“日本一の寒さ”を体験できる雪中キャンプ。上田市・菅平高原で体験するナガノ流“HOT”な冬キャンだ!
今回のテーマは「冬キャン」ということで、編集長から、凍傷、遭難にはくれぐれも気をつけてと激励!? を頂戴し向かった取材先は、最低気温が全国で一番低い日もある菅平高原のキャンプ場。どちらかというとインドア派の私には全くイメージできない雪中キャンプ。そして氷点下20度を記録するような屋外に、テントを張って一夜を過ごすなんてことは、ただの自殺行為ではないのか!? と大きな疑問と最大級の不安を抱きながら、その未知なる実態を取材してきました。
白銀の世界に集まる、怖いもの知らずのキャンプ集団
私、上田市在住のGo NAGANO公式クリエーター・池松と申します。関東でも積雪を観測した2月の週末。真冬の菅平高原で雪中キャンプを楽しむグループがいるということで菅平高原ファミリーオートキャンプ場にやってきました。今回、取材を受けてくださったのは、山梨県で日本初のサブスクリプションキャンプ場『CAMP SPACE DOSHI 2.0』を共有するグループの皆さま。案内を担当してくれたのはメンバーの赤地勝行さん。ここ菅平高原ファミリーオートキャンプ場の常連客でもあり、グループからの要望がきっかけで、4年ほど前からこのキャンプ場でも雪中キャンプの受け入れが始まったとのことでした。
私が到着した午後1時頃の気温は氷点下3℃ほどで、冬の菅平高原としては過ごしやすい気温でした。この時点でテントがいくつも設置されていましたが、利用者の皆さんは10時ごろに到着して、設営場所確保のための雪かきからスタートしていたようです。雪かきと圧雪だけでも3時間ぐらいかかる過酷な!? 作業が、雪中キャンプの最初の試練だという話を聞いただけで、やはり私には全く理解できないレジャーの一つとしてあらためてイプットされました。
敷地一面が雪に埋もれていて、もはやどこからどこまでが区画なのかわからない白銀の世界ですが、このキャンプ場の冬季シーズンは1日1組しか受け入れていないため、どこを使っても大丈夫。そして、車も設営スポットのすぐ近くまで乗り入れられるので、大量のキャンプ用品や食材をポイントまで運ぶのも楽々です。もちろん、そこまでたどり着けるのはそれなりの装備をした車だけですのでご注意を。
冬キャンに欠かせない装備とこだわりをマナブ。
設営が着々と進む現場へと案内され、皆さんの自慢のテント内を見せて頂きました。床部分もしっかりと覆われているお座敷タイプのテントや、雪の上にそのまま設置するタイプなど、どのテントも扉を開けるとそれぞれ全く違う空間が広がっています。参加者の中にはキャンプ用品を扱うショップスタッフもいて、机、イス、食器一つ一つがこだわりのもので、予想をはるかに上回るオシャレ空間に仕上がっており、それぞれの個性が際立つ内装になっていました。
冬キャンに絶対欠かせないものは何かとお聞きしたところ、皆さん声を揃えて「寝袋だけは絶対ケチっちゃダメですね。あと、どんなにかさばってもストーブだけは欠かせませんよ」と力説。肌触りも良くて羽毛で体温を逃がさない寝袋の準備は冬キャンの基本。そして驚いたのは、テントの上部に突き出した1本の煙突。近寄ってみるとテントの中に薪ストーブが設置されているではありませんか。もはや石油ストーブどころではないのが、“熱源へのこだわり”を感じさせました。
ここで、少しずつ謎が解けてきた私。冬キャンをする皆さんは極寒の中で寒さに対して我慢大会をすることが楽しいのではなくて、極寒の中で最高に過ごしやすい環境を整えることが楽しみの一つなんだということに気付き始めます。
極寒の冬、雪中でのキャンプの真髄とは?
冬キャンの楽しみは何ですか?という問いに笑顔で答えてくれたのは、焚火とキャンプが好きで脱サラし、前述した山梨県のキャンプ場「CAMP SPACE DOSHI 2.0」を立ち上げたイノベーター、発起人の河西誠さん。
「この雪景色の中で、凍てつく寒さとそれを溶かす暖かさが隣り合わせで楽しめることですね、良かったら僕のテントを見ていってくださいよ」
案内された先には、もはや私の想像しているテントの姿はなく、木と木の間に張られただけのタープの存在。近寄ってみるとタープの中にハンモックの寝床が用意されていました。
ええええ?ここで寝るの???どう考えても自殺行為じゃ・・・
理解の追いつかない私は、近くで同じスタイルのテントを準備している女性の方に恐る恐る「これ、本当に大丈夫なんですか?なんでこのスタイルで?どんな楽しみがあるんでしょうか?」と、少々失礼な聞き方で質問をしていました。
「あははは。見た目はやっぱり寒そうですよね。でも、とても寝心地はいいんですよ。今、ハンモックにハマっていて、家でもベッドを撤去してハンモック生活をしているのでこのスタイルなんですが、設営しているときは、私何やってるんだろう…って、ふと思ったりしますけど、でも、寝袋のなかに入ってしまえばとても温かいんですよ。回数重ねるうちに、色々と工夫しながら、どこまでいけるのかやってみたくなって、どんどん普通じゃなくなってきちゃいましたね」
話を聞けば聞くほど、本人たちは特別なことをしている意識があまりないようで、取材への対応に余裕がありすぎて、これから始まる氷点下20℃の過酷な夜を過ごすことが全く無謀なことではなく、逆に私自身も優雅な楽しみ方なんだというイメージに変化してきてしまいました。
冬山での遊びとキャンプ飯の実態!?
