子どもの生きる力を育む、“戸隠”ふかふか雪上アドベンチャーへ出発!

広く市民からの信仰を集める戸隠山、日本百名山の高妻山(たかつまやま)などの麓に位置する戸隠は、平安時代から多くの修験者が集まり、広く全国に認知された歴史のある場所です。厳しい寒さ、そして雪と共存してきた文化が伝承されています。
2023年1月末、週末の2日間を使って開催されたモニターツアーは、親子で戸隠の自然や文化を学び、子どもたちが自ら考え「生きる力」を育むことを目的とした雪上アドベンチャー。雪を体験したことのない県外の子どもたちと一緒に、ふかふかの新雪に興じた一泊二日をレポートします。

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歴史の地・戸隠は、冬も魅力がいっぱい

戸隠を含む「妙高戸隠連山国立公園」は、平成27年に指定された国立公園です。新潟県と長野県の県境に位置し、火山・非火山それぞれに個性的な歴史を持つ山が連なります。山裾に点在する高原や湖、池などが独特の美しい景観を生み出し、夏は登山やトレッキング、冬はウィンタースポーツ、そして通年の自然散策など、さまざまな活動フィールドとして人気を集めています。中でも戸隠は、山々が育む水に恵まれ、100種類以上の野鳥が生息する豊かな生態系と、水芭蕉など希少な植物が見られる場所です。

また、戸隠山には、奥社・中社・宝光社(ほうこうしゃ)・九頭龍社(くずりゅうしゃ)・火之御子社(ひのみこしゃ)の五社からなる「戸隠神社」があります。創建はおよそ1,200年前。日本神話に登場する天照大御神(あまてらすおおみかみ)が隠れていた岩屋の扉、「天の岩戸(あまのいわと)」が天手力雄命(あめのたぢからお)に投げ飛ばされて落ちた先だ、という伝説も残り、多くの参拝客が訪れます。
冬に一面を覆い尽くす雪は、サラサラとして固まりにくい国内屈指のパウダースノー。スキーやスノーボード、スノートレッキングなどアクティビティが楽しめるほか、地域に自生する根曲がり竹を編み込んで作る「戸隠竹細工」や、春までの野菜を雪の中に保存する「雪中野菜」など、寒いからこその知恵を凝らした文化が受け継がれてきました。

モニターツアーの2日間、チームを率いてくれるのは、登山用アプリを配信する株式会社ヤマップのひげ隊長こと前田央輝さん。小学2年生から中学1年生まで、3組の親子が参加してくれました。

伝統の竹細工で、スノートレッキングを初体験

集合場所は戸隠神社奥社の駐車場。まずはトレッキングガイドの吉井さんと一緒に、「随神門(ずいじんもん)」を通って鏡池までのスノートレッキングに出発です。ふかふかの雪上を歩くのに使うのは、根曲り竹の竹細工でできた「和かんじき」。大人から子どもまで誰でも履くことができ、古くから人々の暮らしに使われてきました。今回用意された和かんじきも、戸隠の竹細工職人さんが作ってくれたものです。

履くことで雪に足が沈みにくく、歩きやすくなる和かんじき

道具の使い方も一から丁寧にレクチャー。ストックの長さは、肘を90度に曲げたときの高さで調節する

雪道を歩くだけでも非日常という子どもたち。チョコレートやスナック菓子など行動食とお弁当、水を受け取って出発

雪道を歩くコツは、足を後ろに蹴り上げず、裏の全体を地面につけて腰と膝を落とすこと。白一色の静かな冬の森ですが、歩いていると水の流れる音や葉の擦れる音、そして鳥の鳴き声など、意外と賑やかなことに気づきます。この時期の戸隠で見られる野鳥は、カラ類やキツツキの仲間など15、6種類。木の幹に開いた穴に住むゴジュウカラも鳴き始めます。木の葉が落ちて見晴らしが良いので、夏に比べて姿が見つけやすいのもうれしいところ。雪上に動物の足跡が残っていることもあるので、時折立ち止まりながら列になって進みます。

耳や目、鼻など、五感をフルに使って自然を楽しむ

立ち止まって自然観察。木を見ると周囲の標高や気候の特徴が分かることも

戸隠神社奥社といえば整然と並ぶ杉並木。随神門から先、200本以上立ち並ぶスギの巨樹は圧巻

15分ほどで随神門に到着したら、いよいよ和かんじきを装着します。ここから先は参道を外れ、手付かずの雪も残る散策コース。アップダウンの少ない平坦な道のりですが、所要時間は子どもの足で片道40分から50分ほどかかります。途中には赤い鳥居がいくつも並ぶ「天命稲荷」があり、お参りに立ち寄りました。

