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【初夏】「川で過ごす時間を楽しむ」フライフィッシングの世界! 長野県は渓流釣りパラダイス。

水動く季節に大物狙い!「旬の遡上魚狙いのロマン・カゲロウが乱舞する夕べに心躍る」細心の注意で臨む梅雨どきの釣り

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TOP PHOTO:深い谷間に潜んでいたイワナ。そのサイズは50cmに迫るほど。その瞳には夕闇迫る森を映していました

初夏の夕べ。「わたしを撮りたいんでしょ。綺麗にお願いね」と言わんばかりに目の前に止まったフタスジモンカゲロウのメス
魚に悟られないように屈みながらキャスト、狙ったポイントで長くフライを漂わせます
信濃町の小渓にて。そぼ降る雨の中、疑う様子もなく純朴なイワナがフライを咥えてくれました
魚の目線で水面直下を漂うストリーマー(チューブフライ)を眺めてみました
見る角度によって、パーマークと銀のウロコの煌めきのハーモニーが美しいヤマメ

連日、猛暑が続いていますね。夏真っ盛り、渓流の水に足を漬けて釣りをしているのが気持ちいいです。

寒暖の差が激しかった春から、気づけば雨の季節に入っていました。今年の初夏の釣り、僕のフライフィッシングの模様をまとめてみました。

あっという間に河原の草葉が生い茂り、萌黄色だった森の緑も濃くなっていきます。天気のいい日は気温が上がり、ウェーダーを脱ぐと水漏れしている訳でもないのに汗でびっしょり濡れてしまっています。そろそろゲータースタイル(軽量な沢靴とゲーター、速乾素材のパンツなどが基本)が気持ちいい季節ですね。
釣りのために川を訪ねて歩いていると、季節の自然の変化を感じながら、流れの繋がりを感じずにはいられません。断片的に竿を出す支流の全てが、等しく海へ注ぐ水であること。県内のどこで釣りをしていても、水は上流から下流へ流れ、日本海か太平洋へと流れていきます。

山あいの澄んだ流れが雨と共に濁り、また何事もなかったかのように元の清流に戻っていきます。春には午後の早い時間に水生昆虫たちの羽化が始まっていましたが、日中の水温が高くなってくると、羽化のタイミングがどんどん夕暮れに近づいていき、夏が近づいていることを感じます。遡上する野生味溢れるヤマメやアマゴ、イワナを釣りたいと願いつつ、釣れない日々の方が圧倒的に多いのですが、魚がいるのになかなか釣れない。そんなときこそ、一層(ムキになって)燃えることがないでしょうか。簡単に釣れるより、手強く賢い魚にこそ夢中になってしまう。なんだか恋愛と似ている気がします。

まるで雪が舞うように「カゲロウの乱舞する初夏」の夕べ

山の端に日が沈む直前、あたりはオレンジ色に染まり、輝く世界を飛び交う虫たちのステージ
北信濃の山あいの渓。清らかな碧の流れにまだ若さを感じる木々の緑が絶妙なハーモニーで見惚れてしまいます
力強く飛翔するカワゲラの成虫。渓流魚たちの大好物でもあります
初夏の戸隠。緑を映す水面に羽化したての虫たちが乱舞していました。この後、ライズも始まり……
同行していた先輩フライマンが見事にライズを取りました。僕は指を咥えて写真を撮るのみ

北信濃の初夏。川に沿って車を走らせていると、どこもコンディションが良さそうで気になってしまいます。周辺で一番ヤマメが好みそうなラン(釣りのひと区間)を見つけました。休憩がてらしばらく観察してみます。ライズはありませんが、「絶対にいいヤマメが入っている」そう確信し、目的地を変更して釣りを始めました(年券所有)。
ちらほらと舞っている小さなカゲロウに混ざって、一際大きくオレンジに輝きながら飛翔するカワゲラ。やがて透明感のあるカゲロウたちが一斉に舞い出しました。エルモンヒラタカゲロウかと思いましたが、よく見るとヒメヒラタカゲロウのようです。夕日を受けて輝く様に神々しささえ感じ、夢中でシャッターを切りました。

相変わらずライズはありませんが、このタイミングでドライフライに切り替えました。ヒメヒラタのハッチの中に徐々に大型のモンカゲロウが混ざるように。さらにヒゲナガカワトビケラがまとわりつくようになり笑みが溢れます。虫たちの活動は最高潮へ。

