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2人のスペシャリストが教える長野県の大自然!とっておきの「生き物」と「星空」に出会う夏

待ちに待った夏休みがやってきます。緑あふれる夏の長野県では、見たことのない生き物や空いっぱい広がる星空など、つながり巡る、たくさんの生命に出会うことができます。親子でたくさんのワクワクに触れる夏を過ごしてみませんか?

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リアルな体験が生み出す感動は、今だけの宝物

コロナ禍、大人の世界だけではなく子どもたちの生活にも、多くの“リモート”が導入され、オンラインでの対話や出会いはめずらしいものではなくなりました。
そうして世界が広く便利になる一方、リアルな体験の価値も同時に見直されています。自分の足でその場に立ち、ドキドキしながら触れる世界。大人も子どもも、五感を刺激されて生まれる感動は、なににも変えられません。

 

見て、触れて、考える。リアルな体験は子どもたちの持つ好奇心をめいっぱい引き出します

今回の記事では、夏の長野県で出会える「生き物」や「星空」について、専門家にインタビューを行い、観察の仕方や考え方のヒントを教えてもらいました。

 

見慣れた景色さえ非日常になる暗闇のなか。怖さがおもしろさに変わるポイントをレクチャーしてもらいます

いつもと違う視点が混ざることで、「楽しい!」「きれい!」から一歩踏み込み、「なぜ?」「どうして?」と思考が働く。この夏、県内にあるさまざまなフィールドで、今までの世界が違って見えるような新しい発見や学びが皆さんを待っています。

たくさんの視点を持った物知り博士

「生き物」について教えてくださったのは、動物学者で『ざんねんな生き物事典』の監修者の今泉忠明先生。動物学者だった父親、その手伝いをする兄の影響を受け、子ども時代は動物三昧の時間を過ごしたといいます。その後は大学で水生生物や哺乳類の生態などを学び、さまざまな動物を調査したり、動物園の解説員、研究所の所長を務めたりしてきた経歴の持ち主です。


優しい笑顔と穏やかな語り口調で子どもたちに向き合う今泉先生。言葉の節々に、心から自然を楽しむ様子が伺えます

今泉先生:「生き物観察は、学校の教科でいえば理科の分野。どんな小さなことでも疑問を持って、“なぜ?”と考えることでおもしろくなります。自分で体験して、考えてみる。山や川にはそうしたチャンスがたくさんあります。」

例えば川なら、まず先生は水の温度を測るそうです。これは周りの環境を想像するための第一歩。通常川の水の温度は、雪解けの0度からはじまって下流へ行くほど高くなります。どの山から流れ出てどの海へ流れ着くのか、地図を思い浮かべると自分が今いる場所が浮かび上がります。

今泉先生:「川の流れのスピード、水の温度や綺麗さ、深さ、周辺の気温など、いろいろな要素で生息する生き物は変化します。まずは今どんな場所で観察を行なっているのか、イメージを膨らませていきます。」

 

地形や歴史を知るのも観察のうち。気づいたことはなんでも記録に残し、家に帰って調べます

今泉先生:「例えば虫を見つけたら、それを食べている魚がいるかもしれない、魚を食べにくる生き物がいるかもしれない。じゃあこの川の最強の生き物はなんだろうって、ひとつのことから連想ゲームのように情報を集めていきます。近所の川と少し遠くの川、同じ川でも上流と下流などで比較してみるのもおすすめです。」

一つ一つゆっくり観察し、メモを取る今泉先生。生き物の観察をするときに大切にしていることは、目線だといいます。

今泉先生:「ちょっと意識を変えて、人間目線ではなく、客観的、科学的に観察するようにしています。例えば、森でムササビが食べたあとのある葉っぱを見つけて木を見あげる。そのとき嗚呼、天敵の鳥に見つからない場所だとかって考えていくと、効率よく姿を見つけられるかもしれません。」

 

幹につけられたクマの爪の痕。削られたはずの樹皮が落ちてしまっていることから、だいぶ古いものだとわかります

身近な「生き物」は見えない自然界への案内役

本州のほぼ中心に位置する長野県は、高い山に囲まれ、海を持たない内陸県です。雄大な山々から里山、盆地へ続く変化に富んだ地形が特徴で、山を起点に日本海へつながる信濃川(千曲川)、太平洋へ流れる天竜川など、いくつかの川も流れています。

今泉先生:「長野県の生き物は、まだまだわからないことがたくさんあります。そこがおもしろいところ。気候で見ると亜高山帯と高山帯。自然の植生が残り、小さな虫からモグラやムササビ、リスなどの小動物、タヌキ、キツネ、カモシカやイノシシなど、大きさも食性もさまざまな生き物が関係しあって暮らしています。」

