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観光関連事業者向けにコロナ対策を学ぶ研修会を開催
動きだした地域独自の感染症対策基準『茅野あんしん認証』とは

取材日:2020/7/17

茅野市『ちの観光まちづくり推進機構』は観光関連事業者向けに新型コロナウイルスの感染症対策を学ぶ研修会を開催。宿泊、飲食店事業者など13人が参加しました。感染症対策の基準を満たした観光施設を認証する『茅野あんしん認証』制度の一環で、エリア全体で安全・安心な観光地域づくりを進めることを目的としています。同機構の認証を受けるには、認証トレーニングとして研修会への参加が必須。研修会(認証トレーニング)では、『茅野市国保診療所リバーサイドクリニック』の鍋島志穂医師が中心となり、観光施設での具体的な感染症対策や発熱などの症状を認めるお客さまへの対応等を説明。参加者自らが実際に手指消毒や防護服を着脱したりする場面もありました。

新型コロナウイルス対策の難しさとして、無症状の方が多いということが挙げられます。感染のうち、約50%は無症状者から起きているといわれており、感染リスクを完全にゼロにすることは不可能でしょう。感染しないために世界中の人が自宅に籠り続けるわけにはいきません。対策の基本としてまずは“敵を知る”ことが重要です。

~鍋島志穂(なべしま・しほ)氏~
群馬大学医学部卒業後、『淀川キリスト教病院』での初期研修を得て、2011年より『諏訪中央病院』にて勤務。
2014年に家庭医療専門医取得、『茅野市国保診療所リバーサイドクリニック』に勤務。現在は副所長を務める。

ウイルスが入ってくる場所は目と鼻と口です。手に付着したウイルスがそのまま浸透して皮膚から感染することはありません。つまり顔を触らなければ感染はしません。ポイントは、手を清潔にする+ウイルスの侵入をブロックすることです。

ウイルスの感染経路として主に3つあります。

1 接触感染 基本的に手から感染することが多く、ウイルスが付着した物に触り、その手で目をこすったり、物を食べたりするとウイルスが体内に入ってしまいます。特に不特定多数の人が触る部分は注意が必要です。手洗い・消毒・手で顔を触らないことが対策の基本となります。

宿泊施設などで多いビュッフェやバイキングも工夫次第で安全に運用できます。トングを一人一個をお渡ししてそのお客さま専用にすれば不特定多数の人が触れることがなくなります。または割りばしなど使い捨てのものを用いて共有を減らすことも有効です。

ドラッグストア等ではいわゆるアルコール製品がたくさん出回っています。中には“清涼剤”として販売されているものや、アルコール濃度が低く消毒に適さない物もあります。購入する際、表示をしっかりと確認してください。

また、次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムは異なる別物です。次亜塩素酸水を使用する場合は汚れをあらかじめ落とし、表面をヒタヒタに濡らさなければ効果はありません。厚生労働省等で公表されている使い方をしっかり調べてください。
厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/………

接触感染対策

対策 ポイント
顔を触らない 感染源にもなり、感染の入り口にもなる目口鼻を触らないのが原則。触る時は手指衛生を
手洗い 石鹸で少なくとも20秒こする
→目安として童謡の『キラキラ星』を歌い終えるくらい
アルコール消毒 アルコール濃度に注意(60~80%)
手が濡れた状態で使わない(アルコール濃度が下がってしまう)
次亜塩素酸ナトリウム 200ppm以上の濃度で拭く。環境消毒用。
※なお「次亜塩素酸水」は別物であり、使用方法は別途ご参照ください
※資料と研修会の内容を基に作成

2 飛沫感染 ウイルスが混入した唾液などを浴びることによって感染します。そもそも喋らなければウイルスは出ませんし、マスクをしていれば喋ってもウイルスは飛んでいきません。また、ウイルスは重力で次第に落ちて死んでいきます。2メートルを目安に距離をとる(ソーシャルディスタンス)が有効です。

注意したいのが、マスクを外さなければならない場所・場面です。ソーシャルディスタンスを保つ、対面を避ける、フェイスシールドや飛沫ガード(パネルやシート)等で対策しましょう。併せて換気も重要です。クラスターが発生しやすい場所は、マスクを外す場所+換気の悪い場所です。レストランやカラオケ、ジムなどは特に注意が必要です。

宿泊施設では、カラオケルームを閉鎖したりラウンジの席を間引く対策は必要です。また喫煙ルームは構造上、密になりやすい場所です。1回の利用人数を制限する工夫をしていきましょう。
忘れがちな場所が従業員の休憩スペースです。狭い場所が多いため、“3つの密”になる可能性が大きいといえます。休憩時間をずらす、換気を徹底していきましょう。

3 エアロゾル感染 どんな状況で発生するか不明な点が多いのがエアロゾル感染です。多くは医療処置の場面で発生し、それらは特殊な条件下の場合として、日常生活においてそこまで気にすることはないでしょう。
ただし、“3つの密”状態でマスク等の着用がない場合は発生する可能性はありますので、換気を徹底しましょう。