やがて、ぽつりぽつりとライズが始まりました。ヤマメたちの狙う捕食レーンに正確にフライを乗せたときだけ、鋭く水面が割れますが空振りが続きます。対岸ギリギリのラインを流し、ピックアップしようとした瞬間にフッキングしました! 水底まで引き込まれるような強烈な引きです。

ようやく魚が見えてきました。銀色に輝くウロコに包まれた魚体! 興奮のあまり平常心を保つのが難しいほど。なんとか浅瀬に寄せ、ネットに招き入れようとした瞬間、ヤマメは流れの中に消えていきました。浅瀬でテンションが抜け、フックが外れたようでした……。

呆然とする僕をよそにカジカガエルの声が河原に響き、瀬音とハーモニーを奏でていました。

梅雨こそ狙い目! 諏訪湖から遡上する「諏訪マス」に憧れて

まとまった雨で増水した水が徐々に引いていきます。水が動くと魚も動く
ムシトリナデシコ。色鮮やかなピンクが河原の緑に映えます
体側のパーマークに朱点が散りばめられたアマゴ。いずれ諏訪マスになってくれるのかもしれません
やり取りの最中は、諏訪マスだと思っていた正体。流線型のナイスプロポーションのニジマス
里川の美しい夕暮れ。紅からブルーモーメントの空、それを映す川面の表情

長野県は海なし県ですが、その中央部には信州の海・諏訪湖があります。梅雨、水かさが増える頃に流入河川を遡上するアマゴたちがいます。湖で大きく育った降湖型のアマゴ(サツキマス)は、銀光りした精悍な体躯となり、「諏訪マス」や“ノボリ”などと呼ばれています。

6月半ば、ちょうど梅雨の中休みのような日が続いていました。僕は例年この時期に諏訪マス狙いで訪れています。川には月初めの増水の爪痕が見られましたが、水位はすでに落ち着いていました。川床のヌメリは洗い流されウェーディングはしやすいですが、川虫たちも流されたようで、数、種類ともに乏しい感じでした。有望そうなポイントには、釣り人の姿が川のあちらこちらに見受けられます。県外ナンバーの車の割合も高く、人気の高さを感じます。
エサ釣り、ルアー、道具の違いがあっても、出会えば挨拶を交わし情報交換をします。

まずは、大型のフックに巻いたフライで臨みましたが、アタリはあるものの、まったくフッキングする気配がありません。徐々にフックサイズを下げ、渓流で使うようなウェットフライにしました。さらに食わせたいところで、わずかに誘いを入れるとようやくフッキング! 小さくも美しい、宝石のようなアマゴが手元で煌めいていました。

これをきっかけに、飽きない程度に釣れるようになりましたが、本命の諏訪マスには出会えません。河原で休憩していると、しとしとと雨が降り出したので初日は終了にしました。

そして2日目。断続的に雨が降ったり止んだりしていたため、わずかに濁りは増したものの、水嵩は増えていません。アマゴの付き場がわかるようになってきたので、釣果は上がりましたが、逆に諏訪マスから遠ざかっているような気がします。そこで、初日にもアタリ(大物の感触?)があった下流の人気ポイントへ移動しました。

期待にドキドキしながら、鼻息も荒くフライを泳がせます。スイングが終わると同時にフライを引ったくるようなアタリ! 下流に走ろうとする魚を押さえ込むと、今度は上流に走っていきます。ジャンプした魚体が銀色に光りました。「これは!」

力強い引きに耐えながら、ようやく岸際に寄せてネットイン! 果たして正体は…… ニジマスでした。均整の取れたプロポーション、野生味溢れる魚体が素晴らしい。しかし、諏訪マスだと思い込んでいただけに、嬉しいような悔しいような複雑な気持ちでした。

夕方、大型のカゲロウがはらはらと飛び交っているのに気づきました。フタスジモンカゲロウです。いつしか周囲の山々を覆っていた雲も消え、稜線が空との分かれ目にくっきりと線を引いています。ほんのりと西の空が染まっていました。
諏訪マスには出会うことはできませんでした。けれど、またこの地に訪れる理由ができたようです。来年の楽しみが増えました。

