
TOP PHOTO:坪庭自然園から日本アルプスを一望する
ロープウェイで標高2237mの山上へ

北八ヶ岳ロープウェイに乗って山上へ

山麓の駅舎にはお土産コーナーも

広いレストランもある。下山後の食事に利用したい
強い日光が照り返す6月下旬、梅雨の中休みの晴天をねらって、茅野市・蓼科高原にある北八ヶ岳ロープウェイの山麓駅へ向かった。
ロープウェイの駅舎は、ヨーロッパアルプスの山小屋をイメージさせる素敵な建物。中には広いレストランやお土産売り場がある。限定商品などもあるようなので、下山後にもう一度立ち寄ろう。
100人乗りの大きなロープウェイに乗り込み、空の旅が始まった。乗車時間は約7分。冬はスキー場となる斜面をロープウェイがゆったりと上がっていく。ちょうどレンゲツツジが見ごろを迎えており、斜面のあちこちにきれいな赤い花が咲いていた。
山頂駅でロープウェイを下り、まずは駅舎に併設された展望台「スカイアイ2237」へ。駅舎から広いテラスに出ると、目の前に飛び込んできたのは、山々の大パノラマ。南アルプスから中央アルプス、霞んではいるが北アルプスの峰々も見え、おもわず息を呑んだ。日本三大アルプスを一望できるこの眺めは、唯一無二だろう。
朝の爽やかな山の空気を思いきり吸い込む。ここでのんびり時間を過ごすだけでも良いのだが、天気は快晴だし、少し体も動かしたい気分。山頂駅を出て、坪庭自然園へ向かうことにした。
溶岩台地と縞枯れ現象、北八ヶ岳のふしぎな景観

ロープウェイ駅を出て坪庭自然園へ

散策路は砂利道で段差もある。足元に気を付けて回ろう

溶岩の荒々しい雰囲気を味わう
北八ヶ岳ロープウェイの山頂駅と坪庭自然園があるのは、北横岳(標高2472m)と縞枯山(標高2403m)の中間にある鞍部(尾根がくぼんだ場所)。坪庭自然園はその特異な景観により、国定公園の第一種特別保護地域に指定されている。
坪庭は散策コースが整備され、一周30~40分ほど。体力に自信がない人でも、手軽に山の雰囲気を楽しむことができる。
木道を歩き、急な階段を上がると、風景が一変した。ごつごつした岩が積み重なり、ハイマツやコメツガといった亜高山性の樹々が這うように生育している。坪庭は横岳の噴火で噴出した溶岩が固まってできた溶岩台地に、自然にできた庭園だという。北八ヶ岳というとコケの森が有名だが、ここでは違った表情が見られるのがおもしろい。

山肌が帯状に白く見える「縞枯れ現象」

散策路脇の立ち枯れた樹木が独特の雰囲気を醸し出す
北八ヶ岳エリアには比較的なだらかな山容の山が多い。坪庭を囲む山々も、その稜線をたおやかに延ばしていて、眺めていると穏やかな気持ちになれる。
散策路の上部までくると、三ツ岳や雨池山が目の前に迫ってきた。初夏らしく、山肌は深緑に覆われているが、ところどころ線状に白くなっている。
これは「縞枯れ現象」と言われるもの。樹木が帯状に立ち枯れるという現象で、少しずつ山頂に向かって進んでいくのだそうだ。
この不思議な現象が起きる理由はなんだろうか。調べてみると、北八ヶ岳ロープウェイのホームページに詳しい説明が載っていた。
縞枯れ現象が起きる理由やメカニズムはまだ不明な点も多いそうだが、樹齢が100~150年になると樹々が自然に立ち枯れて、その枯れ木から新しい幼木が生えてくるのだという。森林の衰退ではなく、あくまで森林更新の一種。100年単位での自然のサイクルなのだ。この現象が見られる場所は世界的にも非常に珍しいそうで、縞枯れの模様を眺めながら、自然の雄大さ、神秘さに想いを馳せた。
立ち枯れた樹木は、散策路の傍にも見ることができた。北八ヶ岳は比較的新しい噴火によってできた火山のため、樹木が大きく育つだけの土壌の厚みがない。そのため倒木が多く、コケの森もそれによりできた。一説には、縞枯れ現象もこのような土壌が関係していると見られているという。
高山植物の花々に彩られた登山道

