• HOME
  • 自然とアウトドア
  • 未来へつづく持続可能な自然観光を目指して「保護と利用の取り組みが始動!」

未来へつづく持続可能な自然観光を目指して「保護と利用の取り組みが始動!」

この秋、長野県内の2つの高原を訪れました。上信越高原国立公園の「峰の原高原」(須坂市)と中部山岳国立公園の「乗鞍高原」(松本市)です。どちらも標高1,500m付近に位置し、自然環境の豊かな土地。観光と密接に関わっています。
それぞれの地域の観光の維持と環境への取り組みを知ることによって、旅への考え方が広がりました。

20566_ext_01_0_L

次の世代に豊かな自然を残していく そのための楽しみ方とは

小さな国土の中に多様な自然環境がぎゅっと詰まっている日本。はっきりとした四季に恵まれ、都市から自然の中へのアクセスの良さにも私たちは恩恵を受けてきました。慣れてしまうと忘れがちですが、海外からの旅行客が増えたことでその魅力を再認識できたのではないでしょうか。
アウトドアを楽しんでいると、この10年で天候の変化が急速に進んだように思います。降雪の始まりが遅いうえに冬の降雨で雪解けが早く、雪遊びのする期間が限られたり、台風で登山口までの道が崩れたり……変更や中止を余儀なくされることが増えてきました。特にここ数年では夏の最高気温の更新や線状降水帯など、災害が発生するほどの極端な天気が繰り返され、町の暮らしの中にもインパクトを与えています。
当たり前にあったこの恵まれた自然環境を未来へつなげていくには、今までの楽しみ方を振り返り、わたしたちのマインドセットを切り替えていく必要を感じています。
「Go Greenプロジェクトin長野 ~国立・国定公園におけるサステナブルツーリズム推進事業」の一環で、一般募集された2つの旅行商品に参加し、地域の人々がどのように環境を守りながら観光を維持していくのか、その一端をのぞきに行ってきました。

道産子の親子と朝の道草散歩(峰の原高原)

草原の観察。近くで見ると発見がたくさんあります(峰の原高原)

秋雲とトレイルヘッド。伐採した木をウッドチップにして道に再利用(乗鞍高原)

参加者で協力して割ったシラカバの薪(乗鞍高原)

峰の原高原:国立公園内に人が住むということ

峰の原高原と聞くと、標高2,207mの根子岳(ねこだけ)が一緒に思い浮かびます。なんといっても緩やかな尾根が山頂まで続く山並みは美しく、見事な展望が印象的ですね。スキー場やゴルフ場によって管理されているため開けた場所が多く、中腹から見通しがよくなり、北アルプスの稜線が一望できた日には思わず歓声をあげてしまいます。全体が西側に向いた斜面なので日の沈む茜空は神々しく、いつかは“ダイヤモンド槍”(槍ヶ岳に刺さる夕陽)を見てみたいと思っています。このエリアは、スイスのツェルマットをモデルに40年以上前にペンションビレッジの先駆けとして開発されたのだそうです。
初日はそぼ降る雨の中、峰の原高原の集会所「こもれびホール」に20名以上の参加者が集いました。西は大阪、東は東京、もちろん地元長野からも、住む場所も違えば年齢や職業も様々な背景をもった方々です。皆さんの自己紹介から好奇心が窺えました。雨の日はなぜだか話しを聞きたい気分になりますね。峰の原高原観光協会景観整備部長の古川茂紀さん(ペンションスタートライン)のお話にだんだんと引き込まれていきました。
日本の国立公園の特徴は、4分の1が私有地であり、その中に住居も含まれることだといいます。人工物を可能な限り排除する海外の国立公園との大きな違いです。
国立公園の中で、峰の原高原は特別地域ではなく普通地域にあたり、一定の制限がありながらも優れた自然景観を残していく、という役割を担っているのです。かつて日本中にあった草原は、この地でも採草地としての利用がありました。田畑の肥料や土壁などの建材、牛馬の飼料、と聞いただけで現在はもう需要のないことがわかります。峰の原高原において、維持されなくなった草原は10年で森林化していくと聞きました。では、どのように景観を保つ取り組みが始まったのでしょうか。
スポーツ事業を中心に観光誘客戦略を行ってきたこの地域が、新しい試みとしてペンション村の景観や山野草を活用した観光へと、村の財産を再評価しその資源を活用する動きが始まったのが2009年。景観を整備し美しい村作りを行う中で、観光資源を見直した新しい観光スタイルの提案を目的に、観光協会文化事業部・景観整備部がスタートしました。そしてその前身として峰の原の自然と共存し、山野草の保護活動や景観整備を進め信州一美しい村作りを目指すという活動理念の元、2003年に有志が集まり地域づくりのネットワーク、MiNe(マイン)が誕生し今なお活動が続いています。

