特集・ベールを脱いだ『信飛トレイル』と乗鞍高原の夏を遊ぶ。 Vol.2 乗鞍高原をハイク&バイクで楽しむ『NORIKURA KOGEN TRAILS』
長野県松本市に広がる乗鞍高原は、四季折々の自然を楽しめるアウトドアの宝庫。その魅力を余すところなく体感できるのが、「NORIKURA KOGEN TRAILS(のりくら高原トレイルズ)」です。乗鞍の自然を深く味わう「JOYFUL WALKS NORIKURA(ハイキング)」と、爽快な走りを楽しめる「COMMUNITY MOUNTAIN BIKE TRAILS(マウンテンバイク)」の2つのアクティビティは、初心者にもやさしく設計されています。今回は、このプロジェクトの中心人物である2人に、「NORIKURA KOGEN TRAILS」の魅力と楽しみ方をうかがいました。

絶景が待つ高原トレイル――夏の乗鞍を歩く。
「JOYFUL WALKS NORIKURA(ハイキング)」プロジェクトメンバー藤江佑馬さんは、自然ガイドとして活動しながら、地域に根ざした多彩な事業を展開するキーパーソンの一人です。
「山が好きで、学生時代、乗鞍にも何度か訪れていたんです。その頃から北アルプスに近く、自然が豊かなこの場所にいつか住めたらいいなぁという思いはありました」
大学卒業後は気象情報会社ウェザーニューズに就職し、約10年勤め上げたのち、「やりきった」との思いから2015年に乗鞍へ移住。学生時代にリゾートバイトで訪れて以来、魅了されていたこの地で宿の運営を志し、出会ったのが現在の宿「Raicho」でした。経営の傍ら、スノーシューをはじめとした各種アクティビティのツアーガイドも務めています。
「プライベートな時間に山へ行くことが多く、当初はピークハント(山頂を目指す登山)も行っていましたが、高原内をいろいろ散策するのもすごく好きだったんです。森の中にある池や滝などを巡るだけでも気分がリフレッシュするんですよ」
乗鞍では、紅葉シーズンが終わりスキー場が始まるまでの約1カ月が閑散期にあたります。
「その間、海外へ行くことが多く、よく訪れているのはニュージーランドと南米です。ヨーロッパはじめアメリカやオーストラリア、ニュージーランドなどはハイキングのカルチャーが深く根付いているんですよね。そうして海外でハイクを体感し興味を持ったことがひとつ。また、乗鞍ってどうしても乗鞍岳のイメージが強く、登山だけして帰ってしまう人が多いんです。こんなすてきな高原トレイルコースがあるのに利用する人がとても少なかったので、この魅力をもっと広く周知させたいと思いました」

既存のコースを、年代を問わず多くの人が歩きやすいよう整備し、リブランディングを図った。
「誰もが歩きやすいよう道標を設けました。歩いていただくとわかる通り、細かく看板が設置してあるんですよ」
各看板にはQRコードが付いており、スマートフォンをかざすとGoogleマイマップが表示され、自分の現在地を確認できる仕組みになっている。
「そしてもう一つ。人が多く集まる観光センターの目の前にトレイルヘッドを設けたんです。あの場所が入口となって、トレイルができるという目印になっている。わかりやすい体験コンテンツにしたので、誰でも気軽に参加できるようになりました」
さらに「NORIKURA KOGEN TRAILS」は、地域が取り組むゼロカーボンパーク構想の一翼も担う。
乗鞍高原は中部山岳国立公園の一部であり、2021年に環境省より日本初のゼロカーボンパークに認定。脱炭素やプラスチックごみの削減など、持続可能な観光を目指す取り組みが進められている。
「三本滝や一の瀬エリアなど、名所の近くまで車で行けちゃうんですよね。便利ではあるんですが、国立公園内を車でガンガン走るのはどうなんだろうと。地域みんなで自然を守りたいという思いも強くあり、歩いての散策をお勧めしています」

