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従業員の新型コロナウイルス感染をいち早く公表した滝沢牧場
決意の裏には揺るぎない郷土愛がありました

取材日:2020/7/9

ある日、働くスタッフが新型コロナウイルスに感染したら――。経営者にとって従業員の感染は大きな脅威となります。今回の取材地は南佐久郡南牧村の有限会社『滝沢牧場』。女性従業員が新型コロナウイルスに感染。牧場名の公表に踏み切りました。その決断の背景にあった地域への愛、そして真のホスピタリティとは。

晴れた日には雄大な八ヶ岳連峰が望める『滝沢牧場』。取材当日は、あいにくの曇り空でしたが愛らしい牛や馬が顔を覗かせて迎えてくれました。

3月6日。子ども達に人気の牧場が突然の緊張に包まれます。大阪へ旅行に出ていた女性従業員の新型コロナウイルス感染が判明。長野県内で3例目の感染者でした(観光事業従事者としては初めて)。牧場では県からの要請もあり、迅速に公表を決断。濃厚接触者の早期特定にもつながりました。 当時の思いや今後の展望について、社長の滝沢恒夫さんにお話しを伺いました。

これまでの経緯を教えていただけますか 3月5日に入院、3月6日にPCR検査で”陽性”がわかりました。牧場の寮で生活するスタッフで、旅行先のイベントで感染したようです。保健所の担当者が来られて、県からの公表したい意向を聞き、同日午後には知事から発表がありました。新型コロナウイルスに感染していると知って、まず「地域に迷惑をかけたら大変だ」という思いが湧きました。

(写真提供:滝沢牧場)

その後、手配をした業者による消毒が行われ、2週間の営業停止となりました。消毒は5名で行っていただき、完了するまでに2日半ほどかかりました。ほとんどふき取りでの消毒で屋外の一部は石灰を散布しました。動物たちがいるため、アルコール消毒やマスク着用等の対策をしながら世話はしていましたが、搾った牛乳等はすべて廃棄となりました。消毒や廃棄などは県や村から支援をいただきご協力いただきました。申し訳ない気持ちとありがたい気持ちが入り交じっていましたね。

営業停止中に保健所により濃厚接触者の特定があり、結果的に私と妻を含めて11人となりました。全員PCR検査を行い、後に全員陰性と分かりました。

有限会社滝沢牧場 社長・滝沢恒夫(たきざわ・つねお)氏
昭和57年・本人が30歳の時に観光牧場としてオープン。乳しぼり体験など学校向けの体験学習をいち早く取り組み、自家生乳を使用したアイスクリームやプリン、生キャラメルなどのスイーツも製造・販売する。
インタビューは、38年前に開拓精神をもって何もないところからスタートする意味を込めて手作りで建てた「Frontier House(フロンティアハウス)」内で。

”公表しない”という選択もあったと思いますもちろん最初は躊躇しました。ただ、先ほどの話のように、まず地域に影響が出ることは避けなければならないと思いました。今はネット社会です。事実を隠すことによって、間違った情報が先行して流れても困ります。ここの地域は高原野菜や乳製品の産地でもあり観光地でもあります。風評被害で地域の特産品の販売に影響することがなにより怖かったです。最悪、牧場自体はつぶれても仕方がない。それより地域のことが心配でした。

公表したことによる反応はいかがでしたか公表したことを支持していただく声の方が多かったですが、全て好意的な意見ではありません。
知事による公表後、地域住民やお客さまから電話やメールを合計150件ぐらい頂きました。ほとんどが励ましの内容で「営業が再開し、コロナが終息したら必ず行きます」「コロナに負けるな」のような感じです。そういった一つ一つの声が心の支えになりました。本当にありがたいですよね。もちろん「感染者を出してどうしてくれるんだ」とか「(牧場や感染した従業員に対して)辞めてしまえ」といったお叱りもありました。申し訳ない気持ちでいっぱいでした。今後も謝り続けます。

滝沢社長含め、働くスタッフにも相当な負荷がかかりましたねそうですね。色々と悩みました。働くスタッフもそれぞれ思うこともあったはずです。ほとんど牧場の寮で生活していますので、自分は感染していないか、この先牧場はどうなるのか、牧場で働いているということで地域からどんな風に思われるのか。みんな口には出さないですけれどね。
感染してしまったスタッフは無事に退院して復帰しています。スタッフ一人一人、私にとっても牧場にとっても大切な仲間ですから。

営業再開の日はどんなお気持ちでしたか2週間の営業停止を終え、3月21日に牧場を再開しました(※4月16日全国への緊急事態宣言発令前)。不安でしたが意外にも訪れてくれる人が多くて。メディアの取材も含め、応援してもらったと感じています。近所の人からも「大変でしたね」と声をかけて頂きました。