一つ一つ教わりながら、できることは自分で挑戦

枝葉が落ち、森の中を自由に歩けるのもスノートレッキングの醍醐味

真っ白な世界に現れる真っ赤な鳥居。非日常な世界が広がる

到着したのは鏡池のほとり。雲が切れて戸隠連峰が姿を現しました。ここから先は、ガイドの吉井さんの指示に従いながら、池の上を歩きます。表面は厚い氷と雪、池の中は底までシャーベットのようになっているそう。「夏ならここは水の上だよ」という吉井さんの言葉を受け、みんなの踏み出す一歩には、少しの緊張が走っていました。

鏡池の上から望む戸隠山。ゴツゴツした岩肌が迫力満点

池の上に出ている古木にタッチ

お弁当を食べたあと、束の間のそりタイム。戸隠の雪はふかふかで、転んでも痛くないのがうれしい

パラパラと雪が降り出した帰り道。戸隠奥社の駐車場まで、来た道を戻ります。行きは余裕がなくて気づけなかった動物の痕跡や鳥を見つけ、ダケカンバやシラカバ、イチイ、モミなど、たくさんの木を観察しました。

雪上火おこしに挑戦!雪中野菜とジビエのBBQを楽しもう

車に戻って向かう先は「戸隠キャンプ場」。標高1,200mにある広大なフィールドと戸隠連峰を望むロケーション、併設された戸隠牧場で動物とのふれあいなどが楽しめる、人気のキャンプ場です。冬は基本的に閉鎖されていますが、今回は雪に覆われたフィールドを使って、雪中野菜について学び、火おこしやBBQなどアウトドア体験を行います。

パネルを使って勉強。日頃目にすることのない雪中野菜に興味津々

雪から掘り出した野菜は、調理してみんなで「いただきます」

雪原に張られた大きなテントが会場。薪ストーブが置かれ、寒さも和らぐ

雪中野菜は、戸隠を含む雪の多い地域で、古くから受け継がれてきた生活の知恵。地面が凍りついて野菜づくりが難しくなる冬に備え、秋に採れた野菜を雪に埋めて保存し、野菜不足を補ってきました。雪の中は温度が0度前後と一定で、野菜は寒さから命を守るために糖度を増し、甘くなります。今回のツアーでは、あらかじめダイコンやニンジン、キャベツが雪に埋められていて、宝探しのように掘り出して楽しみました。

火おこしに使うのは、金属を擦り合わせて火をつける「メタルマッチ」。グッと力を込めて火花を散らし、割いた麻ひもに着火します。麻ひもから木端、木端から細い薪、さらに太い薪へ、徐々に大きな火を育てていくのが上手な火おこしのコツ。少し難しそうでしたが、火吹き棒などを使い、みんな立派な火をおこすことに成功しBBQを楽しみました。

力とコツが必要なメタルマッチ。みんな真剣

慎重に見極めて息を吹き込み、火をおこしていく

BBQのメインは地元産のおいしい豚肉やジビエの鹿肉。鳥獣駆除についてもお話を聞いた

神主さんのいる宿坊で戸隠の歴史に触れよう

身体も頭もフル稼働した1日の終わり、宿泊先の「宿坊 宮澤旅館」へ向かいます。中社近くの趣ある建物で迎えてくださったのは、戸隠神社の聚長(しゅうちょう)でもある宮澤俊穂さん。聚長とは、戸隠山や戸隠神社を守り支える神主のことで、戸隠には聚長の暮らす宿坊がいくつもあり、宮澤家もその一つです。

戸隠の大神様をお祀りしているご神殿のある宮澤旅館。希望があれば、宿泊客以外の参拝も受け入れる

古く「中光坊」として始まった宮澤旅館は、江戸時代に礼拝する施設を伴う「宝蔵院」となり、明治時代の神仏分離を受けて「宮澤」の名を受けました。俊穂さんは、宮澤姓を継ぐ7代目。本来であれば仏教で使われる「宿坊」という言葉が、今も戸隠に残る理由については「初代の名を引き継いで、名乗っている宿が多いのではないか」と、話してくださいました。

