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特集『信州歩く観光』❺「古き良き未来地図」でめぐる長野・善光寺門前リノベ街歩き

長野市・善光寺門前には、古い建物を改装した魅力的な店が数多くあります。そうした店を紹介する冊子「古き良き未来地図」は、TOMOYAARTS(トモヤアーツ)こと絵描きの鶴田智也さんが呼びかけ、掲載店の協力によって作られています。冊子を片手に歩く人が増えれば、まちに血が通い、善光寺門前の活気が戻ります。そして次なる建物がよみがえるきっかけを生み、新たな未来地図が描けるのです。そうやって改訂を重ね、第5号を2023年秋に発行予定。掲載店数は第1号の30店から増えに増え、約100店を数えます。新たに生まれた「古き良き店」を訪ね、善光寺門前を歩きます。

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TOP PHOTO:『古き良き未来地図』5 号は A5 サイズ、300 円。掲載店ほか平安堂書店、東京・銀座 NAGANO で販売予定


出発点は、善光寺表参道の「善光寺」交差点。善光寺を背にして表参道に向き合うと、右がそば店「かどの大丸」、左が「サンクゼールワイナリー門前店」です。

建物に目を向ければ、かどの大丸の土蔵造りの建物は1871年(明治4年)築。1階基礎や梁は建築当初のまま残ります。サンクゼールの木造モルタル3階建ての建物は、1924年(大正13年)築。壁の洗い出し仕上げが特徴的で、1901年(明治34年)開業の「深澤洋品店」を前身とします。

善光寺表参道には歴史ある建物が残り、今も変わらず多くの人を迎えていますが、『未来地図』が扱うのは、多くが路地裏の名もなき建物です。店主が自分の価値観にフィットする建物に手を加え、生まれ変わらせています。

「喫茶Si ra fu」で過ごす「素」の時間

善光寺本堂の西側から境内を出て、横断歩道を渡って小路を行くと「湯福(ゆぶく)神社」があります。由緒ある社の正面にあるのが「喫茶Si ra fu(シラフ)」です。

店主の鴨林克彦さんによると、建物は築70年くらい。ということは、1950年代の高度経済成長期に建てられたのでしょう。住宅として使われた後は、しばらく空き家になっていました。

家主が不動産屋に出そうとしていたタイミングで縁あって声をかけ、交渉成立。夫婦で改装し、2022年4月1日にカフェをオープンしました。
「以前から気になる建物ではあったんです。家主さんと直接やりとりできたので、相談にのってもらいながら改修できました」と鴨林さんは言います。

外観は、ほぼそのまま。縁側を玄関に作り替え、凹ませてステップを設けた

朝は8時半から開店し、11時半までトーストか中華ちまきを選べるモーニングセットがいただけます。ランチタイムは14時まで。ピザトーストやパオのセットに、豆乳スープなども選べます。

おすすめは種類豊富なドリンクとスイーツです。季節ごとのスイーツと、大阪・東三国の「珈琲焙煎研究所」がシラフのためにブレンドしたコーヒーをいただきつつ、心地よい音楽と、窓から見える湯福神社の緑にひたる——ずっとここにいられるなあと思っていると、閉店は16時とのこと。

「夕方は、僕がお酒を飲みたくなるので早めに閉めます」。素の自分で過ごせるようにと店名に込めた思いのとおり、ここで過ごせるニュートラルな時間は、お酒好きな店主が素面でいられる時間とも重なっていたのでした。

11時30分までモーニングタイム。トーストセット(650円)または中華ちまきセット(800円)が選べる

喫茶Si ra fu(きっさ・シラフ)
住所|長野県長野市横沢町726
営業時間|水曜~土曜8時30分~15時30分LO
定休日|日・月・火曜
https://www.instagram.com/kissa_sirafu/



店を出ると、湯福神社の緑にあらためて目をうばわれます。地元の人に「湯福さん」と呼び親しまれるこの神社は、妻科神社、武井神社とともに善光寺三鎮守に数えられ、善光寺とも縁の深いお宮です。

境内には善光寺開祖の本田善光の墓と伝わる岩が祭られ、境内のケヤキは市の天然記念物に指定。創建不明の古いお宮は「イブキ(風)の神」として祭られたことが語源といわれるとおり、参道を横切る湯福川を気持ちのいい風が吹き抜けていきます。

