【春】「川で過ごす時間を楽しむ」フライフィッシングの世界! 長野県は渓流釣りパラダイス
行ったり来たりする季節!「激しい変化」に翻弄されつつ“旬”を狙う 2023シーズンの幕開けを振り返る。
寒暖差の激しかった春も過ぎ去り、早いもので季節はすでに初夏。多くのアウトドアアクティビティ同様、渓流釣り、フライフィッシングのシーズンも本格化しようとしています。
“例年より”、“異例の”というワードを頻繁に見聞きした春でした。着る服に悩むように、川やポイント選びにも例年以上に悩まされました(継続中)。フライの選択にも苦戦し、その分ずいぶんと学びの多いシーズン序盤戦だったような気がします。
魚の数は釣れなくてもいいのですが、やはり良型・大物を釣りたい気持ちはあります。そんな中、元気に輝く渓流魚をネットに入れることができると、喜びもひとしおです。南北に長い長野県ですが、満足できる一本を求めて、南へ北へと時間・仕事が許す限り精力的に出かけました。
渓流解禁! 南へ北へ! 県内釣り行脚
2月16日。県内で一番早い渓流釣りの解禁日です。それぞれの河川を管轄する漁業協同組合(漁協)も、この日を設定しているところが多いです。
※『都道府県知事は、漁業法及び水産資源保護法の規定に基づき、農林水産大臣の認可を受けて規則(漁業調整規則)を定めることができます』
待ちに待った解禁日ですが、ご存じの通り山岳県、雪国でもある長野県において、2月中旬はまさに冬真っ只中ですね。山間部の渓流は雪に閉ざされています。雪のない(少ない)地域では、待ちきれない釣り人が雪を踏み締め入渓していることもありますが、冷水性の渓流魚にとっても低温すぎる状況、じっくりと深い川底を攻めるなどしないと釣果が望めません。
一般的には中流域である里川、本流釣りがメインとなるでしょう。僕は、(非常に安直な発想ですが)「南の方が少しでも暖かいはず」と考え、南信地方の本流でシーズンインしました。
川虫の宝庫! 伊那谷の春
天竜川は、周辺の山々から水を集めた信州の海“諏訪湖”から流れ出します。南アルプス、中央アルプス、東西の山脈から流れ落ちる清冽な水を集めながら、太平洋(駿河湾)に向けて伊那谷を流れていきます。管轄するのは天竜川漁業協同組合(漁協)です。
解禁の前日から川を見てまわり、期待に胸を膨らませながら3日間釣りを続けました。ちょうど冷え込みが厳しく、わずかなアタリが一度あっただけ。魚の顔を見ることはありませんでした。
3月は一気に気温が上がりましたね。春めいたある日の午後、まるで花びらが舞うようにカゲロウ(ナミヒラタカゲロウ)たちが風に漂う光景にうっとりしながらラインを伸ばしました。ここで天竜川らしい隆々とした体躯のニジマスを釣り上げ、ようやく溜飲を下げることができました。
河岸の桜並木が散り出した頃、“ざざ虫”の本場らしく、日中からヒゲナガカワトビケラが飛び交い、水面をスケーティングする様子が印象的でした。もちろん、フライもそれを模したパターンで挑みました。数匹釣り上げた後、対岸ギリギリに流したフライが流心を跨いだ瞬間、ひったくるような強烈なアタリ! 一瞬にしてリールからバッキングライン(下巻き糸)まで出されるほどのダッシュでした。テンションが抜けたフックは魚の口から外れ、遥か遠くでジャンプして去って行ったモンスターのような魚影は、今でも目に焼きついています。
天竜川に流れ込む数多の支流群も魅力です。特にシーズン初期である春は、お花見ドライブがてら、辰野町や箕輪町、南箕輪村の高低差の少ない里川をメインに訪れました。天候条件が整ったタイミングでライズ(水面付近での魚の捕食行動)をドライフライ(水面に浮かせた毛鉤)で狙い、小粒ながらも美しい宝石のようなアマゴたちが水面を割ってくれました。
雪代で遡上する魚を狙って! 北信濃へ
千曲川の河川敷に黄色い菜の花の絨毯が広がり、県北部にも春の訪れを感じ出した頃、新潟との県境の溪にも足を運ぶようになりました。管轄は、高水漁協です。実はこれには季節的な、とある狙いがありました。
