松代_食と出会う【ずっとかよいたくなる味】
“ほっとするおいしい”をみつけました。

『松代町』を支えてきた伝統の味は、いまも脈々と受け継がれている。松代町と聞いて真っ先に浮かぶ食材は長芋だろう。それはもちろんのこと、実は名産な食材や料理を食べて回り、町を味わってみた。

松代町を味わい尽くすセット《麺味座(めんみくら)》

〈まつしろ まち歩きごはん(税込・1,200円)〉

松代町産のあんずが載った〈坐雲堂の杏おこわ〉

松代町の特産を味わい尽くせる『まつしろ まち歩きごはん』。信更町産の辛味大根のすりおろし汁にみそを溶かて食べる釜揚げうどん、長芋を含むかき揚げに加え、店オリジナルブランド〈坐雲堂(いまうんどう)の杏おこわ〉とセットにもできる。

〈坐雲堂の杏おこわ〉は、もち米に松代町産のアンズが合わさった逸品。松代町の名物として共同開発され、2019年に誕生した。麺味座店主の二本松博さんは、共同開発者の一人で『松代町』を食でPRしたいと、自店のレシピを公開した。自店の美味しさの秘密を明かすことに抵抗は無かったのかと問うと「自分の店っていうより『松代町』の名前が売れてほしかったから。ブランド名でちょこっと宣伝させてもらってるけどね。坐雲堂(いまうんどう)を逆から読むと分かるよ」と笑う。〈坐雲堂の杏おこわ〉は、松代町内の取扱店の他、東京の高島屋や銀座NAGANOなどでも販売。県外にも『松代町』の名を広めている。甘酸っぱいアンズと、もち米の相性の良さにはまる人が多いのでは。

店主の二本松さん。〈坐雲堂の杏おこわ〉の仕掛け人

また、二本松さんは、コロナ禍をきっかけに“松代地域魅力発信プロジェクト”を立ち上げ、外出できない時だからこそ、地元の味を地元の人に知ってもらおう、とデリバリー事業を展開。松代町内の10店舗ほどの商品がサイトから注文できるように仕組みを整えた。「ゆくゆくは、買い物弱者の救済策にもなれば」と見通す二本松さん。外にも内にも、その情熱は注がれている。

《麺味座(めんみくら)》
長野市松代町豊栄6154-1 TEL026-278-0141。11:30~14:00。月曜定休。
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長芋とろろ定食、鯉こく付き《割烹 梅田屋/お食事処うめたや》

松代町特産 〈長芋とろろ定食 鯉こく付き(税込・1,672円)〉。汁物は鯉こくかみそ汁か選べる(みそ汁の場合は、1,012円)

とろろに、だしが合わせてある

江戸時代、旅籠として創業。後に料理店となり、今に続く。人気メニューは、松代町特産の“長芋とろろ定食”。長野県産の米にかけていただく。プラス660円で、セットの汁物をみそ汁から“鯉こく”に変更可能だ。

11代目店主の石坂和夫さんは言う。「松代町と鯉の歴史は深い」。江戸時代には真田家がタンパク源として鯉の繁殖を奨励し、その後も地域産業として度々養殖の普及が図られた。店で提供している〈鯉こく〉は、輪切りの鯉に熟成させたコクのある仕込みみそを合わせている。伝統の味は、当代のこだわりが反映され、進化していく。「基本の作り方はもちろん一緒ですが、親父が店をやっていた時の方がさっぱりとした味わいだったかもしれません。自分がおいしいと思う鯉こくを求めたら、この味にたどり着きました。観光で訪れた親子が2日連続で食べに来たこともあって嬉しかったですね」と喜ぶ。

松代町伝統の味〈鯉こく〉

「調理技術も進歩している。伝統の味を守りながらも、時代の変化を取り入れて、味を追求していきたい」と話す石坂さん。松代町の歴史的背景が詰まった〈鯉こく〉は、今後さらに進化していくのだろう。期待に胸がふくらみ、お腹が鳴った。

《お食事処うめたや》
長野市松代町松代628 TEL026-278-2174。11:30~14:00、17:00~22:00。不定休。
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伝統家屋で食べるビーフシチュー《寺町商家》

〈ビーフシチューセット(税込・1,100円)〉

松代町産の長芋や季節の野菜が添えられている

江戸末期から、昭和初期まで質屋を営んでいた金箱家の旧宅。やわらかな光差し込む日本家屋からは、泉水路のある立派な庭園がのぞける。周囲も静かで、タイムスリップしたかのような錯覚を起こすほど。ここで、ランチが食べられるというのだから驚きだ。

