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新しいジブン発見旅ー櫻井麻美さんのニチコレ(日日是好日) 第15話
古いモノと素敵なモノが集まる市場 上田市“261(にーろく市)”で一期一会を楽しもう

上田市で開催される3カ月に一度の“261(にーろく市)”。裏道散歩をしながら、自分だけのお気に入りを見つけよう。

更新日:2022/12/13

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裏道と、古いモノ

裏道、という言葉を聞くだけでわくわくする。小学校のころ、本当はいけないのだが、決められた通学路を通らずに、よく裏道から帰っていた。みんなが通る道、ではなくて、みんなが通らない道、が好きだった。そこには、心をくすぐる色々なものがあった。例えば、放置された薄汚れた水槽。中には得体のしれない何かが入っていて(子どもたちの中では、死んだサメと呼ばれていた)、少し恐ろしく、でも、目が離せなかった。あとは、赤いおいしそうな実がなる、生い茂った蔦。こっそり実を口に入れてみたら、産毛が舌に刺さって取るのが大変だった。他にも色々な思い出がある。

本当はそんなわけはないのだけど、私だけが知っている、ちょっと特別な場所。細ければ細いほどいい。そんな裏道が大好きだった。なんなら、今も好きだ。でも、誰も通らない道は、いつしか地図から消えていく。子どものころ通った道も、いくつかなくなっている。それが少し、悲しい。

そんな魅惑の裏道で、3カ月に一度開催される古いモノと素敵なモノが集まる市場があると聞きつけた。裏道に古道具をかけ算したら、その魅力は無限大だ。知ってしまったからには、行くしかない。うきうきしながら、上田市へと向かう。

古いモノと素敵なモノが集まる “261(にーろく市)”

メイン会場の『26bldg』店内は古道具、古本が並ぶ

洋風のものから和風のものまで様々な品揃え

『2bldg』建物外の蔦が印象的。季節ごとに表情が変わる

普段はパン屋さんと古道具屋さんが営業している

通り過ぎてしまいそうな裏道から沢山の人が出てきた

銭湯の倉庫を改装した『26bldg(ニィロクビルヂング)』をメイン会場に、上田市城からほど近くの裏道を中心に開催される、“261(にーろく市)”。“古いモノ”をキーワードに、古道具や古本、手作り作品や食べ物、ワークショップなどが一堂に集まる、3カ月に一度の市場だ。

地図を片手に会場へ向かう途中、細い道から、ぞろぞろと人が出てきた。手に色々な袋をもって、なんだか楽しそうだ。なるほど、ここが会場か。いつもなら通り過ぎてしまいそうな裏道へと曲がる。民家を通り過ぎると、通りが広くなり、お店がちらほらと現れてきた。ふらりと入りたくなる気持ちを抑えて、まずはメイン会場へ進む。

イベントの主催でもある『26bldg』。この日は古道具や古本、飲食の出店があり、訪れた時には中に入るのも難しいほどの大盛況だ。店の外まで商品が並べられていて、人々は熱心にそれを見ている。この建物は、建築に関わることや不動産仲介も行う『石井工務店』が、地域に“開かれた工務店”をめざしてオープンした。普段は1階が古道具店、2階にはベーカリーも営業している。『26bldg』の管理人である宮嶋さんにお話を伺う。彼女は、上田市出身。会場である裏道は小さいころから実際に通っていた道だそう。

「学生のころ、学校サボってそこの喫茶店にいたこともあるんですよ」

ここには、(彼女が青春の大事なひとときを過ごした)創業50年ほどの昔ながらの喫茶店も残る、普段はのどかな道だ。そんな道に、小さい子どもから、お年寄りまで、老若男女が集まっている様子は、なんというか、圧巻だ。
東京で店舗内装やデザインなどの店づくりを手掛けていた宮嶋さん。故郷に戻り、店づくりの楽しさを知る彼女ならではの視点で、空き家となっていた場所に新しい店舗を多数マッチングしてきた。そうして、殆ど人の通らなかった道に、徐々に人通りが増えてきたそうだ。“裏通りから上田市を楽しく”をモットーに、色々なイベントを経て、自分たちも、来てくれる人たちも、みんなが楽しめるイベント、“261(にーろく市)”を3年ほど前から開催している。現在では、どんどんと出店者や参加者が増え、リピーターも多い。

