最大傾斜38度
暮らしが息づく天空の秘境

急峻な山肌に、数十戸の集落が点在する「下栗の里」。
幻想的でありながら、どこか懐かしさも感じる美しい風景とともに、
山と共生する人びとの暮らしや伝統、食文化も体感できます。

健やかで美しい絶景の隠れ里

南アルプスの峰々が間近に迫る山岳地帯。標高800mから1000mの地に浮かぶように広がるのが飯田市上村遠山郷にある「下栗の里」です。最大傾斜38度の急斜面に畑や民家が寄り添うようにあり、その間をぬうようにつづら折りの坂道が走る独特の風景は一度見たら忘れることのできない絶景。「にほんの里100選」にも選ばれています。
車でしか訪れることができない場所ですが、その道のりは道はばが狭く、かつカーブしているので注意して進みます。つづら折りの坂道も抜けて到着するのが、食事処はんば亭も併設する下栗の里駐車場です。ここを拠点に、眺めや里歩きを楽しめます。
駐車場からさらに遊歩道を20分ほど歩くと展望台「天空の里ビューポイント」にたどり着きます。集落を上から眺めた写真はここから撮影したもの。展望台やそこまでの道のりは住民の方が総出で整備されたそう。おかげで美しい風景を堪能できます。

天空の里ビューポイントから見る夏の下栗の里

里歩きでより深く知る下栗の魅力

「下栗の里」の最大の魅力は、ここに暮らす人びとが、土地にある自然の恵みを享受しながら今も畑を耕し、健やかな日常生活を過ごしている点にあります。一般の観光地のように道路などの交通インフラが整備されていないため不便な点もありますが、時季によっては、転がり落ちそうなほど急な斜面を地元の農家の方々が軽やかな足取りで歩き、手慣れた様子で農作業をこなす姿も。訪れた人はゆっくりと里を歩きながら、そんな風景を目の当たりにすることができるのです。ときには行き交う地域の方とおしゃべりをしたり。のどかな時間が流れます。
集落全体が急斜面のため、米をつくることができなかったこの地域では、「下栗芋」と呼ばれる小粒のジャガイモや、ソバ、ヒエ、キビ、アワなどの雑穀、豆、お茶などの作物が多く栽培され、特有の食文化が生まれました。現在も多くの畑で「下栗芋」が栽培されていて、収穫後の畑でソバが育てられています。8月末から9月半ばころまで、真っ白なソバの花の絨毯が斜面の畑一面に広がる光景は、息をのむ美しさです。

斜面に広がる一面のそば畑

この地でしか育たない伝統野菜「下栗芋」

同地区で江戸時代から栽培されてきた、信州の伝統野菜にも選定されている「下栗芋」は欧州系品種の小ぶりなジャガイモで、身はキュッと堅く締まって食感も良く、濃厚な味わいが特徴。この下栗芋は、急傾斜畑が広がるこの地でしか育たないもので、夏・秋の2回収穫できる二化性であることから、「二度芋」とも呼ばれています。
この下栗芋を竹串に刺し、エゴマ味噌などを塗って炭火で炙った「いも田楽」は、県の選択無形民俗文化財にも指定されています。長年にわたり人々の暮らしを支えた食文化は、いまも地域の宝として大切に受け継がれているのです。
そんな山里の暮らしの一端に触れることができるのが、駐車場に隣接している食事処はんば亭です。おすすめは、田舎そばと下栗芋のいも田楽がセットになった「天空そば定食」や、下栗芋のコロッケや手づくりコンニャクの田楽など。地元のおかあさんたちが手作りする里の味を楽しむことができます(営業期間は4月中旬~11月末)。

長野県選択無形民俗文化財の遠山郷の二度芋の味噌田楽(右)と手づくりこんにゃくの田楽

諸国の神々が集う「下栗の霜月祭り」

下栗の里が位置する遠山郷は、日本三大秘境のひとつとしても知られています。この地にあちらこちらに伝わる「遠山の霜月祭り」は、山深く、厳しい自然のなかに残された古い信仰と生活様式を伝える伝統の祭りです。太陽の光が弱まり、あらゆる生命の力が衰える旧暦の霜月(12月)に諸国の神々を招待して湯を献じ、自らも湯を浴びて身を清め、新たな魂の息吹を起こすという湯立神楽で、年の瀬が迫った12月、谷の各所から神楽歌が響き、神秘的な空気に包まれます。
平安時代から鎌倉時代にかけて宮中で行われていた祭事がこの地に伝わり、ほぼ原形のまま伝承されていることから、「遠山の霜月祭り」は国の重要無形民俗文化財にも指定されました。現在は、各地区の9つの神社で、12月1日から順次開催されており、「下栗の霜月祭り」もそのなかのひとつ。毎年12月13日に下栗拾五社大明神で行われています。
「下栗の霜月祭り」は13日の午前9時ごろにはじまり、翌14日の午前3時ごろまではさまざまな神事が行われます。祭りの見所ともいえる面(おもて)の登場は14日の午前0時ごろ。下栗には39の面があり、40回、面が登場して次々と舞いを奉納します。見どころは、日天(火の王)と月天(水の王)が、煮えたぎる釜の湯を素手で跳ね飛ばす「湯切り」と、「四面(よおもて)」の面をかぶった青年たちが観衆に向かって跳び込む場面。また、「下栗の霜月祭り」は古の信仰の姿を色濃く残しているのも特徴で、神事でありながら仏教の般若心経を唱え、数珠を持ち、印を結ぶなど、明治維新以前の「神仏習合」の貴重な姿をいまも留めています。

下栗の霜月祭りの様子。湯立ては4人によって5立行われます。この人数や回数は地域によって異なります

下栗の里の詳細はこちらから

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