new art-culture

新しいジブン発見旅ー櫻井麻美さんのニチコレ(日日是好日)
第2話「ふらりと出かける昼下がり。こだわりの書店を巡る旅」

のんびり起き、気ままに朝食をとりながらこれからの予定を考える。今日はなんだか静かに過ごしたい気分だ。そうだ、あの書店に出かけよう。

更新日:2021/09/30

LINE Twitter Facebook

世界が詰まった本棚から、心沸き立つ旅に出よう

静かに過ごしたい日は、読書に限る。日々忙しく過ごすことに疲れてしまったら、たまにはゆったりと休息の時間が必要だ。そんなときは本の世界に旅に出るのがちょうど良い。
書店は私にとって癒しの場である。静かな空間の中に、床を歩く音、紙がめくれる音が響く。そこにいるだけで、体力が回復してくるような気がする。雨の日は特に最高だ。雨音はもちろん、雨が外の世界とのカーテンのような役割を果たして、ぽつんと浮かんだ空間を作り出す。一歩外に出たらもうここには二度と来られないのではないか。そんな気持ちがして、つい長居してしまう。
電子書籍の利便性も理解しているのだが、やっぱり紙の本から離れられない。なぜだろう、あの手に持った重みやページをめくる時の指の感覚、その時にふんわり香る紙の匂いが好きだ。本棚を眺めるのも愉悦のひととき。その本一つ一つが違う世界への扉となって、私を誘う。ふらりと手を伸ばせば、あっという間にその世界に入り込んでしまうのだ。
書店の本棚には、まだ知らない世界との出会いがたくさん散らばっている。そこにある本を眺めるだけで、なんだかわくわくしてしまう。せわしない日々にすっかり忘れていた、内側から沸き起こるような気持ち。心への栄養も、本は与えてくれる。

本に囲まれながら、心沸き立つ旅に出る。最高の休日を過ごしに、書店に出かけよう。

古い街並みの中で書斎に迷い込む 海野宿 古本カフェ『 のらっぽ』

 

外に置いてある本に誘われて、店内へ。

昔ながらの面影が残る街並みはとても美しい。

店内にはアート系から絵本、山と自然の本などが並ぶ。

座敷にソファの組み合わせは心が和む。

あまりの居心地のよさについ長居してしまう。

店主が今何を読んでいるかがわかる仕掛けも面白い。

 

北国街道の宿駅として栄えた、昔ながらの景色が広がる海野宿。通り沿いには古民家が立ち並び、天気がいいときには北アルプスまで見通せる、歩いているだけでタイムスリップした気持ちになるロケーションだ。『のらっぽ』も築160年程の古民家をリノベーションした古本カフェ。外に置いてある本に誘われて、暖簾をくぐる。
入ってすぐの土間と奥の和室にある壁の本棚には、アート系から絵本、文芸、自然などの本が並ぶ。店主の奥村さんは山登りが趣味で、退職後に念願の山の近くに移住。今まで長い間集めていた自宅のコレクションを処分するため(⁉)に、店を開いたそうだ。つまり、『のらっぽ』は、奥村さんの書斎ともいえる。古民家の雰囲気と相まって、知人の家にお邪魔したような感覚で、ついついのんびりしてしまう。
奥村さんは“本屋に入ると本を買わずには出られないビョーキ”にかかっているそうで、(なんだか私も似たような症状が・・・)「本の処分と言いつつも、新たな本も増えていってしまうのです」と笑いながら話してくれた。本棚に本を並べている時が一番楽しい。そんな本棚を眺めることができて、こちらも幸せな気持ちに。
奥村さんの選書には、センスが光る。もともと日本映画が大好きで、そこから派生して写真や美術へとジャンルが広がったそうだ。本棚を眺めていると、関連本が次々に目に入り、自然と本棚にある本を横へ横へと順番に目で追っている。ポピュラーなものもあれば、ニッチなジャンルも。どこから見始めても、楽しい。たまに挟まっている70年代や80年代の漫画がスパイスになっていて、そんなところがまた、小気味よい。
本棚を前にソファに座り、飲み物片手に本を読む。なんて贅沢な時間なんだろう。古い町並みならではのゆったりした時の流れに、時間を忘れてつい長居をしてしまった。さっきまで空を覆っていた雲がなくなって、格子から部屋に注ぐ太陽の光がまぶしい。
会計を済ませ、お礼を言い店を出る。小脇に抱えたバックにはずしりとした本の重みを感じる。(今日は4冊で本の迷宮から抜け出すことができた。)

*詳しくは《海野宿 古本カフェ『のらっぽ』》☞http://twitter.com/fukagawafura

 

まだ見ぬ世界へ向かうターミナル 佐久穂『新駒書店』

 

以前の食堂の名前をそのまま付けた店名。

店内にはレンタル棚もあり、借主が本を販売するスペースもある。

翻訳出版プロデューサーの店主ならではの選書が光る。

東南アジアの文芸シーンを紹介する季刊誌があるのはここだけ。

階段下のスペースは国内外の出版にちなんだ企画コーナーが。インサイダーならではの業界情報も。

地域に開かれた書店には子どもも遊びに来る。

千曲川を望みながらの読書は捗る。

 