湯福神社は、諏訪大社の御祭神である建御名方命の荒魂を祭る

本のある暮らしを提案する「書肆 朝陽館」

善光寺表参道を長野駅方面へ南下。「新田町(しんでんちょう)」交差点の手前に店をかまえる明治元年創業の「朝陽館荻原書店」が、いったん店じまいしたのが2019年末のこと。

長年、まちの本屋として看板を掲げ、店奥の蔵をギャラリーとしてさまざまな企画展を行うなど、地元の人に愛され、長野の文化の源泉といえる場所でした。

それから2年の時を経た2021年12月に「書肆 朝陽館(しょし・ちょうようかん)」として再開しました。しかも喫茶の「皎天ノ刻茶房(こうてんのこく・さぼう)」と、雑貨を扱う「暮らしの品々 栩栩然(くくぜん)」を併設し、より進化しての再始動でした。

蔵造りの店。掲げる看板は明治期のもの。後町小学校の前身である「朝陽学校」にちなむ

未来地図では、専門業者に頼まず自分たちで手がけた肌感覚の「セルフリノベ率」を記載するのですが、店主である荻原英記さんの答えは「95%です」! 床を張り、書棚を作り、電気工事士の資格を取って照明の工事も自ら行いました。

扱う本は新刊のみ。取り次ぎ任せにせず、自分たちで選び仕入れた本が並びます。通りに面して本を読みながら過ごせるカフェがあり、本とともに暮らしの道具や文具が並び、作者を招いてのイベントや読書会などが催され、本を買うだけに留まらない楽しみのあるお店です。

コーヒーはたっぷりとした量がうれしい。豆は荻原さんが焙煎している

書肆 朝陽館(しょし ちょうようかん)
住所|長野県長野市新田町1532
電話|026-217-6616
営業時間|11時~14時、17時30分~23時30分
定休日|火・水曜
https://koutensha.co.jp/



朝陽館を出て左方向、善光寺に向かって歩くと、まもなく「表参道セントラルスクゥエア」があります。

ここは1998年に長野オリンピックの表彰式会場として整備され、その後は長らく駐車場となっていました。2020年に緑地化され、噴水や木陰のある心地良い公園に生まれ変わりました。

緑地化され、ベンチや遊具、トイレもあって、門前散策の憩いの場になっている

まちを考え、育むところ「R-DEPOT」

善光寺表参道の北野カルチュラルセンターが立つ「後町」交差点から西へ50mほど歩くと、旧NTT東日本長野 後町北ビルをリノベーションした「R-DEPOT(アール・デポ)」があります。

代表を務めるのは、善光寺門前の空き家リノベーションを牽引してきた倉石智典さんです。その手腕と人柄で、これまで数多(あまた)の家主の心と、空き家の門戸を開いてきましたが、未来地図でも倉石さんの手がけてきた物件が数多く掲載されています。

移住や創業を志す人に建物を仲介するだけでなく、施工から経営まで相談にのる、その活動の集大成ともいえるのがR-DEPOTです。

「まちづくり」から一歩進んだ「まちづかいの拠点」を掲げ、1階に「まちの案内所」を設け、合わせて「まちの相談所」にもなるカフェと、古道具や古家具を売るショップをかまえます。2・3階はコワーキングスペースやシェアオフィスとして移住・創業を支援する場となっています。

かつてのNTTオフィスビルを改装して「まちづかいの拠点」として始動した

1階の通路を隔てた一角に「LAGOM DOUGHNUT&DRINK(ラーゴム・ドーナツ&ドリンク)」があります。長野市三輪にある「HEIHACHIRO BAKE SHOP(ヘイハチロウ・ベイク・ショップ)」が手がけ、ふわふわもっちりとしたドーナツが人気です。