主な感染経路と対策

経路 場面(例) 対策(原則) 対策(防具)
接触
寝具、ペン、ドアノブ
水回り
手指衛生、
環境衛生(消毒)
手袋
飛沫 くしゃみ、咳、
会話、食事、水回り
時間、距離、換気
遮へい(間仕切り)
マスク、ガウン、目の保護(フェイスシールド、ゴーグルなど)
※資料を基に作成

よく質問を受けるのが宿泊施設の室内清掃についてです。室内の清掃に入る前には、換気をした後に清掃します。その際、お客さまが触れたであろうドアノブやリモコン、水回り、スイッチ類等の消毒は念入りに行います。
ウイルスは時間が経過すれば感染能力が失われます。今はどこの宿泊施設でも稼働率を下げて営業しているかと思います。チェックアウト後、すぐに部屋を使わなければならない状況でなければ清掃まで数日空けるのも一つの方法です。また、滞在中に発熱などの症状が出たお客様が宿泊していた部屋は、可能であれば3日以上空けてから清掃に入ると良いでしょう。

最後に、万が一発熱などの症状を認めるお客さまが発生した際の対応を考えていきましょう。
発熱などの症状が認められた場合は、その日は外出せず、室内で療養していただくようにお客さまに説明します。食事もルームサービス等を利用していただきます。室内清掃は原則お断りしましょう。
また、本人の同意を得て保健所などの相談窓口に連絡・相談します。

発熱者が出たことを想定し、100円で販売されている雨合羽を防護具として着用している参加者
防護具が正しく着用できているか参加者同士で確認。この後、脱衣の方法も学んだ

サービス時に従業員が接触する際は、防護具(マスク、エプロン、手袋、フェイスシールド)を着用します。エプロンやガウンなどは、専用のものでなくとも100円の雨合羽で十分代用できます。後ろと前を逆に着用し、フードは邪魔にならないよう中に折り曲げて入れます。後ろのボタンは一番上だけ留めます。
防護具は、客室ドア前で着用し、サービス終了後ドアを出たところで脱ぎます。各防護具を脱衣する度にアルコールによる手指消毒を必ず実施してください。ビニール袋に入れ、密閉して処分します。

防護具脱衣のタイミング

フェイスシールドを外す 接客終了時、発熱者対応終了時等
ガウン(エプロン)を外す 発熱者対応終了時
手袋を外す 接客終了時、発熱者対応終了時等
マスクを外す 接客終了時、発熱者対応終了時
※研修会の内容を基に作成

発症3日前からの移動経路等を聞き取り、濃厚接触した従業員も記録しておきましょう。後に、そのお客さまが新型コロナウイルスと診断された場合に必要になります。なお、室内の清掃はチェックアウト3日後が望ましいです。

新型コロナウイルスが流行し始めてまだ日が浅く分からないこともたくさんあります。治療薬などこれまで有効だと言われていたことが、実はあまり意味がなかったということもあり得ます。感染経路や感染対策については、流行から約半年で様々なことが分かってきてはいますが、まだまだ新たな発見があるでしょう。流行状況や最新の情報に合わせて柔軟に変更して対策をしていくことが大切です。

<参加者から出た質問と回答(一部)>

Q.ゲストハウスやコテージ等、共有を前提にした食器等の対策は?A.触ったか触っていないか不明なものを毎回洗って消毒することは困難かと思います。手洗いや消毒など利用する人の手を綺麗にしていただくことが現実的です。お客さまに説明して協力していただくのが良いでしょう。

Q.不特定多数の人が使用するトイレ等の清掃の際も防護服を着用した方がよいか?A.清掃を担当するスタッフ一人一人がきちんと正しいやり方でできるのであれば有効です。防護服も正しく着脱しなければ意味がありません。一人一人が徹底することが難しいのであれば、できる限りの対策で結構です。

Q.畳やソファー、スリッパ等の消毒はどうすればよいのか?A.素材によってウイルスの付着のしやすさや生存時間等は異なってきますが、全てを消毒するのは不可能に近いのではないでしょうか。気になるようでしたら布(カバーなど)をかけて、毎回洗濯する方法もありますが、基本的には通常の清掃と同じ対応でよいと考えています。ウイルスがいる=感染するではありません。大切なのは手洗いや消毒で“手を綺麗にしていること“です。

Q.体験の場など、お客さまと一緒に料理をしたり食べたりする場面で気をつけることは?A.基本的にはマスクをして手洗い・手指消毒を徹底していれば問題ありません。料理中は首から上を触ることは避けましょう。ただし、おにぎりは自分で握ったものは自分で食べるのが衛生的に良いでしょう。

