長野県と新潟県の境に位置する信濃町。四季折々に魅力的な景色が広がる野尻湖や黒姫高原をはじめ、大人気のトウモロコシや高原野菜、蕎麦など、豊かな自然に恵まれた町です。今回はそんな信濃町の一角、サウナ付きトレーラーハウス「Earthboat」を置いてつくられた「Earthboat Village Kurohime」のサウナキャンプを紹介します。野宿よりも快適に、グランピングよりは野に近く。「自然に飛び込むきっかけをつくる」というビジョンのもと展開する株式会社アースボートの代表、吉原ゴウさんにお話を伺いました。
「泊まりたい」というかっこよさと、「泊まれそう」な安心感
「この道の先に、本当に開けた場所があるんだろうか」と、少し不安になりながら細い坂道を登り、畑の先に見つけた「Earthboat」の看板。ほっとしたと同時に現れる穏やかな風景が、頭と身体を一気にリラックスモードに切り替えます。
およそ1万坪の敷地に置かれた10棟のEartboat。ここ「Earthboat Village Kurohime」には、小さな池を望む「Pond Side」と森との一体感が楽しめる「Mountain Side」、大人数で過ごせる「Twin Plan」の3つの宿泊プランが用意されています。どの部屋も、扉を開けた瞬間目に飛び込んでくるのは、大きな窓が切り取る心地よい風景。高い天井は開放感があり、クイーンサイズのベッドと布団を組み合わせれば、大人3人までの利用が可能です。
「基本の構造はトレーラーハウスで、大きな鉄の板の上に24平米の木造建築が乗っているイメージです。一般的なアパートを想像すると狭く感じる数字かもしれませんが、キッチンや水回り、サウナなど僕らの遊びに必要なものは全て収まり、くつろいでもらえるよう設計しました」
テーブルやソファなどスペースを要する大型家具は置かず、床に座って丸いテーブルを囲む室内。そのままゴロンと床に寝転がったり、高さのあるステップフロアに腰掛けたり。思い思いの場所で自由に過ごせる環境が魅力です。また建築には、国産の杉材でできた「CLT(Cross Laminated Timber)」と呼ばれる素材が使われています。
「耐久性や断熱性、無垢の素材に感じる木の心地よさなど、自然を楽しむたくさんの要素が詰まった素材です。有名なところでは、大阪万博の巨大リングを作るのに使われるほど強度があり、日本でも利用が推進され始めました。Earthboatは、天井も床も壁も全てCLT。過ごす感覚としては、とても快適で頑丈なログハウスといったところでしょうか」
安心安全で快適な室内空間がありながら、宿泊者の大半が過ごすのは、どんな季節もどんな天気も大抵は屋外。故にペットフレンドリーであることも、この場所のおもしろさです。
「ペットフレンドリーを考えたきっかけは、アースボートのコンセプトを練っていた2年ほど前。滞在先のカリフォルニアで出会った、コンビニもスーパーも宿泊も基本はペットOKというスタンスが良いなと感じて取り入れました。多少のお願いはありますが、屋内でもゲージなしで一緒に過ごしてもらって構いません」
サウナの存在が、アウトドアへのハードルを溶かす
「僕らが提供する遊びは、大前提としてキャンプがベースです。体験したことがある人も多いかもしれませんが、キャンプって実は、いくつもハードルがあるって感じているんです。道具を揃えて、場所を考えて、暑さや寒さに気を配って。雨が降ったら一大事だし、屋外だから虫や危険も多い。純粋にキャンプが楽しめる季節や環境が限られてしまうのがネックです」
一方で、「人間は誰しも“アウトドアで過ごしたい”という欲を持っているもの」と、吉原さんは考えます。
「今、それを手軽に叶える手段として広がったのが『グランピング』だと思います。しかしグランピングは、至れり尽くせりの豪華なアウトドア体験がほとんどです。僕らが思うそれは、あくまで“野宿よりは快適”という原始的なもの。グランピングに行った人たちがもっと自然に触れたいと思ったとき、キャンプに行った人たちがもっと快適に楽しみたいと思ったとき、その間を埋めるのがEarthboatでありたいと考えています」