地域に愛された食堂の跡地にその名前を引き継いでオープンした、佐久穂の東町商店街にある『新駒書店』。軒先のスーツケースが目印だ。店内には翻訳出版プロデューサーとして国内外の出版をつなぐ仕事をしている店主、近谷さんのインサイダーならではの目線で選ばれた本が並ぶ。古民家で出会う様々な国の本が、他の書店と一線を画す魅力を放っている。
海外文学と言えば欧米のものがメジャーだが、こちらでは一般的な書店ではなかなか見ることができないアジアの文学作品も人気だそう。日本の作家の書き下ろしたものを英訳した本や、長野や地域に関連した書籍もあり、まさに世界が広がっている。本棚の前に立ちながらも、これからの旅路に思いを膨らませながら出発を待つターミナルのような、そんな気持ちになる。
本とは、時空を超えて人や心をつなぐもの。ああ、こうやって私たちは見たことがない世界をまるで目の前にあるかのように感じることができるのだ。店の奥に歩みを進めると、以前の面影が残る一角にレトロな振り子時計が置いてある。静かな店に響く、時計が時を刻む音を聞きながら、感慨にふけっていると、突然、電車の音が店を走り抜けた。この店の裏には小海線の線路が通っているのだ。タイミングがよければその姿も拝めるかもしれない。
古い民家特有の少し急な階段を登った先にある2階部分には、千曲川を望みながらゆっくりと本を読むスペースもある。「世界と地域が同居している」書店。スーツケースを片手に、これからの旅路に心を躍らせる。そんな臨場感を味わいながら、ソファに身を委ねよう。
「ゆっくりしていって下さいね。」近谷さんの声が遠くに聞こえる。旅から戻ってくるのには、少し時間がかかりそうだ。

*詳しくは『新駒書店』☞https://www.instagram.com/shinkoma_bookshop/

 

ここにはいつでも出会いがある。上田『本と茶 NABO』

 

緑あふれるワンダーランドへの入り口。

カフェを頼めば1冊もらえる本棚。わくわくする。

広々した店内。取材時にはイラストの展示会も行われていた。

子ども向けの本やおもちゃもある。

2階の椅子に腰かけて、カフェタイム&読書。

吹き抜けから見渡す限りの本。ここは天国に違いない。

お茶とマッチする極上マフィン。眺めているだけでかわいい。

すぐ近くにある系列店。宝の山から好みの1冊を見つけよう。

 

国内最大級規模の在庫数を誇るバリューブックスの実店舗、『本と茶「NABO」』。“NABO(ネイボ)”とは、デンマーク語で“隣人”の意味。街や人に寄り添う本屋として拠点である上田に店舗を構えた。新刊・古書を扱うブックカフェで、21年7月のリニューアルオープンに伴い、蔵書数も2倍ほどになったそうだ。
店舗の扉を開ける前、すでにここから“NABOワールド”は始まっている。外とも中とも言えぬ絶妙な幅の通路に置かれた本棚には「店内でワンドリンクご注文の方はこの棚からお好きな1冊差し上げます」と書かれている。こういうちょっとしたアトラクションのような仕掛けが散りばめられていて、訪れる人の心をくすぐる。
蔵書のジャンルは幅広く気軽なものから真面目なものまで、様々な好みに対応する。通常の本棚にも新刊と古書が入り混じって置いてあり、合間に雑貨があるのもおもしろい。(縄文関連の本の隣にあった土偶に目が釘付けに・・・)ネットショップではなかなか味わえないのは、この本棚の内外にある偶然の出会いだ。そしてその偶発性がなんとも痛快に生まれるのは、目的や本質に真摯に向き合い、変容し続けている店ならでは。だから、本を探しに来るだけでなく、ここにはきっと何か楽しい出会いがあるという期待で、つい足を運んでしまう。
スタッフの市川さんのおすすめは、2階の椅子に腰掛け、のんびりお茶を飲みながら読書すること。吹き抜けの店内の本棚を一望しながら読書できるのが楽しいのはもちろん、カフェでは三重から取り寄せた極上マフィンとこだわりのお茶を堪能でき、それが目当てで訪れる人も多いほど。意外な食材の出会いもまた、NABOならではの組み合わせの妙である。
大好きな歌人の本が並んで置いてあるのを見つけ、叫び出したいのを我慢しつつ、(この本棚を作った人と3時間くらい語り合いたい。)来る前には予想だにしなかった本を戦利品として持ち帰った。やっぱり今日もいい出会いがあった。期待は確信に変わる。そうやってどんどんと“NABOワールド”に引き込まれてしまうのだった。

*詳しくは『本と茶 NABO』by VALUEBOOKS ☞https://www.instagram.com/nabo_valuebooks/

生活を豊かにしてくれる、本という存在

書店からの帰り道、ふと見上げた空はすっかり日が傾いている。小脇に抱えた本に、ほくほくした気持ちで帰路につく。
本は不思議な存在だ。読むことでももちろん、手にすることだけでも、なぜか心が弾む。だから、本は隅から隅まで読まれることだけが目的ではない、とすら思う。本を通じての追体験は、読むだけでなく、手にすることですでに始まっているのではないか。装丁、紙の質感、重み。そしてそれが存在しているということ、今ここにあるということ、すべてから意志を感じる。
買った本は、急いで読む必要はない、しばらく本棚に置いていたっていい。ふと気が向いた時に手を伸ばせば本がある。それだけで、なんだか少し日常が豊かになる。書店にはそんな豊かさが沢山詰まっているから、行くだけで気持ちが満たされるのかもしれない。
時と場所を選ばずに、開けばすぐにまだ見ぬ世界につながることができる、本。心沸き立つ旅を、ここから始めよう。

 

撮影・文:櫻井麻美(Asami Sakurai)

 

<著者プロフィール>
ライター、ヨガ講師、たまにイラストレーター
世界一周したのちに日本各地の農家を渡り歩いた経験から、旅をするように人生を生きることをめざす。2019年に東京から長野に移住。「あそび」と「しごと」をまぜ合わせながら、日々を過ごす。
https://www.instagram.com/tariru_yoga/

 

おすすめの記事

この体験をシェアする

LINE
Twitter
Facebook