ドーナツとドリンクはテイクアウトのみですが、R-DEPOT1階のカフェでイートインが可能です(ただしカフェは12時オープン)。

店主の小渕哲さん。お店の営業は10時から16時まで、定休日は月曜

R-DEPOTでは「まちづかい」の一環で、2軒の宿泊施設も運営しています。

ひとつは法律事務所だった建物を一棟貸しの宿に改装した「LAW FIRM(ローファーム)」です。場所は県町(あがたまち)、市立長野図書館のすぐ近くです。モダンな建物の1階には法律事務所時代そのままのワークスペースがあり、仕事をしながらの滞在にもぴったりです。

外観はそのまま。法律事務所の名も残る ©THIRD HOUSE

もうひとつの「松頼庵(しょうらいあん)」は、一転して和風建築の粋(すい)を尽くした日本家屋です。かつて俳人の別荘で、明治・大正時代の文化人が集うサロン的な場所でした。こちらも改装して一棟貸しの宿になりました。

屋根面が丸くふくらむ「むくり屋根」は、桂離宮にも見られる形 ©THIRD HOUSE

*「LAW FIRM」と「松頼庵」に関する詳細は、R-DEPOTにお問い合わせください。
 

R-DEPOT(アール・デポ)
住所|長野県長野市西後町610-12
営業時間|12時~18時
定休日|月・火曜
https://www.instagram.com/rdepot2021/



R-DEPOTを出て、再び善光寺表参道を左へ、善光寺方面に向かいます。

「大門町」交差点にある「ぱてぃお大門 蔵楽庭(くらにわ)」は、門前リノベーションの大きなうねりの起点となった場所です。

旧家の大きな蔵が立ち並ぶ一角にマンション化計画が持ち上がったことを期に、住民有志が立ち上がり、土地を取得。2005年に蔵造りの建物群を生かした商業施設としてよみがえりました。

スペイン語でパティオと呼ばれる中庭を中心に小道がめぐらされ、散策を楽しみ、木陰でひと休みするのにもぴったりの場所です。

廃墟のような建物群がリノベーションによってよみがえり、人が憩う場所になった

精肉店のうまい肉が食べられる「肉の店 牛見」

出発点の「善光寺」交差点に戻り、宿坊が軒を連ねる石畳に歩を進めます。善光寺仁王門をくぐって右へ道を下ると「東之門町」交差点角に「肉の店 牛見(うしみ)」があります。

1943年(昭和18年)創業の精肉店が2023年5月、洋食店を併設した新たな店に生まれ変わりました。先代の急逝を期に、石坂康さんが自店である「USHIMI洋食店」を閉め、4代目として牛見を継いだのです。

門前にあって新鮮な肉やおいしいお惣菜を扱い、学校給食の肉を届ける事業も担い、地域になくてはならない店ですから「宿坊の方に、やめるなよとプレッシャーをかけられました」と石坂さんは笑います。

店名はそのままに、外観は大きく変わってシックな装いに

精肉部門はそのままに、専門店のうまい肉を食べられる洋食店ならではのランチメニューを提供しています。名物は、牛肉のザブトンと呼ばれる部位で作る「Ushimiバーガー」。肉汁したたる「和牛ハンバーガー」も人気です。

ランチの営業は11時30分から14時のラストオーダーまで。テイクアウトも可能ですが、予約がおすすめです。

和牛ハンバーガー(1,600円)はたっぷりの肉汁と特製ソースがからむ旨さ。サラダ、ポテト、スープ付き

肉の店 牛見
住所|長野県長野市東之門町429
電話番号|026-234-0175
営業時間|10時~18時(ランチは11時30分~14時LO)
定休日|日曜
https://www.instagram.com/ushimi_seinikuten/

今回歩いた「善光寺表参道の「善光寺」交差点まで」
JR長野駅「善光寺口」から約1.5km、歩いて約20分。長野電鉄「善光寺下駅」から約650m、歩いて約10分

取材・文:塚田 結子 写真:安斎 高志 イラストマップ:ながはり 朱実

<著者プロフィール>
塚田 結子(Tsukada Yuko)
長野県長野市出身。都内制作会社にて幼児向けコンテンツの企画・制作に携わった後、地元にUターン。長野県の出版社にて月刊情報誌とカルチャー系フリーペーパーを手がける。2011年、元同僚の立ち上げた「編集室いとぐち」に参加。長野県の食・工芸・ワインなど暮らしまわりの企画の編集・執筆と食まわりのスタリングを行う。

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