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クラフトマンシップでアウトドアシーンを刷新! 世界水準のカルチャーが松本市に集結する 【ALPS OUTDOOR SUMMIT】

クラフトマンシップで アウトドアシーンを刷新! 世界水準のカルチャーが松本市に集結する 【ALPS OUTDOOR SUMMIT】

国内屈指のアウトドアフィールドを持つ長野県。日本百名山に選ばれた30座に代表される日本アルプスの山々や、千曲川や犀川など豊かに水が流れる河川。諏訪湖、野尻湖、仁科三湖などに代表される美しい湖沼もあり、それぞれを舞台にさまざまなアクティビティが催されています。今回は、そうしたアウトドアフィールドへの玄関口とも言える松本市で開催された「ALPS OUTDOOR SUMMIT」の様子をレポートします。

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民藝・クラフトのまち松本市からアウトドアカルチャーを見つめ直す。

自然資源に恵まれた長野県は、アクティビティのフィールドとして以外にも、温泉や食など多彩な体験が でき、花や星空など美しいものを愛でることができる環境があります。長野県では、そうした自然に関連する全ての暮らしや文化を「アウトドアカルチャー」と名付け、「Go Nature. Go Nagano.」をテーマに、さまざまな取り組みを展開しています。
2023年10月6・7・8日に開催された「ALPS OUTDOOR SUMMIT」では、「LOVE CRAFTMANSHIP」をコンセプトに、世界水準のアウトドアカルチャーや各種ギアが大集結。およそ25,000人が来場し、トークイベントやワークショップを交えながら、新たなアウトドアの魅力に触れる3日間が開かれました。

一般入場日の様子。松本、塩尻市民は入場無料という計らいも、多くの人がアウトドアに触れるきっかけとなった

ビジョンに掲げたのは「松本をアウトドアの聖地へ」。主催の一般社団法人ALPS OUTDOOR SUMMIT 代表理事の村田淳一さんは、この場所に世界中のアウトドアメーカーやアウトドア愛好者が集い、つながりあって楽しむ未来を描きます。
村田さん「コロナ禍のアウトドア人気は一時的なものだったかもしれませんが、自分もフィールドに出てアウトドアに携わるようになり、業界の活性化に関わりたいと考えるようになりました。日本は海外に比べ、本格的なアウトドアフィールドが街のすぐ近くにあるのが魅力です。朝に東京を出発して、夕方には北アルプスで乾杯ができる。この恵まれた環境を、アウトドア好きな方にはもちろん、県民の皆さんにも味わって もらうべく、大切にしていきたいと考えています。」

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「キャンプ市場を語る」と題されたトークセッションには、峯尾繁樹さん(有限会社トラウター/写真左)、三宅譲児さん(株式会社アブレイズ/写真中央)、小杉敬さん(株式会社ゼインアーツ/写真右)らも登壇
オープニングの挨拶を行う村田さん。個人では、2022年7月に北アルプス乗鞍岳の「冷泉(れいせん)小屋」を引き継ぎ、16年ぶりにオープンさせた
「キャンプ市場を語る」と題されたトークセッションには、峯尾繁樹さん(有限会社トラウター
オープニングの挨拶を行う村田さん。個人では、2022年7月に北アルプス乗鞍岳の「冷泉(れいせん)小屋」を引き継ぎ、16年ぶりにオープンさせた

かねてより、松本市は松本城の城下町として栄え、全国各地から職人が集まって技術が継承されてきた歴史ある街です。毎年5月には大規模なクラフトフェアも行われ、ものづくりの文化は、今も脈々と受け継がれています。
村田さんたちは、こうして松本市に根付くクラフトマンシップの側面からも、アウトドアに着目しました。作り手同士が出会うことで始まる新たな文化やビジネスの可能性、作り手と使い手がそれぞれの情熱や愛情を伝え合って生まれるアウトドア業界の盛り上がり。つながりや交流が生み出すアウトドアカルチャーは、無限の可能性を秘めています。全部で118社の出店のうち、特に松本市やその近隣市町村に店舗や工房を構えるつくり手に話を聞きました。

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近隣市町村からもクラフトマンシップを伝えるブースが集結

ZANE ARTS(ゼインアーツ)

2018年に松本市で誕生したアウトドアブランド、ZANE ARTS。代表の小杉敬さんは、30年近く業界内で活躍してきたキャンプギアクリエーターであり、ZANE ARTSのプロダクトデザインから設計まで、全てを担っています。こだわりは、アウトドアを機能面からサポートするだけではなく、藝術性をもって「自然」と「人」との一体感を生み出すプロダクト。
日本のキャンプは、整備されたキャンプ場など、比較的安全な環境で楽しまれることが多く、美しい場所で心安らげる空間が求められます。
そこで例えば、ZANE ARTSのテントやギアに用いるのは、ベージュやカーキなど自然に馴染むアースカラー。形も、「デッドスペースの削減」「設営のしやすさ」などの利便性に寄りすぎず、景観を壊さない美しさとのバランスが意識されています。

