TOP PHOTO:©八方尾根開発株式会社
白馬山麓の空気を知り、高原の風と戯れ、絶景と出会う道。
8月の最終週。待ち合わせは白馬駅。まだ午前6時というのに気温は19度。早速ライター氏のSUVに乗り込む。「グリーンシーズンの“新しい八方尾根の楽しみ方”って?」と聞いた。すると彼はゆっくり笑いながら「林道を使って八方尾根スキー場の黒菱あたりまで行きます」と教えてくれた。この林道、元々は放牧している牛たちの管理やスキー場関係者の作業道として開かれた林道らしい。
黒菱林道への入り口でもある和田野地区から約9km。山の斜面を巡るように設置されたワインディングロード(舗装路)。最初は繁茂した樹林の中を走る。窓を全開にして徐々に標高を上げていくとその切れ目から緑色のスキー場や白馬村の市街地が見え隠れする。そして標高1,200mに広がる北尾根高原に出ると景色は一転。忽然と白馬三山が姿を現す。
「ここが最初の絶景ポイント!」とライター氏。ゴンドラ内から眺める景色とは違う。思わずドアを開け車外に立つ。すると山頂側、西からの風がやって来た。少しだけ冷たい秋の気配と焚き火に似た香りがした。周囲を見渡したけれどキャンプ場はない。下の方からバイクのエンジン音が聞こえる。数台のバイカーたちが左手をあげあいさつをしながら過ぎ去り、その先の高みを目指す。この林道がバイクでのツーリングも可能だったことを知り、ライダーとしてとても悔しかった。標高が上がるにつれ景色や体感温度。そして風や樹木の匂いが変化する。この“特典”はバイクツーリングならではの“別世界”なのだから。まして北アルプスの直下、白馬山麓を走る黒菱林道を駆け上る9kmの、まさに“スカイライン”となると……思いが募る。
*黒菱林道に関する詳細は下記URLをご参照ください。
☞https://www.happo-one.jp/kurobishiskyline/
新次元アクセスルートの先にある約束の場所への体感トレイル。
そして標高1,500m地点にある終点、黒菱駐車場に到着。クルマはここに駐車。10分ほど休憩を挟み隣接する黒菱第3ペアリフトに乗り1,680m黒菱平まで上がる。降りてすぐ右手側の雲海デッキと名付けられたビューポイントに立つ。ライター氏のスマートウォッチでは気温16度。肌寒さは感じない。というより「ちょうどいい」快適さ。この“天空の台地”は居心地が良い。八方池山荘へと続く次のリフト、グラートクワットリフトの乗り場へ行く途中には眺望ラウンジとして人気が高いカフェ、右手には鎌池湿原がハイカーや登山者を和ませる。昼食にはまだ早い。きょうの目的地=八方池を目指し先へ進むことにした。
太陽に照らされた植物や山肌が熱を帯びたせいだろうか、水蒸気が薄い雲を急ごしらえしているようだ。天候悪化の知らせではない。むしろ虹出現の気配がある。グラートクワッドリフトを降りると目の前に八方池山荘が出迎える。その先は八方池に続くトレイルだ。念のためザックから薄手のウインドブレーカーを取り出す。トイレを済ませ売店で水を入手しトレッキングシューズの紐を締め直す。八方池山荘から八方池までは登山計画書の提出は不要。ただし、唐松岳へは必要だ。前者はトレッキング。後者は登山という定義になる。とライター氏が教えてくれた。黒菱林道を走り黒菱駐車へ。そして第3ペアリフトとグラートクワッドリフト(黒菱ライン)で八方池山荘までのアクセスを『黒菱スカイライン』と言う。クルマ・バイク+リフトで繋がる絶景の大自然五感体験ルート。とても新鮮だ。
八方池山荘を正面に右へ進むと足元に岩の露出が多い直線的なトレイル、左は木道が整備された迂回路的なルート形状となる。ライター氏の教えによると「上りは左、下りは右」がオススメとのこと。それぞれ眺望が異なるため行き帰り別々の選択をしたい。左のルートには所々にベンチが置かれ、ちょっとした休憩を取りながら贅沢な景色を体内に備蓄できる。この八方尾根自然研究路のトレッキングは白馬三山をはじめ雄大な北アルプス山系と会話しながら特別な時空を歩いている気がする。単に八方池を目指すだけではなく、あえてゆっくりと360度を見まわし時間が許す限り堪能したい。
八方池山荘から約1時間30分で八方池に到着。残念なことに周辺にはガス(濃霧)が発生し絶景の誉高い湖面に映る白馬連邦のアートを撮影することができなかった。20分ほど待機した。けれど霧はその場から移動せず。あきらめ下山する。帰り道、ライター氏が「霧も大自然の一つ。先住者は自然ですから、村へ戻り温泉に行きましょう」と笑った。そうだ、すっかり忘れていた。今回購入した黒菱第3ペアリフト&グラートクワット=黒菱ラインのリフトチケットには温泉入浴券が付いていたことを。
*八方尾根自然研究路に関する詳細は下記URLよりご確認ください。
☞https://www.happo-one.jp/kurobishiskyline/
