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特集『ナガノのキャンプ時間』❺ グランピング×果樹園レストランディナーに込めた“くだものの里 まつかわ”への想い

長野県南部・中央アルプスと南アルプスに囲まれた伊那谷の真ん中、天竜川の東西に広がる松川町は「くだものの里」として知られています。この地で、グランピングとグルメを掛け合わせた「まちづくりプロジェクト」が進行。その取り組みと想い、そして目指す先を、南信州まつかわ観光まちづくりセンターの3人に伺いました。

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全国でも珍しいツリードームと果樹園レストランをきっかけに、松川町を味わい、好きになってほしい

まずお話を伺ったのは、南信州まつかわ観光まちづくりセンターの専務理事の片桐雅彦さん。2019年、松川町と共同でグランピング施設「ツリードーム南信州まつかわ」をオープンしました。ツリードームは、木に吊り下げるタイプのドーム型のテントで、中にはベッドやテーブル、チェア、照明などが備わったホテルの一室のような空間が広がります。宙に浮かぶテントで寝泊まりする、誰もがワクワクするキャンプスタイルですが、どのような背景で導入されたのでしょうか。

「グランピング施設の発案は、地域おこし協力隊として移住してきたスタッフからでした。『松川の自然が体験できる宿泊施設ができたら絶対喜ばれます』と言って企画を持ってきたんです。自分たちにとっては当たり前だったアルプスの風景や木の香り、風の音、小鳥のさえずり、満天の星。これらが特別であると熱弁されて(笑)。宿泊施設が少なく、果物狩りに訪れていた人もトンボ帰りしてしまう課題を抱えていたこともあり、じゃあやってみようと決めました」。
森の中に設置するツリードームは県内で体験できる場所はほかにはなく、自然をより近くに感じられるグランピングに最適でした。

「ツリードーム南信州まつかわ」は中央自動車道「松川IC」より車でおよそ10分のカラマツ林の中に佇みます。ドームタイプは3種類。2本の木に吊るされ地上3.5mに浮いた「SORA」、テントを据え置いた「TSUCHI」、そしてプライベートな時間を満喫できる「KAZE」。いずれも焚き火スペースとキッチンリビングのガゼボ付き。薪やマシュマロセット、調理器具一式が用意され、手軽にグランンピング体験を楽しむことができます。

南信州まつかわ観光まちづくりセンターの片桐雅彦専務理事

小学生以上が利用対象の吊り下げ式の他、小さな子どもでも安心な据え置き式のドームテントを設置。ガゼボと焚き火スペース付きのサイトを貸し切りに

キャンプの醍醐味の一つといえば焚き火。宿泊棟ごとの専用焚き火スペースには、薪などの焚き火セットが用意されているので、あとは火を付けるだけ。頭上に満天の星が広がる

「ベッドでぐっすり眠ることができ、朝は小鳥の声で目覚めます。肌寒くなってきたらペレットストーブが利用できるので快適ですよ」(片桐さん)

素泊まりも可能ですが、人気はやはり朝夕食付きのプラン。夕食には「くだものの里 こだわりBBQセット」を提供します。このセットは「ツリードーム南信州まつかわ」近くで養豚とその堆肥などで果樹栽培を営む「さんさんファーム」から卸したもの。BBQセットの食材ほとんどが松川町産です。リンゴを食べて育ち、甘みを蓄えた黒豚のロースやバラの他、リンゴチップで燻製したソーセージ、町内で採れたコシヒカリで握ったおにぎりなどがラインアップ。朝食には「こんがりホットサンドセット」を用意し、町内外から人気を集める「Boulangerie みかづき」のサンドイッチや地元乳牛のヨーグルトなどがセットになっています。