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ZANE ARTSという名前は、小杉さんの座右の銘「座して半畳、寝て一畳」から、寝(NE)と座(ZA)を取って名付けられている
展示の目玉は、来春発売を予定している「GIMORG」。大人4人が快適に過ごせる空間が確保されている
ZANE ARTSという名前は、小杉さんの座右の銘「座して半畳、寝て一畳」から、寝(NE)と座(ZA)を取って名付けられている
展示の目玉は、来春発売を予定している「GIMORG」。大人4人が快適に過ごせる空間が確保されている

HERITAGE(ヘリテイジ)

山好きの代表が都内で起業し、「アイデアを素早く具現化するために」と、安曇野市に本社移転したのは1997年のこと。社内の試作ルームでサンプルを作り、自ら山に持ち込んでテスト改良を行っているという、こだわりの詰まったブランドです。創業以来大切にしているのは、「山を安全に楽しんでもらう」こと。厳しい環境で使用される山岳用テントをメインに、テントとツェルトのいいとこ取りをした「クロスオーバードーム」シリーズ、さらに山岳レスキューのグッズも作成しています。
1970年に登場した「エスパース」は、計量かつ快適なドーム型の自立式テントで、当時、居住性や収納性、重量など問題点が多かった冬山テントの概念を一新した先駆け的存在。今までも、これからも、登山者の安心安全とともに、快適なアウトドアシーンの実現を支えます。

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シュラフやザックのカバーなど、カラフルなグッズが並ぶブース内
わずか2本のポールを交差させ、ドーム型で自立性のある冬山用テント。厳しい環境でも安らぎが感じられる緑色も特徴のひとつ
シュラフやザックのカバーなど、カラフルなグッズが並ぶブース内
わずか2本のポールを交差させ、ドーム型で自立性のある冬山用テント。厳しい環境でも安らぎが感じられる緑色も特徴のひとつ

登山用具という、アウトドアの中でも少し特殊なスタンスでブースを設けていたHERITAGEの担当は、企画開発を担う中島さん。
中島さん「軽量かつコンパクトな『自分で背負って持ち歩けるテント』を、多くの方に体感していただけたのが嬉しかったです。登山では当たり前の道具、シュラフカバーなどが、お客様の目に新鮮に映ったこともおもしろい発見でした。」
来場者との会話を通じ、新たに「よりシンプルなキャンプ」という可能性を感じたという中島さん。文化とスポーツの用具メーカーとして登山の魅力を伝えながら、これからもさまざまな山の楽しみ方を提案をしていきたい、と、感想をまとめてくださいました。

TORAYA EQUIPMENT(トラヤ エキップメント)

もとは全国各地にポップアップショップを開く「行商」のスタイルで、自ら旅を楽しみながら旅道具を作っていたというTORAYA EQUIPMENTのお二人。松本市の文化とまちのバランスに惹かれて移住を決め、アトリエを構えて制作を行っています。
TORAYAのメイン商品は、パンツやザックなど旅のためのアパレル用品です。気軽に一歩を踏み出したくなるような、機能的で遊び心のあるデザインは、日本古来の生活様式や文化からインスピレーションを受けて生まれてくるそう。「365日着ていても飽きのこない服」としてつくった365シリーズをはじめ、定番の形も意識しており、注文を受けてから、ひとつひとつ丁寧に手作りしています。
今は、全国各地で出会った仲間や、ブランドを知る人たちに来てもらえるよう、オープンアトリエのような機会を企画している最中。HPなどをチェックして、ぜひ足を運んでみてください。

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アウトドアシーンに耐えうる機能性はもちろん、日常使いもしやすい素材や形が意識されている
TORAYAの屋号は古き良き文化を大切にしたい思いから、ちょっと古風なネーミングを意識
アウトドアシーンに耐えうる機能性はもちろん、日常使いもしやすい素材や形が意識されている
TORAYAの屋号は古き良き文化を大切にしたい思いから、ちょっと古風なネーミングを意識

UJMT.(ユージェイエムティー)

山好きが高じて八ヶ岳の麓に移住したご夫妻が開くのは、小さな山岳ギアのガレージブランド。アパレルメーカーでミシンを踏んでいた経験を活かして、高機能超軽量なアイテムを製作しています。人気があるのは、DCF(dyneema composite fabric)やタイベック、アストロフォイルといった注目のウルトラライト素材を用いて作る、ギアケースやバッグ、ポーチ類など。登山だけでなく普段から使える、使いたくなるアイテムを心がけながら、自分たちでデザインも手がけます。

