提供するのではなく、地元・長野のものを提供した方が、顧客の体験価値を上げられるはず。なので、今後もっと長野のコンテンツを入れていければ良いと考えている。また、会場周辺のお店やイベントの紹介など、こだまの森周辺の地元のコンテンツと連携して絡めると良いと思う。前泊・後泊するお客さまもいるはずなので、食や景観など、さまざまなものを『FFKT』を通して提供していきたいと思っている。

Q:『FFKT』の特徴。他のフェスとの違いや意識している事 A:『FFKT』のアプローチはダンスミュージックだけではないし、ロックだけでもない。狭い価値観に捕とらわれることなく、できるだけ広い層にアプローチできるように意識している。
また、実際に女性DJの出演が多かったり、エコステーションや資源循環コンサルティングを提供するチーム“RECOTECH”との連携を実施していることもあり、声高に掲げることなく、あくまで自然に多様性やエコを推進・体現しているようなフェスとして機能させていきたいと思っている。遊びに来た方が“実はエコな活動を実践している”ようなことができればベストだと考えていて、その一歩目を踏み出せたのが今回の『FFKT2022』。色々な人が来やすい環境になって、自然にどんどん間口を広げるようにしていきたい。

ダンサブルなステージ「Cabaret」の装飾 ©Timothée Lambrecq

『FFKT』がもたらす地方カルチャー構築の可能性

『FFKT2022』の来場者数約2,500人がこだまの森で、昼夜ずっと音楽を体感し、時には踊り、時には熱狂し、時には“chill(ヒップポップ用語で「くつろぐ」「まったりする」「落ち着く」などの意味)”な時間を過ごし続ける中で、「ナイトタイムエコノミー」と「文化観光」の可能性を強く感じた。

まずは、ナイトタイムエコノミーについて、今回の『FFKT』で印象的だった光景がある。お腹をすかせたお客さまが昼夜問わず『そば道場 ななくぼ』に列をなしていたが、疲れをみせず、黙々とそばを打っている職人さん達は本当に生き生きとしていた。普段であれば、眠っている時間に経済活動が行われていたことは、ナイトタイムエコノミーの活性化になっていたことは明らかであった。

次に、「文化観光」。文化観光と聞けば、もしかすると少し重い印象を持つ人もいるかもしれない。が、しかし「音楽」や「アート」、もしくは「食」という一見関係の無さそうなモノを掛け合わせることで、その一翼を担う可能性があるのではないか。『FFKT』をはじめとした音楽フェスが箱だとしたら、音楽、アート、食等の様々な要素を箱に詰め込んで、その要素を丁寧につなぎ紡いでいく。そして、文化が醸成され、人が集まってくる。これこそまさに文化観光のあるべき姿なのではないだろうか。

そんな可能性をやはり『FFKT』に感じてならない。コロナを乗り越えて開催された『FFKT2022』。次年度の開催はまだ未定とのことだが、『FFKT』が更に進化しながら、ここ長野のこだまの森に今後も根付き、そして広がっていくことを切に願う。

メインステージ「STEEL」でのパフォーマンス ©️iney/(一社)長野県観光機構

ダイバーシティ&環境コンサルティング

最後に、前述の“広い間口”を象徴する1つとして、『FFKT』は家族連れが多かったのも印象的だ。託児所付きの『FFKT』保育園も完備し、小さなお子さんがいる方も安心して少しの間だけ子どもを預けて、思いっきり『FFKT』を満喫してもらえるように配慮している。
運営は様々なフェスのキッズエリアを運営する『SMILEKIDS GROUP』で、『TAICOCLUB』時代からの付き合いだ。

また、環境にも配慮しているのが『FFKT』の特徴だ。資源循環コンサルティングを提供する『RECOTECH』の協力のもと、環境負荷の評価、対策を行っている。

『RECOTECH』は、資源循環プラットフォーム“POOL”を活用した、“POOL PROJECT”を立ち上げ、国内外の自治体、民間企業等へ廃棄物に関するソリューションを提案し、持続可能な資源循環をデザインするチーム。『FFKT』では、この“POOL”を活用し、イベントから発生した廃棄物の種類と量を計量し、リサイクル率、CO2排出量などの分析を行い、環境報告書の作成をサポートする。また今回得られるデータの分析によって、次回イベント時の廃棄物の発生抑制のための手法を構築し、目標のリサイクル率に対し分別手法とリサイクル先のコーディネートなどを実施する予定とのことだ。

この流れで、『FFKT』では、ゴミの分別をちゃんと実施するように“ECO STATION”を設置している。ゴミ選別所は無人のものも多いが、『FFKT』の“ECOSTATION”は運営スタッフを配置し、マナーを守れるよう促進する環境をフェス主催側が提供しており、こういった一見当たり前に見えるゴミの分別を促す配慮も非常に好印象であった。

こうした運営側の実直な配慮があるからこそ、誰もが安心して遊びに来られる雰囲気が醸成されるのであろう。

くつろぎながらパフォーマンスを鑑賞する観客 ©️iney/(一社)長野県観光機構

撮影:iney 取材・文:Go NAGANO(木津川)

 

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