観光協会文化部景観整備部長・ペンションスタートラインの古川茂紀さん

こもれびホールで熱心に話を聞く参加者。天気のよい2日目

1年に2回、“ダイヤモンド槍”が見えるチャンスがあるサンセットテラス

峰の原高原:草原の保全活動

今まで私が訪れた場所を振りかえると、森林や湿原が多く、草原はあまり馴染みがなかったように思います。「(草原とは)どんなところだろう」と調べていたら、あるテレビ番組で「日本で失われつつある草原」の特集が目に入りました。利用する人が少なくなり、そのまま放置されると草原は森林へと遷移していくのです。それは自然のありのままの姿ではあるけれど、人が関わることで保たれる環境もあるのだという内容を知りました。
ここ峰の原高原で貴重な山野草がかろうじて生き残ってくることができたのは、“毎年スキー場による草刈りがあったから”という話に人との繋がりを感じました。在来の植物と集まる虫、その虫を食べる鳥……と、そこには森林とは違う循環が生まれていくのです。なるほど! 私たちが介入しないことで保たれる自然ばかりを見てきましたが、違う形もあるのだと驚き興味が湧きました。
天気が一変して快晴となった翌朝、古道の一部を引き馬とともに散策します。この一帯には江戸時代、大笹街道(※1)が通っており、その一部は“土手道”として残っています。その頃の旅人の日記(※2)には「ここの荒野の様いわん方なく恐ろし」と表されていますから、よほど困難な道のりだったのでしょう。今は木漏れ日降る森の散策路ですが、山側に盛り土が続いていて、雪の積もった原野で横の土手が道の目印になったのだそうです。そんな話を伺いながら、当時も荷馬として活躍した道産子の親子とともに歩を進めると、その草を食む柔らかい音や暖かい息遣いから往時の想像が膨らんでいきます。
集会所に戻った後、その前の見晴らし台を中心に手入れされた草原を、グループに分かれて案内してもらいました。「昨日までの低かった気温が今日は上がって、蝶々が活動的ですよ」とMiNe(マイン)代表の福永一美さん(ペンションふくなが)が教えてくれます。
周りではエゾリンドウ、マツムシソウ、ワレモコウやアキノキリンソウなど、秋色の花々が咲き誇っています。ぽかぽかと日が当たり色とりどりの蝶が忙しそうに飛び回っていました。人の手が入ると花は増えるのだそうです。
草刈りや外来種の引き抜きは、聞けば聞くほど手間がかかる作業です。特定の植物を対象とした保護・管理に比べて、多様な植物が混在する自然群落の安定した管理は難しく、希少野生動植物保護監視員や、つくば大学菅平実験センターのスタッフの助言も得ながら試行錯誤し進めてきたそうです。そして地道な活動からおよそ20年の月日が経ち、多種多様な山野草が目に見えて増えてきたとのこと。同時に福永さんたちの活動に共感した地域外のファンも増え、ネットワークが確実に広がり始めていると聞きました。草原の生態系と向き合う地域の皆さんのお話を聞くうちに、味わい深い草原の美しさが心に染みていきます。「7月の初夏の花も見てみたいな」そう思いました。
※1 江戸から上州を経て善光寺平までを結ぶ脇街道
※2 江戸の国学者、清水浜臣の綴った『上信日記』

大笹街道へ入る目印

山側(右側)に盛り土がつづく大笹街道の土手道。木々に覆われたここはかつて草原でした

朝の散策につき合ってくれた道産子さんがゴロリ。記念撮影前になごんだひととき

MiNe代表・ペンションふくながの福永一美さん

晴れた翌日、グループにわかれて話しを聞きました

乗鞍高原:藤江佑馬さんと地域ビジョン“のりくら高原ミライズ”

