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新しいジブン発見旅-櫻井麻美さんのニチコレ(日日是好日)第28話「美しきブルーアイスを探しに 茅野 横谷渓谷へ氷瀑を見に行こう」

冬にしか見られない美しい景色のひとつ、氷瀑。時が止まったような氷の彫刻は、私たちの心を惹きつける。雪に覆われた横谷渓谷で、スノーハイキングをしながら氷瀑巡りに出かけよう。

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冬、信州、白

冬。雪や氷で、信州の景色は白が多めになる。全てを覆いつくした雪が地面にこんもり柔らかな白い線を描くのと対照に、山々はその荒々しい肌が雪の白によってより際立つ。晴れれば青空から降り注ぐ日光がその白をさらに輝かせて、目を開けていられないほど眩しい。厳しい寒さが織りなす真っ白な景色は、とても神々しい。

そんな信州の冬の楽しみの王道は、スキーやスノボなどのウィンタースポーツだ。しかし、残念ながら私はスピード感のあるスポーツが苦手である。だから毎年、カーリングに、スノーシューなど、王道以外の冬の楽しみを見つけることがルーティンになっている。さて今年はどんな風に冬を楽しもう?そう思っていたところ、ふと目に入ったのが“氷瀑”だ。

滝。滝というと、私にとっては、何か掴みどころのない不思議な存在なのだった。あの、上から水が流れ出して、それが下の水面に当たって弾けるもの。絶えず水が流れるからずっとそこにあるように見えているけれど、その実、水は常に変化し続けているものであり、一瞬たりとも同じ瞬間、形はない。

滝とは、流れている水のことをいうのか、軌跡のことをいうのか、水が落ちるその現象のことをいうのか、それともそれがある場所のことをいうのか。みなは何をもって滝と言っているのだろう?そんな風に考え出すと、頭が混乱してくる言葉のひとつである(国土地理院による定義としては、水が落下する“場所”のことをいうらしい)。

ただ、今回は氷瀑。凍った滝である。つまり、ずっとそこに固定されている。ああ、それならば実体として、よりそこに“存在している感”があるなあ、などと、あれこれ考えながら、なによりツアーのサイトに載っていた写真の美しさに惹かれ、ツアーに申し込むのであった。

真っ白な山道を抜けて、バス停に集合

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集合場所の横谷峡入り口バス停に到着!

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駐車場やトイレもあるのでとても便利だ

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雪道ならではの装備品、チェーンスパイクを持って出発

ツアーの集合場所は、横谷峡入り口バス停。我が家から車で向かうには、女神湖を過ぎ、ヴィーナスラインを通るのだが、途中の山道は雪と氷で覆われているところも多い。景色としてはとても美しいのだが、車で通るには気を付けなければならない。滑らないようにゆっくり慎重に走らせていると、急にカーブで現れた対向車がなかなかのスピードを出していて、対向車線にはみ出してくるということが数回あり、ヒヤリとしながらも何とか現地へ辿り着く。

集合場所でうろうろしていると、バスが止まり何人かの女性が降りた。そのうちの4人組のグループも、同じツアーの参加者のようだ。声をかけ、挨拶をする。彼女たちは東京から日帰りで来たという。その後、車で来た男女2人組も合流し、メンバーが揃った。バス停で待ち合わせなので、自家用車組とバス組、どちらも参加できるのが、良い。

みんなでおしゃべりをしていると、少し遅れてガイドさんが到着。なんでも途中でスタックした車がいて、遠回りせざるを得なくなってしまったという。やはり雪道、恐るべし。さっきの車とぶつからなくてよかった、と改めて胸をなでおろす。冬は、美しさだけでなく、厳しさも持ち合わせていることを忘れてはいけない。

今回ガイドを務めてくれたのは、石川さん。世界一周をしながら山を登っていたという彼は、スイスとネパールに住んだこともあり、5~6000m級の山々も数多く経験している。今は県内に住みながらガイド養成やツアーの企画も手がけるプロフェッショナルだ。
いや~大変でした~、と朗らかに話すその雰囲気はとても親しみやすく、到着してすぐにも関わらずみんなの心を一気に掴む。自然に親しんでいる人特有の、想定外の出来事にも動じないオーラが、その話しぶりから滲み出ている(海外での経験も長いから、さらに、なのだろう)。