遊びを最大化するカギは、滞在中自由に使える高性能のプライベートサウナです。自分で火を入れて温度を調節したあとは、服のままでも土足でも、入ってOKという自由度の高さ。扉を開けたままにすれば、子どもやペットも一緒に楽しめます。
「寒くなったらちょっとサウナで暖まろう、という使い方がアウトドアにピッタリなんです。もちろんガッツリ汗をかいて“ととのう”ための利用もできますが、僕らが提唱しているのは、サウナを用いて長時間外を楽しもう、という遊び方であり使い方。豪雪地帯の黒姫でオールシーズン営業ができ、冬でも外で焚き火が楽しめるのは、すぐに飛び込める温かいサウナがあるからです」
日本でサウナブームが起きたのは、ここ数年のこと。自宅にサウナを持つ人は少なく、まだ一般的には銭湯や温泉施設で利用するイメージが強いコンテンツです。
「サウナの本場・フィンランドの田舎町ではみんな自宅にサウナがあって、日本の風呂のような感覚で日常的に楽しんでいると聞きます。例えばホームパーティでサウナに火を入れて、屋外でBBQをしながら、おしゃべりをしながらサウナに入る。裸にならなくてもいいし、汗をかかなくてもいいんです」
日本で主流のストイックなサウナとは全く違う楽しみ方に惹かれた吉原さんは、自宅のデッキにサウナと水風呂をつくり、家でキャンプができる生活をスタート。軒先で焚き火しながら食事をし、時間を決めずにサウナに入って夜は快適な寝室へ。そんな吉原さん自身が良いと感じた暮らしを、広く体験として形にしたのがEarthboatです。
「キャンプだけどキャンプではない、サウナを使ったアウトドアの遊び。自然を楽しむプロダクトとしては、絶対的な自信があります。オープンして数ヶ月ですが、すでに多くのリピートがあるのは、他に同じような体験ができる施設がないからだと思っています」
便利な現代社会にこそ、もっと自然と原始的な遊びを
テクノロジーの発展によって、家から出ずとも仕事や生活が完結する今。日常は自然から切り離され、社会はとことん便利に効率的になっていきます。
「オンラインで繋がれる世の中はとても便利ですが、そうなればなるほど、僕らは反動で原始的な遊びをしたくなるような気がしています。自分で薪を割って火をつけて、日の光を浴びてまどろんだり、雨に打たれてみたり。そうしたプリミティブな体験の価値は、これからどんどん上がっていくのではないでしょうか」
例えばEarthboat Village Kurohimeなら、夏は野尻湖でウェイクサーフィンをしたり、黒姫高原でトレッキングをしたり。冬は車で30分ほどの場所にある斑尾高原でスキーをしたり。テントの準備や片付けがない分、観光や体験に時間をかけられるのもこの場所の魅力かもしれません。
「地域を楽しむ切り口はたくさんありますが、よりディープでユニークな体験を求めている人にこそ、Earthboatの魅力が届いたら良いなと思います。この場所も、よく見れば山に囲まれた小さなため池があるだけの場所ですが、そこに快適に過ごせる装置があれば、魅力的な場所として多くの人が足を運ぶようになる。これからも自然豊かで使われていない土地、全国にあるはずの“キャンプやサウナができたら絶対に気持ちの良い場所”を発掘していきたいです」
Information
撮影:新井涼平 文:間藤まりの
吉原ゴウ/Yoshiwara Gou
1982年長野県生まれ。2007年-2022年まで株式会社LIGを経営し、IT産業に従事。株式会社LAMP取締役。2022年株式会社アースボートを創業し、代表取締役に就任。アウトドアスクールを経営する家庭で生まれ育ち、子どもの頃からカヤック、スキー、山菜取りやキノコ刈りなどをして育つ。長く東京でIT業界に身を置いていたが、田舎の自然の魅力や、アウトドア体験をコアとしたビジネスをするために長野県信濃町にUターン。