「一緒にやってくれている人たちは、本当にみんな素敵な人ばかりなんです」

歴史や物語がある古いモノや建物。そこに魅力を見出し、ただ新しさではなく、上田市らしさを大切にして楽しんでいく人たちが集うここには、なんだか和やかで、にこやかな顔があふれている。とても暖かいその様子が、初めて来た私にもウェルカムな雰囲気を感じさせる。まだ全然店を回っていないにもかかわらず、既に多幸感があふれ出してきた。

と、その時、店の前の細い道に、車が入ってきた。お話を聞かせていただいていた宮嶋さんと運営スタッフの皆さんがすかさず、「クルマ通りまーす!」と人々に声をかける(彼女は今、車両を誘導する係なのだと、最初に言っていた。主催者でもありながら、当日も忙しくあちこちを回るのだ)。話に夢中になり、引き止めてしまったことを反省しつつ、まずはおすすめされた銭湯へ向かってみよう。お礼を告げ、『26bldg』から徒歩数分の銭湯の会場へ歩く。

マストビジット!象徴的な建物『竹乃湯』へ

『竹乃湯』はぜひ訪れてほしい会場

銭湯×植物の醸す世界観がとても良い

“古いモノ”をテーマに様々な店が出店

元々の銭湯もとてもおしゃれ

脱衣所のロッカーを本棚に

懐かしい電話機

建物自体もとても素敵だ

『26bldg』に這うツタの外観もとても印象的だが、負けず劣らず象徴的なのはやはり銭湯『竹乃湯』だ。女湯と男湯で分かれた入り口(どちらから入っても構わない)に一歩踏み入れれば、小さいころに祖父に連れられて行った、下町の銭湯を思い起こさせる風景が広がる。8店舗が出店しており、所狭しと商品が並ぶのを見るだけで、わくわくする。出店者と参加者の距離がとても近く、優しい雰囲気が漂う。知り合いでも、そうでなくても、どんな年齢の人も、それぞれ分け隔てなく話している様子も含めて、この会場はまさにイベントの象徴だと思わされる。今回は男湯女湯それぞれの洗い場に植物を取り扱う店舗が出店しており、ディスプレイから漂う世界観が、人々を惹きつけていた。タイルと、植物、古道具。全てが引き立て合っていて、とても魅力的だ。

出店者と立ち話をしながら、色々なことを教えてもらった。“261(にーろく市)”のこと、作品のこと、古道具のこと。並んでいる商品の後ろにある、物語を知ることができるのが、楽しい。ネットショッピングでは味わえない、市場ならではの楽しみだ。

とても素敵な雰囲気の、古道具と花を合わせた作品を購入。丁寧に包装してもらった戦利品を大事に脇に抱え、『竹乃湯』を後にする。イベントに参加している、点在する路面店も、若い世代の経営する店が多く、大通りではなく、裏道にあることがまた、雰囲気がある。なおかつ、まちにも馴染んでおり、絶妙なバランス感覚だ(色々な世代の客層がいることが、それを物語っている)。“261(にーろく市)”はすたすた歩くと10~15分程の範囲で開催されているのだが、じっくり楽しもうと思うとその何倍もの時間がかかる。出店者や商品は毎回変わるので、来るたびに新しい出会いがある。なるほど、これは何度も来たくなる。まだ全体を歩けていないので、来た道を戻ろう。

なんだか落ち着く、手作り感

手作りワークショップは小さな子どもも楽しめる

道路に並んだ机で作品作り

“元フルーツ店”では飲食店も出店、こちらも盛況

既存の店舗だけでなくその日だけの出店もあり、毎回楽しめる

「ご自由にどうぞ」を見つけるとつい見てしまう

ついつい吸い寄せられてしまった「ダジャレみくじ」

丁寧に丸められたおみくじは中吉

“261(にーろく市)”の数ある魅力の中の一つに、手作り感、がある。ここでいう手作り感とは、イベントや作品を作っている人の存在が(実際にそこにいなかったとしても)感じられる、という意味だ。先ほどの宮嶋さんや沢山の運営スタッフの方々の存在も、まさにそうだ。会場のまち中にも、あちこちにカラフルなガーランドがぶら下がり、その日の為にセッティングされたワークショップ会場、ガレージに出現した雰囲気漂う店舗もいくつかある。こういう地域のお祭りのような雰囲気が、個人的には大好きだ。おそらく同じような好みを持つ人が多いようで、“元フルーツ店”でやっていたカフェスペース(レトロな家具に斜陽が映える素敵な店だった)は通るたびに満員だった。次回はぜひあそこでのんびりお茶を飲みたい。

