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厳しくも美しい雪山の世界「ガイド共にパウダー滑走&バックカントリーへの誘い。そして安全への心得」(冬~春スキー)

いよいよ、本格的なウインターシーズンが始まりました。最強寒波、冬将軍、西高東低という言葉がニュースに並び、スキー場の積雪情報も着々と更新しています。この冬はどんなシーズンになるのか、わくわくしますね。中には、今年こそはバックカントリーを初めてみたい、とそんな方もいらっしゃるのではないでしょうか。バックカントリーに魅了された私は寒いのになぜわざわざ雪山に足を運ぶのか、その初めの一歩を紐解いてみたいと思います。初心者に限らずバックカントリーを楽しむためには安全に関する知識が必須です。長野県内の3つのガイドカンパニーにお話しを伺いました。

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TOP PHOTO:©︎Wataru Sugimura

“バックカントリー”とは何か?

スキーヤーの「動」と、兎の足跡の「静」が重なる。skier:佐藤正昭©️Wataru Sugimura
一本の尾根に1人の滑り手。五竜岳を背景に。skier:江本悠滋 ©️Wataru Sugimura
2本のスプリットボードを1本のスノーボードにして新雪に飛び込む。snowboarder:渡辺佐智(筆者)©️Wataru Sugimura (※スプリットボード:ウォークモードは板を2本のスキーに、滑走モードでは板を繋げて1本のスノーボードに変換させて使う滑走具)

“バックカントリー(Back Country、BC)”とは何か? 一言で伝えるなら、「山の自然な地形と管理されてない雪を滑って楽しむ遊び」、だと思います。誰にも管理されていない場所で遊ぶものですから、自分の知識と経験をフル稼働で考え、全身を使って、歩き、登り、どこを滑るかを判断していきます。

始めたころはパウダー(粉雪)の浮遊感にはまっていましたが、20年以上たった今では、自分の総合力(体力、滑走力、知識、経験)で自然の中で取り組むことが面白い(もちろんパウダーは大好きですよ)と考えています。道具を全部もって自分の足で登らなければ、滑りたい斜面へは近づけません。夏山よりも、雪や天候により複雑になる危険(雪崩や滑落)をどう避けて、一日を組み立てるのか。それから、人気エリアでは他の人との位置関係も重要になってきます。

広い自然環境の中で小さな人間の私に、何ができて、何ができないのか、どこに限界があるのか、その時に雪(自然)はどう反応するのか。答え合わせのできないパズルには近道はありませんが、雪山の神々しさに息をのみ、山の中でいい時間を過ごし、無事に下山すると次の山へとまた足が向くのです。

バックカントリーの楽しみと危険

登山者と滑走者で賑わう八方尾根登山口ゲート©️Wataru Sugimura
雪面に刻まれた数々のライン。登りと滑りのルートファインディングが問われる©️Wataru Sugimura
人気エリアではお互いにマナーも大事©️Wataru Sugimur

パウダーに興味を持ったのは、スキー場コース横のオフピステが最初でした。今ほど非圧雪コースが作られていなかったそのころのスキー場では、正式にパウダーを滑るには、雪が降りたての一番乗りを狙うか、降雪中の圧雪が開始される前に滑るかでした。

ある日、午前中にスキー場の新雪を全て滑り切ってしまいました。最後の一本を滑って帰ろうと、スキー場最上部を目指してリフトに乗っていると、奥に山が見えます。そこには大きな真っ白い斜面がこちらを向いていました。「あそこまで登って、見えるあの斜面を滑ったら気持ちがいいだろうな~」そこから、始まった雪山との付き合いですが、楽しさを知れば知るほど、難しさも感じています。

スキー場のエリア内(ロープの内側)の雪はパトロールによって管理されていますが、境界線のロープを1mでも出てしまえば、そこは管理区域外となり自分で危険を判断して行動する必要が出てきます。登山者は、山の中は管理されていないという認識で行動していると思いますが、積雪という不確定な要素があることにより問題が複雑になります。雪山では、一回行ってGPSなどで記録したルートだとしても、次に訪れたときは積雪状況が変わり前回と安全度は同じではありません。その日のリスクを判断してルートファインディングしていくのがガイドです。

話は少し逸れますが、ガイドの仕事は無積雪期と積雪期に分けて一般的にガイドフィーも変わり、複雑な積雪期の方が高くなります。積雪は時間がたてば変化していくので、インターネットや書籍で学んだだけでバックカントリーに飛び込むのはとても危険です。ぜひ、資格を持っている経験者と共に、初めることをおすすめします。ガイドも多種多様ですから、その中から学びたいなと思うガイドを見つけ、ご自身のスキルアップを進めてみてはいかがでしょうか。適切な学びは上達が早くなりますよ。長野県内でバックカントリーツアーを行っている3つのカンパニーをご紹介します。

〈パワーゾーン白馬〉代表の高橋守(たかはしまもる)さんに伺いました。

パワーゾーン白馬代表、高橋守さん
晴れた日、頭越えのパウダー©️パワーゾーン白馬
雲上での贅沢な一休み©️パワーゾーン白馬

Q:ガイドツアーにはどんなお客さまが参加されていますか
A:「初心者からコアなリピーターまで幅広いですよ。スキーのガイドが多いからか、お客さまはスキーヤーとスノーボーダーで8対2くらいの割合で、スキーヤーが多めです。女性ガイドも在籍しているので、安心感があるという方もいますね。」

Q:バックカントリーギアが良くなり、以前よりも滑りのハードルが下がったと聞きますが、具体的にはどんな道具が変わりましたか。
A:「特に違いを感じるのがスキーブーツです。ここ5~6年で山もゲレンデにも対応できるツアーブーツ(歩行用モードがある)の種類が増えきたことで、ゲレンデと山、両方の滑りが楽しめるようになってきています。軽量で剛性も高くなり専用ビンディングと併せて、1台でどこでも行けるようになりました」