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無駄を削ぎ落としてシンプルに、一つひとつ手作りで仕上げている
ネット販売から始まったUJMT.。ブランド名はご夫妻の苗字から
無駄を削ぎ落としてシンプルに、一つひとつ手作りで仕上げている
ネット販売から始まったUJMT.。ブランド名はご夫妻の苗字から

代表の氏家さんは、今回の「クラフトマンシップ」をテーマにしたブース出展や、フィールドに近い長野県での開催に共感して参加を決めたひとりです。
氏家さん「なによりも、都市圏で開かれるアウトドアイベントに負けない集客力に驚きました。なだたるブランドやメーカーが出店しているなか、私たちを目的に来てくださる方が多かったのも嬉しかったです。お話を通じて新作のアイデアが生まれ、製作のモチベーションも高まりました。」
日頃はネット販売がメインのため、こうして直接お客様とお話しできる機会は貴重なもの。販売店からは商品の取り扱いを希望する連絡も多く、メーカーとショップをつなぐことにも大きく寄与した3日間となりました。

TIL DSN(ティルデザイン)

2022年にローンチされたTIL DSNは、「必要不可欠で不必要なもの。」をコンセプトに、ウルトラライトギアやアパレル用品を展開するドメスティックブランドです。
この日会場に置かれたギアは、手のひらにすっぽり納まる小ささで、ネックレスのように首から下げることができる不思議な四角いパーツ。ひとつの面は強力な磁石になっていて、いくつかの方向から穴が開けられ、ネジが付属されています。これは「既にあるものの機能を拡張し、より便利にしてくれるもの」。例えばポールを通して物を掛ける、ネジを用いてカメラやギアを固定したり、関節のように何かと何かをつなぎ合わせたり。使う人のアイディアによって用途が広がっていく、他にはないエッジの効いたデザインが特徴です。
自身もアウトドアが好きで、「あったらいいな」という思いからアイディアが生み出されており、今後はアパレルにも注力していくそう。登山やキャンプなどのアウトドアシーンはもちろん、日常でも使える実用性と親和性を追求しています。

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ギアを用いることで、不要になったものや普段使っているものに新しい可能性が見えてくる
TILは”Today I Learned”、DSNはデザインの略。「今日、初めて知った(学んだ)デザイン」を意味している
ギアを用いることで、不要になったものや普段使っているものに新しい可能性が見えてくる
TILは”Today I Learned”、DSNはデザインの略。「今日、初めて知った(学んだ)デザイン」を意味している
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ワークショップでアウトドアやものづくりの楽しさを体感

FIRESIDE株式会社

屋外にブースを構えたFIRESIDE株式会社は、さまざまなフィールドで薪火のある暮らしを提案するライフスタイルブランドです。メインは、薪ストーブや暖炉など屋内で使う暖房機器、庭先や自然界で楽しむ焚き火に関する商品の企画と販売。さらに、人と人、人と自然など、さまざまな物語をつなぐ「着火点」として火を捉え、各地の職人とともにプロダクトの開発に取り組んでいます。

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銅製の「グランマーコッパーケトル(写真奥)」は、創業者がお祖母様から引き継いだ思い出の品をモチーフに新潟市の職人と作り上げた一品
ブースにはファイヤーボウルやケトルなどが置かれ、使用感や経年変化の様子が見られる工夫も
銅製の「グランマーコッパーケトル(写真奥)」は、創業者がお祖母様から引き継いだ思い出の品をモチーフに新潟市の職人と作り上げた一品
ブースにはファイヤーボウルやケトルなどが置かれ、使用感や経年変化の様子が見られる工夫も

当日ブースを担当していた白澤さんは、出店を終えて改めて、アウトドアの聖地・長野県でサミットが行われたことに意味を感じていると言います。
白澤さん「体感としては、近隣の方が多くいらしていたように思います。日頃から薪を使ったり、煙が出たりすることに抵抗が少なく、気軽に火のある暮らしを楽しめる長野県。薪ストーブや焚き火台を使うイメージも伝わりやすく、多くの方と火のある日常の良さを共有できた気がしています。」
また、サミットの趣旨で最も共感していた「メーカー同士の交流」についても手応えがあり、「今後はもっと多種多様な業界を巻き込んでもらえたら」と期待を語ってくださいました。

Libelle

同エリア内で、鉄板や薪割り台、ファイヤースターターなどの展示販売と体験ブースを出していたのは、駒ヶ根市に本社を構える株式会社ヨウホク。主軸は、金属制作から加工組み立てまでをワンストップで行う金属加工会社ですが、パイプを曲げたり、3D加工したりする技術を活かしてアウトドアブランド「Libelle (リベル)」を展開しています。
昭和26年から続くものづくり会社で、一つひとつ職人が手がける丈夫な鉄製ギア。初めてでも使いやすく、家族のワクワクを生み出すような商品を多く手がけています。