今回ご紹介いただいたフィールドは、北アルプスの麓に位置する白馬村と、木曽川の源流を持つ木祖村。いずれも雄大な山の懐にあり、日常とは違った景色が広がります。

 

浅瀬で水遊びも楽しい白馬村の平川には、冷たく澄んだ北アルプスの雪解け水が流れます

白馬村にあるHakuba47マウンテンスポーツパークは、冬はウィンタースポーツ、夏はキャンプやマウンテンバイク、本格アスレチックなどが楽しめるアウトドアフィールド。ゴンドラに乗って標高1,200mの森のなかを探検できます。

今泉先生:「白馬の魅力はこの清流と、観察地点の森に落葉広葉樹のブナが残っていること。葉が積もり、腐葉土となった足元に目を凝らすと、苔の間に小さな虫を見つけることができると思います。」

虫がいるということは、それを食べる小動物がいて、さらに大きな動物がいる。ブナの実を食べにくる生き物や柔らかな土のなかに暮らす生き物など、森ではたくさんの痕跡を辿ることができるといいます。

一方の木祖村は、標高1,000mのやぶはら高原にあるこだまの森。複合型レクリエーション施設で、キャンプ場や公園、アクティビティなど、世代を問わずアウトドアライフを満喫できる環境が揃います。

 

豊かな自然が残る森。自ら体験、発見して興味を広げるのにピッタリの場所です ©︎こだまの森/信州やぶはら高原

今泉先生:「こだまの森の魅力は、わずかだけどコナラの林があることです。ドングリの実をつける木で、樹液にブトムシやクワガタが集まりやすい木の一種。ブナ同様に葉を落とすので、足元から頭上まで、よくよく観察してみましょう。」

フィールドで行う生き物観察の楽しみは、動物だけに限りません。木や花の状態、分布している種類をみると、もっと広く山全体の姿が見えてきます。栄養は足りているのか、どんな特徴があるのか。情報を重ねて想像してみると、生き物も植物も、ひとつだけでは存在していないのだと気づくことができるそう。

 

透明の容器や虫眼鏡など、小さな虫たちはちょっとした工夫で観察しやすくなります

今泉先生:「大切なのは自分で体験、発見すること。誰も調べていない、考えてもいないことでも、どんどん深掘りしてほしいなと思います。人に言われてではなく何でもやってみなさい、と伝えたいです。」

五感を澄ませて感じる宇宙県・長野の案内人

「星空」を案内してくれたのは、長野市在住の理学博士、大西浩次先生。長野工業高等専門学校の教授で物理学の教鞭を取りながら、天文学者だったり、星景写真を撮る写真家だったり、いろいろな顔を持つ知識豊富な先生です。

 

おしゃべり上手で求心力のある魅力的な先生。「長野県は宇宙県」連絡橋議会の会長も務めています

大西先生:「子どもの頃から星を見るのが好きで、夏になるとペルセウス座流星群などを観察していました。星の見え方や観察の仕方は、知れば知るほど宇宙が広がります。天文学は歴史や人の動き、科学とも連動していておもしろいんですが、複雑なんですね。シンプルな物理学から宇宙を極められないかと考え、学びを深めてきました。」

天文学者としてはニュージーランドなどにも足を運び、太陽系外惑星を発見する研究を行っている大西先生ですが、フィールドワークや星景写真の撮影地は長野県内も多いそう。

大西先生:「標高が1,000mを超えると空気中の水や塵が減り、星空がクリアに見えます。夏のはじめは北斗七星。ちょうど講座が企画されている夏の半ばから後半にかけては、頭上に天の川が展開します。その両側にある明るい星は、七夕の星として有名な織姫と彦星。まさに七夕の物語が夜空に展開されて見えるんですね。」

 

長野市戸隠にある鏡池も先生の活動地のひとつ。都市部からの光も届かず、観測に集中できます

観測のための環境のよさなどから「宇宙県」と呼ばれる長野県の星空。自然のなかで五感をひらき、全身で感じることが楽しむポイントです。

大西先生:「暗い場所は、目で見えない分ドキドキしますよね。そのちょっと怖いくらいの環境が、集中できていいんです。街の明かりが届かない真っ暗闇では、鼻で感じる匂いとか耳で感じる鳥や虫の声とか、いろんな情報が入ってきます。そよいでいる風なんかも、普段より敏感に感じられるかもしれません。」