皆が揃ったところで、ツアーもスタートだ。今回は、3つの滝を巡る。装備品などを確認し、雪道を歩くためのストックとチェーンスパイクを渡されると、気分も盛り上がる。さて、どんな景色に出会えるだろう?石川さんを先頭に、みんなで一列になって歩き出した。

和気あいあいとツアースタート

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和やかな雰囲気でツアーはスタート

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途中からチェーンスパイクの出番。一人ひとりきちんと装着できているか確認

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ガイドの石川さんは軽アイゼンを装備。色々な道具があっておもしろい

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登山道具ってなぜこんなにも気分を盛り上げるのだろう?

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ざくざく進む。視界はどんどん白くなっていく

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崖の中腹にある穴がカモシカの巣だそう。誰も近づけなさそうだ

まずはスパイクを付けずに、のんびり歩こう。氷瀑というと、時間をかけて山奥までいかないと見られないかと思っていたが、今回のツアーは所要時間3時間。上り下りもほとんどない、短時間で氷瀑を見に行けるお手軽なコースだ。終始、他の参加者とおしゃべりできるくらいのペースで進む。4人組の女性たちは登山に慣れている雰囲気で、このメンバーでも何度か行っていると教えてくれた。2人組の男女は連泊中に参加しているとのことで、初心者だと話していた。こういう出会いは、ツアーならではだ。

和気あいあいとした雰囲気で歩いていると、武田信玄ゆかりの木戸口神社に差し掛かった。歴史的な背景や関連知識などを、石川さんがクイズ形式で軽妙に紹介する。四隅に建てられた木の柱は、御柱(おんばしら)。区切られたお宮は、外から守られているようで神聖さがひときわ増している。
説明ごとにみんなから、へえ~とか、おもしろい!とか、口々にリアクションが飛び出し、盛り上がる。一人ひとりに対する石川さんのさりげない気遣いで、全員リラックスしているのが感じられた。

神社を通り過ぎ、少し歩くと、横谷温泉旅館が見えてくる。大正12年創業、風格がある渋い建物だ。立ち寄り湯を利用する人もちらほら見える。帰りがけに入るのも、気持ちよさそうだ。
案内看板に従い旅館を抜け、雪が深くなる手前で立ち止まり、装備を整えよう。石川さんが順番に、先ほど渡されたチェーンスパイクを装着してくれる。

チェーンスパイクは靴底に装着するタイプの滑り止めで、雪が少ないときはこれで十分だと石川さんが教えてくれた。もう少し雪が多いと軽アイゼン、さらに増えるとスノーシューと、道の状態によって必要な装備が変わってくるのだそう。なるほど、素人にはとても勉強になる。
以前スノーシューを履いた時は、歩き方に少しコツがいったが、チェーンスパイクは付けているのを忘れてしまう程、自然な装着感だ。とはいえ、とげとげがついているので、しっかり雪を踏みしめて歩くことができ、とても軽快。こういう装備品をつけると、かっこよくてわくわくする。

再び一列になって歩き出すと、少しずつ周りの景色の様子が変わってきた。両側の崖は雪で覆われ視界は白くなり、冒険に来た感が一段階アップする。みんなの気分も盛り上がり、それに比例して写真を撮る頻度も上がる。道は険しくないので、気軽にカメラを取り出せるのが良い。

景色を見ながら歩いていると、雪の上にぽつぽつと穴が見えた。足跡だ。これは、何の動物のものだろう?と、みんなで推理し合う。ツアーの仲間たちとするそんなやりとりもまた、楽しい。何より足跡たちはかわいらしく、見ているだけで癒される。
「あれは、カモシカの巣ですね。」と、石川さんは崖にある洞穴を指した。断崖絶壁の中腹。あんなところで、くつろげるのだろうか。空っぽの巣にカモシカが寝そべる様子を思い浮かべる。ううむ、やはり、随分とスリリングな家だ。
こんなふうに、コースの最中では、所々で動物の気配を感じることができる。でも、これだけわいわいしているから、きっとクマは出てこないだろう。

そうこうしているうちに、「さあ、着きましたよ!」と先頭から声が聞こえた。顔を上げると、そこには迫力の凍った滝。おお~、と歓声が上がる。第一の氷瀑へ到着だ。

“霧降の滝”に到着!