“ご来報!?”は温泉堪能中、突然に。
麓の気温は28度だった。平日でも観光客の姿が多い。心地よい疲労感を連れ温泉へ向かう。白馬村の公式観光サイトによると村内には11の日帰り入浴可能温泉施設がある。今回入手したリフトチケットに付与されたサービスではそのうち3施設で利用できる(八方の湯、おびなたの湯、みみずくの湯)。きょうはみみずくの湯を選んだ。100%源泉掛け流し。泉質は強アルカリ温泉。日本屈指の数値らしい。肌で受けるお湯の感触はとろりとしている。露天風呂に出ると前方に雲間から白馬の山々の顔が見えた。お湯に漬かりきょう早朝からの出来事を思い出す。一般車両でも黒菱林道を通行可能だったことに驚いた。何となくトクベツな許可を得たような感がありうれしかった。グリーンシーズンならではのアクティビティだ。クルマやバイクで黒菱駐車場まで上がり、リフト2本を乗り継ぎ、八方池までトレッキング。各シュチエーションで体験できる絶景は距離感や見え方、そして風の匂いも異なり、旅の密度が高い。苦楽の問題ではなく質のバラエティさによる達成感だ。リフレッシュやリラックスというものはこのような体験によって生まれるのかもしれない。
「今夜1泊してあすもう一度黒菱平まで上がって“モルゲンロート&ご来光&雲海”の“絶景3点セット”を見ませんか」「もちろん気象条件が整えば、ですが」「予報と山の様子を見るとあしたはイケそうな感じがします」とライター氏が言った。山岳ガイドでもあるライター氏の強烈な引力を伴うささやき。期間限定の週末、早朝5時から運行開始する黒菱第3ペアリフトに乗り黒菱平で開催されるスペクタクル体験。そして下山後は再度温泉に直行し“朝風呂”に漬かる。何という贅沢。断る理由はない。
*白馬八方温泉に関する詳細は下記URLをご参照ください。
☞https://hakuba-happo-onsen.jp
そして「夢」の現に立つ。
午前5時。黒菱林道を駆け上がり黒菱駐車場に到着。移動中、クルマの窓を開け標高と共に変化する色と匂いを楽しんだ。霧のような雲が北尾根付近で寝息を立てている。薄い灰色の視界の中でニホンカモシカと出会った。遭遇は初めてではないが、その度に思うことがある。なぜカモシカはすぐに逃げることなくフリーズしながらこちらをガン見するのだろうか。そして「じゃ、またいつか」といった様子で去ってゆく……。黒菱第3ペアリフトの座り周囲を見回す。切れ目のある雲海の遠い先から、きょう最初の太陽が顔を出した。その下にある白馬村はまだ薄暗いのだろうか。
標高1,680mの黒菱平より上部は完璧な快晴だった。雲海デッキには多くの人たちが白馬連峰を染めるモルゲンロートにため息をつく。30分近く、身動きせずにただただ山を見続ける。やがて山容の色彩は紫色帯びた橙色から薄い茶色と緑色がミックスされた色に変化した。かつてこれほど一つの景色と向き合ったことはなかった。ちょっと“徳を積んだ”気になる。ステンレスボトルから宿泊した宿の女将さんから淹れてもらったコーヒーを注ぎライター氏と乾杯した。時間はあっという間に過ぎ、時計を見ると午前9時。下界を覆う雲は青みがかった真綿のように姿を変え、その遥か上に移動した太陽がとても眩しい。照れくさそうに「さてさて、きょうも至福の温泉をいただきましょう」とライター氏が笑った。身も心も浄化された実感からか!? 互いにちょっと恥ずかしい。
*2023年シーズン黒菱第3ペアリフトの運行日程は下記URLからご確認ください。早朝運行は黒菱第3リフトのみとなります。その上のグラートクワッドリフトは連動しておりませんのでご注意願います。
☞https://www.happo-one.jp/event-green/26553/
構成・文:Go NAGANO編集部(佐藤) 写真提供:八方尾根株式会社
〈注意事項〉
黒菱林道は急峻、急カーブ、狭幅の道路箇所もあります。運転する方は十分な注意が必要です。特に初めての方や道路の状態が不慣れな方は、安全運転を心がけ、周囲の景色を楽しむためにも、無理な運転を避けるよう心掛けることが大切です。
八方池山荘~八方池までの八方尾根自然研究路トレッキングには登山計画書の提出は不要ですが、自分の技術や体力にあった行動計画考え安全第一で登山を楽しみましょう。
*)入山の際は、登山に適した服装と装備で余裕を持った行動をお願いします。
*)体力レベル、歩行時間等は天候により左右されます。当日、ご自身の体調、天候などの変化に留意し無理をせず最高の一日をお過ごしください。
【今記事で紹介した『黒菱スカイライン』を堪能できるリフトチケット&温泉入浴券つきチケットのお求めは〈Go NAGANO Smart Passデジタルチケット〉からお求めいただけます】
*当プランは平日限定となります。予めご承知おきくださいませ。
閲覧に基づくおすすめ記事