<参加者の感想>

「感染症対策の専門でもある医師から直接学ぶことができ、コロナの怖さと正しい知識をベースにした対策の重要性を再認識しました。本日学んだ内容を一緒に働くスタッフにもしっかり伝えて実践・徹底していきます。感染者が発生した場合についても、これまでどうすれば良いいいのか分かりませんでしたが本日の研修会で具体的に学べました。万が一の際は、私が中心となって対応していきたいです」(男性・宿泊施設)

『茅野あんしん認証』の基準はステップ1~ステップ3まで全部で3段階あります。定められた項目に基づき対策を実施し、全て完了したらチェックリストを機構に提出する必要があります。今回の認証トレーニングはステップ1からステップ2に移行するために受講を義務づけているものです。

認証制度の狙いや展望について『ちの観光まちづくり推進機構』の専務理事・高砂樹史さんと研修会の講師を務めた鍋島志穂医師にお話しを伺いました。

~高砂樹史(たかさご・たつし)氏~
劇団生活を経て、長崎県五島列島へ移住し、観光まちづくりに参加。
国際交流事業などで「JTB交流文化賞最優秀賞」「オーライニッポン内閣総理大臣賞」などを受賞。
着地型旅行会社である観光まちづくり公社の立ち上げにも参加し、古民家などを再生したレストランや宿泊事業も展開。
茅野市産業経済部観光まちづくり推進室長を経て、現在は『一般社団法人ちの観光まちづくり推進機構』の専務理事を務める。
その他、内閣府、観光庁等のアドバイザーも務めている。

認証制度の狙いを教えていただけますか
第2波も警戒される中、ある旅行意識に関するアンケート調査では、旅先を選ぶ基準として料理や価格ではなく感染症対策を挙げる人が増えているというデータがあります。今年はゴールデンウィークの繁忙期に緊急事態宣言が発せられ、観光業は危機的状況です。観光事業者が感染症に対する正しい知識を身に付け、対策の徹底を地域全体で取り組むことで安全・安心なエリアとして誘客につなげていきたいと考えています。
また、茅野はエリア的に東京など首都圏のお客さまが非常に多いのが特徴です。感染症に対して、観光事業者もまた大きな不安を抱えています。働くスタッフさんたちも安心して観光業に従事できるように対策を進めていただければとの思いもあります。

どのように制度を作り上げていったのでしょうか 機構が事務局となり『Withコロナスタンダードちの委員会』を立ち上げました。講師を務めていただいたリバーサイドクリニックの鍋島先生や奥知久先生をはじめ、ホテル関係者や飲食店経営者にも参加いただき構築しました。チェックリストを配布して確認・実行してもらうだけでなく、認証トレーニングの参加を必須にすることでより深い知識が得られる、しっかりとした制度になっていると考えています。

認証トレーニング参加者の反応はどのように感じていますか (コロナに対して)何となく怖くて何となく対策しているという状況は一番不安が増幅されます。一つ一つの対策を“みんながやっていることをとりあえずしよう”ではなく、しっかり原理原則を理解して、各施設の現状にあった対策ができることが大切です。本日のように実際に手や身体を動かして体験したことで理解度も深まっていると思います。あとは学んだことを従業員にしっかり伝えて、みんなが正しい対策を徹底してくれればいいですね。

今後の展望を教えていただけますか コロナへの対策は、今後長い取り組みが必要と考えています。実行されない基準では意味がありません。観光事業者の中にはご夫婦の2人で切り盛りされている宿もあります。認証に必要なチェックリスト(実施項目)は特別な設備や装備がなくても実行できる内容に仕上げています。例えば防護服のエプロンも普通に手に入る雨合羽で代用できます。制度の普及により地域住民、観光事業者、お客さまが安心して過ごせる地域づくりを進めていきたいです。

7月末時点で、ステップ1まで取得済の事業者は約80施設にのぼり、先の認証トレーニングの受講を終え、ステップ2の認証まで取得した事業者もいます。認証制度に参加する事業者は、今後は施設独自の対策を追加で実施していくステップ3まで取得を目指していきます。

各ステップの認証を取得すると、ちの観光まちづくり推進機構よりステッカーが交付されます。施設内の見やすい場所に掲示することで、施設利用者にも視覚的にPRできる仕組みです。さらに、認証取得事業者の事業者名や電話番号、施設URLなどは同機構が運用するホームページ『茅野観光ナビ』でも公表され、観光に訪れるお客さまが施設選びの参考にできるようになっています。

(写真提供:ちの観光まちづくり推進機構)

年内中には茅野市民向けのモニターツアーを予定しているとのこと。認証を取得した施設で宿泊や体験、食事を通して感染症対策を体感してもらうのが狙いです。モニターツアーを通じて、観光誘客に関する住民の理解醸成も図っていきます。
今まさに、強い活力を持って動きだした『茅野あんしん認証』制度。地域一丸となって新しい観光の形をつくっていきます。

※ちの観光まちづくり推進機構発行「事業の流れ」を参考に作成

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