ウェルカムドリンクやフードとして松川町産の果物ジュースやフルーツを用意。ここまで地元の食材にこだわるのは「“くだものの里”であることを知ってほしいから」と片桐さん。松川町の果樹栽培の歴史は100年以上前、3人の生産者による開墾(かいこん)からはじまりました。日当たり良好な立地と水はけの良い土壌は果樹栽培に適し、サクランボやモモ、ナシ、リンゴなど季節の果物が実ります。松川町の自然の中で、土地の恵みがギュッと詰まった食事をいただく。楽しくておいしい、贅沢な時間を満喫できます。

地元産の食材にこだわったBBQセット。リンゴを使用した特製の焼肉だれも評判

キッチンリビングスペースのガゼボには、冷蔵庫や食器など、調理に必要なものが一式そろい、自炊も可能

次にお話を伺ったのは、ホテルの運営や観光プロモーション企画などの経験豊富な坂元クリスティーナさんとフレンチシェフの暁彦さん夫妻。2人は2021年、松川町に移住し、現在は南信州まつかわ観光まちづくりセンターに勤務しています。

「移住を前提に全国各地を回る中、初めて松川町を訪れた時。その景色に感動しました。インターチェンジを出た途端、一面に広がる果樹園。その背後にはアルプスがそびえ、こんな風景は見たことがありませんでした」とクリスティーナさん。片桐さんをはじめ地域の方たちと触れ合い、各所を巡り、松川の多くの魅力に気づくことができたそう。
「果物はもちろん、お肉もあるしワインやシードルもそろっている。ここはガストロノミーツーリズム(=その土地の気候風土が生んだ食材や食文化を知り楽しむ旅行)にぴったりな場所だと思い、今後の展望がわいてきたんです。チャレンジに抵抗がない雰囲気もあり、ここに暮らし、役に立てたらと移住を決めました」(クリスティーナさん)。

2人は移住後、松川町内の果樹園で食事を楽しむ企画「Orchardピクニックまつかわ」を開始。続いて2022年10月、果樹園の中にテーブル席を設け、フレンチを提供する「Orchardレストランまつかわ」をオープンしました。
レストランは土・日曜、祝日限定、完全予約制。果樹の花や実の下で、地元の食材を使ったフレンチをランチやディナーで満喫できます。腕を振るう暁彦さん「松川町は6月から12月までさまざまな果物が味わえるのは魅力的ですよね」

「Orchardレストランまつかわ」では、食事の前に園主のガイドによる果樹園ツアーを実施しています。味覚の特徴や栽培方法などを生産者から聞き、丹精込めて育てられた果物をその場で味わうことができます。
「料理がおいしいとの言葉はもちろん、果物のことがよく分かったとか果樹園の雰囲気が素敵だったと喜んでもらえるとうれしい。現地で食べることに意味があると思います」(クリスティーナさん)。

「ツリードーム南信州まつかわ」の利用と「Orchardレストランまつかわ」のディナーがセットになった宿泊プランも用意されています。日中はグランピングを楽しみ、夕食は果樹園の中でフレンチを味わい、戻って焚き火にあたり、快適に眠る。そんな過ごし方が叶います。送迎付きなので、松川町のワインやシードルを堪能できるのもうれしいです。

春には、果樹園いっぱいに咲くリンゴの花のもとで食事が楽しめる

オードブルは「さんさんファーム」の黒豚で作るテートドフロマージュ。旬の味覚を添えた一品

デザートは旬の果物をふんだんに使用した華やかなケーキ。クリスティーナさんが地元の「ケーキやペパン」のパティシエにかけ合い、フルーツを模したスイーツに

6月にはさくらんぼがたわわに実る中、坂元シェフ渾身のフレンチを堪能

グランピングーグルメー体験。
コンテンツが点在するのではなく、一つの線でつながり、地域をまるごと味わうかのようなプログラムが完成されている松川町。その背景には、観光を通した「まちづくり」への想いがあります。

「全国的な人口減少や高齢化といった課題は、松川町も例外ではありません。地域が持続するためにはどうしたらいいのかを考えた時、観光をきっかけに町を知り“だんだん好きになる”ようにできないかと。そこで、まずは行政に一任していた観光分野を、より多くの人の力でつくり上げられるよう、新しい組織を立ち上げました」(片桐さん)。