観光センターから目の前にあるトイイルハイクの入口「トレイルヘッド」。ここをスタートし、3つのコースにわかれていく

コースの所々に設置されている道標

クマ対策に鳴らす手作り感あふれるクマよけも各所に設置
「NORIKURA KOGEN TRAILS」には整備された3本のコースがあり、難易度はそれぞれ異なる。「『一の瀬草原トレイル』や『のりくらトレイル』は整備された道を歩くので山用の装備は不要。靴もスニーカーで大丈夫です。一番ロングコースとなる『三本滝トレイル』はそれなりに歩くので、登山靴の方がいいかもしれませんね」と藤江さん。
「個人的に好きなポイントは『三本滝トレイル』の原生林の径。高原内は広葉樹が多い中、ここは針葉樹であるシラビソの原生林が広がっており、一帯が苔むしていて神秘的な雰囲気なんです」
もう一つ好きな場所として挙げてくれたのが「まいめの池」。藤江さん曰く「乗鞍にいる人、みんなが好きな場所」というように、多くの住民が好きな場所として「まいめの池」を挙げていた。
「池に乗鞍岳がリフレクションするんです。特に朝早い時間帯だとモルゲンロート(早朝に陽光が山肌を赤く照らす現象)が見られ、とてもきれいなんですよ」
ほかにも、見どころはたくさんあり、季節ごと見える景色が違ってくる。そして何より、歩いていることでしか見られない景色や感動があることを、これからも多くの人に伝えていきたいと話す。
「日本って街中の娯楽が充実しているので、自然と触れ合う機会ってすごく少ないと思うんです。特に若者にとっては自然との接点が生まれにくくなっている。乗鞍の将来を考えたら、若い人にもたくさん乗鞍に来ていただきたい。そういう意味でも『NORIKURA KOGEN TRAILS』が自然との接点への入口となる役割を担えればうれしいですね」

善五郎の滝へ向かう散策路

間近でその迫力を感じることができ、マイナスイオンに包まれながら涼やかな時間を過ごせる「善五郎の滝」。冬は氷瀑が見られるという

ここも藤江さんのお気に入りポイント「牛留池」の東屋。晴れていたら乗鞍岳の山頂が顔をのぞかせる

神秘的な雰囲気の牛留池。春にはミズバショウ、秋には紅葉が池の周囲を彩る

乗鞍岳が水面に映り込む絶景がのぞめる「まいめの池」©photoAC
トレイルコース(ジョイフルウォークトレイルマップより)
○コース名:【のりくらトレイル】
距離:約6.5km
標高:1454~1600m
所要時間:約3時間
体力度:★★☆☆☆
○コース名:【一の瀬草原トレイル】
距離:約8km
標高:1454~1518m
所要時間:約2.5時間
体力度:★☆☆☆☆
○コース名:【三本滝トレイル】
距離:約11km
標高:1454~1850m
所要時間:約6時間
体力度:★★★☆☆
全体マップ
https://trail.norikura.gr.jp/wp-content/themes/trail/asset/img/JWN%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%88map.pdf
DATA
【「JOYFUL WALKS NORIKURA(ジョイフルワークスのりくら)】
問い合わせ: 0263-93-2147乗鞍観光協会
利用期間:通年
HP:https://trail.norikura.gr.jp/
Googleマップ : https://maps.app.goo.gl/bGEKvGQPabkbxMro9(乗鞍観光センター)
マウンテンバイクで夏の乗鞍を駆け抜ける。
もう一つのアクティビティ「COMMUNITY MOUNTAIN BIKE TRAILS(マウンテンバイク)」を担当するのは、株式会社ノーススター代表の山口謙さん。宿泊施設とアウトドアスクールの運営を通じて、地域の自然体験を支えるキーパーソンだ。
2006年、家族とともに東京から乗鞍へ移住。前職時代にノーススターに宿泊した際、前社長との出会いをきっかけに、後継者として声がかかったという。
「長女が生まれたばかりのタイミングだったので、東京で子育てするよりは自然豊かな場所でと決断しました」
登山ガイドの資格を持ち、冬はスキーやスノーボードのインストラクターとして活動。スノーシューやバックカントリーのガイドもこなすなど、アウトドア全般に精通している。マウンテンバイクとの付き合いも長く、PMBIAレベル2のマウンテンバイクガイド/インストラクター資格を有する。
「乗鞍の地形は勾配が緩やかで、MTBに最適なんです」