雨がチャンスを作ってくれる! 安全第一の釣り場選び

やや増水していても膝下の流れ。こんなひと跨ぎできるような渓にもイワナが潜んでいます
山奥の細い渓で釣れた尺イワナは、細長く艶めかしさがありました
岩の隙間で身を潜めるカジカガエル。「フィフィフィフィフィー」と、透き通る美しい声は清流によく似合います
澄んだ清冽な水が涼しげな新潟県境の渓。この日は一匹も釣れませんでしたが、魚を求めて谷間を歩くだけでも幸せな時間です
小谷村の深い渓で釣れたイワナ。丸々と太い体に大きく発達したヒレが印象的です。リリースすると勢いよく流れに帰っていきました

梅雨の中休み、天気にも恵まれ暑い日が続いていました。源流にほど近い細流は、文字通りひと跨ぎで渡れる程度でした。ですが、イワナの魚影がそれなりにあります。渇水状態では魚たちの警戒も強く、シビアな釣りになります。少し水量が増えているくらいの方が、いい釣りをすることができます。

梅雨どきの釣りは、雨と雨の間になりますね。そぼ降る雨の下での釣りも風情があります。では、雨後の渓流釣りに適した釣り場はどこでしょう。数ある釣りのなかでも、増水や濁りにめっぽう弱いのがフライフィッシングだと思います。増えた水が引き、濁りがなくなるのが早いこと。他にも条件は色々ありますが、逆に考えると、複数の支流が合わさる下流ほど条件が悪くなるでしょう(特殊な条件で異なる河川も)。

さて、ポイント選びも大切ですが、まずは安全に釣りができる場所を選ぶことが大切ですね。上流にダムなど一時的に流れを堰き止めるような施設がないこと。奥に深い山域が控えている下流では、時間差で増水することもあります。狭い谷間では鉄砲水の恐れもありますし、落石のリスクも高いので避けるべきでしょう。当然山岳渓流は適さないですし、里川でもよく考えて選ぶ必要がありますね。

いずれにせよ、大雨が降った後の釣行は控えるべきです。来たるべきベストコンディションに備えてフライタイイングに勤しむのが賢明かもしれません。

雨さえ降っていなければ、県北部の山あいでも、もうすっかり夏の暑さです。河原の草は鬱蒼と茂り、山の斜面は藪にすっかり覆われています。入退渓や流れに沿っての遡行が難しい箇所では藪漕ぎを強いられます。

その分、陸生昆虫の活動も活発になりますね。おかげでフライのチョイスも特に難しく考えることがありません。大きめで見やすいドライフライを流れに漂わせると、野生的で太く逞しい良型イワナが次から次へと、気前よく水面を割ってくれます。これから夏本番にかけて、パラダイスのような渓流シーズンの幕開けです!

トピックス:「なぜ必要?」遊漁券が必要な訳

頻繁に訪れる場所なら、遊漁券は年券がお得です! ウェブ購入できる漁協も徐々に増えてきています

河川や湖沼、つまり内水面で釣りをする場合、漁協(漁業協同組合)の管轄になっているところがほとんどです。釣りをするのに必要となるのが、「遊漁券(呼び方は釣り券や鑑札など様々)」です。長野県内の場合、渓流魚が釣れる場所では必ず必要であると言ってもいいでしょう。

漁業権と漁協の存在
水産庁が定める漁業権は、「一定の水面において特定の漁業を一定の期間排他的に営む権利」であり、定置漁業権、区画漁業権及び共同漁業権の3種類があります。

漁業権は、県知事より漁協に対して認可されるものです。個人には与えられません。漁協は魚を獲る許可=漁業権を与えられますが、魚を絶やさぬように放流と保護増殖管理を義務付けられています。

そのため、一般の釣り人は、各漁協が管轄する場所で釣りをするため、遊漁券を購入することが法律的にも必要になります。
残念ながら、国内、特に本州の河川環境は限られています。釣り人がたくさん入り、釣った魚を持ち帰ってしまうと、自然繁殖だけでは賄いきれません。環境の変化による魚の数の減少もあります。そのため、漁協による(卵、稚魚、成魚を)放流作業なくしては釣りが成り立ちません。渓流で泳ぐ魚たちは、自然繁殖した魚たちだけではないのです。漁協は放流以外にも清掃作業や駐車スペースの確保、草刈りなど、釣り人が快適に釣りに臨めるよう、釣り場環境を整えてくれています。