テント設営が終わると、各々の楽しみ方が始まります。周辺には少し車を走らせれば選び放題のスキー場があるので、そのままゲレンデに遊びに行くのはもはや定番です。その一方で、キャンプ場内では雪遊びを堪能する子どもたちのはしゃぎ声と、テントの中から何やら盛り上がる大人の声が聞こえてきます。中を覗いてみると、すでに宴会が始まっていました。設営を終えて一息ついている皆さまに、キャンプで外せないメニューについてお聞きしてみました。
「僕たち、バーベキューとかあんまりやらないんですよね。冬キャンは外が寒いじゃないですか。だからテントの中で調理できるものが中心になるんですよ。あと、バーベキューは火元の管理や後始末も大変ですし。ちなみに、夏も暑いからバーベキューの選択は少なかったりしますよ」
キャンプと言ったらバーベキューというイメージのあった私ですが、先入観はことごとく崩壊していきます。ではどんな食事をされるのでしょうか。
「今回は普段シェフをしている人が参加しているので、パスタやステーキなんかも出てくるかもしれないですね。とはいえ、やっぱり一番のメニューは鍋が最強じゃないでしょうか。大人数にも対応できて、準備や片付けも楽な料理だから、鍋をつくることは多いですね」
氷点下10℃を下回りはじめた菅平の夜に、布一枚隔てたテントの中にはとても快適な空間が広がり、コンロなどの機能がついたテーブルの上では美味しそうなキムチ鍋や、おでんなどの温かい料理が湯気を上げて準備されていました。各々が準備したお酒と共に、楽しいひと時が過ぎていく、冬キャンはなんとも優雅でホットなレジャーでした。
菅平高原ファミリーオートキャンプ場の引力
オールシーズン、時間があるときはキャンプを楽しみに来るという赤地さんにこのキャンプ場の魅力をお聞きしました。
「敷地全体が見通しの良い空間なので、家族で来ても子どもたちが目の届く範囲で楽しめるキャンプ場なんですよね。あとは、この見晴らしが本当にきれいなので、大好きです。冬はやはり何と言っても菅平のこのパウダースノーが最高ですが、最大の魅力は貸し切りで使わせていただけることですね。一組限定で受けてくれるため、仲間しかいないのでまわりに気を遣わず楽しめるし、使い方によってはこの空間を独り占めすることもできるというのは凄いことです。そしてやっぱり宮崎オーナーのお人柄ですね。とても気の利いた接客をしてくれて、細かい要望に笑顔で応えてくれるので、毎回どうしても甘えてしまいます」
山側を向けば見通しの良いキャンプエリアが広がり、谷側には菅平高原とその先にそびえる山々の眺望が、少し目線を上げると青い空、夜には澄んだ空気に満点の星空が広がる菅平高原ファミリーオートキャンプ場。ここはキャンプをする人にとって人気のある北海道にも引けを取らない冬キャンのスポットとして、環境、サービス共に満足できる施設として認められているとのことです。
「自然に囲まれた不便な環境で、どれだけ日常に近い空間が創り出せるか、という挑戦をしているので、便利であることは特に望んでいないですね。目的や仲間に合わせて場所が変えられるのもキャンプの魅力だと思います」
不便なことを楽しむのではなく、大自然に囲まれた不便な環境の中に、最高に便利で過ごしやすい環境を作り出して、滞在時間を最大限に楽しむ冬キャン。
今回、現地取材をさせて頂いて、先入観だらけだった自分がとても恥ずかしく感じました。レジャーを楽しむ皆さまの心意気は、現場を体験してこそわかるものなのだと再認識した取材となりました。
翌朝、自宅でニュースを見ていると、菅平高原の気温が氷点下19.8℃という堂々の日本一気温の低い場所として記録が出ていましたが、交換したSNSの投稿で皆様の生存が確認できてほっとしながら、2日目を楽しそうに過ごしている姿が想像できるようになったのは、私も冬キャンの魅力に気付けたということなのかもしれません。家庭の事情という言い訳をしてハンモック泊のお誘いから脱走し下界へ戻ったことを深く反省しております。皆さんも日本一寒い場所での雪中キャンプ、ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。
取材・文章・写真:池松勇樹
☞菅平高原ファミリーオートキャンプ場
http://sugadaira.camp/
☞CAMP SPACE DOSHI 2.0
https://csd20.site/
<著者プロフィール>
池松勇樹
「情報による地域活性化」を掲げて信州上田に密着した地域メディア「うえだNavi編集部」を創設。現在は地域資源を有効活用するための調査や企画を行う地域ブランドプロデューサーとしても活動。ご当地グルメやアニメ・ゲームとのタイアップなどによる観光プロデュースも手掛けている。車が好きで、休日の日課は食べ歩きドライブ。
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