そうして感覚を研ぎ澄ませていくと、ひとつひとつ宇宙から届く星の光を見つけやすくなります。

 

空の下には大地があって、立っている私がいる。宇宙に包まれたように感じられる瞬間こそ、星空観察の魅力です

また、観察するときには「独特の奥行きにも注目してほしい」と、大西先生。

大西先生:「目の前の花から、ちょっと遠くにある木々、森、山。その奥には何層かの雲があって、さらにその奥に星が見えてきます。私たちの目で見えている星までの距離は、光の速さで1000年ほど。この立体感は、都市部では見られない特別な景色だと思います。」

過去と現在、いのちがつながる2つのフィールド

1箇所目は長野県飯山市の最北部、なべくら高原にある自然体験型宿泊施設「なべくら高原・森の家」です。木立や池など自然の形を活かした敷地内には、さまざまな研修施設やテントサイト、コテージ、遊歩道などのアクティビティが設置されています。
なべくら高原の魅力は、なんといっても圧倒的な天然のブナ林。昔は日本国土の半分近くあったと言われるブナの林ですが、腐りやすくて建材に向かないブナは多くが伐採されて植林地となり、今ではほとんど残っていません。しかし伐採と共に研究が進み、自然のなかで大きな役割を果たしていることがわかったのです。

 

森の家周辺にあるブナ林は樹齢100年前後。明るいうちにガイドと散策もできます ©︎なべくら高原・森の家

大西先生:「ブナの森は多くの水を蓄える天然のダムであるとともに、たくさんの生き物が命を育む貴重な環境が整っています。空気中に湿気が多いので星空を見るにはクリアではない、という意見もありますが、実は宇宙を感じるにはぴったりのロケーションなんです。」

空と大地は切り離された世界ではなくしっかりくっついている、という大西先生。

大西先生:「じゃあどことくっついているのかと言ったら、それは私たちの命とくっついているのです。それをさらに深めていくと、なぜ世界があるのか、今自分が生きているのか、どんどん新しい疑問が湧いてくるかもしれません。星を見ながら、みんなで宇宙に思いをめぐらせてみたいと思っています。」

 

木々の間から見上げる星空は近くて遠い不思議な世界。足元も整備され、観測初心者も安心です ©︎なべくら高原・森の家

2箇所目は、諏訪郡富士見町にある富士見高原リゾート。白樺エリアやキャンプサイト、色とりどりの花が咲く3つのガーデンなど、自然を身近に感じながらリフレッシュできる花の里です。

 

片道25分の天空カートに乗って到着するのは、標高1400mの山の展望台。デッキに爽やかな風が吹きます

人工的な明かりが少なく星空観察に恵まれたロケーションはもちろんですが、大西先生が思う最大の魅力は、地球の歴史に思いを馳せられるところ。

大西先生:「富士見高原からは、糸魚川から静岡をつなぐフォッサマグナ、諏訪から九州まで続く中央構造線、さらに富士山や諏訪湖を一望できます。諏訪湖はちょうど日本列島が誕生したときに圧縮されてできたと言われていますが、そうして大地が動いた様子が見えることこそ、あの場所で星を見る1番の楽しみだと思います。」

 

富士山を含む日本三大高峰は圧巻。季節の花が咲く展望台周辺の散策も合わせて楽しめます

大西先生:「実は空が晴れて星が綺麗に見られる日は、平均すると1週間のうち2日ほどしかありません。晴れた星空の魅力はもちろんですが、その下に広がる夜の地球が持つおもしろさも体感してもらえたらいいなと思っています。」

夜の探索が綺麗だったと印象に残るか、怖かったと印象に残るかは、子どもによってさまざま。ただ、足元の地球に思いを馳せ、星を見つけ、観察の仕方を知ることで、知らない世界はグッと身近に、怖さはおもしろさに変わる可能性を秘めています。

 

遠くの宇宙を見るから、街の明るさや隣の人の息遣いなど、近くのことを感じられる。夜空には多くの発見が詰まっています

 

いつも身近にあるはずなのに、じっくり深める機会の少ない「生き物」や「星空」。じっと目を凝らし、耳を傾けることで、なにか新しい興味を見つけ、研究がはじまる可能性もあるかもしれません。昼と夜、街と森では気温差があるので上着をお忘れなく。開放的なアウトドアフィールドで新型コロナウイルス感染症の対策を取りながら、まだ見ぬ世界へ冒険に出かけましょう。

制作:フィールドデザイン・撮影:荒井康太、関 亮太・文:間藤まりの

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