「観光はあくまで、まちづくりのツールの一つ。それぞれの地域の魅力を理解し、地元のためになるような取り組みを進めるべきだと思っています。松川町の場合は果物を中心とした食材とそのバックグラウンドが魅力。地元住民の多くが農家なので、生産者のためになるような企画を立て、実行していきたいです」(クリスティーナさん)。

「坂元夫妻のように松川町に移住した人がいろんなアイデアを持ってきてくれるんですよ。アイデアが形になり、来てくれたお客さんが松川町を知り、楽しみ、今後も関わったり住んだりしたいと思ってくれたらいいですよね。お客さんから景色や果物を褒められることが地域住民の誇りになっているんです」(片桐さん)。

2018年にDMO(=観光地域づくり法人)「南信州まちづくりセンター」が設立され、2019年には「ツリードーム南信州まつかわ」を開業。そして、2021年に坂元夫妻が移住したことで、まちづくりを目指した観光の充実が加速し、2022年に「Orchardレストランまつかわ」がスタートしました。

今冬にはインバウンド向けに醸造所のモニターツアーを企画し、プログラム化を検討するとのこと。その他、地元の温泉宿「清流苑」の大規模改修を控え、町内の農園内に車中泊エリアを整備する計画もあるそうで、勢いは止まりません。
「観光をきっかけとしたまちづくりの機運を、もっと地元に広げたいです。これからもより魅力的な松川町をつくり、そして、つなげていきます」(片桐さん)

片桐雅彦(Masahiko Katagiri)
南信州まつかわ観光まちづくりセンター・片桐雅彦専務理事。松川町に生まれ育ち、町役場に30年間勤務。同センターの設立準備に携わり、法人化後、事務局長に就任。観光事業の舵取り役で、移住者と地元住民をつなぐ役割を果たしている

坂元クリスティーナ(Cristina Sakamoto)
イタリア中部出身。10年ほど前に来日し、山梨県北杜市のホテルで副支配人を務めた後、他地域の観光DMOで企画やプロモーションを担う。2021年に松川町に移住。ガストロノミーツーリズムの推進を軸に、観光パンフレットの作成からツアーの企画、ホテル改修のデザイン提案まで幅広く行う

坂元暁彦(Akihiko Sakamoto)
大阪や京都のリーガルロイヤルホテルのレストランに勤務。山梨県北杜市のホテルで料理長を務めていた頃、妻のクリスティーナさんと出会う。フレンチ料理を得意とし「Orchardピクニックまつかわ」「Orchardレストランまつかわ」の料理を手掛ける

松川町の観光の中枢を担う、南信州まつかわ観光まちづくりセンターの3人。ツリードームの前で

〈ツリードーム南信州まつかわ〉
住所|長野県下伊那郡松川町大島2788-1(チェックイン場所・まつかわ旅の案内所)
電話|0265-36-6320
URL|https://dansuki.jp/stay/td/
料金|1泊1人12,200円~(1室2名利用時)
営業|3月下旬~12月上旬※要事前予約 *冬期休業(予定)
Google Maps(チェックイン場所・まつかわ旅の案内所)


〈Orchardレストランまつかわ〉
住所|長野県下伊那郡松川町内の農園※日によって異なります
電話|0265-36-6320
URL|https://dansuki.jp/experience/experience7752/
料金|中学生以上12,000円(果樹園ガイドウオーク・乾杯のシードル・フルコース料理・土産代込み)、小学生3,000円(メニュー・スープ・デザートの3品)※「ツリードーム南信州まつかわ」宿泊セットプラン: 1人31,100円~(1室2名利用時)
営業|4月~11月の土・日曜、祝日、ランチ:11時~13時、ディナー:季節によって変動 ※完全予約制 *12月~3月下旬冬期休業(予定)
Google Maps



撮影:松本 千尋 取材・文:小松 あい

 

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