雪代、つまり雪解け水が流れ込むと水量が増えますが、このタイミングで千曲川(信濃川)本流から支流へと遡上する渓流魚たちがいるのです。遡ってくる魚たちは、大型で太いものが期待できます。銀色に鈍く輝き、体高のある砲弾ヤマメ。水の色によく馴染む色白で、斑が大きな雪代イワナ。普段はお目にかかれないような、惚れ惚れするような魚を釣るチャンスです。
数年前から足繁く通っているのですが、水量や水温、濁度など、タイミングがなかなか難しく、会心の釣りができるのは年に一回あるかないかです。釣れる(もしくは掛かる)と大物の確率が高いのが魅力なのですが、不思議と小さな魚が掛かることが少ないため、毎回“ボウズ”覚悟の釣りです。魚の顔を一度も見ない日も多いです。
それでも、身を翻したヤマメの銀色の残像に取り憑かれたように、釣り上げられなかった重たいイワナの手応えが忘れられず、ついつい向かってしまうのです。
ようやく満足できる釣果が出たのは、GWを過ぎた頃でした。萌黄色の山肌に藤の花が雅な色合いを添え、気品のある芳香を漂わせています。雪代どころか、渇水気味の流れでしたが、不思議とよく釣れた一日でした。美しい天然のイワナ、しかもほとんどが尺上(シャクガミ・約30cm以上)という、出来すぎた釣果に帰りの運転が怖くなるほどでした。
他にも解禁当初には雪を踏み締め、姫川水系へ。さらに木曽エリアや千曲川の上流部へも釣行に出かけました。
夏のように暑かったり、そうかと思えば急に冷え込んだり…… 例年以上に激しい変化をする天候に振り回され、釣果が振るわなかった釣行も多かったですが、一人でのんびりと溪で過ごす時間、気のおけない釣り仲間との釣行を大いに楽しむことができました。
トピックス:「あなたの放した魚は元気ですか?」キャッチ&リリースの作法
フライフィッシングの世界においては、かねてより“キャッチ&リリース”という釣り方が普及しています。これは、釣った魚を持って帰る(採捕)するのではなく、リリース、つまり川へ戻して楽しむ釣りです。
道もなく懸崖に阻まれた深い渓谷や山奥の源流域を除き、県内の多くの河川では、漁協による放流事業なくしては渓流釣りが成り立ちません。在来種であっても、まるっきり天然のイワナやヤマメ・アマゴなどのトラウトは、今や希少な存在となっているのです。
「キャッチ&イート」も悪くない!
では、キャッチ&リリースが正義で、「釣った魚を持って帰る・食べる」ことが悪いかというと、そんなことはないと思っています。むしろ魚釣りとは、釣った魚の命をいただき、ありがたく食べることこそ本来の姿だとも考えています。
したがって、“釣った魚を食べないなら釣りをするな”という考えも当然あるでしょう。しかし、漁としての釣果を求めるだけでなく、「釣りという行為」を楽しむことも古くから存在しています。釣りを通じて得られる、日常からのリセット、ストレス発散など心の健康にも効果がある側面も。
いずれにせよ、釣った魚を全部持って帰る必要はないのではないでしょうか。各河川でルールとして定められた採捕の基準となる体長制限や匹数制限(例:〇〇cm以下はリリース。持ち帰りは〇〇匹まで)を守ることは当然です。
“釣った証拠”とするなら、写真に収めることで十分だと思います。さらに本当に美味しく、ありがたくいただける分だけ持ち帰るようにすることで、随分と川に残る魚の数が変わると思います。
釣りに限らず、登山やキャンプなどのアウトドアアクティビティ自体、自然にダメージや影響を与える可能性を内包しています。せめて「お邪魔して楽しませてもらっている」気持ちを忘れないこと。ルールやマナーを守ることも大事ですね。“釣り”という目的を持って自然の中で過ごした経験から、きっと得るものがあるはずです。それを反映し、未来の環境へ繋げる糧とすることが、享受する我々の使命だと思っています。
川に魚を残す! キャッチ&リリースの作法
正しい手順でリリースすれば、魚の生存率は格段に上がります。しかし、ただ放せばいいと考えているような、ともすると、「食べない、要らないから放す」というような魚の扱いをしている人を見かけることもあります……。リリースするのであれば、できる限り魚に与えるダメージを減らすこと。これは釣り人に課せられた最低限のマナーだと思います。リリースした魚が、再び川へ元気に帰っていくための作法を紹介します。
バーブレスフックで!