食事ができる場所から見る庭園。穏やかな時間が流れる

地元のお母さんたちが作るビーフシチューには、ほんのり焼き目のついた長芋や季節の野菜が添えてある。コクのあるシチューに、シャキシャキした、さわやかな長芋が合う。通常のランチの他に、“ワンデイシェフ”が腕を振るう日も。予約すれば誰でもキッチンを貸りられ、料理提供が可能だ。コロナ禍、シェフ希望者は減っているが、定期的な出店を楽しみにしているファンは多いという。

キッチンに限らず、寺町商家のスペースは全てレンタルできる。学問所として使われていた部屋でテレワークをするも良し、土蔵はギャラリーとして利用するも良し。毎月テレワークをしに訪れるという利用者からは「昔ながらの照明が落ち着く。静かな空間で集中できる」と好評だ。長野市指定文化財の建物で、思い思いの時間を過ごしてみてはいかがだろうか(施設利用は要予約)。

《寺町商家》
長野市松代町松代寺町1226‐2 TEL026-214-5013。10:00~16:00(Lunch 11:00~15:00)。不定休。
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うどん屋さんの餃子《こむぎ亭》

〈〈ぎょうざ(20個/税込・1,430円)〉。テイクアウトも可能(同・1,404円)
※価格変更の可能性あり

〈Wぎょうざ定食(税込・1,089円)〉

地元・松代町にある製麺店の実食店舗としてオープンした《こむぎ亭》。うどん店でありながらも、餃子が人気メニューの一つだ。生地は、うどん用の粉でつくられていて、少し厚め。ニラやキャベツ、ひき肉、しょうが、にんにくを包んでいる。野菜と肉の具のバランスは半々。にんにくより、ニラの香りが引き立つ。まるでうどんのような、つるっとした食感が絶妙だ。

《こむぎ亭》は窪田一家が営んでいる。開業は27年前。松代町の宮下製麺店を経営する、現店主の拓馬さんの叔父が開いた。一度店を畳んだが「形態を変えてもいいから、自分の店としないか」と叔父から声を掛けられた拓馬さんが、7年前に営業を再開。以前のメニューやレシピを受け継いでいる。

“うどん屋さんの餃子”は、開店当初から“祖母の味”がベースだ。拓馬さんも小さい頃から食べ慣れ、親しんだ味。シンプルな味付けは「何個でも食べられる」と評判で、リピーターも多い。“祖母の味”は一家を超えて、地元に愛される味となった。

窪田家の味は、松代町で愛される味に

餃子定食には、うどん・小鉢・お新香が付く。しょうゆベースのかけうどんは、身体に染みわたる優しい味わいだ。餃子はテイクアウトも可能で、生餃子と焼き餃子が選べる。生餃子の美味しい焼き方のポイントは、常温や冷水ではなく、お湯を入れることだとか。是非試してほしい。

《こむぎ亭》
長野市松代町松代御安町1129-2 TEL026-274-5536。11:30~14:30/17:00~20:30。水曜定休。
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紅白の酒饅頭《松代まんじゅう夏目商店》

〈酒まんじゅう(1個/税込・90円)〉

紅白の酒まんじゅう。紅い方は、食紅で色付け

創業から100年近く続く酒まんじゅう店。仕込みは前の晩から始まる。炊いたおかゆにこうじを落とし、そこに長年の“タネ”を入れて寝かす。翌朝、餡を包んで丸め、せいろに入れ蒸し上げる。

3代目の夏目量彦さんは、やわらかな空気をまとっている。高校卒業後、市内で会社員としての勤務を経て家業を継いだ。“家業を継ぐ”ことに特別な思いはあったのか聞くと「それが自然なことですから」と一言。気負いなど無く、家業につくこと、つまり、まんじゅうを作ることは夏目さんにとって当たり前のことだった。それはこれからも変わらない。「長野市内にある酒まんじゅう屋も恐らく2軒でしょう。寂しいことではありますが、自分たちはおいしいお菓子を作るだけですね」。

紅白の酒まんじゅうのみを店頭限定で販売している。地域の祭りでも使われていたが、その機会が減る中で、通信販売すれば売れるのでは?と言われることもあったが……。「出来立ての食感を味わってほしいので……要望があれば送りますが、積極的にはしないですかね」とふんわり言う。

せいろから出る蒸気を見極める夏目さん

ここの酒まんじゅうの自慢は、その生地。ふわっとした食感の中にも、しっとりとしたというべきか、重厚感がある。まさに夏目さん自身の人柄のように。代々受け継がれてきた“タネ”でつくられる酒まんじゅうは、夏目さんそのものだ。

〈松代まんじゅう夏目商店〉
長野県長野市松代町625 TEL026-278-4846。9:00~18:00。不定休。
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取材・文:松尾奈々子 撮影:佐藤ピエール