乗鞍岳(3,026m)の東斜面の山腹に位置する乗鞍高原は、温泉とスキー、登山などのアウトドアアクテビティの拠点として親しまれています。私はもっぱら登山、そして下山後に切り離せない温泉、冬はスノーシューイングやスキー場などを楽しむフィールドとして接してきました。
今回は乗鞍高原の環境への取り組みを聞き、木の伐採に参加するために訪れました。山稜が澄み渡る秋晴れの午後、乗鞍観光センターに併設された「GiFT NORiKURA(ギフトのりくら)」へ集合し、お話を伺います。
2016年に移住され今年7年目という“Raicho Inc”代表の藤江佑馬さん。この地にあったホテル雷鳥を引き継いだことから始まり、今では広い活躍の幅をお持ちです。
前述の「GiFT NORiKURA」では、毎朝絞ったヤギミルクからつくるジェラートを中心にこの地ならではの軽食の提供、「温泉宿ゲストハウス雷鳥」では、ワーケーションや現代版湯治、観光などの利用目的に合わせて長期滞在を可能にしています。また、2021年3月に“のりくら高原ミライズ”という地域全体の今後の方向性を示した大きな枠組みを発表されています。この作成には地域の方々と一緒にワークショップに参加し、議論しながら2年ほどかけて考えてきたそうです。
人口減少と気候変動が問題化するなかで、サステナブルな観光業を続けるためにできることから始めたことがきっかけだった、と聞きました。その原動力は並大抵のものではなかったはずだと思い「ゼロカーボンな未来へ向けてのその意欲はどこからですか?」と尋ねてみました。「乗鞍の自然が大好き。高齢化で人が減っていく中、地域は存続の危機にあります。この美しい自然は人の関わりがないと維持ができません。かつては自然と人の暮らしの共存関係の中で当たり前のように守られてきたこの地を持続可能な場所にしていきたいです」という答えをいただきました。具体的でわかりやすいビジョン。それを外部の人へ向けてしっかりアウトプットしていく姿勢と熱意に説得力を感じます。
コロナ禍のワーケーションによる長期滞在で、実際に2拠点生活を始めた方が二人いるのだそうです。移住まではハードルが高くても、一度訪れた人が魅力を感じてまた戻ってきてもらえるように満足度を上げていくことが大事とのこと。トレイル整備などの活動では、地域住民以外にも関わってくれる人を増やすために、人手不足の解消法を模索中です。その行動力に回りの人は求心力を感じるのではないでしょうか。
「山の中腹に位置する乗鞍高原は面白いですよ」という藤江さんの言葉に心の中で深く頷きました。多くの人で賑わう登山口のある乗鞍高原ですが、ほとんどの人は山頂を目指し素通りしていくため、滞在する時間が短くもったいないなと思います。そこには森林限界以下ならではの景観とそこに根付く植生や動物、人の息づいた土地の歴史があり多様で興味深く、天候の影響が大きいアルパインエリア(高木のない場所)とは違い、少々の雨天でも楽しめるという魅力があるのです。

GiFT NORiKURA(ギフトのりくら)前のテラスに集合してレクチャーを受ける

店内奥の黒板には、どんな取り組みや食材が使われているか書かれている

お店の外にある「乗鞍のおいしい水」を給水できる蛇口。(無料、使用可能時間帯あり)

Raicho Inc代表の藤江佑馬さん

温泉宿ゲストハウス雷鳥の玄関ホール。ゼロカーボンへの取り組みについて掲示されている

乗鞍高原:シラカバの伐採はなんのため

乗鞍高原には、かつて松本の酪農家が夏の間の放牧地として利用してきた見晴らしのよい草原がありました。今では成長の早いシラカバやハンノキなどによって、着々と森林化が進んでいます。
伐採は、地域の人たちの取り組みが始まりでした。国立公園内では木を切らない、という環境省からの公布が20年前にあったのです。年月が進むにつれ乗鞍岳の眺望を覆いはじめた森を見るに見かねて、地域の方々が1本1本切り始めたのが最初でした。
2年前からは行政の賛同も得られ、今はゾーン分けをして伐採がされています。切り口から水が溢れるほど水分を多く含んだ木々は、薪として利用できるまでの乾燥に時間がかかります。さらに光が届きにくい森と住環境が接していると、人と(クマなど大型の)動物との接触が起きやすくなるのです。案内してもらったトレイルの一部では、かなり暗い森もありました。
説明を受けた後、私たちも伐採作業の現場に参加させてもらいます。ドーン! と地響きをたてて一本のシラカバが倒れました。「すごい! めっちゃ迫力」と参加者から声が上がります。直径20㎝程のそれほど大きな木ではないのに、体に伝わる振動は予想外に大きく、水の重みを感じました。
伐採後の作業(枝払い、薪割り、クラフト用の枝選び)を手伝わせてもらいます。観光でひと時訪れただけの私たちですが、その土地の少し先の未来のために体を動かして集中する、という充実した時間を過ごすことができました。