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間近で見る氷瀑は、当たり前だが本当に氷なのだ

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遊歩道沿いに氷のカーテンのようにそびえ立つ

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撮影グッズのアイスバイルを取り出す石川さん。アイスクライミングについても教えてくれた

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霧降の滝は一部氷結。上から見る眺めも良い

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所々にある看板のマイナスイオン指数で癒し度が分かる

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滝の上方に流れる温泉。香りや流れた後の色からも鉄分を感じる

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こちらは氷筍(ひょうじゅん)。こちらも自然が作り出す彫刻だ

遊歩道沿いにある氷瀑は、触れることができるほど近くで見ることができる。まじまじと見つめてみると、当たり前なのだが本当に氷で、白っぽさの中にも透き通って見えるところがある。日陰にあることで、溶けることなく美しい氷瀑へと成長するのだという。
「写真撮影タイムでーす!」荷物を下ろして、思い思いに写真を撮る。私たち以外にも、高そうなカメラを持った人が数人。やっぱりここは、撮影スポットなのだ。

ここでおもむろに石川さんが、アイスバイルと呼ばれるアイスクライミング用の道具をリュックから取り出した。撮影用にわざわざ持ってきてくれたようだ。なんてサービス精神旺盛なのだろう。本格的な道具の登場に、撮影はさらに盛り上がる。

お向かいには“霧降の滝”があり、雪に囲まれながら流れるその様子も、美しい。近くには看板が立っていて、「マイナスイオン指数20000個/cc」と書いてある。マイナスイオンは個で数えるのか。とにかく、気持ちが良いことに間違いはない。

ひとしきり撮影会を終え再び荷物を背負い歩き出すと、今度は“氷筍(ひょうじゅん)”を発見。滝や氷柱(つらら)のように、上から固まるのではなく、下から成長する氷なのだという。自然の作り出すその美しい透明に、しばしため息をつく。
また、その先には“鷲岩”と呼ばれる大きな岸壁が現れた。とてもワイルドで、繊細な氷とはまた違う魅力がある。柱状節理と呼ばれ、火山から流れた溶岩が冷え固まった、柱状の特徴的な岩だ。「八ヶ岳が火山だという、証拠ですね。」と、石川さんが教えてくれた。
その他にも、石の上の苔に生えた面白い形をした大木もたくさん見られ、ほんの少し歩いただけで見どころがたくさんあって、忙しい。豊かな自然の営みに触れられるのは、ここが恵まれた条件の場所だからなのだろう。

ストックを突きながら少しだけ坂を上ると、遠くに開けたところが見えてきた。そこに、ほんのり見える、シャープな氷。もしかして、あれは。そう、本日のメイン氷瀑、“屏風岩”だ!

圧巻の氷瀑と焼マシュマロ

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今回のツアーのメイン氷瀑、屏風岩!

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広範囲にわたり美しく凍り付いた滝、中央にはブルーアイスが見える

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氷瀑を眺めながら焼きマシュマロ。贅沢な時間だ

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途中発火したので(!)焦げてしまったが、甘いものが体に染みわたる

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何でも出てくる石川さんのリュックはとっても重い。不測の事態に備えて色々なものが入っている。ありがたい

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氷瀑も良いが、白い景色に流れる川も見どころだ

先ほどの氷瀑も美しかったが、“屏風岩”に出来上がった氷の芸術は、さらに規模が大きく迫力がある。こちらは冬の期間だけ現れる“滝”なのだそうで、通常は岸壁にちょろちょろと水が出ているだけらしい。それが寒さによって少しずつ凍って、こんなに大きな氷瀑になるのだから、自然の力はやっぱりすごい。
中央には、青みがかった部分が見える。ブルーアイスとも呼ばれ、中に空気があまり入らずに氷が出来上がると、こんな風に青く見えるのだという。真っ白の景色の中に映える青は、ほんのり発光しているように浮かび上がる。なんてきれいな色なのだろう。

「ここで、皆さんにプレゼントがあります!」

石川さんは、再びリュックからごそごそと何かを取り出した。バーナーと、マシュマロ。温かい飲み物と共に、焼マシュマロをごちそうしてくれるという。一同、子どものように、わーい!と喜ぶ。自然の中にいると、人との距離が不思議と近くなる。さっき初めて会ったばかりの人とこんな風に喜び合えることができるのが、冷静に考えると、ちょっとおもしろい。
みんなで火を囲み、串刺ししたマシュマロをバーナーにかざす。時に焦げたり、発火したり(!)しながらもおいしくいただく。氷瀑を見ながらこんな経験ができるなんて、とてつもない贅沢をしている気分だ。