私が入る前からノーススターにはマウンテンバイクのアクティビティはあったんです。自分もお客さん時代に何度も経験させてもらっていました。ただ、ちゃんとした許可をとっていなかったり、道も整備されていなかったりなど、かなりゆるい感じで営業していたんですよね」
「NORIKURA KOGEN TRAILS(のりくら高原トレイルズ)」としてプロジェクトが本格始動した際、山口さんがまず取り組んだのが、地主や関係機関への使用許可の申請だった。
2014年には「トレイル研究会」が発足し、2018年には環境省による「国立公園満喫プロジェクト」が始動。
「そこから一気に環境省も前向きになり、これまで使用が認められなかった地域についても、許可が得られるようになったのです」
道の整備や看板の設置も、ほとんどをトレイル研究会のメンバー自身が手がけたという。
「看板を設置するのにも許可が必要なんですが、山道ってそれぞれ管理者が違うんですよね。例えばこの道は松本市の管轄、ここからは環境省というように。また、今までは窓口もなく、どこに相談したらいいのかわかりにくかったので、窓口や管理体制を一本化しました」

山口さんお気に入りの場所「わらび平」©ノーススター

スキルアップコースなど、経験者向けのコースもある ©ノーススター

「県内でもマウンテンバイク専用のコースができているので、少しずつですが、層が広がってきているのはうれしいですね」(山口さん)
「乗鞍に来る人はみんなアクティブな人たちなので、登山だけでなく麓でもハイキングやマウンテンバイクを楽しんでもらいたい、そんな思いから『NORIKURA KOGEN TRAILS』がはじまったんです」
ハイキングとマウンテンバイク、2つのアクティビティコースが整備されたことで、登山以外の楽しみを求める人にも門戸が開かれ、少しずつ認知も広がってきた。
「うーん、でもまだまだマウンテンバイク人口って少ないですよね。去年の利用者は300人ほど。整備するのにもお金がかかるので、もっと多くの人に利用してもらいたいのですが…」
現在の目標は、マウンテンバイクの利用者をさらに増やすこと。
「乗鞍は他エリアのコースに比べ、斜度が少ないので初心者でも走りやすいです。でも、自転車に乗れるからといって、すぐにMTBでいろいろなコースを走れるってわけではないんですよね」と山口さんは語る。
ノーススターでは、平地での基本レッスンに加え、インストラクターが同行するガイド付きプランも用意されており、初心者でも安心してMTBの魅力を体感できる。
「これからも利用者が増えるようなことを考えていきたいです。MTBのレンタルをはじめたり、来年に向けて新しいコースをオープンしようと、今準備を進めているところです」
「NORIKURA KOGEN TRAILS」が生み出す新たなアウトドア体験は、乗鞍を訪れる人々の楽しみの幅を広げるとともに、地域との新しいつながりを築くフィールドとして、さらなる進化を遂げようとしている。

写真は6月頃、ガイドツアーでおそめ池の周りを走っている様子 ©ノーススター

参加者に合わせコースを設定。家族みんなで参加できるガイド付きツアーもある ©ノーススター
全8コースのうち、編集部がおすすめする3コースを紹介
○コース名:【レンチラン】
以前は牧場(レンチ)だったエリアの作業道を利用した比較的平坦な周回ルート。ロングループ(1.8km)とショートループ(1.2km)がある。緩い上りを頑張ると乗鞍岳を望む雄大な牧草地の下りを楽しむことができる。

○コース名:【ラウンザベース】
乗鞍BASEを周回する、半分以上がサイクリングロードを含むルート。トレイル部は緩い下り。下り切ると短距離の上りがあるので注意。初心者向け。

○コース名:【ディープフォレストクリーク】
かつて林業が盛んだった時に木材搬出用に作られたトロッコの道と林道を再利用したトレイル。全体的に斜度は緩いが途中に急斜面やテクニカルな箇所があるため注意が必要。経験者向け。

DATA
【NORIKURA COMMUNITY MOUNTAIN BIKE TRAILS(のりくらコミュニティーマウンテンバイクトレイルズ)】
https://trail.norikura.gr.jp/ncmt/
利用期間:5月上旬~11月上旬
MTBガイドツアー問い合わせ:ノーススター
HP:https://ridenorthstar.com/activities/bike/
Googleマップ : https://maps.app.goo.gl/cX2FjV1UHZfq5LPq7
撮影:宮崎純一 取材・文:大塚真貴子
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