コイワカガミのお花畑

コケモモ。白とピンクの可憐な花をつける

ミツバオウレン。葉が3枚ある「三葉黄蓮」が由来とか

ウスバスミレもあちこちに咲いていた

梅雨時期はコケもみずみずしく美しい
坪庭を一周した後、片道約1時間で登れる北横岳へ向かうことにした。山頂からの眺めも気になるところだ。
登山道をゆっくりと登る。山頂が近づくにつれて、花が増えてきた。標高が高い場所ゆえに大きく目立つ花は少ないが、足元によく目を凝らすと、あっちにもこっちにも、いろいろな花が咲いていることに気付く。
ちょうど見ごろなのか、ピンク色のコイワカガミが群生している。岩陰に目をやると、コケモモやミツバオウレンの姿も。あまり植物に詳しくない私は有名な花しか判別できず、名前の知らない花もいっぱいあったが、愛らしさについカメラを向けてしまう。
「その花の名前、なんていうの?」
私が熱中して撮影していたので、草花に詳しいと思われたのだろうか。年配の女性が声をかけてきた。
「いや~分かりません」と笑って答える。
「あら、私と同じレベルじゃないの」
そんな会話を交わし、思わずふたりで声を上げて笑った。
北横岳山頂から絶景を楽しむ

北横岳南峰からの眺望。南八ヶ岳の峰々を望む

北峰から目の前に大きく蓼科山。山頂の山小屋まで見える
北横岳は双耳峰で、南峰と北峰の2つのピークがある。山頂手前だけが少し急登になり、ふうふう言いながら南峰に到着した。
南側が開けている南峰は、ロープウェイ駅よりもさらに視界が高くなり、三大アルプスの眺望もいっそうみごとだ。涼しい風が頬を撫でて、汗を乾かしていく。
しばらく休憩した後、最高点のある北峰へと向かう。南峰から北峰までは目と鼻の先だ。こんどは北側が大きく開けて、目の前にどーんと大きく蓼科山が姿を現わす。
徒歩1時間でこの景色。ロープウェイってなんてすばらしいんだろう。山頂で思う存分ご褒美感を味わって下山した。
展望台のある山頂駅で「こけももソフト」に舌鼓

山頂駅に併設されている展望台「スカイアイ2237」

「山のカフェ2237」限定の「こけももソフトクリーム」

「こけももクリームチーズ大福」。北八ヶ岳ロープウェイの限定商品
ロープウェイ山頂駅まで戻ると、心地よい疲労感と軽い空腹感を覚えた。小腹を満たすものを求めて、山頂駅の「山のカフェ2237」に入る。目に入ってきたのは「こけももソフトクリーム」の看板。これは美味しそう。
注文して出てきたのは、鮮やかな赤色のこけももソースがたっぷりとかかったソフトクリーム。一口食べると、甘酸っぱいソースとコクのあるミルクの味わいが口の中に広がった。ほどよい酸味が登山後の身体にここちよく染み渡っていく。うーん、至福。
北八ヶ岳ロープウェイの限定品という「こけももクリームチーズ大福」も、まろやかなクリームチーズとこけももの相性が抜群。山麓駅のおみやげ売り場でも販売しているそうで、今日のお土産は決まりだな。
日常では目にしない絶景や花々との出会い。山は、幸せな気持ちをもたらしてくれる魔法の場所だ。心もお腹も満たされて、帰りのロープウェイに乗り込んだ。
【INFORMATION】
◆「北八ヶ岳ロープウェイ」 https://www.kitayatu.jp/
取材・文・撮影:横尾絢子
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