フック(釣り鉤)にはバーブ(カエシ)が付いているものが多いですが、当然フックを外すときに口を傷つけてしまいます。極力ダメージを少なくしたいと考えるなら、カエシのないバーブレス(もしくはカエシを潰して)フックを使用しましょう。これは誤って体に刺してしまった場合、自分や同行者を守ることにも繋がります。僕自身の経験だと、バーブがある方が(油断して?)むしろバラす事が多い気がします。
陸にあげない・水から出さない
渓流魚・トラウトは冷水性の魚であり、河原の石などに触れると火傷、さらに傷ついてしまいます。そこから皮膚病になることもあります。当然ですが、渓流魚はエラ呼吸であり水中でしか息ができません。写真を撮るときでも、最低でも片方のエラは水に浸かっているようにしておきましょう。
乾いた手で触らない・短時間でリリース
魚に触れる必要があるときは、決してそのまま触らないように。手を水に浸け濡らし、水温になるべく(じんじんするくらい)近づけて。スムーズに元の生活に戻ってもらうためにも、リリースは早いほどいいのは言うまでもないですね。
リリースは優しく丁寧に
釣った魚を適切に扱っていれば、こちらが隙を見せた瞬間、あっという間に流れに帰っていきます。もし魚が弱ってしまっていたら、流れの緩い場所で上流に頭を向けた状態で、優しく(水中で)手を添えて魚体を支え、回復を待ちます。「因果応報」ではありませんが、丁寧に魚を扱える人ほど釣りが上手で、いい魚と巡り会える気がしています。
最近ではデジカメが進化して、小型軽量のタイプでもクオリティの高い写真が撮れます。さらにスマホのカメラ機能も素晴らしいですね。SNSの影響もあり、“取るのではなく、撮る”方へ時代が移っているようです。
カゲロウ舞う季節! 渓流は最盛期へ
以上、解禁日から春にかけての県内での釣行を振り返ってみました。すでに山あいの渓でも日に日に緑が濃くなり、初夏の様相となっていますね。県内でも6月に入ると、カゲロウたちを始めとした水生昆虫や陸生昆虫の活動が一気に加速します(刺したり噛んだりする虫も増えますが……南信ではヤマビルも活発に動き出します)。
渓流魚たちの活動もさらに盛んになり、フライフィッシングも一層楽しく、釣りやすいシーズンです。特に、ドライフライでの釣りは、フライフィッシングならではの楽しみですね。ライズを見つけて何を食べているのか推理、狙った魚を釣るのは謎解きのような喜びがあります。
この原稿を書いている5月下旬、気温は急降下し冷たい雨が降りました。標高の高い山々では雪が積もったようです。太平洋では台風2号も発生し、列島に近づく可能性もあり危惧されています。安全で楽しい渓流釣りは、当日の天気だけでは成立しません。天候の経緯や履歴が重要です。
いつ梅雨入りするのか。気になってしまって、日に何度も天気予報をチェックしてしまっています。釣り、フライフィッシングと自然の摂理は切っても切り離せないもの。さあ、雨が止んだらどこに行こうかな……。
取材・構成・撮影・文:杉村 航
<著者プロフィール>
杉村 航(Wataru Sugimura)
フォトグラファー。1974年生まれ。長野県在住。山岳・スキー写真をメインに撮影する。沢に薮山、山スキー、道なき道をいく山旅が好き。ライフワークはトラウトフィッシング。美しいヤマメやイワナを求めて、全国の渓流に足しげく通う日々。小谷村山案内人組合所属、北アルプス北部遭対協。全日本釣り団体協議会公認・フィッシングインストラクター。
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