では、キャッチ&リリースするのであれば、(魚を持って帰らないから)遊漁券はいらないのでしょうか?
まずは前回の記事内のトピックスで紹介させていただいた「キャッチ&リリースの作法」を意識して丁寧に魚を扱うこと。それでも魚へのダメージはゼロではありません。
さらに、マナーとして先行者の釣り上がる(下る)前に入ることは避ける必要があるため、釣りをする=他の釣り人のチャンスを奪います。先行者の直後は釣れにくくなりますしね。貴重な釣り場を未来へ繋げるためにも遊漁券は必ず購入するようにしましょう。

日釣り券より年券!?
遊漁券は、対象魚(多くの場合、鮎とそれ以外)によって違いますが、指定した当日のみ有効な“日釣り券”と、一年間(遊漁期間中)有効な“年券”があります。

初めて入る川や頻繁に訪れない遠方なら“日釣り券”を購入するのが普通でしょう。渓流魚の場合、1日1,000~2,000円が相場です。もし、近くに気に入った河川があるなら、実は“年券”が圧倒的にお得です。漁協にもよりますが、“日釣り券”の4~5倍程度の料金設定がされていることが多いです。

アプローチのいい里川なら、朝や夕方の「マズメ(*)」を狙ったり、好きなタイミングで釣りを楽しめますね。購入の煩わしさがないのがいいですね。
*早朝や日没前後の薄明るい時間帯、魚の食事時間。“朝マズメ”、“夕マズメ”と呼ばれ、魚が釣れる可能性が高い。

ちなみに、遊漁券は釣りを開始する前に購入しておくことが原則です。一部を除き、“現場売り”も存在しますが、割高になります。何よりも、釣りをしていてどこか後ろめたい気持ちになってしまうので、あらかじめ購入して釣り場へ行くのがいいでしょう。遠方で早朝から入渓する場合には、コンビニで遊漁券を取り扱っている漁協も増えたので助かります。
さらに最近ではインターネットでの購入も可能になりました。川の状況を見てから購入したい場合もありますね。「つりチケ」「フィッシュパス」。それぞれ特徴があり、対応している漁協も違うので、釣りに行く川が決まったらチェックしてみてはいかがでしょうか。

いよいよ夏本番! 山岳渓流の真骨頂

北信濃の林道にて。湧き立つ夏雲の下、深い緑に覆われた渓にはどんなイワナが待っているのでしょうか
しっとりとした夏の渓を彩る花、ダイモンジソウ
水生昆虫に加えて陸生昆虫も豊富な夏。渓流魚たちはお腹いっぱいで丸々としています
渓の流れとそっくりな体色のイワナ。元いた場所にそっと返します
小谷村には多くの渓があります。大物が潜んでいそうな色気に溢れた淵、息を潜めて忍び寄るワクワク感がたまりません

全国的に災害級の猛暑となっているこの夏、長野県も厳しい暑さが続いています。そんなときは標高の高い場所が過ごしやすいですね。梅雨が明ければ山岳県、長野の渓流釣りの真骨頂です! 深山の渓のイワナに思いを馳せる季節の到来です。山奥の源流帯、沢登りした先で出会う天然イワナは純朴で野生味に溢れています。

暑く歩きにくいウェーダーを脱いで、ゲータースタイル(軽量な沢靴とゲーター、速乾素材のパンツなどが基本)で臨むウェットウェーディングの季節です。下界はうだるような暑さでも、標高の高いエリアの沢沿いは清涼な楽園が待っています。

苦労して登った分だけ釣果に恵まれる! そう信じて藪を漕ぎ、巨石を乗り越え、崖にへばりつき上流を目指します。ただし、深入りは禁物です。一般的な登山より過酷で、リスクもずっと高い沢登りの世界です。慎重に行動して賢明な判断をしましょう。どうか安全な釣行を。


取材・撮影・文:杉村 航

<著者プロフィール>
杉村 航(Wataru Sugimura)
フォトグラファー。1974年生まれ。長野県在住。山岳・スキー写真をメインに撮影する。沢に薮山、山スキー、道なき道をいく山旅が好き。ライフワークはトラウトフィッシング。美しいヤマメやイワナを求めて、全国の渓流に足しげく通う日々。小谷村山案内人組合所属、北アルプス北部遭対協。全日本釣り団体協議会公認・フィッシングインストラクター。

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