大通りを渡った先の柳町通りの一部も会場となっている。人気店も参加しており、こちらも人通りが多い。店頭を覗くと、その軒先には、「ご自由にどうぞ」とメモが貼ってある箱が置いてある。ビジネスです!という雰囲気を微塵も感じさせないこのような姿勢に、とても落ち着くのは私だけではないはずだ。さらに歩くと、駄菓子や手作り作品を売っている店で、「ダジャレみくじ」と題名がつけられたガチャガチャを見つけた。近づいてみると、中にはカプセルがあと2つしか入っていない。だいぶ人気のようだ。来年に向けて、と、100円を入れてつまみを回す。出てきたカプセルの中には丁寧に丸められ、紐でくくられた紙が入っている。中を見ると、中吉。まあまあの1年になりそうだ。ダジャレは…ネタバレになってしまうので、気になる人はぜひ実際に足を運んでみてほしい。

ポカポカと太陽が暖かい日だったが、のんびり回っていたら日が傾き始めた。人も少しずつ少なくなってきたから、そろそろゆっくり見られるだろう、メイン会場へ戻ろう。

古道具でつながる、仲間との出会い

店主が集めた古い瓶はどれもかわいい

食器類や花瓶も多く並ぶ

『古道具にろく』の店頭には沢山の古道具が

市場で見つけた戦利品は、一期一会

先ほど人が多くて入れなかった『26bldg』1階にある『古道具にろく』。イベント終了時刻も近づいて、少し落ち着いた店内に入る。今日、密かに目当てにしていた、古いガラス瓶が並ぶ一角へ(実は、お気に入りのガラス瓶を少しずつ集めているのだ)。沈みかけた太陽の光に照らされた色とりどりの瓶が、宝石のようにキラキラとしている。昔の瓶特有の、柔らかいフォルムや色がどれも私の眼に訴えかけるが、今日は買うのはひとつだけと決めている。悩んだ末に、こっくりとしたミルク色のものに手を伸ばす。会計の際に、店主に瓶を集めていることを話すと、にっこりと微笑み、色んな事を教えてくれた。ここに並んでいる商品は、全て彼女がコツコツ集めたコレクションの一部だということ、そして今ではもう作れない素材のものもあること、当時の状況や歴史についてなど。そして最後に、

「同じ瓶仲間ですね、うれしいです」

と満面の笑みを向けてくれた。そう言ってもらえたことに、なんだか、感動すら覚えてしまった。終始感じていたこの市場の雰囲気の秘密は、きっと、この一言に隠されている。

外に出ると、ひんやりとした風が顔をなでていった。でも、内側はとても温かい。ずしりとした袋を手に下げ、人がまばらになった裏道を抜ける。また、来よう。余韻に浸りながら、会場を後にした。

素敵な場所、素敵なモノ、素敵な人

古い建物を壊してしまうのは、たやすい。建物には寿命があるから、仕方がない部分もある。とはいえ、思い入れのある場所や、昔ながらの場所が、どんどんとなくなっていくのを見るのは、やはり少し寂しい。特に、自分が小さいころに過ごした場所や、思い入れのある場所ならば、なおさらだ。それを引き継いでいく人がいたら。歴史や物語をつないでいく人がいたら。そういう人たちが集まれば、きっと。そこにいた人たちも、自分たちも楽しい、“これから”を作っていけるのかもしれない。

素敵な場所に、素敵なモノと、素敵な人が集まる“261(にーろく市)”は、3の倍数の月に開催する。次回は3月4日と5日。たっぷりその魅力を体験しに、ぜひ足を運んでみてほしい。
 

取材・撮影・文:櫻井麻美
 

〈26bldg(ニイロクビルヂング)〉
https://www.instagram.com/26bldg/
〈古道具にろく〉
https://www.instagram.com/furudogu_niroku/

<著者プロフィール>
櫻井麻美(Asami Sakurai)
ライター、ヨガ講師、たまにイラストレーター
世界一周したのちに日本各地の農家を渡り歩いた経験から、旅をするように人生を生きることをめざす。2019年に東京から長野に移住。「あそび」と「しごと」をまぜ合わせながら、日々を過ご す。
https://www.instagram.com/tariru_yoga/

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