斜面で伐採した木を解体しながら、道路へ搬出していく

薪割り体験をする参加者

“玉切り”されたばかりのずっしり重い丸太を運ぶ筆者

切った木材から色鉛筆をつくり絵を描くクラフトワークショップも行われた

乗鞍高原:星空ポテンシャル

星空観察のためのコンディションはなかなか揃いません。街明かりの届かない場所は案外少なく、標高の高いところの方が空気は澄んでいますが、実は高すぎても大都市の明かりの影響(光害)を受けます。
周囲を程よく高い山に囲まれた、夜には完全な暗闇となる場所。さらに霧の発生が少ないことが条件となり、なおかつ夜間行動なので移動が少ないと機会が増えます。
霧の影響は標高1,000m~1,200m辺りが多く、それよりも高い乗鞍高原(1,500m)は、星空を観るのに適した地形だそうです。この夜は残念ながら曇り模様の天気でくっきりとした星空を観ることができませんでした。そこで、地元の星景写真家、筒木猛さんの撮影した写真を見せてもらいました。
漆黒の山の端に、数えきれない星とカラフルで鮮やかな星雲が横たわっています。筒木さんは、「星空ポテンシャルが高い乗鞍高原に何泊か滞在して楽しんでもらいたい」と穏やかな口調で話します。「街灯の少ない乗鞍の星空を今後も守っていきたい」という言葉を印象深く感じました。

星景写真家の筒木猛さん。今までに撮影した星空写真のポスターを背景に

目が慣れてくると真夏の天の川が現れます。光害の影響を受けない暗い夜空が乗鞍高原の魅力。一ノ瀬園地にて【撮影:筒木猛】

土地の取り組みを知ること、その出会いに感謝すること

峰の原と乗鞍の双方で印象的だったのは、保護と利用のバランス、でした。どちらの地域でも人口減少、レジャーの流行り廃りや環境変化を受けて、観光業の存続は大きな課題となっています。けれども地元の人々の暮らしと環境に対して、外から訪れる人への楽しみが釣り合うようにと進められている様子を目にすることができました。
短時間に人気の場所だけを巡るような環境負荷の高い観光から離れつつある私たちですが、そこからもう一歩二歩進む必要がありそうです。一回の滞在を長くする、繁忙期を外す、同じ場所に何度も訪れる、といった時間の使い方にも楽しむヒントがありそうですね。
SDG’sには17の目標がありますが、考え方という土台を変えることで、一つ一つの目標に近づけるように思いました。そしてそれは、心を豊かにしてくれた滞在先の自然の恵みに恩返しをするという想像力をもって行動することで、未来へ繋げられるのではないでしょうか。
旅でなぜ充実感を感じるのか、帰路、車窓を流れる景色を眺めながら考えました。これほど情報に溢れた時代です。事前の下調べで知っていることがほとんどなのに、なぜでしょう? 写真や映像で見た景色であっても、その時の気温、匂い、雰囲気によって、心が反応します。歩いて、見て、話し、体を動かすことによって、「ああ、こういうことだったんだ」と頭の中の知識が腑に落ちて理解に近づき、その心地よい感覚にスッキリします。
そんな景色や人に、また出会い続けていくためには、受け止める余裕が大切ですね。自然を守りながら享受していくその取り組みを応援することができるのは、私たちのより良い、小さな選択の中にあるように感じました。

乗鞍観光センター横のトレイルヘッド。ここからいくつもの遊歩道が整備されている

初秋の峰の原高原。見晴らし台の上から目の前の草原についてお話を聞く

峰の原高原のエゾリンドウとハチ。残していきたい風景

撮影:杉村 航 取材・文:渡辺佐智


〈『Go Greenプロジェクト』関連情報こちら〉

・日本みどりのプロジェクト推進協議会
https://midori-project.jp/

・峰の原高原観光協会
https://minenohara-tourism.com/

・乗鞍高原(のりくら観光協会公式サイト)
https://norikura.gr.jp/

・乗鞍高原ゼロカーボンパーク
https://zero-carbon-park.norikura.gr.jp/

・Raicho Inc
https://raichoinc.jp/
 

<著者プロフィール>
渡辺佐智(Sachi Watanabe)
日本山岳ガイド協会認定登山ガイド、雪崩業務従事者レベル2。バックカントリーのアシスタントガイドとしてスタートし、一年を通して日本の山を歩く。季節の中で一番好きなのは雪山。登山初心者から中級者を中心に、安全に長く山登りを楽しめるようなサポート、ガイディングを心がけている。コロナ禍の影響で仕事の幅が広がり、自然の中で感じたことを文章で伝えることにも挑戦中。

閲覧に基づくおすすめ記事

MENU