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薪を割り、火をつけ、食事を楽しむ。すべての工程が楽しくなるようなギアを開発している
初心者や子どもも簡単に扱えるファイヤースターター。大きな火花が散るのに合わせ、嬉しそうな表情があちこちで見られた
薪を割り、火をつけ、食事を楽しむ。すべての工程が楽しくなるようなギアを開発している
初心者や子どもも簡単に扱えるファイヤースターター。大きな火花が散るのに合わせ、嬉しそうな表情があちこちで見られた

出店を終えた担当の唐澤さんは、「思っていた以上の来場があり、また、思っていた以上に着火体験に興味を寄せてくださる方が多かった」と、3日間を振り返ります。
唐澤さん「アウトドアの体験というよりは、子どもたちと楽しい体験、新しい体験をしたい、そんな気持ちで寄っていただけたのかなと感じています。なかには『県内のブランドを応援したい』と声をかけてくださる方もいて、地域の皆さまに知っていただくとてもよい機会だったと実感できました。」
自然豊かな長野県の力を借りながら、地域の良さを発信していく。そんなブランドの想いを体現するような、笑顔あふれる場が開かれていました。

株式会社柳沢林業

会場内の薪を提供していたのは、松本市に本社を構える株式会社柳沢林業。古くから山に入って丸太を生産し、市場などに卸していたという歴史ある会社です。
長野県で「山」と聞くと、どうしても標高の山を思い浮かべがちですが、もう少し暮らしに近いところには豊かな里山があり、アウトドアのフィールドとして遊べる、美しい環境が残っています。柳沢林業では、そうした美しい風景が美しいままあるのは、そこに人の営みがあるからだと考え、その営みを作るためにさまざまな事業を展開しています。今回の出店では、「多くの人に山を身近に感じてもらい、活用のきっかけにしてほしい」と、薪割り体験やスウェーデントーチなどの物販を行いました。

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山の整備から里山保全、木を使ったプロダクトの開発や米、酒造りなど、山からつながるさまざまな事業を展開
会場内では、その場で丸太を切って薪にし、薪火を囲むところまでを体験にし、山と暮らしの結びつきを表現
山の整備から里山保全、木を使ったプロダクトの開発や米、酒造りなど、山からつながるさまざまな事業を展開
会場内では、その場で丸太を切って薪にし、薪火を囲むところまでを体験にし、山と暮らしの結びつきを表現

ワークショップを担当していたのは、樹木の調査や診断、治療を行う専門家・樹木医の若林さんです。
若林さん「ブースについては『山の雰囲気が素敵ですね』『木を輪切りのカッコよさに惚れました』など、たくさんのコメントをいただいたのが嬉しかったです。これから発売を予定しているアロマオイルも好評をいただき、改めて商品化する意欲につながりました。」
また事業者同士の出会いも有意義なものがあり、開催直後から新しい事業も動き出しているそう。次回の開催に向けて、実施したいワークショップのイメージも膨らみ、多くの可能性を感じる3日間となりました。

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長野県だからこそできるアウトドアカルチャーの創出、発信へ熱視線

近隣市町村からという家族連れは、友人からの誘いで来場。「こんなにたくさんのブランドや企業を一度に見る機会はなかなかないので、機能やデザインなど、いろいろ比べられて楽しかったです」と、感想を寄せてくださいました。また、「ものづくり」のキーワードに惹かれて来場した男性からは「運営や出展など、関わる人たち自身がたのしそうで、自分たちも楽しく参加することができました」との話も。次回に向けては、子ども向けブースの充実や、ギアの使い方など、初心者でもアウトドアに触れやすい展示の工夫など多くの希望が寄せられ、アウトドアカルチャーの創出や発信へ、期待の高さが伺えました。
また、一般公開が終わったあとには、連日「カンパイタイム」が設けられ、出店者同士が言葉を交わしながら、それぞれが持つ将来への希望や不安を共有。ものづくりへの情熱を再確認しあう風景が生まれています。
長野県の持つフィールドの価値を見直し、作る人、使う人、暮らす人までみんなが楽しみ、未来に続くアウトドアカルチャーを目指して。全国各地から、今後の動きに多くの関心が寄せられそうです。

「ALPS OUTDOOR SUMMIT」 https://alpsoutdoorsummit.jp/
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『テクノロジーと自然が共存する”登る人も登らない人も楽しめる山小屋”ー冷泉小屋』

note

取材・文:間藤まりの
撮影:LODE Film(ロデ・フィルム)

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