現在の営業状況はいかがでしょうか牧場は、個人のお客さまだけでなく、学校団体の受け入れも非常に多いです。通常5月と6月は学校団体受け入れの繁忙期ですが、コロナの影響によりほとんどがキャンセル。一部は秋まで延期となりました。
学校団体の受け入れが少なくなったことで、売り上げは昨年と比べ単月で9割減となっています。経営状況としては大変厳しいですが、団体のお客さまが少なくなった分、個人のお客さまと色々な話ができるのは、自分にとってもスタッフにとっても良い機会と感じています。

スタッフの感染発覚により約2週間の営業停止後、再スタートを切った牧場ですがしばらくして全国へ緊急事態宣言発令(4月16日)により再び営業を自粛。5月7日に再び、感染症対策を徹底した上で営業を開始しました。

牧場は、動物と触れ合ったり、アスレチックで遊ぶなど屋外のアクティビティがメインです。ソーシャルディスタンスを保つこと、マスク等の着用、手洗い・うがい・消毒の徹底をメインに呼びかけています。レストランや売店では、スタッフによる換気の徹底や消毒液の設置のほか、通常時の50パーセント程度に座席を減らし、レジ前のビニールカーテンの設置などの対策を取っています。

学校団体に人気のアイス、バターづくりは、個人でも体験可能です。これまで体験の年齢制限を設けていませんでしたが、ソーシャルディスタンスを自分で保つことができるよう、現在は小学生以上に制限しています。

季節柄、キャンプ場利用の問い合わせが多いそうです。テント同士が密にならないよう、広場や牧草地も開放する計画も立てています。また、県民向けの地域観光クーポン『長野県民支えあい観光キャンペーン』にも参画。宿泊施設として運営している馬小屋の2階に泊まり、バーベキューの夕食、朝食、牧場内で使用できるアミューズメントチケット(乗馬や乳搾りなどが可能)をセットにしたプランも販売し、60組ほどの予約が入りました。

「国内の人口がどんどん減少している中、観光業においてリピーターの存在が大切だと感じています。大変なときでも支え、励ましていただけます。今後もそういった関係性を大切にしていきたいですね。また、キャンプや宿泊できる施設も併設しています。牧場に長時間滞在していただけるようPRもしていきたいです。ここは晴れていると星空が本当にきれいなんですよ」

そして…「スタッフの新型コロナウイルス感染という今回の件で地域の皆さまには本当に心配とご迷惑をかけてしまった。同時に地域やお客さまには本当に支えられました。今後は恩返しができるように牧場を運営していきたいです。コロナ禍の終息がいつなのか、私には分かりません。しかし万が一の際、経営者として、人として、どう行動・対応するのか。考え、準備しておくことが大切かもしれません」と滝沢さんの目に浮かんだ静かな輝きには新たな決意が宿っていました。

滝沢牧場の敷地面積は約3万坪(約10万平方メートル)。牛や馬、ウサギなどの動物との触れ合いや牧場内を巡るトラクター遊覧車、四輪バギーで牧草地を走れるアクティビティなど開放的な空間で思い切り遊べるコンテンツが豊富です。

(写真提供:滝沢牧場)

牧場をオープンして35年以上前から、子ども向けに乳搾りなどの体験活動を続けてきました。学校の行事で体験に来た子どもが大人になり、家庭を持って再び家族で訪れる人も多いそうです。「東京から来た観光バスのバスガイドさんが”小学校の体験で牧場に来ました”と乗客に紹介してくれることもありましたね」と滝沢さんが教えてくれました。

牧場の生乳を使った、ソフトクリームやプリン、生キャラメルも人気です。アイスクリームは、インターネットを用いて通信販売するほか、地域内の直売所でも販売しています。

取材当日に頂いた生キャラメルは、滝沢さん自らが研究開発し前日に作ったものでした。従来5月~10月は無休で営業していたところ、従業員の感染症予防対策として定期休養日を設けているため、経営者としての仕事と併せ、自らがスイーツの製造にも加わっています。生キャラメルは、焦げ付かないよう2時間以上かき混ぜ続けるという根気のいる作業だそうです。

生キャラメルは、冷凍状態のままいただきますが不思議と硬くはありません。口に入れた瞬間にひんやりと溶けてミルクの風味と甘さが広がっていきました。ソフトクリームはミルクの濃厚な味が楽しめ、プリンはトロトロした食感でいくつでもお腹に入りそう。雄大な景色とかわいらしい動物を眺めながら堪能するスイーツは格別でした。


滝沢牧場
住所:長野県南佐久郡南牧村野辺山23-1
電話番号:0267-98-2222
営業時間:9:00~18:00(最終入場17:30)
定休日:不定休(8~10月無休)
http://www.takizawa-bokujo.jp/


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