ほっと一息つきながら、改めて氷瀑を眺める。真っ白な世界に、浮かぶ青。幻想的で、吸い込まれてしまいそうだ。滝は凍っていても、やっぱり不思議な存在だ。流れる水と、それが作り上げられた時間、全てがここに閉じ込められている。もしかしてその裏を覗けば、違う世界が広がっているのではないか、と、つい夢想してしまう。

マシュマロと氷瀑を堪能したら、「ではそろそろ、向かいましょう。」
石川さんの一言に、みな集合する。さあ、最後の“乙女の滝”へ出発だ。

豪快な乙女と、仲間との別れ

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たっぷり氷瀑を楽しんだら、来た道を戻ろう

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石の苔に生える木々。ただ歩いているだけでも気持ちが良い

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清々しいほど飛び散る乙女の滝。最後の締めくくり

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開けたところから見える遠くの稜線。冬の山は美しい

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夕日に照らされて光る氷をみんなで必死に撮影、バスに遅れないよう程々に…

来た道を戻り、分岐で先ほど通らなかった道へ向かう。上り下りが少しだけあった先に、豪快な滝が現れた。こちらは“乙女の滝”と名付けられている、江戸時代に作られた農業用水路の一部だ。南向きの滝なので太陽の光で水しぶきが照らされて、清々しい乙女の様相だった。高低差があり水量も豊富、滝までの距離感も近く、臨場感にあふれている。
今日はいろんな滝を見たが、滝と一口に言っても、どれも個性があって面白い。控えめな滝、優美な滝、豪快な滝。今回は滝の魅力を改めて知ることができたような気がする。

最後の締めくくりにふさわしい大迫力の滝を眺めたら、そろそろ帰路に着こう。バスの時間に間に合うように、集合場所へ戻る。渓谷は、歩いている時はあまり日差しが入ってこなかったが、帰りがけは傾いた日がキラキラと道の氷を照らして輝いていた。
私を含む後方のメンバーで夢中で写真を撮っていたら、気づけば随分と先頭と距離が空いてしまった。「急げ、石川さんに怒られちゃう!」と半ばふざけながら急いで前に追いつくと、石川さんはもちろん全然怒っていなくて、なんかいいもの、ありましたか?と、笑った。まるで引率の先生に従う生徒みたいで、学生時代に戻ったような、懐かしい気持ちになった。

自由な生徒たち(?)はケガもなく、無事にバス停に到着し、ツアーはここで終了。すぐに帰るのはなんだか名残惜しくて、しばしそこでおしゃべりをした。けれど、あっという間に時間は過ぎて、自家用車組と別れを告げ、バス組ともそろそろお別れの時間だ。

「また、どこかで。」

旅先で出会った人と交わす、別れ際の挨拶。私はこの言葉が、とても好きだ。笑顔で手を振り、それぞれの帰路に着いた。

絶えず流れ続ける、掴みどころのない滝。あるような、ないような、でもやっぱりあるもの。偶然出会った人との旅の思い出も、同じようなものかもしれない。
振り返れば夢だったのではないかと思うほど、朧げで、時には相手の名前すらわからないこともある。でも、確実にその思い出は胸の中にあって、思い出す度に胸が暖かくなるのだ。

滝って、掴みどころがないからこそ、いいのかもしれないな。帰り道、スタックしないようにしっかりとハンドルを握りながら、そんなことを考えるのであった。


取材・撮影・文:櫻井 麻美


『ちの旅 氷瀑巡り横谷渓谷スノーハイキング』
https://chinotabi.jp/activity/1349/

<著者プロフィール>
櫻井 麻美(Asami Sakurai)
ライター、ヨガ講師、たまにイラストレーター
世界一周したのちに日本各地の農家を渡り歩いた経験から、旅をするように人生を生きることをめざす。2019年に東京から長野に移住。「あそび」と「しごと」をまぜ合わせながら、日々を過ごす。
https://www.instagram.com/tariru_yoga/

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