ここでの体験は、夕食にいただく戸隠蕎麦とその後の星空観察。そして「日供(にっく)」という朝のおつとめです。

厳かな空気に自然と背筋が伸びる子どもたち。みんな真剣

戸隠や宿坊の歴史に触れる貴重な時間。作法を教わり、座って参拝も

日供は、毎朝神様に日替わりのお供物をするお祭りごと。宮澤旅館では、戸隠の大神様をはじめ、全ての神々に、健康長寿(けんこうちょうじゅ)・良縁福来(りょうえんふくらい)・営業隆盛(えいぎょうりゅうせい)・心願成就(しんがんじょうじゅ)などをお祈りします。神殿の周りを飾るのは、明治時代の画家・長井雲坪氏の屏風です。明治時代、長井が自然を求めて戸隠を訪れた際に滞在したのが宮澤旅館だったといい、当時の作品が館内のあちこちに残されていました。

30分ほどの祭典を終え、身支度を整えたら雪遊びに出発。天気にも恵まれた2日目は、絶景の戸隠スキー場を目指します。

絶景のスキー場で雪遊びとコーヒーブレイク

「戸隠スキー場」は、毛無山(けなしやま)と瑪瑙山(めのうさん)の2つからなるスキー場。60年ほどの歴史があり、上質なパウダースノーを求めて各地からスキーヤー、スノーボーダーが訪れます。ここ戸隠は、全てのコースが戸隠山に向かっているのがポイント。まるで戸隠連峰が迫ってくるような光景は、ここでしか味わえない特別なものです。
さらに、サラサラの雪質が保たれるのも戸隠連峰があるおかげ。水分を含まない軽い雪雲だけが山を超えて雪を降らせるので、シーズン中ずっと固まりにくい雪が楽しめ、そり遊びなどにも最適な環境が整っています。

戸隠連峰と高妻山(右奥の一番標高が高い山)を正面に、妙高山など新潟方面からアルプスの山々までが一望できる

4人乗りリフトで毛無山の山頂に着いたら、ゲレンデを歩いて絶景スポットへ。
大人は温かいコーヒーを飲みながら、子どもたちは雪遊びと竹スキーにチャレンジしました。竹スキーは、かつて戸隠の子どもたちが麓までの通学に使っていたこともあったという日用品。昨日の和かんじきに使われていた「根曲り竹」を結んでつくられたものや、1本の竹をふたつに割ってしならせた板状のものなど、さまざまな形の竹スキーが作られていたといいます。見慣れない形状に、初めは恐る恐る様子をうかがっていた子どもたち。インストラクターのお兄さんやヒゲ隊長にサポートしてもらいながら、未体験の滑走感を楽しみました。

コツを掴んでどんどん上達していく子どもたち。体重移動とバランスの撮り方がポイント

親子で思う存分雪と遊べるふわふわの雪質が特徴

子どもたちは紅茶、大人はスキー場の「GODS COFFEE」で淹れたオリジナルブレンドコーヒーで休憩

最後はスノーモービルの後ろに付けられたそりで一気に下山。昨日が初対面だったとは思えないほど仲良くなった子どもたち、「またどこかの山で会おうね!」と声をかけ合いながら、お別れの時間を迎えました。

雪まみれの2日間を終えて、「とにかくふかふかの雪が楽しかった!」と、感想を伝えてくれた子どもたち。普段とは違う環境で出会った新しい友だちとの交流も、大きな財産となったように思います。専門家と一緒に楽しむ冬の戸隠には、山岳信仰の歴史や雪と暮らす文化、そして厳しくも美しい自然など、さまざまな出会いと学びが待っていました。


スノートレッキングや竹スキーなどモニターツアーの内容は、戸隠スキー場を運営している株式会社戸隠が、冬のアクティビティとして実施を検討しているプログラムです。グリーンシーズンとは一味も二味も違う戸隠の自然散策を、そして大人も本気になれる雪遊びを、冬の戸隠で体験できる日が楽しみです。


問い合わせ
〈株式会社 戸隠〉
電話:026-254-3581
http://togakushi.co.jp/


構成:フィールドデザイン 撮影:松本 千尋 取材・文:間藤 まりの

<著者プロフィール>
間藤 まりの(Marino Mato)
松本市出身上田市在住、小学生2児の母。子育て情報を書いたブログをきっかけに、2016年よりフリーライターとして活動。前職、不動産会社勤務の知識を生かした住宅に関する記事をはじめ、地域、観光、人をキーワードに取材執筆をしています。誰かの思いに温度をのせ、届けるお手伝いが得意です。

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