Q:〈パワーゾーン白馬〉の得意なBC(バックカントリー)ツアーや、こんなお客さまに来てほしい、など伺えますか。
A:「二つあります。一つはゲレンデのみを滑っている方。特に基礎スキーヤーに山の楽しみを伝えたいですね。もう一つは、昔スキーをしていたけど止めてしまい、今は登山をしている方。滑走することで広がる山の奥深さを知ってもらえたら嬉しいですね。白馬バレーエリアだけでなく、東北・北海道など雪のある所ならどこでも行きます。温泉に泊まりつつ、雪国・日本を、旅を兼ねて楽しむような大人の企画を用意してお待ちしています」

所在地:長野県北安曇郡白馬村北城5714-2(※集合場所です。事務所ではありません)
TEL:090-1471-6988(※入山中は対応できません)
URL:https://www.powerzone.co.jp/snow/
営業時間:7:00~18:00 ※天候状況等により変更の場合があります
利用料金:(カードキャッシュレス対応)12,000円~(カード可)※レンタル、ファットスキーのレンタルについて相談可

〈ことリウム〉中林寿之(なかばやしとしゆき)さんに伺いました。

〈ことリウム〉メインガイドの中林寿之さん
ダケカンバの森の中の軽い雪を滑る©️ことリウム
飯縄山山頂にて。奥には善光寺平©️ことリウム

Q:どんなお客さまが多いですか
A:「まったく初めてからリピーターまでいらっしゃいます。私(スノーボード)と、パートナー(スキー)の主に二人で運営しており、お客さまもスキーヤーとスノーボーダーで半々です。メインベースの戸隠黒姫エリアは、積雪量は多くないけれど雪が軽く樹林エリアが多いので天気が悪くても中止になりにくいです。木の中はいい雪が残りやすいので、それを目当てにいらっしゃるお客さまも多いですね」

Q:バックカントリーを始めたい方へ伝えたいことはありますか。
A:「初めての方にはアバランチギア(雪崩遭遇時に救助するための道具、雪崩ビーコン、ショベル、プローブを各自で持つ)の使い方をお教えし、山のリスクについてもお話ししています。スプリットボード(スノーボード)の板やビンディングがよくなり、扱いやすく滑りやすくなりました。道具の進化と共に山へのハードルは低くなりましたが、危険がなくなった訳ではありません。楽しいことだけじゃなく、スキー場のロープを越えた外にある危険を知ってもらうようにしています」

Q:どんなガイドツアーが得意ですか。お客さまに楽しんでもらいたいところはありますか。
A:「大人数ではないので小回りが利くのが強みですね。積雪のコンディションやお客さまの足並みによって、柔軟に対応できます。引いては安全度もそれにより上がっていると考えています。山の中での静かな時間を大切にしていて、登るのも滑るのも自分たちだけというような時間をお客さまにも喜んでもらいたいです。」

所在地:営業所はなし
TEL:080-3089-9479
URL:https://www.kotorium.jp/
営業時間:入山中以外などで対応しています ※天候状況等により変更の場合があります
利用料金:10,000円~(カードキャッシュレス対応なし)

〈番亭bamboo tail〉代表の竹尾雄(たけおゆう)さんに伺いました。

〈番亭 bamboo tail〉竹尾雄(たけおゆう)さん
白馬岳をバックに参加メンバーでパチリ©️番亭 bamboo tail
レンタルのご用意あります。スプリットボードも!©️番亭 bamboo tail

Q:どんなお客さまが多いですか
A:「スノーボーダー:9に対してスキーヤー:1の割合です。スノーボードからスプリットボードにチャレンジする方も増えていますね。BCを始める方は徐々に増加していると思います」

Q:バックカントリー初心者向けに今シーズンから始めた取り組みがあると聞きました
A:「無料のウェビナーを定期的に開催しています。30分程の説明と質疑応答の時間を設けて、敷居が高いバックカントリーのきっかけづくりになればと始めました。20代後半から30代のお客さまを中心に参加いただいています。お店にはK2スノーボードのテストセンターを併設しており、レンタルギアの用意もあるので、始めやすいと思います。スプリットも試していただけますし、フルレンタルの場合には事前予約してもらえれば、当日セッティングしてお渡ししています」

Q:バックカントリーのお客様に伝えたい、楽しみとリスクを教えてください
A:「スキー場のように何本も滑れるわけではないので、アドレナリンが出るその1本にかける非日常感を味わってもらいたいです。とはいえ、安全が担保されていないところへ遊びに行くには、練習が大事と考えていて、ビギナー向けの講習で学んでもらえれば。大自然の中で一緒にチャレンジしましょう」

所在地:長野県北安曇郡白馬村北城828-268 TEL:0261-72-2118
URL:https://bambootail.com/
営業時間:7:00~18:00 ※天候状況等により変更の場合があります 利用料金:(カードキャッシュレス対応)11,550円(写真込み)~(カードキャッシュレス対応有)

取材・構成・文:渡辺 佐智

<著者プロフィール>
渡辺 佐智(Sachi Watanabe)
日本山岳ガイド協会認定登山ガイド、雪崩業務従事者レベル2、“THE NORTH FACE”サポート、“LA SPORTIVA JAPAN”サポート。バックカントリーのアシスタントガイドとしてスタートし、一年を通して日本の山を歩いています。季節の中で一番好きなのは雪山。登山初心者から中級者を中心に、安全に長く山登りを楽しめるようなサポート、ガイディングを心がけています。コロナ禍の影響で仕事の幅が広がり、自然の中で感じたことを文章で伝えることにも挑戦中です。

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